「ねぇ、トキヤ~一緒にスキー行こうよ」
「……は?」
音也からそんな言葉を掛けられたのは寒くなり始め寒いところでは雪が積もり始めた頃。
ことの始まりは部屋に戻ったトキヤが音也から発せられた言葉だった…
おかえりよりも先に言われトキヤの整った眉は眉間にシワを寄せて
荷物を荒々しく机に置いた。
「その前に言うことがあるでしょう。」
「ん?あ、おかえり。ねぇ、一泊二日でさ一緒に行こうよ絶対楽しいからさ」
おかえりという言葉がおまけのように言われトキヤの機嫌はますます急降下をするが、
音也はそんなことに気がつくはずもなく輝いた子供のような瞳でトキヤを見つめる。
その輝きに圧倒され言葉を失いかけるが、そこはアイドルの卵魂(?)で乗り切りポーカーフェイスを保つ。
折角音也がデートに誘ってくれいる…顔を緩めて音也のイメージを崩したくない
だからポーカーフェイスを保ったまま頭の中で自分のスケジュールを思い出すが
なかなか休みが取れそうもないくらいの過密スケジュール…
しかし、愛しい音也の為なら無理にでも休みをもぎ取り
銀色の世界でロマンティックな夜を過ごすくらい……
できたらもっと音也と一緒に居られるはずだ…新人アイドルであるトキヤには無理な話。
だが、音也との二人きりの旅行は行きたい…ならば日帰りにできないかと思い音也に問いかけた。
そう思ったトキヤは少し優しい声で音也に問いかけた。
「何故一泊二日でスキーなのですか?二人でなら何処でも…」
「えっとな、マサがいつも使っているスキー場の予約が取れたからみんなで一緒に行こうだって」
「………………み、みんなですか?」
「そう、俺と真斗と那月だろ。あとレンと翔も来るんだぜ。」
天使の笑顔で指を折りながら参加者のメンバーの名前をあげていく。
二人きりではない…ましてや音也はデートに誘ったわけではない…
その事実を知ったトキヤはがっくりと肩を落とした…さっきまでのポーカーフェイスは何処へ…。
「私は遠慮しておきます…ちょっと用事が詰まっていますので…」
「そっか…残念だな…じゃぁ、マサにはそう連絡するな…」
すごく寂しそうな顔でメールを打ち始める。
その顔に心を痛めるトキヤだったが、仕事は仕事…プライベートはプライベート。
プロならばしっかりと分けなければいけない…
そう自分に言い聞かせていた時、急に肩が重くなり悪魔のささやきがトキヤの耳に届いた。
「イッチー本当に断っていいのかい?」
トキヤの肩に腕を回し囁いてきたのはSクラスのレンだった。
「れ、レン!?あなた何時の間に部屋に入ったのですか!?」
「ちゃんとノックはしたけどな…誰も開けてくれないから様子を見る為に入っただけさ」
「あ、あなたと言う人は…」
「あれ?レンだ。どうしたんだ?」
音也に笑顔で手を振ってあいさつをするとトキヤを連れて部屋の角に移動し、
トキヤはため息をつきながらレンの話に耳を傾けた…そう悪魔のささやきに…
「イッチー本当にスキー断っていいのかい?」
「貴方まで何なんですか…私は忙しいので無理です。」
きっぱりとレンにも断るとレンは残念そうにため息をつきトキヤの肩に乗せていた腕を離した。
「そうかい…残念だな…けどそうなるとイッキの身が危険だな…」
「どういうことですか?」
さっきまでレンの言葉に興味があまりなかったトキヤがその言葉に食い付いき、
その姿にレンは満足そうな笑顔をしてトキヤに説明を始める。
「スキー場と言えばナンパが多いだろ?イッキってばレディ達だけではなく男とかにも人気あるし…
ばんばん声を掛けられる羽目にn…「音也!!私もスキーに行きます!!!」
「え?ホント!?やったー!!じゃぁマサに参加って返事するな!!」
先ほどは寂しそうにメールを打っていた音也だったが、今度は子犬のようにはしゃぎながらメールを打ち始め、
そんな音也の姿を見てトキヤは拳を握りしめ誓いを立てた。
「音也は私が守ります…どこぞの馬の骨なんかに私の音也を渡しません!!」
「おやおや…めずらしくお熱いねぇ…」
そんなトキヤの姿をみながらレンは笑い夜は更けていった…。
「うわーひっろーい!!すっげー!!まっ白!!」
一面に広がる雪の世界に音也は嬉しそうにはしゃぎながらまだ誰も足跡を付けていない雪の上に
自分の足跡を付けて行く…それはまるで雪に喜ぶ子犬のように…
真斗がよくくるスキー場に来たメンバー達はめったに見られない雪の世界に感動するが、
約一名だけは怒りをあらわにしていた。
「レン!!!どういうことなんですか!!話が違いますよ!!」
「ん?何のことだい?」
ぷるぷると震えながらレンに怒るトキヤは指をスキー場に指しトキヤが起こっている理由を説明する。
「スキー場なのにどうして誰も居ないんですか!!私は音也を守る為に忙しい中やってきたのに!!!」
「あぁ…それは…」
レンが説明しようとした時、スキーの予約をした真斗がトキヤとレンの間に入り静かに説明を始める。
「誰も居ないのはあたりまえだ…ここは会員制のスキー場なのだからな…」
「か、会員制…?」
「そうだ…ある程度の御曹司ではないと使えないスキー場だ…スキーの時期にしては少し早いからな…
今日来ているのは俺達だけだ…だから貸し切りだが…それが何故不満なのだ?」
貸し切りならば滑り放題のはずだから喜ぶべきなのだが…何故トキヤが人がいないことに怒っているのかが
真斗にはわからなかった…
その説明を受けたトキヤはレンにアイドルの卵とは思えない恐ろしい顔で詰め寄り始めた。
「レン…あなた私をだましたのですね…」
「ははは…俺もここだとは知らなかっただけで…」
「お前もいつもここを使っているだろう…何処に行くかもちゃんと説明したはずだが?」
流石ダム様。
レンが言った言いわけを見事に真っ二つに切りトキヤの怒りをますます引き出すが
そこに天使の笑い声が聞こえトキヤの怒りは収まり始めた。
「翔いくぞ~そりゃー!!!」
「あ、てめぇ…お返しだ!!」
「音也くん、翔ちゃんがんばってくださーい」
音也と翔が二人でいつの間にか雪合戦を始めており、
那月はそんな二人をみて楽しそうに笑いながら観戦をしている。
まぁもし雪玉が顔面にあたり眼鏡でもはずれて破壊神が降臨でもしたらそれこそ一大事…
なのでこれが一番いいバランスなのだろう…
「ほら…イッキも楽しそうだろ?」
「うむ…一ノ瀬が来れることになりとても楽しみにしていたぞ…」
「音也…」
珍しくダム様が空気を読んでレンを助けた…本人にその気は無くても。
そして、音也が自分が来ることに喜んでいたとはしらず…心をときめかせた。
今日と明日を開ける為にただでさえ過密なスケジュールをもっと過密にした苦労も
音也のことを考えると忘れてしまいそうだった…
愛おしい人を微笑ましい顔で見ていると、ふと音也の背中に目が止まった。
「音也…貴方かなり変ったスキーウェアーを着ているのですね…真新しいようにも見えますが…」
トキヤに声を掛けられ一度雪合戦を中止した音也は
ご主人様に呼ばれた子犬のようにはしゃぎながらトキヤの元へと寄った。
この場で耳と尻尾が見えた人は病院に行くべきなのかもしれない(作者含め)
「俺さ、スキーウェアー持ってなかったからマサが買ってくれたんだ。
俺はレンタルでもいいって言ったんだけどな…」
「へー…聖川さんが…」
自分でもスキーウェアーくらい買える!!と心の中で呟き
鋭い眼差しで真斗を睨みつけたが、睨みつけられら当の本人は解っていないらく首を傾げて
音也の傍に歩み寄った。
「全員スキー経験者だし…今後何度も来るんだ…それくらい持っていた方がいい…」
「何度も来る前提ですか!?」
「へへへっ…マサありがとうな。今度俺何かお礼するからな」
「ちょっと、二人とも私の話を聞きなさい!!」
「期待している…」
トキヤの話(ツッコミ)などどこ吹く風…二人で恋人のようなピンクオーラを出しながら
イチャイチャと話を始めた…トキヤなど音也とそんな空気には中々なれないのに…
悔しそうに真斗を睨みつけるトキヤの肩をレンが励ますように叩いた。
「僕も一緒にお買いものに行きましたけど…変った店員さんでしたよねぇ…」
「あー…そういえばそうだね。」
「変った店員?」
真斗の紹介でスキーウェアーを見にいった音也が詳しくその時の様子を話してくれたが
その内容にトキヤは呆れた顔を隠せなかった。
『きゃわ~ん♪始めましてー、私先日からここでバイトしてまーす。よろしくお願いしまーす♪』
『うん、よろしくね』
『はうぁ!!お兄さん私の知ってる人と髪の毛の色そっくり!!
目は…流石に違うかな』
『へー…珍しい色した人なんだね。性格も似ているのかな?』
『性格は…どうだろ。けど、お兄さんの方が格好いいですよぉ~♪
そんなお兄さんにはこのスキーウェアーがいいと思います』
『へー…カッコイイね』
『そうなんですよぉ~私の知り合いが普段着ている服をイメージしてるんですから、
そっくりなお兄さんなら絶対にお似合いですよぉ♪あ、対として鮮血verもありますけど…
お兄さんなら絶対こっちです!!真斗様のご友人ならサービスしちゃいますしお買い得ですよ~♪』
『せ、鮮血ver?うーん…よくわからないけど…じゃぁそれで』
『はーい!!ありがとございまーす♪』
「それで…その変な人形を肩に乗せた女の子に買わされたと…」
「買わされたんじゃないよ、俺が選んで買ったんだよ。背中のマークとかカッコイイだろ?」
音也の買ったスキーウェアーは主に白を主体とした物だ。
ところどころにポケットが付いており、何故か背中には悪魔(?)をイメージしたとされる
マークがついている…このマークがトキヤにはいまいち納得行かなかった。
音也と言えば天使…悪魔とは真逆のイメージだからだ。
「なぁなぁ、似合ってるだろ?」
「えぇ…まぁ…よく似合ってますよ…(その背中のマーク以外は)」
「へへっ…トキヤにはびっくりさせようとして見せてなかったんだよねー」
トキヤににあっていると言われ嬉しくなった音也はそれを真斗と那月に報告するために
二人の元へと走っていった。
「全く…そんなに嬉しいんですかね…私に褒められて…」
呆れた表情をしていたトキヤだったが、完全に呆れた表情ではなくどこか嬉しそうな顔をしてる。
それをレンと翔に指摘され慌ててもとの自分の顔へと戻す。
「翔ちゃーん。そろそろ滑りましょー」
「あぁ、解ったすぐ行く」
那月に呼ばれスキー板を足に装着させたメンバーはリフト乗り場へと
移動を始めたがそこに音也の姿が無く、トキヤは慌てて音也の姿を探した。
きょろきょろとあたりを見回すをみんながスキー板をはめていた所に音也は一人取り残されていた。
「音也?何をしているのですか?行きますよ」
「あ、うん。今行く!!」
もたもたとした動きでトキヤの傍まできた音也だったが、
その動きに疑問を感じ声を掛けようとしたが音也が笑顔で笑っている姿を見て
声を掛けることができなかった…
そして、リフト乗り場まで来たメンバーは真斗・レン、トキヤ・音也そして那月・翔のコンビで
リフトへと乗ることとなり3組に分かれた。
スムーズにリフトに乗ることができ、隣にいる音也がきゃっきゃとリフトに乗っている間
騒ぐと思っていたトキヤだったが、意外にも大人しかった為驚いた。
「音也…めずらしく大人しいのですね…あ、そろそろ降り場ですよ…準備してください。
って、音也聞いてます?」
全く返事をしない音也の様子を不審に思い音也の顔を覗きこむと
トキヤは驚き声を上げた。
「お、音也!!何泣いているのですか!!!!」
「ひっく…だって…俺…俺…」
「泣いていてはわかりません!!!ちゃんと私の目を見て話してください!!」
うるっとした瞳で見つめられたトキヤはドキッとしたが、
そこは何とか耐え抜き音也の肩を掴んで泣いている音也の涙を片手で拭きとった。
「俺…俺…高いところこわいーーーーーーーーーーーーー!!!!」
高所恐怖症の音也はリフトが怖くて声が出ず、
あまりの恐さにトキヤにしっかりと抱きついた。
「あ…………え?ちょ、音也!!こんなところで積極的にならないでください!!
なるのなら二人きりの部屋で…って落ちる!!落ちますから音也暴れないでください!!」
「おい、こらーーーーーーそこーーーー!!!本音出てるぞ本音!!」
「翔ちゃん…耳良いんですねぇ~」
メンバー唯一のツッコミ役である翔がリフトの後から前でいちゃこらしている二人に突っ込みを入れた。
リフトが怖くて暴れ始めた音也をなんとかなだめるトキヤ…
まだスキー旅行は始まったばかりなのに…と心配を始めたレンだった。