旭屋本舗
ようこそいらっしゃいませ。
腐向けサイトですご理解のある方のみどうぞ。
始めての方はカテゴリー【What】をお読みください。
ひたひたと体中に嫌な雨が降り注ぐ…
この辺りに近づいてからずっと降り注ぐ雨…
普通の雨ではないことは一目瞭然だ。
そんな雨の中を馬に乗ってやってきた一人の乙女。
乙女は馬を街の入り口に繋ぎカプワ・ノールへと入って行った。
破壊ノ詩 Ⅰ【TFSV03】
騎士団本部内にある食堂で赤い髪の少女達が疲れた顔をしながら
ぐったりと椅子に腰をおろしていた。
少女たちの顔は鏡のようにそっくりで、一目見ただけで二人は双子と判断できる。
「はぁ~…やっとお昼…今日も疲れた~…」
「けどヒスカ…今日は合コンだよ、合コン!!がんばらなくちゃ」
「そうねシャスティル…久しぶりの合コンだもん!!がんばって彼氏ゲットよ!!」
シャスティルとヒスカの目は輝きを取り戻し、
頼んだばかりのヘルシー定食を二人揃って食べ始めた。
「けど…最近ほんと合コン不成立よね…それもユーリのせいなんだから!!」
「全く…うちのルーク隊長の評判落とすから…あーーーーームカツク!!!!」
メラメラと怒りに燃えている二人の後をシャスティルとヒスカとは別の朱い髪の乙女が通りかかった。
「何を怒ってるんだ二人して…」
「「る、ルーク隊長!!!」」
後ろから聞こえた声に驚き振り返ると、そこには自分達の所属している隊の隊長である
ルーク・フェドロックがランチを手にして立っていた。
二人はいそいそとルークの席を開けるとルークは笑顔で「ありがとう」と言った。
「で?何に怒っているんだ?愚痴なら聞くぞ」
「あ…いえ…あの…」
「えっと…最近の男はヘタレが多くてムカツク!!って話をしていたんですよ!!
隊長もそう思いません?」
「はははは…確かにそうかもな…」
二人の会話を本当に聞いていなかったのかルークは二人の嘘を笑って聞いていた。
本当はユーリの愚痴を言っていたが…ルークにそのことを言えるはずがなかった…
ルークとユーリは親友以上恋人未満の複雑な関係だが…二人ともお互いを意識している…
どこまでの関係かは周りは知らなかったが…二人をよく知る人達は二人をそっと見守っている。
そんなユーリに思いを寄せているルークにユーリの悪口を言うのはダメだと思ったから
二人はごまかしたのだった…
それだけではない、今ユーリは全地域で指名手配をされている。
先日は騎士団の上層部からユーリについてルークが呼び出しをくらったばかりだった。
普段と変わらない明るさで過ごしているルークだったが…内心は違っているだろう…
そんな気遣いからか今ルーク隊内ではルークに対してユーリの話をするのはご法度とされている。
ルークのことだから何をしでかすかわからないからだ…ユルギスの胃の為にも…
「そーだ。ルーク隊長、今日私たち合コンに行くんですけど…隊長も来ません?
たまには気晴らしにぱーっとしましょうよ♪」
「そ、そうそう。たまには気晴らししましょうよ」
「いや…俺まだ未成年だし…」
そんな他愛もない会話を三人でしていると、
後からよく聞くコンビの会話が聞こえてきて三人の会話は止まってしまった。
「全く…ユーリ・ローウェルにも困ったものであ~る」
「エステリーゼ様を誘拐なんて…大悪党なのだ」
「誘拐という話であるが…噂では駆け落ちって噂であr…「「ちょっとあんた達!!!!!!!!!!」」
三人の後を通ったのはたまたまランチをしようとしていた
アデコールとボッコスの二人だった。
二人の会話…根も葉もない噂話しを耳にしたヒスカとシャスティルは大声でアデコールとボッコスに向かって叫び、
その瞬間うるさかった食堂が時が止まったように静かになった。
「あんた達そんな信憑性もない噂話本気で信じてる気!?」
「そうよ!!ユーリが駆け落ちなんてするはずないじゃない!!」
「そんなくだらない噂話する暇あったら仕事しなさいよ!!」
「あぁ…そっか…だから…」
「「出世逃すんだ」」
シャスティルとヒスカからの酷い言葉に最初は口を開けて聞いていたアデコールとボッコスだったが、
我に返り顔を真っ赤にしながら二人に言い返した。
「何を言うか!!我らシュヴァーン隊を愚弄する気か!?」
「そもそも大罪人の肩を持つなんてルーク隊も落ちぶれたものであ~る!!」
「「何ですって!!??」」
「やめろ…二人とも…」
それまで静かにランチをしていたルークが静かに部下を止めるとアデコールとボッコスに謝罪を述べた。
二人の妙な噂を耳にしてルークに変なスイッチが入ったのかと思っていたが、
特にそんなスイッチは入っていなかったようだ。
「うちの部下が失礼な発言をしてすまない…二人とも元隊員のことを心配してのことなんだ…許してはくれないか?」
「うっ…る、ルーク隊長がそのようにいうのならば…」
「わ、我々も大人気なかったであ~る…」
二人の言葉にルークは笑顔で返すと、食器を所定の位置に返すとシャスティルとヒスカを急がせた。
「ほら、二人ともさっさと食え。仕事だぞ…」
「え?でも…見回りも終わったし…今日の仕事は特に…」
「今日の仕事はな…けど明日からの分を今からするんだ…」
「「はい???」」
シャスティルとヒスカは同時に同じ方向へ首を傾けた。
ルークの言うことがいまいち理解できなかったからだ…明日の分を今日する…
何か急な用事でもあるのだろうか…いや、ルークにそんな用事は今のところなかったはずだ…
今のところは…
「ふふふっ…駆け落ち…駆け落ちねぇ…良い根性してるじゃねーか…あのエローウェル…
俺が直々に捕まえてその曲がった根性叩き直してやる!!
いいか、二人とも!!しばらくの間家に帰れるとは思うなよ!!」
「「えぇ!?久しぶりの合コンがあぁ~…」」
ルークの燃える目に反論などできずシャスティルとヒスカはがっくりと肩を落とした。
入っていないと思っていたスイッチは静かにやはり入っていたようだった…
「ということがあったらしい…」
「どーいうことだそれは……」
ユーリ達がカプワ・ノールへと入りフレンと合流しラゴウの家へと侵入作戦を練っていた時、
ふとフレンが思いだしたかのようにユーリにそんな会話を話し始めた。
ユーリには大体の流れは想像できたが、エステル・リタ・カロルには全く流れが掴めていなかった。
「私とユーリが駆け落ちです?」
「アンタ…バカ?」
「ってかルークさんって誰?」
三人にルークの説明をするのは今は面倒だったので
ここではあえて置いておきフレンの会話の続きを聞くことにした。
「で?それからあの隊長さんはどうしたんだよ」
「長期休暇を取ったらしい…いやもぎ取ったが正解か?」
「おいおい…」
フレン曰くユーリを追いかける為に約一カ月分の仕事を数日で無理矢理終わらせ、
上層部の反対を押し切って長期休暇をアレクセイに申し出てもぎ取ったらしい…。
そんな無茶をするから変な伝説ばかり残るんだとユーリは呟いた。
「で?あいつ今どこに居るんだよ…」
「目撃情報によると君たちの後を追って行き…先ほどこの街の入り口で
ルーク隊長が使ったと思われる馬が見つかった…多分この街のどこかにいる…」
「まじかよ…」
ルークのことだから無茶をしてユーリ達の後を追いかけていたのだが、
どこかでユーリ達を追い越して先にカプワ・ノールへとたどり着いてしまったのだろう…
もしかしたら暗殺者達より危険な存在かもしれない…
「ユルギス副隊長達がカンカンになって怒ってたぞ…
ルーク隊長を見つけたらすぐに戻るようにユーリから伝えろと…伝書鳩で伝えてきている」
「俺の言うことなんて聞くのかねぇ…つーか俺の心配しろよ」
自業自得だとフレンはきっぱりと言い放つと
ユーリはがっくりと肩を落として宿屋を後にした。
周りを少し気にしながら…もしかしたらルークのことだから
ラゴウの家に突撃していて向こうで出会ってしまうかもしれない…ユーリはそう考えた。
「ねぇユーリ…そのルークさんとはどういう関係なの?」
「お子様にはまだ早い」
「ルーク…ルーク…どこかで聞いたような…」
エステルが何かを思い出そうと必死になっていたが
ラゴウの家に着いたので作戦を開始した。
そして謎のおっさんレイヴンの助け…いや邪魔に会いながらも
なんとか屋敷内に騎士団を入れることに成功したユーリ達は
船で逃げようとするラゴウを追いかけて船へと突入した。
しかし、こんな大騒ぎになってもルークは現れなかった。
下町でちょっとした喧嘩が起きただけでも
隊長という立場とか関係なしに飛んでくるルークだったが…
今回は姿形も見えない…もしかしたらもうこの街を出ているのかと
ユーリはそう考え始めていた。
「ちょっと…何これ…魔道器の魔核ばっかりじゃない…」
リタが船の上にあった箱を調べていると中から魔核ばかりが見つかり
大きな声をあげて驚いていた。
ユーリも一緒になって中を見てみたが…下町の水道魔道器の魔核はどうやらないらしい…
「じゃぁ…こっちの箱には何が入ってるのかな…隙間だらけで何も入ってないっぽいけど…
うわああああああああぁっ!!!!!!!!!!!!!」
近くに置いてあったみすぼらしい箱を見つけ、
面白半分で蓋を開けてみたカロルだったが中身を見た途端大声で叫び腰を抜かした。
「どうしたカロル!!」
「人が…中から人がっ…も、もしかして死んでたりする!?」
「何だとっ………なっ……!!!」
ユーリが箱の中を覗くと中に居たのは朱い髪の乙女…
そう、ユーリ達より先にこの町に来ているはずの乙女だった…
「る…ルーク!?おい!!しっかりしろルーク!!」
ユーリはルークの身体を持ち上げ身体を揺らしたが、
ルークの腕はゆっくりと力なく床へと落ちていきユーリの顔は真っ青になった…
この辺りに近づいてからずっと降り注ぐ雨…
普通の雨ではないことは一目瞭然だ。
そんな雨の中を馬に乗ってやってきた一人の乙女。
乙女は馬を街の入り口に繋ぎカプワ・ノールへと入って行った。
破壊ノ詩 Ⅰ【TFSV03】
騎士団本部内にある食堂で赤い髪の少女達が疲れた顔をしながら
ぐったりと椅子に腰をおろしていた。
少女たちの顔は鏡のようにそっくりで、一目見ただけで二人は双子と判断できる。
「はぁ~…やっとお昼…今日も疲れた~…」
「けどヒスカ…今日は合コンだよ、合コン!!がんばらなくちゃ」
「そうねシャスティル…久しぶりの合コンだもん!!がんばって彼氏ゲットよ!!」
シャスティルとヒスカの目は輝きを取り戻し、
頼んだばかりのヘルシー定食を二人揃って食べ始めた。
「けど…最近ほんと合コン不成立よね…それもユーリのせいなんだから!!」
「全く…うちのルーク隊長の評判落とすから…あーーーーームカツク!!!!」
メラメラと怒りに燃えている二人の後をシャスティルとヒスカとは別の朱い髪の乙女が通りかかった。
「何を怒ってるんだ二人して…」
「「る、ルーク隊長!!!」」
後ろから聞こえた声に驚き振り返ると、そこには自分達の所属している隊の隊長である
ルーク・フェドロックがランチを手にして立っていた。
二人はいそいそとルークの席を開けるとルークは笑顔で「ありがとう」と言った。
「で?何に怒っているんだ?愚痴なら聞くぞ」
「あ…いえ…あの…」
「えっと…最近の男はヘタレが多くてムカツク!!って話をしていたんですよ!!
隊長もそう思いません?」
「はははは…確かにそうかもな…」
二人の会話を本当に聞いていなかったのかルークは二人の嘘を笑って聞いていた。
本当はユーリの愚痴を言っていたが…ルークにそのことを言えるはずがなかった…
ルークとユーリは親友以上恋人未満の複雑な関係だが…二人ともお互いを意識している…
どこまでの関係かは周りは知らなかったが…二人をよく知る人達は二人をそっと見守っている。
そんなユーリに思いを寄せているルークにユーリの悪口を言うのはダメだと思ったから
二人はごまかしたのだった…
それだけではない、今ユーリは全地域で指名手配をされている。
先日は騎士団の上層部からユーリについてルークが呼び出しをくらったばかりだった。
普段と変わらない明るさで過ごしているルークだったが…内心は違っているだろう…
そんな気遣いからか今ルーク隊内ではルークに対してユーリの話をするのはご法度とされている。
ルークのことだから何をしでかすかわからないからだ…ユルギスの胃の為にも…
「そーだ。ルーク隊長、今日私たち合コンに行くんですけど…隊長も来ません?
たまには気晴らしにぱーっとしましょうよ♪」
「そ、そうそう。たまには気晴らししましょうよ」
「いや…俺まだ未成年だし…」
そんな他愛もない会話を三人でしていると、
後からよく聞くコンビの会話が聞こえてきて三人の会話は止まってしまった。
「全く…ユーリ・ローウェルにも困ったものであ~る」
「エステリーゼ様を誘拐なんて…大悪党なのだ」
「誘拐という話であるが…噂では駆け落ちって噂であr…「「ちょっとあんた達!!!!!!!!!!」」
三人の後を通ったのはたまたまランチをしようとしていた
アデコールとボッコスの二人だった。
二人の会話…根も葉もない噂話しを耳にしたヒスカとシャスティルは大声でアデコールとボッコスに向かって叫び、
その瞬間うるさかった食堂が時が止まったように静かになった。
「あんた達そんな信憑性もない噂話本気で信じてる気!?」
「そうよ!!ユーリが駆け落ちなんてするはずないじゃない!!」
「そんなくだらない噂話する暇あったら仕事しなさいよ!!」
「あぁ…そっか…だから…」
「「出世逃すんだ」」
シャスティルとヒスカからの酷い言葉に最初は口を開けて聞いていたアデコールとボッコスだったが、
我に返り顔を真っ赤にしながら二人に言い返した。
「何を言うか!!我らシュヴァーン隊を愚弄する気か!?」
「そもそも大罪人の肩を持つなんてルーク隊も落ちぶれたものであ~る!!」
「「何ですって!!??」」
「やめろ…二人とも…」
それまで静かにランチをしていたルークが静かに部下を止めるとアデコールとボッコスに謝罪を述べた。
二人の妙な噂を耳にしてルークに変なスイッチが入ったのかと思っていたが、
特にそんなスイッチは入っていなかったようだ。
「うちの部下が失礼な発言をしてすまない…二人とも元隊員のことを心配してのことなんだ…許してはくれないか?」
「うっ…る、ルーク隊長がそのようにいうのならば…」
「わ、我々も大人気なかったであ~る…」
二人の言葉にルークは笑顔で返すと、食器を所定の位置に返すとシャスティルとヒスカを急がせた。
「ほら、二人ともさっさと食え。仕事だぞ…」
「え?でも…見回りも終わったし…今日の仕事は特に…」
「今日の仕事はな…けど明日からの分を今からするんだ…」
「「はい???」」
シャスティルとヒスカは同時に同じ方向へ首を傾けた。
ルークの言うことがいまいち理解できなかったからだ…明日の分を今日する…
何か急な用事でもあるのだろうか…いや、ルークにそんな用事は今のところなかったはずだ…
今のところは…
「ふふふっ…駆け落ち…駆け落ちねぇ…良い根性してるじゃねーか…あのエローウェル…
俺が直々に捕まえてその曲がった根性叩き直してやる!!
いいか、二人とも!!しばらくの間家に帰れるとは思うなよ!!」
「「えぇ!?久しぶりの合コンがあぁ~…」」
ルークの燃える目に反論などできずシャスティルとヒスカはがっくりと肩を落とした。
入っていないと思っていたスイッチは静かにやはり入っていたようだった…
「ということがあったらしい…」
「どーいうことだそれは……」
ユーリ達がカプワ・ノールへと入りフレンと合流しラゴウの家へと侵入作戦を練っていた時、
ふとフレンが思いだしたかのようにユーリにそんな会話を話し始めた。
ユーリには大体の流れは想像できたが、エステル・リタ・カロルには全く流れが掴めていなかった。
「私とユーリが駆け落ちです?」
「アンタ…バカ?」
「ってかルークさんって誰?」
三人にルークの説明をするのは今は面倒だったので
ここではあえて置いておきフレンの会話の続きを聞くことにした。
「で?それからあの隊長さんはどうしたんだよ」
「長期休暇を取ったらしい…いやもぎ取ったが正解か?」
「おいおい…」
フレン曰くユーリを追いかける為に約一カ月分の仕事を数日で無理矢理終わらせ、
上層部の反対を押し切って長期休暇をアレクセイに申し出てもぎ取ったらしい…。
そんな無茶をするから変な伝説ばかり残るんだとユーリは呟いた。
「で?あいつ今どこに居るんだよ…」
「目撃情報によると君たちの後を追って行き…先ほどこの街の入り口で
ルーク隊長が使ったと思われる馬が見つかった…多分この街のどこかにいる…」
「まじかよ…」
ルークのことだから無茶をしてユーリ達の後を追いかけていたのだが、
どこかでユーリ達を追い越して先にカプワ・ノールへとたどり着いてしまったのだろう…
もしかしたら暗殺者達より危険な存在かもしれない…
「ユルギス副隊長達がカンカンになって怒ってたぞ…
ルーク隊長を見つけたらすぐに戻るようにユーリから伝えろと…伝書鳩で伝えてきている」
「俺の言うことなんて聞くのかねぇ…つーか俺の心配しろよ」
自業自得だとフレンはきっぱりと言い放つと
ユーリはがっくりと肩を落として宿屋を後にした。
周りを少し気にしながら…もしかしたらルークのことだから
ラゴウの家に突撃していて向こうで出会ってしまうかもしれない…ユーリはそう考えた。
「ねぇユーリ…そのルークさんとはどういう関係なの?」
「お子様にはまだ早い」
「ルーク…ルーク…どこかで聞いたような…」
エステルが何かを思い出そうと必死になっていたが
ラゴウの家に着いたので作戦を開始した。
そして謎のおっさんレイヴンの助け…いや邪魔に会いながらも
なんとか屋敷内に騎士団を入れることに成功したユーリ達は
船で逃げようとするラゴウを追いかけて船へと突入した。
しかし、こんな大騒ぎになってもルークは現れなかった。
下町でちょっとした喧嘩が起きただけでも
隊長という立場とか関係なしに飛んでくるルークだったが…
今回は姿形も見えない…もしかしたらもうこの街を出ているのかと
ユーリはそう考え始めていた。
「ちょっと…何これ…魔道器の魔核ばっかりじゃない…」
リタが船の上にあった箱を調べていると中から魔核ばかりが見つかり
大きな声をあげて驚いていた。
ユーリも一緒になって中を見てみたが…下町の水道魔道器の魔核はどうやらないらしい…
「じゃぁ…こっちの箱には何が入ってるのかな…隙間だらけで何も入ってないっぽいけど…
うわああああああああぁっ!!!!!!!!!!!!!」
近くに置いてあったみすぼらしい箱を見つけ、
面白半分で蓋を開けてみたカロルだったが中身を見た途端大声で叫び腰を抜かした。
「どうしたカロル!!」
「人が…中から人がっ…も、もしかして死んでたりする!?」
「何だとっ………なっ……!!!」
ユーリが箱の中を覗くと中に居たのは朱い髪の乙女…
そう、ユーリ達より先にこの町に来ているはずの乙女だった…
「る…ルーク!?おい!!しっかりしろルーク!!」
ユーリはルークの身体を持ち上げ身体を揺らしたが、
ルークの腕はゆっくりと力なく床へと落ちていきユーリの顔は真っ青になった…
「はい、でわルーク隊長は本日午後からお休みします。」
「「はーい。了解でーす」」
「え?は?おい…ユルギス何言って…」
「午後から有給の隊長は素早く私服に着替えておかえりください。」
「「おかえりくださーい」」
「え?あ、ちょ…こら待ておおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!!」
ある晴れた午後。
帝都勤務になったルーク隊の日々は穏やかであったが、
その日は少し変っていた。
シャスティルとヒスカに無理矢理更衣室に拉致られて騎士の服を脱がされたルークは、
しぶしぶ私服に着替えて久しぶりに太陽が高い時間の下町を歩きだした。
不調和音【TFSV 外伝】
急に副隊長の権限により午後から休みを取らされたルークは
ぶらぶらと下町を歩いた。
普段この町を歩く時は任務又は見回り、もしくは仕事が終わった夜の時間だけだった。
久しぶりに明るい時間にあるくこの下町は活気があり
ルークはこんな下町の賑わいが大好きだった。
下町の人々もルークだと気が付くと気軽に声をかけたり、
何故か食べ物を貰ったりしてしまう…それだけ下町の人からの信頼は厚い。
しかし、このままぷらぷらと歩いていたら、
物資がそれほど裕福でない人達から物を貰う為に歩いているのと変わらないので、
仕方なくユーリの家に行くことにした。
フレンの家でもよかったが、フレンは今日珍しく有給を取っていて休み。
休みの日にまで上司の顔を見るのは可哀そうだと思いユーリの家にしただけ…らしい本人曰く。
「そういえば、明日は俺の隊になってからの初の飲み会だったな…
くそっ…今日中に終わらせたい仕事があったのに…ユルギスのやつ…」
めったにルークに対して反抗をしないユルギスからのめずらしい強硬に驚いてしまい、
今回は負けてしまったが…次は負けないと心に誓いながら何度も歩いたことのある道を歩くと、
人ごみの中によく見かける黒い狼の姿を見つけた。
「あ…ユーリじゃん、おーいユー……リ……」
ユーリの家に行こうとしていたので呼び止めようと声を出したが、
その声は途中で途切れてしまった…ユーリの隣に居た女性を見て…。
ユーリの交友関係はほぼしっているつもりだった。
後ろ姿だけだけど…あんな女性みたことがない…
ヒールでも履いているのだろうか、ユーリとほぼ同じ身長。
まっ白いワンピースがよく似合う…。
ユーリと並んで恥ずかしいのか頬がほんの少し赤く染まっているところがまた可愛らしい。
「だ、誰だよあの人…」
自分の知らない女性…自分より女らしくて綺麗な人。
ユーリはその女性といて楽しいのか心の底からの笑顔を見せて道を歩いて行く。
ルークの心の中で何かが動いた。
帰ろう…そう思って来た道を戻ろうとした時、ルークの身体に冷たい水が降り注いだ。
「あら…ルーク隊長じゃない…!!ごめんなさいね…私うっかりしてて…」
「え?あ…えぇ?」
目の前で謝ってきたのはユーリがお世話になっている宿の女将さんだった。
水を道に撒いていたところうっかりしてルークに掛ってしまった。
ルークの身体はびしょぬれで家に帰ろうにも帰れない状態…。
特に自分はこれで帰っても問題はないが、あとで騎士団の仲間に知られたら
正座をさせられてお説教コースは間違いない。
どうしようかと困り果てていると女将さんがルークの手を掴み家へと招き入れ、
そしてそのままユーリの部屋へと連れ込んだ。
「え?あ…ちょ、女将さん!?」
「さっきユーリ出かけたらからまだ帰って来ないだろうし…シャワーでも浴びな。
服はそうだねぇ…あ、この前ユーリに買ったけどサイズが大きすぎて着れなかったやつがあるから
それを着なよ。あんたならワンピースになるだろうし」
「え?あ…はい…」
女将さんはさっさと下の階に下りて服を取りに行ってしまった。
多分このまま帰ったら女将さんにも怒られることは目に見えていたので、
しぶしぶルークはユーリの部屋でシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びて出てきたルークは部屋に用意されていたシャツを着てみると
確かにユーリが着ても大きいもので、ユーリより小柄なルークが着ると
少し短めのワンピースになってしまうものだった。
しかもかなり大きい為気をつけていないと肩からずり落としてしまいそうだ。
鏡を見てみるとやはり先ほどの女性の方が同じ白のワンピースでも…似合っている。
自分には鎧や男性の服が似合うとつくづく思ってしまい、
何時も着ている服を着ようと思ったが、何故か何処にもなくきっと女将さんが気をきかせて
洗濯してくれているのだろうと思った。
「どうやって帰ろう…流石にこのままはな…まぁ、いいか…」
することもなくユーリのベッドに寝転がっていると
階段を上がってくる音が聞こえたので耳を澄ませてみると女将さんの足音ではない…
となると…
「ルーク…水掛けられたってホント……………」
「あ…ユーリお帰り。」
ルークを見た瞬間固まっていたユーリだったが、深いため息をつくとドアを閉めて
まじまじとルークの姿を見ていた。
「な、何だよ…」
「お前…その格好で外出てねぇだろうな?」
「流石にそこまでしねーよ…」
「ならいい…」
ユーリは外に出ていたついでに買って来た食べ物をテーブルに置いている姿を見て
ふと、先ほどの女性のことを思い出してしまった。
別にユーリの交友関係にとやかく言う義理などはないが…気になってしまってしょうがない。
「ユーリ…さっき綺麗な女の人と歩いていたけど…誰だ?」
「………何のことだ?」
いつもはルークの目を見て話すユーリだったが…何故か今日は目を合わせようとしない。
それにどこかよそよそしい感じがする。
「俺見たんだからな…金髪の人と歩いてるところ…誰だよ…あれ…」
「金髪って…あぁ…あれは………………まだ、ナイショだ」
途中まで言いかけたが何故かやめてしまった。
隠し事をするユーリが気に食わないのか、ルークは頬を膨らませてユーリの背中に飛びつき
ユーリの首に腕を回して締めはじめた。
「なっ!!ルークッ!!」
「俺に隠し事するとは…良い度胸じゃねーの…」
逃げられないように足を絡めながらぐいぐいと力を入れるが、
苦しそうな顔をする反面ユーリの顔は真っ赤になっていく。
「わーかった!!言うから言うから!!離せっ!!!」
その言葉でルークはやっとユーリを解放したが、何故かユーリはルークから距離を置こうとする。
その行動がますますルークの機嫌を損ねていった。
「あの人はその……………フレンに頼まれたんだよ。街を一緒に歩いてやってくれって…」
「何でフレンが?今日は休みだから自分で行けばいいだろ?」
ユーリの説明にまだ納得がいかないのか
不貞腐れた顔をしながらルークはユーリのベッドに座るが、
ユーリはルークから相変わらず目線を逸らせる。
「ところでルーク…お前その下……下着とはちゃんと履いてるだろうな?」
「女将さんが洗濯中だから履いてるわけねーだろ……」
「おいおい…勘弁してくれよ……」
ユーリは深いため息をついてルークから一番離れた壁にもたれ掛かる。
いつも傍にいるユーリが何故か距離を置く…それだけでルークは苦しくなっていった。
「……なぁ、ユーリ…俺お前になんかしたか?」
「は?」
「俺…別にお前がどんな女性と付き合おうとお前の勝手だけど……
お前がそんな風に……離れるのは……俺…いやだ…」
「ルーク……」
いつもは強気でどんなことでも涙を見せないルークだったが、
今日は女の子らしくぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「ごめ…ちがう…俺…お前の横…取られたくねーの…他の…綺麗な人に…」
ルークの目からは涙が止まらない。
この感情は嫉妬。
それはルークは解っているけど…まだ恋人でないユーリを縛りつけたくない…
告白はされた…けど…関係は…そんな不安定な関係が苦しくて…涙が止まらない。
ずっと離れていたユーリがルークの隣に来ると優しく抱きしめて
ルークの背中を優しく撫で始めた。
「ばか…俺にはお前だけだ…だから安心しろ…浮気とかそんなんじゃねぇし…
お前に今日離れていたのは…その…自分を抑えれそうにねぇから…」
「………ユーリ何言ってるんだ?」
涙が止まらないその瞳でユーリを見上げると、
珍しくユーリの頬が真っ赤になりまた深いため息をついた。
「お前…天然もいい加減にしろよな…つまり…こういうことだ…」
「え?ちょ…ユーリッ!!!んっ…ふぅ…」
急にユーリはルークの唇を塞いだ。
軽いキスは何度か経験はあった…けど、今回のは違う…もっと深いキス。
ルークの口にユーリの舌が侵入しルークの舌を絡め取る。
始めての行為にルークは驚いてしまい反抗したくても身体が言うことをきかず
ただユーリのなすがままになっているとユーリはやっとルークを離した。
「ぷはっ…ユーリ…何するんだ…!!」
「いいか…俺だって男だ…男には男の事情ってもんがあるんだ…
これにこりたら今後そんな男をさそうような格好はやめろ…むしろ止めてくれ心臓にわりぃ…」
「よくわかんねーけど…解った…」
「ほんとかよ…」
苦笑いをしながらユーリはルークの頬に優しくキスをした。
そのキスはいつもの優しいユーリで…ルークのよく知るユーリだった。
そしてそのあと何故かユーリは慌ててトイレに駆け込んだが…何故トイレに駆け込んだかはルークは理由を知らなかった。
ユーリが浮気をしていると勘違いしたルークだったが、その誤解はすぐに解けた。
そう、次の日に行われたルーク隊初の飲み会で場で…
「えっと……はじめましてぇ~フレ美でーす。今日はよろしくおねがいしまーす。」
「よっ、フレ美ちゃんかわいい~惚れちゃいそう!!」
「「フレン可愛い~」」
「惚れないでください!!あと本名で呼ばないでください!!」
そう…ルークが見かけた金髪の女性はフレンだった。
何故フレンが女装をしているのか理解できないルークだったが、
傍にいたヒスカとシャスティルが説明してくれた。
「あぁ…隊長は初めてでしたよね…ナイレン隊の時に新入隊員は男なら女装、
女なら男装をして飲み会を盛り上げるのがならわしだったんですよ。」
「そうそう、ナイレン隊長が提案でね…新入隊員を少しでも隊になじませるとかで…」
「あの…親父…ろくなこと考えねーな…」
ルークがため息をついて他の隊員にいじられているフレン…もといフレ美を眺めていると
隣で一緒に飲んでいたユーリが笑いながら話しかけてきた。
「フレンに頼まれてな…女装が変じゃないかとか度胸を付けるために一緒に街を歩いてくれって…
何かお前とかにばれたくねぇから黙って置いてくれって頼まれたんだよ。他の隊員のやつらからも
ルークをびっくりさせたいから秘密にしろってな。」
「へー…なるほど…で?」
「で?」
ルークがじっとユーリを見つめていると、
ユーリは照れくさくなりルークから少し目線を逸らすが…構わずルークはじっとユーリを見つめた。
「な、何だよ…」
「お前は女装しねーの?お前も新人隊員だろ?」
「俺はもう脱退してるから関係ねぇ…」
そう言いながら続きを楽しもうとしていたユーリだったが、
両腕をヒスカとシャスティルに抑え込まれ身動きが取れなくなってしまった。
「え?あ…おいお前ら!!」
「確かにフレンもしてるんだからユーリもしなくちゃね!!」
「フレン!!お仲間入るよ~!!」
そう言ってユーリは二人に引きずられて無理矢理女装をするはめとなった。
「ばーか…俺を泣かせるからだ。」
こうしてルーク隊の初の飲み会は二人の犠牲者を出して無事閉幕となった。
「「はーい。了解でーす」」
「え?は?おい…ユルギス何言って…」
「午後から有給の隊長は素早く私服に着替えておかえりください。」
「「おかえりくださーい」」
「え?あ、ちょ…こら待ておおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!!」
ある晴れた午後。
帝都勤務になったルーク隊の日々は穏やかであったが、
その日は少し変っていた。
シャスティルとヒスカに無理矢理更衣室に拉致られて騎士の服を脱がされたルークは、
しぶしぶ私服に着替えて久しぶりに太陽が高い時間の下町を歩きだした。
不調和音【TFSV 外伝】
急に副隊長の権限により午後から休みを取らされたルークは
ぶらぶらと下町を歩いた。
普段この町を歩く時は任務又は見回り、もしくは仕事が終わった夜の時間だけだった。
久しぶりに明るい時間にあるくこの下町は活気があり
ルークはこんな下町の賑わいが大好きだった。
下町の人々もルークだと気が付くと気軽に声をかけたり、
何故か食べ物を貰ったりしてしまう…それだけ下町の人からの信頼は厚い。
しかし、このままぷらぷらと歩いていたら、
物資がそれほど裕福でない人達から物を貰う為に歩いているのと変わらないので、
仕方なくユーリの家に行くことにした。
フレンの家でもよかったが、フレンは今日珍しく有給を取っていて休み。
休みの日にまで上司の顔を見るのは可哀そうだと思いユーリの家にしただけ…らしい本人曰く。
「そういえば、明日は俺の隊になってからの初の飲み会だったな…
くそっ…今日中に終わらせたい仕事があったのに…ユルギスのやつ…」
めったにルークに対して反抗をしないユルギスからのめずらしい強硬に驚いてしまい、
今回は負けてしまったが…次は負けないと心に誓いながら何度も歩いたことのある道を歩くと、
人ごみの中によく見かける黒い狼の姿を見つけた。
「あ…ユーリじゃん、おーいユー……リ……」
ユーリの家に行こうとしていたので呼び止めようと声を出したが、
その声は途中で途切れてしまった…ユーリの隣に居た女性を見て…。
ユーリの交友関係はほぼしっているつもりだった。
後ろ姿だけだけど…あんな女性みたことがない…
ヒールでも履いているのだろうか、ユーリとほぼ同じ身長。
まっ白いワンピースがよく似合う…。
ユーリと並んで恥ずかしいのか頬がほんの少し赤く染まっているところがまた可愛らしい。
「だ、誰だよあの人…」
自分の知らない女性…自分より女らしくて綺麗な人。
ユーリはその女性といて楽しいのか心の底からの笑顔を見せて道を歩いて行く。
ルークの心の中で何かが動いた。
帰ろう…そう思って来た道を戻ろうとした時、ルークの身体に冷たい水が降り注いだ。
「あら…ルーク隊長じゃない…!!ごめんなさいね…私うっかりしてて…」
「え?あ…えぇ?」
目の前で謝ってきたのはユーリがお世話になっている宿の女将さんだった。
水を道に撒いていたところうっかりしてルークに掛ってしまった。
ルークの身体はびしょぬれで家に帰ろうにも帰れない状態…。
特に自分はこれで帰っても問題はないが、あとで騎士団の仲間に知られたら
正座をさせられてお説教コースは間違いない。
どうしようかと困り果てていると女将さんがルークの手を掴み家へと招き入れ、
そしてそのままユーリの部屋へと連れ込んだ。
「え?あ…ちょ、女将さん!?」
「さっきユーリ出かけたらからまだ帰って来ないだろうし…シャワーでも浴びな。
服はそうだねぇ…あ、この前ユーリに買ったけどサイズが大きすぎて着れなかったやつがあるから
それを着なよ。あんたならワンピースになるだろうし」
「え?あ…はい…」
女将さんはさっさと下の階に下りて服を取りに行ってしまった。
多分このまま帰ったら女将さんにも怒られることは目に見えていたので、
しぶしぶルークはユーリの部屋でシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びて出てきたルークは部屋に用意されていたシャツを着てみると
確かにユーリが着ても大きいもので、ユーリより小柄なルークが着ると
少し短めのワンピースになってしまうものだった。
しかもかなり大きい為気をつけていないと肩からずり落としてしまいそうだ。
鏡を見てみるとやはり先ほどの女性の方が同じ白のワンピースでも…似合っている。
自分には鎧や男性の服が似合うとつくづく思ってしまい、
何時も着ている服を着ようと思ったが、何故か何処にもなくきっと女将さんが気をきかせて
洗濯してくれているのだろうと思った。
「どうやって帰ろう…流石にこのままはな…まぁ、いいか…」
することもなくユーリのベッドに寝転がっていると
階段を上がってくる音が聞こえたので耳を澄ませてみると女将さんの足音ではない…
となると…
「ルーク…水掛けられたってホント……………」
「あ…ユーリお帰り。」
ルークを見た瞬間固まっていたユーリだったが、深いため息をつくとドアを閉めて
まじまじとルークの姿を見ていた。
「な、何だよ…」
「お前…その格好で外出てねぇだろうな?」
「流石にそこまでしねーよ…」
「ならいい…」
ユーリは外に出ていたついでに買って来た食べ物をテーブルに置いている姿を見て
ふと、先ほどの女性のことを思い出してしまった。
別にユーリの交友関係にとやかく言う義理などはないが…気になってしまってしょうがない。
「ユーリ…さっき綺麗な女の人と歩いていたけど…誰だ?」
「………何のことだ?」
いつもはルークの目を見て話すユーリだったが…何故か今日は目を合わせようとしない。
それにどこかよそよそしい感じがする。
「俺見たんだからな…金髪の人と歩いてるところ…誰だよ…あれ…」
「金髪って…あぁ…あれは………………まだ、ナイショだ」
途中まで言いかけたが何故かやめてしまった。
隠し事をするユーリが気に食わないのか、ルークは頬を膨らませてユーリの背中に飛びつき
ユーリの首に腕を回して締めはじめた。
「なっ!!ルークッ!!」
「俺に隠し事するとは…良い度胸じゃねーの…」
逃げられないように足を絡めながらぐいぐいと力を入れるが、
苦しそうな顔をする反面ユーリの顔は真っ赤になっていく。
「わーかった!!言うから言うから!!離せっ!!!」
その言葉でルークはやっとユーリを解放したが、何故かユーリはルークから距離を置こうとする。
その行動がますますルークの機嫌を損ねていった。
「あの人はその……………フレンに頼まれたんだよ。街を一緒に歩いてやってくれって…」
「何でフレンが?今日は休みだから自分で行けばいいだろ?」
ユーリの説明にまだ納得がいかないのか
不貞腐れた顔をしながらルークはユーリのベッドに座るが、
ユーリはルークから相変わらず目線を逸らせる。
「ところでルーク…お前その下……下着とはちゃんと履いてるだろうな?」
「女将さんが洗濯中だから履いてるわけねーだろ……」
「おいおい…勘弁してくれよ……」
ユーリは深いため息をついてルークから一番離れた壁にもたれ掛かる。
いつも傍にいるユーリが何故か距離を置く…それだけでルークは苦しくなっていった。
「……なぁ、ユーリ…俺お前になんかしたか?」
「は?」
「俺…別にお前がどんな女性と付き合おうとお前の勝手だけど……
お前がそんな風に……離れるのは……俺…いやだ…」
「ルーク……」
いつもは強気でどんなことでも涙を見せないルークだったが、
今日は女の子らしくぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「ごめ…ちがう…俺…お前の横…取られたくねーの…他の…綺麗な人に…」
ルークの目からは涙が止まらない。
この感情は嫉妬。
それはルークは解っているけど…まだ恋人でないユーリを縛りつけたくない…
告白はされた…けど…関係は…そんな不安定な関係が苦しくて…涙が止まらない。
ずっと離れていたユーリがルークの隣に来ると優しく抱きしめて
ルークの背中を優しく撫で始めた。
「ばか…俺にはお前だけだ…だから安心しろ…浮気とかそんなんじゃねぇし…
お前に今日離れていたのは…その…自分を抑えれそうにねぇから…」
「………ユーリ何言ってるんだ?」
涙が止まらないその瞳でユーリを見上げると、
珍しくユーリの頬が真っ赤になりまた深いため息をついた。
「お前…天然もいい加減にしろよな…つまり…こういうことだ…」
「え?ちょ…ユーリッ!!!んっ…ふぅ…」
急にユーリはルークの唇を塞いだ。
軽いキスは何度か経験はあった…けど、今回のは違う…もっと深いキス。
ルークの口にユーリの舌が侵入しルークの舌を絡め取る。
始めての行為にルークは驚いてしまい反抗したくても身体が言うことをきかず
ただユーリのなすがままになっているとユーリはやっとルークを離した。
「ぷはっ…ユーリ…何するんだ…!!」
「いいか…俺だって男だ…男には男の事情ってもんがあるんだ…
これにこりたら今後そんな男をさそうような格好はやめろ…むしろ止めてくれ心臓にわりぃ…」
「よくわかんねーけど…解った…」
「ほんとかよ…」
苦笑いをしながらユーリはルークの頬に優しくキスをした。
そのキスはいつもの優しいユーリで…ルークのよく知るユーリだった。
そしてそのあと何故かユーリは慌ててトイレに駆け込んだが…何故トイレに駆け込んだかはルークは理由を知らなかった。
ユーリが浮気をしていると勘違いしたルークだったが、その誤解はすぐに解けた。
そう、次の日に行われたルーク隊初の飲み会で場で…
「えっと……はじめましてぇ~フレ美でーす。今日はよろしくおねがいしまーす。」
「よっ、フレ美ちゃんかわいい~惚れちゃいそう!!」
「「フレン可愛い~」」
「惚れないでください!!あと本名で呼ばないでください!!」
そう…ルークが見かけた金髪の女性はフレンだった。
何故フレンが女装をしているのか理解できないルークだったが、
傍にいたヒスカとシャスティルが説明してくれた。
「あぁ…隊長は初めてでしたよね…ナイレン隊の時に新入隊員は男なら女装、
女なら男装をして飲み会を盛り上げるのがならわしだったんですよ。」
「そうそう、ナイレン隊長が提案でね…新入隊員を少しでも隊になじませるとかで…」
「あの…親父…ろくなこと考えねーな…」
ルークがため息をついて他の隊員にいじられているフレン…もといフレ美を眺めていると
隣で一緒に飲んでいたユーリが笑いながら話しかけてきた。
「フレンに頼まれてな…女装が変じゃないかとか度胸を付けるために一緒に街を歩いてくれって…
何かお前とかにばれたくねぇから黙って置いてくれって頼まれたんだよ。他の隊員のやつらからも
ルークをびっくりさせたいから秘密にしろってな。」
「へー…なるほど…で?」
「で?」
ルークがじっとユーリを見つめていると、
ユーリは照れくさくなりルークから少し目線を逸らすが…構わずルークはじっとユーリを見つめた。
「な、何だよ…」
「お前は女装しねーの?お前も新人隊員だろ?」
「俺はもう脱退してるから関係ねぇ…」
そう言いながら続きを楽しもうとしていたユーリだったが、
両腕をヒスカとシャスティルに抑え込まれ身動きが取れなくなってしまった。
「え?あ…おいお前ら!!」
「確かにフレンもしてるんだからユーリもしなくちゃね!!」
「フレン!!お仲間入るよ~!!」
そう言ってユーリは二人に引きずられて無理矢理女装をするはめとなった。
「ばーか…俺を泣かせるからだ。」
こうしてルーク隊の初の飲み会は二人の犠牲者を出して無事閉幕となった。
祝イの詩【TFSV02】
何故かアッシュとナタリアの護衛を任されたフレンとヒスカ。
最初は慣れない貴族相手に失礼なこととかしてしまうのでは…
という不安があったが、二人が知っている傲慢な貴族達とはかけ離れた
二人の性格のおかげがあってかすぐに打ち解けることができた。
そして式典当日。
今日を乗り越えれば明日からまた通常勤務に入る二人の心には、
仕事をやりとげた安心感とそして少し寂しさがあった。
「ナタリア…先に会場へ行ってもらってよろしいですか?
こちらにはまだ準備がありますので」
「わかりましたわ…アッシュ、早く来てくださいね」
「あぁ…」
こちらも準備が整ってすぐにでも出発できるはずだったが、
何故かジェイドはナタリア達を先に会場へと向かわせた。
その行動に首を傾げるフレンだったが、自分は護衛を任されたただの騎士…
アッシュ達にも何か深い事情があるのだろうと口をださないでいた。
そしてナタリア達が部屋から出て行ってから数十分経った頃。
準備があると言っていたが何も準備をする様子を見せなかったジェイドだが、
時計を確認し、アッシュの方を向き何かを企んでいるような笑顔で話しかける。
「それではアッシュ行きましょうか」
「そうだな…ナタリアも会場に着いた頃だろうしな…」
椅子に座っていたアッシュがゆっくりと立ち上がり部屋を出ようと扉まで向かと、
フレンはすぐに駆けより扉を開けて先に部屋を出て安全を確認する。
安全を確認した後にアッシュが外に出てその後をジェイドとガイがアッシュの後を守るように
外へ出て安全を確認する…まるで命を狙われているかのように警備が厳重だ。
式典会場に向かおうと足を進めたが、会場の方から見知らぬ騎士が一人フレンの元へと寄ってきた。
フレンは最初警戒心をあらわにしたが、その騎士はただ伝言を伝えに来ただけらしく
警戒心をすぐに隠した。
「フレン殿…ルーク隊長から伝言です。すぐに屯所の方へ来るようにとのことです。
何やら重要な話しとかで…」
「ルーク隊長が?」
今朝あいさつした時は何もそんなことを言っていなかったなとフレンは思い返したが、
ルークは隊長でありこの時期特に忙しいので用事ができてもおかしくはない…そう考え直した。
「わかりました。すぐに向かいます…アッシュ様すみませんが少し私は離れます…」
「……あぁ…わかった」
フレンが行くことを騎士に伝えると騎士も他の仕事がある為か急いでその場を離れた。
そしてフレンは、アッシュに持ち場を離れる許可を貰うが少し間を置いて返事をしたのが気になったが
一礼をしてルークの待つ屯所の方へと走りだそうとしたが、ジェイドに呼び止められた。
「フレン…先ほどの騎士は貴方のお知り合いですか?」
「え?いえ…見たことのない騎士ですが…私も騎士団全員の顔を知っているわけではありませんので…」
「そうですか…ほら、早く行かないとルークに怒られますよ」
「旦那が呼びとめたんだろうが…」
苦笑いをするガイの顔を見て吊られて苦笑いをするフレンだった。
でもジェイドのいう通り早く行かないと怒られてしまうのでフレンは駆け足で走り去った。
「さて…行きますか…ガイ貴方は前をお願いしますね。私はこれでも年寄りなので…」
「よく言うよ…」
普段のジェイドから想像もつかない単語が飛び出したが、いつものことなのでアッシュとガイは軽く流して式典会場へと向かった。
ここから屯所まではかなりの距離がある…フレンがこちらに戻ってくる頃にはアッシュ達は会場へ着き
式が始まる頃になるだろうと予測した。
しばらく式典会場へと続く長い廊下を歩いていると
今度は式典会場の方から見たことのある朱色の女騎士がこちらへ向かっていくのが見えた。
「あれは…ルーク?」
「あ、フレン…?じゃねーなガイか…ん?フレン何処行ったんだ?」
そう、向こうから歩いてきたのは先ほど屯所で待っているはずのルークだった。
遠くから見て先頭を歩いていたガイを一瞬フレンと間違えたルークだったが、
すぐにフレンが居ないことに気が付き首を傾げる。
「騎士からの伝言でお前がフレンに用があるって言うからフレンは屯所の方へ向かったぞ?」
「はぁ?俺が?そんなわけねーし…誰だよそんなでたらめな伝言伝えたの…」
「やはり嘘でしたか…まぁ、目的は警備を手薄にさせるためでしょうね…」
「え?」
ルークの間抜けな声を出した途端、どこから現れたのか黒いマントを全身に纏った男達が数名現れた。
両手には武器を持っており友好関係を持ちに来たのではないことは明白だった。
「なっ…こいつらどっから…!!」
「騎士団の警備…見直しした方がいいんじゃないですか?」
「うっせーつーの!!!ほら、来るぞ!!」
ジェイドの嫌みを聞きながら剣をかまえたルーク…それと同時にガイとアッシュも持っていた剣を男達に向ける。
マントをかぶり顔は良く見えないところがまた不気味だったが相手は人間…
なんとかできるだろうと思いつつも襲ってくる男達から防戦を始める。
「ジェイド!!お前でかい術一発放してこいつらなんとかしろよ!!」
「お断りします。騎士団内でそんな揉め事を起こして始末書はごめんですから」
ジェイドの言葉にがっくりと肩を落とすルークだったが、
落ち込んでいる暇など与える様子はなく次々と男達がルークへと襲いかかる…
ルークが一番男達の相手をしているのは気のせいだろうか…?
「ルーク大丈夫か!?」
「な、なんとか…けど新調したばかりの鎧だから動きにくい…」
「この屑がっ!!!」
動きにくいもの動きにくいのだからしょうがない…と呟くがますますアッシュから睨みつけられ苦笑いをするルーク。
余裕な表情を見せているルークだったが、この数を一人で相手するのは少し無理があった…
一人では適わないと思った男達は二人同時にルークへと切りかかって来た為
ルークは剣で受け止めるがその隙に別の男がルークの背中を取った。
「ルーク!!!」
それを見ていたガイがルークの名前を呼びルークは襲いかかってくる男に気が付いたが、
今は男二人を剣で受け止めていて身動きが取れない。
それをいいことに背中を取った男は剣を大きく振り上げてルークに向かって切りつけたが、
ルークにその剣は届かなかった。
ルークに剣が届く前に金髪の騎士がその剣を受け止めたからだ。
「ふ、フレン…何処に行ってたんだよ…」
「申し訳ございませんルーク様…このっ…」
受け止めた男の剣を払いのけたフレンは次にルークが相手をしている男二人に剣を向けると
男達は数歩下がり体勢を整え始めた。
「ルーク隊長ご無事ですか!?」
フレンが来た方向からユルギスとシャスティルが慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
男達は顔を見合わせると何故かフレンを睨みつけるとどこかへと消え去って行った。
「あ、待てこら!!逃がすか!!」
「ルーク…深追いは危険ですよ」
「……解ってる」
謎の男達を追いかけようとしていたルークだったが、ジェイドに止められしぶしぶ剣を納めてアッシュに近寄った。
「アッシュ…無事か?」
「俺はな…お前はどうだ?」
「俺?俺は大丈夫だ…フレンのおかげでな」
珍しくルークを心配するアッシュに驚いたルークだったが、嬉しそうに微笑みその頬笑みをみたアッシュは
恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「フレン、ナイスタイミングだったな…ここから屯所まで結構距離があるのに…」
「あ…途中でユルギス副隊長に会って…ルーク様は会場にいると教えて貰ったので慌てて…」
「なるほどね…」
フレンがこちらに戻ってくる時間が異様に早かった謎がようやく解けた。
なんとか危機を乗り越えほっとしているとルークの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ルーク…何をしている…早く会場に行かないか」
会場の方から来たのは騎士団長アレクセイだった。
顔は見るからに不機嫌そうな顔をしていてルークは「やべっ」と小さな声で叫んだ。
「アレクセイ閣下…申し訳ございません…さきほど不審な輩が現れファブレ子爵のお命を…」
「何だと…ファブレ子爵…お怪我は?」
「あぁ…優秀な騎士団達のおかげで無傷だ…礼を言う」
思ってもないことを…と思う一同だったが、そんなことは口が裂けても言えず
お互い苦笑いをした顔をしながらアッシュとアレクセイの話を聞いていた。
「それは良かった…ですが今日の式典の出席はおやめになった方が…」
「いや、俺が出席することはすでに知れ渡っている…これくらいで欠席などできない」
「わかりました。もうすぐ式が始まりますのでどうぞこちらに…」
「あぁ…」
アッシュを案内するアレクセイだったが、一度だけルークの方をみて目を細めるが
すぐにその場から立ち去っていった。
その様子に首を傾げるルークだったが、特に気にすることもなく式場へと向かって行った。
「ルーク…怪我をしないよう気を付けてくださいね」
「あぁ…大丈夫だって…ナタリアは心配性だな…」
「ルーク、いいか…変なやつについて行ったり、あぶないことに首突っ込むんじゃないぞ」
「ガイ…お前は過保護すぎだつーの…」
それから式典が無事にはじまり何事もなく終わった次の日、
ナタリアとアッシュは屋敷へと戻る為に騎士団が用意した馬車が騎士団前に到着する予定だったがまだ姿が見えない。
馬車を待っている間にナタリアとガイはルークが心配なのか
ずっと同じことをルークに言い聞かせていた。
「俺はガキじゃねーつーの…」
「そんなこと言う奴ほどガキなんだよ…」
「アッシュ…ひでぇ…」
アッシュの一言に苦笑いをするルークとフレンだった。
そんな時やっと馬車が二台到着し、馬車の中から長身の髭の生えた男が現れ
その男の姿をみたルークは目を輝かせて近寄った。
「ヴァン師匠お久しぶりです!!」
「あぁ…ルークか…久しぶりだな…」
ヴァンと呼ばれた男はルークの頭を優しく撫でると
フレンの姿を見つけフレンへと近寄って行く。
「貴殿がフレン・シーフォ殿か?」
「あ…はい…えっと…」
「申し遅れた、私は白光騎士団所属、ヴァン・グランツだ…」
「俺とアッシュの剣の師匠でもあるけどな」
「はぁ…」
ルークの追加の説明で何故ルークが「師匠」と呼ぶのかが解ったが、
面識のないこの人物が何故フレンの名前を知っているかが謎だった。
「ジェイド殿から報告を受けている…ルークの危機を救ってくれたそうだな…礼を言う」
「あ…いえ、そんな…私はいつも隊長にお世話になっていて…お礼を言うのはこちらの方で…
深く頭を下げるヴァンに戸惑い、フレンも吊られて同じくらい頭を下げる。
その光景がおかしくてルークは笑ってしまった。
「それではナタリア殿、帰りましょうか」
「はい…ルーク是非遊びに来てくださいね…おばさま達も心配しておりますわ」
「まぁ…考えておく」
珍しく歯切れの悪いルークの返事にナタリアはため息をつくが、
ティアに中に入るように言われしぶしぶ馬車の中へと入って行った。
そしてそのあとに別の馬車にアッシュ達が乗り込み馬車は貴族街へと向かって行った。
「やっと嵐が過ぎ去ったか…」
「嵐って隊長…ほら早く準備しないとユーリとの約束に遅れますよ」
「あ、そうだった…」
時計を見たルークとフレンはは慌てて騎士団の中に戻って行った。
そして騎士団から貴族街へ向かう馬車の中…
アッシュ達が乗り込んだ馬車の中では静かに会議が開かれていた。
「それではやはりルークが…」
「えぇ…アッシュを狙っているようでしたが…ルークを狙っていたのは確実です」
ジェイドは静かに答えるとガイとアッシュはため息をついた。
「やはり、ローレライのこと知られているようだな…」
「今回の件でフレンのやつが狙われるようにならないといいが…」
ガイとアッシュの言葉にヴァンは何かを考え始めた。
その仕草にジェイドは小さく笑ったが今後の行動をどうするか…
ヴァンと同じように考え始めた。
「ふーん…ジェイドってやつが事前にお前の弟が狙われてるって情報を掴んで
騎士団に護衛の協力要請を申請したのか」
「あぁ…しかも何故か俺の隊を指定してきたんだぜ?ありえねーつの」
「だからユルギス副隊長の胃薬の量が最近増えてたんですね…」
「あぁ…失敗したらまた解散とかになるからな」
ルークは大きな花束を抱えながらユーリとフレンと共に静かな道を歩いていた。
今日は午後から休暇を取っていたので服は私服だ。
久しぶりに会えたユーリに最近あったことを嬉しそうに話すルーク…
そんなルークを見て表情には出さないが幼馴染だからわかるその仕草…ユーリも喜んでいる。
ルークの足元にはまだまだ子犬のラピードがしっかりと貼り着き離れようとはしない。
モテモテな自分の隊長に苦笑いをするフレンだったが…このメンバーでいる時間は
フレンの中で今一番楽しい時間だった…これからも大切にしていきたい時間だ。
そんな三人と一匹が向かったのは下町にある墓場だった。
もちろん向かう先は一つしかない…そう、「ナイレン・フェドロック」と書かれた墓標だけだ。
すでに多くの人が来ていたのか花束が沢山そなえられている。
ルークはナイレンの墓に花を供えると手を合わせて報告をする。
「父上…遅くなってごめんな…今年も無事式典終わったぜ…」
ナイレンの墓に手を合わし終えた後隣にあるナイレンの奥さんと実の子供の墓にも手を合わせた。
フレンとユーリそしてラピードも静かに祈りルークの後姿を見つめるが、
ルークは直ぐに立ち上がり墓場をあとにした。
「ルーク…もう少し居たらどうだ?」
「大丈夫だって…父上は俺の傍にいつもいてくれてるし…」
笑うルークの姿にユーリはそれ以上何も言えなかった…
今でも鮮明に思い出すあの日…
ナイレン隊長の最後の言葉…
ナイレン隊長から預かった大切なもの…
鮮明に思い出すことができるのはユーリだけではない、フレンも同じだった。
「さーて、ユーリの家行って祝杯あげねーとな」
「祝杯ですか?何のです?」
フレンとユーリには何の祝杯か見当もつかなかった…
二人が首を傾げているとルークはきょとんとした顔でフレンを見つめた。
「あれ?言ってなかったか?フレンお前明日からうちの小隊長だぜ」
「え?えええええええええええええええええ!!!???聞いてませんよそんなこと!!!!」
「……あ、わりぃ…言い忘れてたか…」
「おー…フレンすげーなおめでとさん」
フレンはあまりの驚きに口をぱくぱくさせてその場から動けなくなり、
その様子にルークとユーリは大笑いをしてそのあとフレンに怒られてしまった。
「あの娘は殺すなと言ってあったはずだ…なのにどういうことだ…!!!」
「っは…申し訳ありません…」
「それにフレン・シーフォか……どうにかしなければな…」
騎士団の最奥で話される黒い影…
これはユーリとエステルが出会う前のお話…
何故かアッシュとナタリアの護衛を任されたフレンとヒスカ。
最初は慣れない貴族相手に失礼なこととかしてしまうのでは…
という不安があったが、二人が知っている傲慢な貴族達とはかけ離れた
二人の性格のおかげがあってかすぐに打ち解けることができた。
そして式典当日。
今日を乗り越えれば明日からまた通常勤務に入る二人の心には、
仕事をやりとげた安心感とそして少し寂しさがあった。
「ナタリア…先に会場へ行ってもらってよろしいですか?
こちらにはまだ準備がありますので」
「わかりましたわ…アッシュ、早く来てくださいね」
「あぁ…」
こちらも準備が整ってすぐにでも出発できるはずだったが、
何故かジェイドはナタリア達を先に会場へと向かわせた。
その行動に首を傾げるフレンだったが、自分は護衛を任されたただの騎士…
アッシュ達にも何か深い事情があるのだろうと口をださないでいた。
そしてナタリア達が部屋から出て行ってから数十分経った頃。
準備があると言っていたが何も準備をする様子を見せなかったジェイドだが、
時計を確認し、アッシュの方を向き何かを企んでいるような笑顔で話しかける。
「それではアッシュ行きましょうか」
「そうだな…ナタリアも会場に着いた頃だろうしな…」
椅子に座っていたアッシュがゆっくりと立ち上がり部屋を出ようと扉まで向かと、
フレンはすぐに駆けより扉を開けて先に部屋を出て安全を確認する。
安全を確認した後にアッシュが外に出てその後をジェイドとガイがアッシュの後を守るように
外へ出て安全を確認する…まるで命を狙われているかのように警備が厳重だ。
式典会場に向かおうと足を進めたが、会場の方から見知らぬ騎士が一人フレンの元へと寄ってきた。
フレンは最初警戒心をあらわにしたが、その騎士はただ伝言を伝えに来ただけらしく
警戒心をすぐに隠した。
「フレン殿…ルーク隊長から伝言です。すぐに屯所の方へ来るようにとのことです。
何やら重要な話しとかで…」
「ルーク隊長が?」
今朝あいさつした時は何もそんなことを言っていなかったなとフレンは思い返したが、
ルークは隊長でありこの時期特に忙しいので用事ができてもおかしくはない…そう考え直した。
「わかりました。すぐに向かいます…アッシュ様すみませんが少し私は離れます…」
「……あぁ…わかった」
フレンが行くことを騎士に伝えると騎士も他の仕事がある為か急いでその場を離れた。
そしてフレンは、アッシュに持ち場を離れる許可を貰うが少し間を置いて返事をしたのが気になったが
一礼をしてルークの待つ屯所の方へと走りだそうとしたが、ジェイドに呼び止められた。
「フレン…先ほどの騎士は貴方のお知り合いですか?」
「え?いえ…見たことのない騎士ですが…私も騎士団全員の顔を知っているわけではありませんので…」
「そうですか…ほら、早く行かないとルークに怒られますよ」
「旦那が呼びとめたんだろうが…」
苦笑いをするガイの顔を見て吊られて苦笑いをするフレンだった。
でもジェイドのいう通り早く行かないと怒られてしまうのでフレンは駆け足で走り去った。
「さて…行きますか…ガイ貴方は前をお願いしますね。私はこれでも年寄りなので…」
「よく言うよ…」
普段のジェイドから想像もつかない単語が飛び出したが、いつものことなのでアッシュとガイは軽く流して式典会場へと向かった。
ここから屯所まではかなりの距離がある…フレンがこちらに戻ってくる頃にはアッシュ達は会場へ着き
式が始まる頃になるだろうと予測した。
しばらく式典会場へと続く長い廊下を歩いていると
今度は式典会場の方から見たことのある朱色の女騎士がこちらへ向かっていくのが見えた。
「あれは…ルーク?」
「あ、フレン…?じゃねーなガイか…ん?フレン何処行ったんだ?」
そう、向こうから歩いてきたのは先ほど屯所で待っているはずのルークだった。
遠くから見て先頭を歩いていたガイを一瞬フレンと間違えたルークだったが、
すぐにフレンが居ないことに気が付き首を傾げる。
「騎士からの伝言でお前がフレンに用があるって言うからフレンは屯所の方へ向かったぞ?」
「はぁ?俺が?そんなわけねーし…誰だよそんなでたらめな伝言伝えたの…」
「やはり嘘でしたか…まぁ、目的は警備を手薄にさせるためでしょうね…」
「え?」
ルークの間抜けな声を出した途端、どこから現れたのか黒いマントを全身に纏った男達が数名現れた。
両手には武器を持っており友好関係を持ちに来たのではないことは明白だった。
「なっ…こいつらどっから…!!」
「騎士団の警備…見直しした方がいいんじゃないですか?」
「うっせーつーの!!!ほら、来るぞ!!」
ジェイドの嫌みを聞きながら剣をかまえたルーク…それと同時にガイとアッシュも持っていた剣を男達に向ける。
マントをかぶり顔は良く見えないところがまた不気味だったが相手は人間…
なんとかできるだろうと思いつつも襲ってくる男達から防戦を始める。
「ジェイド!!お前でかい術一発放してこいつらなんとかしろよ!!」
「お断りします。騎士団内でそんな揉め事を起こして始末書はごめんですから」
ジェイドの言葉にがっくりと肩を落とすルークだったが、
落ち込んでいる暇など与える様子はなく次々と男達がルークへと襲いかかる…
ルークが一番男達の相手をしているのは気のせいだろうか…?
「ルーク大丈夫か!?」
「な、なんとか…けど新調したばかりの鎧だから動きにくい…」
「この屑がっ!!!」
動きにくいもの動きにくいのだからしょうがない…と呟くがますますアッシュから睨みつけられ苦笑いをするルーク。
余裕な表情を見せているルークだったが、この数を一人で相手するのは少し無理があった…
一人では適わないと思った男達は二人同時にルークへと切りかかって来た為
ルークは剣で受け止めるがその隙に別の男がルークの背中を取った。
「ルーク!!!」
それを見ていたガイがルークの名前を呼びルークは襲いかかってくる男に気が付いたが、
今は男二人を剣で受け止めていて身動きが取れない。
それをいいことに背中を取った男は剣を大きく振り上げてルークに向かって切りつけたが、
ルークにその剣は届かなかった。
ルークに剣が届く前に金髪の騎士がその剣を受け止めたからだ。
「ふ、フレン…何処に行ってたんだよ…」
「申し訳ございませんルーク様…このっ…」
受け止めた男の剣を払いのけたフレンは次にルークが相手をしている男二人に剣を向けると
男達は数歩下がり体勢を整え始めた。
「ルーク隊長ご無事ですか!?」
フレンが来た方向からユルギスとシャスティルが慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
男達は顔を見合わせると何故かフレンを睨みつけるとどこかへと消え去って行った。
「あ、待てこら!!逃がすか!!」
「ルーク…深追いは危険ですよ」
「……解ってる」
謎の男達を追いかけようとしていたルークだったが、ジェイドに止められしぶしぶ剣を納めてアッシュに近寄った。
「アッシュ…無事か?」
「俺はな…お前はどうだ?」
「俺?俺は大丈夫だ…フレンのおかげでな」
珍しくルークを心配するアッシュに驚いたルークだったが、嬉しそうに微笑みその頬笑みをみたアッシュは
恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「フレン、ナイスタイミングだったな…ここから屯所まで結構距離があるのに…」
「あ…途中でユルギス副隊長に会って…ルーク様は会場にいると教えて貰ったので慌てて…」
「なるほどね…」
フレンがこちらに戻ってくる時間が異様に早かった謎がようやく解けた。
なんとか危機を乗り越えほっとしているとルークの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ルーク…何をしている…早く会場に行かないか」
会場の方から来たのは騎士団長アレクセイだった。
顔は見るからに不機嫌そうな顔をしていてルークは「やべっ」と小さな声で叫んだ。
「アレクセイ閣下…申し訳ございません…さきほど不審な輩が現れファブレ子爵のお命を…」
「何だと…ファブレ子爵…お怪我は?」
「あぁ…優秀な騎士団達のおかげで無傷だ…礼を言う」
思ってもないことを…と思う一同だったが、そんなことは口が裂けても言えず
お互い苦笑いをした顔をしながらアッシュとアレクセイの話を聞いていた。
「それは良かった…ですが今日の式典の出席はおやめになった方が…」
「いや、俺が出席することはすでに知れ渡っている…これくらいで欠席などできない」
「わかりました。もうすぐ式が始まりますのでどうぞこちらに…」
「あぁ…」
アッシュを案内するアレクセイだったが、一度だけルークの方をみて目を細めるが
すぐにその場から立ち去っていった。
その様子に首を傾げるルークだったが、特に気にすることもなく式場へと向かって行った。
「ルーク…怪我をしないよう気を付けてくださいね」
「あぁ…大丈夫だって…ナタリアは心配性だな…」
「ルーク、いいか…変なやつについて行ったり、あぶないことに首突っ込むんじゃないぞ」
「ガイ…お前は過保護すぎだつーの…」
それから式典が無事にはじまり何事もなく終わった次の日、
ナタリアとアッシュは屋敷へと戻る為に騎士団が用意した馬車が騎士団前に到着する予定だったがまだ姿が見えない。
馬車を待っている間にナタリアとガイはルークが心配なのか
ずっと同じことをルークに言い聞かせていた。
「俺はガキじゃねーつーの…」
「そんなこと言う奴ほどガキなんだよ…」
「アッシュ…ひでぇ…」
アッシュの一言に苦笑いをするルークとフレンだった。
そんな時やっと馬車が二台到着し、馬車の中から長身の髭の生えた男が現れ
その男の姿をみたルークは目を輝かせて近寄った。
「ヴァン師匠お久しぶりです!!」
「あぁ…ルークか…久しぶりだな…」
ヴァンと呼ばれた男はルークの頭を優しく撫でると
フレンの姿を見つけフレンへと近寄って行く。
「貴殿がフレン・シーフォ殿か?」
「あ…はい…えっと…」
「申し遅れた、私は白光騎士団所属、ヴァン・グランツだ…」
「俺とアッシュの剣の師匠でもあるけどな」
「はぁ…」
ルークの追加の説明で何故ルークが「師匠」と呼ぶのかが解ったが、
面識のないこの人物が何故フレンの名前を知っているかが謎だった。
「ジェイド殿から報告を受けている…ルークの危機を救ってくれたそうだな…礼を言う」
「あ…いえ、そんな…私はいつも隊長にお世話になっていて…お礼を言うのはこちらの方で…
深く頭を下げるヴァンに戸惑い、フレンも吊られて同じくらい頭を下げる。
その光景がおかしくてルークは笑ってしまった。
「それではナタリア殿、帰りましょうか」
「はい…ルーク是非遊びに来てくださいね…おばさま達も心配しておりますわ」
「まぁ…考えておく」
珍しく歯切れの悪いルークの返事にナタリアはため息をつくが、
ティアに中に入るように言われしぶしぶ馬車の中へと入って行った。
そしてそのあとに別の馬車にアッシュ達が乗り込み馬車は貴族街へと向かって行った。
「やっと嵐が過ぎ去ったか…」
「嵐って隊長…ほら早く準備しないとユーリとの約束に遅れますよ」
「あ、そうだった…」
時計を見たルークとフレンはは慌てて騎士団の中に戻って行った。
そして騎士団から貴族街へ向かう馬車の中…
アッシュ達が乗り込んだ馬車の中では静かに会議が開かれていた。
「それではやはりルークが…」
「えぇ…アッシュを狙っているようでしたが…ルークを狙っていたのは確実です」
ジェイドは静かに答えるとガイとアッシュはため息をついた。
「やはり、ローレライのこと知られているようだな…」
「今回の件でフレンのやつが狙われるようにならないといいが…」
ガイとアッシュの言葉にヴァンは何かを考え始めた。
その仕草にジェイドは小さく笑ったが今後の行動をどうするか…
ヴァンと同じように考え始めた。
「ふーん…ジェイドってやつが事前にお前の弟が狙われてるって情報を掴んで
騎士団に護衛の協力要請を申請したのか」
「あぁ…しかも何故か俺の隊を指定してきたんだぜ?ありえねーつの」
「だからユルギス副隊長の胃薬の量が最近増えてたんですね…」
「あぁ…失敗したらまた解散とかになるからな」
ルークは大きな花束を抱えながらユーリとフレンと共に静かな道を歩いていた。
今日は午後から休暇を取っていたので服は私服だ。
久しぶりに会えたユーリに最近あったことを嬉しそうに話すルーク…
そんなルークを見て表情には出さないが幼馴染だからわかるその仕草…ユーリも喜んでいる。
ルークの足元にはまだまだ子犬のラピードがしっかりと貼り着き離れようとはしない。
モテモテな自分の隊長に苦笑いをするフレンだったが…このメンバーでいる時間は
フレンの中で今一番楽しい時間だった…これからも大切にしていきたい時間だ。
そんな三人と一匹が向かったのは下町にある墓場だった。
もちろん向かう先は一つしかない…そう、「ナイレン・フェドロック」と書かれた墓標だけだ。
すでに多くの人が来ていたのか花束が沢山そなえられている。
ルークはナイレンの墓に花を供えると手を合わせて報告をする。
「父上…遅くなってごめんな…今年も無事式典終わったぜ…」
ナイレンの墓に手を合わし終えた後隣にあるナイレンの奥さんと実の子供の墓にも手を合わせた。
フレンとユーリそしてラピードも静かに祈りルークの後姿を見つめるが、
ルークは直ぐに立ち上がり墓場をあとにした。
「ルーク…もう少し居たらどうだ?」
「大丈夫だって…父上は俺の傍にいつもいてくれてるし…」
笑うルークの姿にユーリはそれ以上何も言えなかった…
今でも鮮明に思い出すあの日…
ナイレン隊長の最後の言葉…
ナイレン隊長から預かった大切なもの…
鮮明に思い出すことができるのはユーリだけではない、フレンも同じだった。
「さーて、ユーリの家行って祝杯あげねーとな」
「祝杯ですか?何のです?」
フレンとユーリには何の祝杯か見当もつかなかった…
二人が首を傾げているとルークはきょとんとした顔でフレンを見つめた。
「あれ?言ってなかったか?フレンお前明日からうちの小隊長だぜ」
「え?えええええええええええええええええ!!!???聞いてませんよそんなこと!!!!」
「……あ、わりぃ…言い忘れてたか…」
「おー…フレンすげーなおめでとさん」
フレンはあまりの驚きに口をぱくぱくさせてその場から動けなくなり、
その様子にルークとユーリは大笑いをしてそのあとフレンに怒られてしまった。
「あの娘は殺すなと言ってあったはずだ…なのにどういうことだ…!!!」
「っは…申し訳ありません…」
「それにフレン・シーフォか……どうにかしなければな…」
騎士団の最奥で話される黒い影…
これはユーリとエステルが出会う前のお話…
ハジマリノ詩【TFSV01】
シゾンタニアの街が閉ざされてから数年後…
ナイレン・フェドロック隊は隊長亡き後解散の道を一度は進みかけたが、
娘であるルークフェドロックが隊長の後を継ぎ今は帝都を守っている。
もともと10数名の隊だったが、ユーリのように抜けた者もいれば
転勤命令で他の地へ移動して行った者もおり、今元ナイレン隊は
ユルギス・シャスティル・ヒスカそしてフレンの4人だけとなってしまった。
最初は小さかった隊だが、次第にメンバーは増えて行きそろそろ小隊を作らなければ
ルーク一人ではまとめきれないほどの大きさになっていた…
いや、正確にいえば小隊を作らなければユルギスの胃が危ない…ばーい美人な双子情報。
血は繋がってないはずだがナイレン並に適当なところがあるルーク…
それをすべて拾い上げているのがユルギスだ。外から見ればバランスの良い上司と部下と思える。
早急に小隊の隊長を決めなければいけないところだったが、
今年もまた人魔戦争の式典の時期が来てしまいルーク隊内の会議は一時中断となってしまった。
この時期はナイレン隊にとって嬉しくない時でもある…そう、前隊長のナイレンの命日が近いからだ。
しかし、悲しんでいる暇など騎士団にはなかった。
式典を成功させることが今の時期一番の任務である。
しかも今年は少しやっかいな情報がもたらされますますユルギスの胃を苦しめていた。
式典から数日前、ルークはフレンとヒスカを連れて騎士団本部の中を進むが、
その顔は普段の彼女からは想像もできないくらい険しい顔をしている。
「あ…あの…ルーク隊長…?僕達はこれからどこに向かうんですか?」
「………ついてこればわかる…」
「はぁ……」
フレンの前を歩くルークは部屋を出てから一度も振り向かずただまっすぐ
前を向いてあるいているだけで、フレンの質問に一度も答えようとはしない。
隣で歩く先輩騎士ヒスカの顔を横目で見るが、ヒスカが聞いても同じらしく首を横に振った。
こんな時ユーリが居れば…とフレンは思う。
どれほど彼女を支えようとしても、やはり一番心の支えになっているのはユーリだからだ。
ユーリに頼るのは悔しいが…こればかりはどうしようもなかった…
だからフレンはユーリにはできない支え方をしようと思っているが…どうすればいいかがわからない。
フレンが深いため息を吐くと前を歩いていたルークが部屋の前で止まった。
その部屋は上流貴族が訪問した時に使う豪華な部屋で、フレンのような騎士が入れるような場所ではない。
そんな部屋の前でルークは先ほどより険しい顔をし、大きく深呼吸すると扉と叩いた。
すると中から返事が返って来たのでルークはゆっくりと扉を開き中へと入った、
そしてヒスカとフレンもそのあとに続いて中に入ると部屋の中はフレンが見たこともない装飾で飾られていた。
部屋の中を見渡すと数名の騎士…フレン達が所属している騎士団とはまた別の騎士だ…
きっとこの部屋を借りている貴族が雇ったギルドかと予想した。
騎士の他には6名の見たことのない人…一人は椅子に座り椅子の背をフレンに見せ窓を見ているので
顔は確認できないが確かにそこに人が居る。
フレンが中の様子を観察しているとルークが敬礼をしたので慌てて合わせて敬礼をするが、
ルークの表情は相変わらず険しいままだ。
「ルーク・フェドロック隊、隊長ルーク…ただ今到着しました。」
「御苦労さま…流石ですね、時間ぴったりです…貴方なら遅刻すると思ってましたよ。」
「時間を守ることも騎士の務めですから…」
ヒスカとフレンは横目でお互いを見た。
そんなことを言っているルークだが、会議などでは必ずいつも遅刻…
そのたびにユルギスに説教されているが、効果は見られていない…。
身内だけのところなら笑っていたがここは貴族の前…笑うことなど許されず2人は耐えることを選んだ。
ルークと話していた眼鏡をかけた人物はヒスカとフレンに近づき二人を足の先から頭の天辺まで観察をした…
そんなマジマジと見られいい感じはしない二人だった。
「流石貴方が選んだ二人ですね…なかなか使えそうです…
まぁ、合格としましょう…ルーク自己紹介をお願いします。」
笑顔でルークに話しかけるが、その言葉は若干どこかにトゲがある言い方…
ルークとの関係がフレンには全く見えなかった。
「私の自慢の隊員ですから…合格できて当たり前です。えっと…女性がヒスカ・アイヒープ。
彼女は防御術と回復術のエキスパートですが剣術もなかなかのものです。
そして、男性がフレン・シーフォ。彼は前衛ですが術と回復術も使える人物です。
もともとヒスカはフレンの新人教育係でしたのでコンビネーションもあります。」
ルークが2人を紹介している時にヒスカとフレンは敬礼をするが、
眼鏡の奥に金髪の女性が目を輝かせてルークを見つめているのに気がついた。
ルークと一刻も話がしたい…そんなオーラが目に見えて流されている。
「ほう…すばらしい人選ですね。おっと…私としたことが…自己紹介が遅れましたね…
私は白光騎士団大佐ジェイド・カーティスと申します。
あ、白光騎士団とは貴族護衛のために作られた騎士団の姉妹組織です。
国の正式組織ですので御間違えなく。」
最後の方はフレンに言い聞かせるようにジェイドは言った。
それはまるでフレンがこの騎士団をギルドと間違えていると見抜いているかのように…
フレンの背中に寒気が襲った。
「今回の任務ですが…貴方達にはとある2人の護衛に付いて貰います。式典が終了するまでですけどね…」
「「はっ。」」
ヒスカとフレンが良い声で返事をするとジェイドは楽しそうに笑い話を続ける。
「まず、ヒスカが護衛に付いてもらうのはこちらの女性です。」
ジェイドが紹介しようとした女性はさきほどルークをキラキラとした表情で見つめていた金髪の女性だ。
彼女はまるで王族のような凛とした空気にさわやかで優しい笑顔が特徴的で…
フレンの周りにいる女性達とは違う女性だった。
「はじめまして、私はナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアと申します。
ナタリアでかまいませんわ…短い期間ですがどうぞよろしくお願いしますね。」
ナタリアが上品にお辞儀をするとナタリアの後から小さな少女とナタリアとは別の女性が姿を見せる。
「はじめまして、私は白光騎士団所属ティア・グランツです…」
「は~い。同じく白光騎士団所属アニス・タトリンですぅ~。
あ~ん、私もフレン様に守ってもらいた~い。」
アニスがクネクネと可愛らしく動いていると横にいたジェイドが笑顔で声をかけるが、
フレンはどうもそのジェイドの笑顔が苦手だ…何か黒いものが見えてしょうがない…
「アニス~。フレンはまだなりたて騎士様ですから変な色に染めちゃ駄目ですよ~」
「っち…まだまだこれからか…けど、これからアニスちゃん色にむふふ~♪」
フレンとヒスカはアニスの言葉を聞き流した。
聞き流さないとこれからの仕事に影響が出る…そう判断したからだ…。
「アニスとティアはヒスカと同じナタリア様の護衛ですからね、仲良くしてくださいね」
ジェイドが再び笑顔で伝える…先ほどのアニスの言葉聞き流して正解のようだ。
ヒスカの顔が少しひきつっているのが解る。
「そして、フレンに護衛として付いてもらうのは…あそこの椅子に座っている…
あー…振り向く気がありませんね…しょうがない人ですねぇ…恥ずかしいんでしょうか?」
「そんなわけねぇーし…」
ルークが小さな声で呟くが、その声は怒っている時の声だ。
ルークが突発的な事をいうのはいつものことだが…ここは護衛をする貴族の前…そんなことを相手に聞かれたら
騎士団の名に傷が付く。幸い今回は相手に聞こえてなかったようだが…ユルギスの気持ちが若干理解できるフレンだった。
「ったく…しょうがねぇやつだな…まぁいいさ俺から自己紹介するよ。
フレンの護衛に付いてもらうのはこっちのアッシュ・フォン・ファブレだ。
ちなみに俺は使用人兼護衛のガイ・セシルだよろしくな」
ガイと名乗った青年がもう一人の護衛人物を紹介するが…相手は声も上げずルーク達に顔を見せようともせず、
座った椅子は背中を向けたままだ。しかし、ヒスカとフレンにはアッシュの名前にどこかで聞いた覚えがあった。
「………ファブレ?」
「どっかで聞いたような……」
そんな遠くない時…しかもすぐ近くで聞いた名前のようだったが思い出せなかった。
ヒスカとフレンは顔をお互い見合わせるが、やはり思い出せない…
2人が考えているとルークが咳払いをし話を元に戻させる。
「それではこの2人をお預けします…私はこれで…失礼します。」
ルークが一礼をして部屋を出ようとしたが、ナタリアがルークのマントを掴みそれを阻止した。
「お待ちになって…あの…少しだけ…お茶でもご一緒に…」
振り向いたルークの表情はどこか辛そうな表情…こんな表情をするルークを見るのは久しぶりだ…
前に見たのはナイレン隊長が亡くなった時…その時もこんな辛い顔を一瞬だけ見せた気がする。
「……ナタリア様…申し訳ありませんが…仕事がありますので……」
「そんな他人行儀な言葉遣いはおやめになって!!貴方と私は……」
「ナタリア様……」
「………ご、ごめんなさい。」
ルークに若干強く言われ大人しくルークのマントを手離すが、まだ納得ができていない様子だ。
最初はルークのファンだと思ってたフレンだが…どうも2人の関係はそんな浅いものではないようだ…
もっと深く、大切な絆…そんな感じがした。
そんな中ずっと声を出さなかったアッシュが一声だけ発言をし、
その声に反応して部屋にいた白光騎士団はすべて外に出てしまった。
「これで別に敬語なんて使わなくていいはずだ………ナタリアに散々心配かけたんだ…
それくらい付き合ってやれ…この屑が…」
「………ったく、ナタリアのことになるとホント優しくなるんだなお前は…」
「る、ルーク隊長!!!」
白光騎士団が居なくなった途端ルークの口調が普段の口調に変ったので、
フレンは慌ててルークの傍にかけよりルークの口を押さえた。
「ルーク隊長!!いくら隊長でもそんな口のきき方は…!!!」
「あら、かまいませんのよ?だってルークは私の大切な幼馴染ですもの」
「「え?」」
フレンによって閉ざされていた口をなんとか解放させ、ルークは深いため息をつき、
そして長く朱い髪を乱暴にかきながら?マークを浮かべているヒスカとフレンに説明を始める。
「あー…その…ナタリアとガイは俺の幼馴染なんだよ…そしてアッシュは…」
ルークに名前を呼ばれアッシュがやっとフレン達に姿を見せるが、
その姿にヒスカとフレンは驚きを隠せなかった…
何故ならアッシュの姿はルークと全く同じ…違うとすれば性別が男か女…
そして髪の色が若干アッシュの方が赤が濃い色をしている。
「えっと…え?ルーク隊長が2人…???何で???」
「おい…ヒスカ…何困っているんだ?お前とシャスティルの関係は何だよ?」
「え?私とシャスティルは双子の………えぇ!?」
「まさかっ………」
ルークとアッシュの関係に2人は絶句した。
ファブレという名前にどこかで聞き覚えがあると思ったらそう…
ルークが最初にナイレン隊に入ってきた時に名乗っていた名前だ。
あの時はファブレという姓は実父の姓と説明を受けていたが…まさかファブレが貴族とは思っていなかった。
「そう、俺とアッシュは双子の姉弟。アッシュが弟だけどな…」
「っは……お前のことを姉だとは思ったことねぇ…」
「まぁ、アッシュったら…」
アッシュの言葉にナタリアが少し怒った表情をするがアッシュはあまり顔色を変えなかった。
「いつものことですから仕方ありませんわね…さぁ、ルーク一緒にお茶を飲みましょう。
久しぶりにお会いしたのですから話すことはたくさんありますわ。」
「え?いや…俺はほんとに仕事が…」
「おいおいルーク…心の親友とたまには会話しようぜ…」
「ガイ!!お前はどっちの味方だ!!」
「きゃわぁ~ん♪ルーク様とお茶なんてアニスちゃん感激~♪」
ルークはナタリアとガイに強制連行されお茶をすることとなった。
その様子をぼんやりと見ていたヒスカとフレンだったが、ティアに誘われ2人もお茶に参加することなった。
久しぶりに過ごす幼馴染達との時間はルークに安らぎの一時を与えたが、
フレンはこの時まだ知らなかった…ルークがこの部屋に入った時見せた険しい表情の訳を…
何故ファブレ家を出てナイレンの養子になったのかを…
ユーリも知らないこの訳をフレンとユーリが知ることになるのはまだ先だった……。
そして中の様子を黒い影が伺っていたことに何人気がついていたのだろうか…。
物語の詩はまだ始まったばかり…。