旭屋本舗
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腐向けサイトですご理解のある方のみどうぞ。
始めての方はカテゴリー【What】をお読みください。
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ユーリはすべての荷物を鞄につめ、机に置いてあった銀色の魔導器を手にした。
これはナイレンから最後に貰った魔道器…これがなければガリスタも倒すことができなかっただろう…
複雑な思いを胸にし左腕に着けているとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ…」
「ユーリ…ルーク隊長知らないか?」
ユーリの部屋に入ってきたのは副隊長のユルギスだった。
騎士団中を探しまわっているのか息が切れている。
「ルーク…?いや、今日は会ってないけど?」
「そうか…どこに行ったんだろう…しょうがない…ユーリ頼みがある…」
困ったようにため息を付くとユーリに近づきラッピングされた箱をユーリに手渡した。
「これは?」
「ナイレン隊長からの預かりものだ…ナイレン隊長がメンテナンスに出してて…
それが今届いた…ルークに渡して欲しい。」
「ルークに?ナイレン隊長の墓前にでも置くべきだろ?」
ユルギスは何も言わずにラッピングされた箱を指を差したので
見てみるtメッセージカードが付いており、【Dear Luke】と書かれている。
これはナイレンからルークへの最後の贈り物…
「ユーリ…君から渡して欲しい…話すこともいっぱいあるだろうし…
隊長に何も言わず出て行くつもりだったのだろう?」
ユルギスに先を読まれていた為苦笑いをするとユルギスは呆れた表情をする。
先日まで仲が良かった二人だが…ここ数日すれ違ってばかり…
いや、お互いが避けているような気がした。
「じゃぁ、頼むよ…僕は街の片付けを手伝ってくるから…」
「へいへい…」
ユルギスが部屋を出たのを確認するとユーリは持っていく予定だった
荷物を部屋の角に置きドアを閉めたのを確認しルークを探し始めた。
その後姿を物陰から一人の人間が見ていたが…ユーリはそれに気がつかなかった…。
シアワセノ唄【TFS10】
「ったく…あいつ何処に居るんだ…?」
食堂、中庭、ナイレンの部屋そして犬小屋などを探したが一向に見つかる気配がない。
街に出てしまっているのだろうかと思ったが、それならユルギスが知らせにくるはずだ…
となるとやはりこの騎士団の中…残るは各自の部屋だけ。
他人の部屋を勝手に覗きこむのは流石に心が痛むので、
街で出てユルギスに許可を貰おうと足を向けたが、ユーリが使っている部屋のドアが開いていることに気がついた。
部屋を出た時確かにドアを閉めたのを覚えている…まさか…
ドアをゆっくりと開けるとユーリが使っているベッドに朱色の塊が寝転がっているのを発見した。
ユーリの使っていた枕を大事そうに抱きかかえながら…
「ったく…もうベッド使わねぇから綺麗にしたのに…お前が直せよな…」
「……………俺…退職願受理してねーし……」
「ユルギスが押してくれたから受理になってる」
「あいつ…あとで説教してやる…」
ユーリの方を向こうとしないルーク。
仕方がないのでルークの身体を無理矢理起こし自分の方へと身体を向かせるが、
その顔は拗ねた子供のような表情…抱きかかえた枕に顔を埋めユーリの顔を見ようとしない。
このままでは話ができないのでユーリは枕を奪い取るとルークの顔をしっかりと掴み、
自分の方を向かせた。
「これ…隊長からお前へのプレゼント…」
「父上から…?」
拗ねていた表情から一変し、嬉しそうに手渡された箱を開けるとそこには見覚えのある魔道器が入っていた。
「ん?これ壊れたって言ってた隊長の魔導器じゃねぇか?」
「あぁ…ん?何かカードに書いてある…『隊長昇格おめでとう』父上…」
箱に入っていたのは長年ナイレンが使っていた金色の魔導器。
壊れたのではなくルークにあげるためにメンテナンスに出していたのだ…
味なことをする男だ。
「よかったな…」
ルークの頭を久しぶりに撫でてやると嬉しそうな表情を見せるが、
我に帰りユーリを睨みつけた。
「…………何で騎士団止めるんだよ。俺を守るんじゃねぇのかよ…傍に居ろよ…」
傍にあったユーリの手を軽く掴むと少し涙を浮かべた瞳でユーリを見つめる。
その行動に男心が揺らぐが、ユーリの決意は変わらなかった。
「……悪い。決めたことだ…」
「嘘つき…出て行くなら俺が納得する理由をいいやがれ…」
「…………解った。」
ユーリが騎士団を出て行くことになってから何度も聞きたかった訳…
けど怖くて聞けなかった…話をすると聞いてしまいそうで怖かった…
だからルークはここ数日ユーリを避けてしまっていたが、
今聞かないと今後聞くことができない気がした、そしてもう二人の関係は戻れない…そんな気がした。
「俺が此処を出て行く理由…お前を守る為だ」
「は?な、何で俺を守るのに出て行く必要があるんだよ…傍に居ないと守れないだろ?」
ユーリは辛そうな表情を見せるがルークの頭を優しく撫でると続きを話した。
「俺は弱い…今回のガリスタの件でそれを思い知った…お前を守るにはもっと強くならないと…
強くなるにはここじゃ駄目だ。外に出て思いっきり修行しねぇとな…」
「お前は弱くなんか…お、俺が鍛えてやるからっ…!!!」
「それじゃぁ駄目だ…本気で強くなりにいかねぇとな…けど安心しろ…俺は騎士団の外からお前をずっと守るし、
お前を守れるくらい強くなったら、絶対迎えに来る…」
「嘘だ…だってお前嘘つきだもん…信じられねぇ…」
自分の信用度がかなり落ちていることに苦笑いを浮かべると、
ユーリは左腕に着けていたナイレンから貰った魔道器を外しルークの手に渡した。
「ルーク…これを預ける…俺の宝物だ…お前を迎えに来た時に返してほしい…」
「ユーリ…」
「それと………」
ユーリは何も言わずルークを抱きしめた。
優しく…けど何処にも行かせないくらい強く…そしてルークの耳元で小さく呟いた。
「お前を迎えに行った時………………………………………結婚してくれ。」
その言葉にルークは顔を真っ赤にさせた。
何か返事をしないと…返事なんて決まっているのに…言葉が出ない…
ルークは仕方がないので小さく頷いた。
その行動にユーリは満足しルークの頬にキスを落とした。
「じゃ…じゃぁ…俺からも約束…」
「ん?」
ナイレンから貰った金色の魔導器をユーリの左腕に着けると二コリと笑った。
「俺……信じて待ってるから…お前が迎えに来てくれるのを…
迎えに来てくれた時…その魔導器返してくれ…約束な。」
ルークはユーリから預かった銀色の魔導器を左腕に着けると
顔を赤くしながらユーリを見つめる…
それはまるで婚約指輪…二人だけの将来の約束…
「ははは…面白いことするなお前は…解った…お前に絶対これ返すから…待ってろよ。」
「あぁ…待ってる…あ、それとこれ…」
ルークがユーリに手渡したのは銀色のロケットだった。
ロケットの蓋を開けてみるとロケットから唄が流れ始めた…
そう、その唄はいつもルークが唄っている名もない唄。
「これ…俺が騎士団に入った時父上に上げたんだ…大切な人に贈り物したくて…
今俺の大切な人はユーリだから…お守り代わりに持っててくれ。」
「あぁ…わかった…大切にするよ…じゃぁ、そろそろ行くわ…」
「うん…まぁ、俺もしばらくしたらまた帝都に戻るし…ちょっとだけ御別れかな?」
ユーリは最後にルークの頬にキスをすると、お返しとばかりにルークが頬にキスをしてくれた。
顔を少し緩めながらユーリは部屋を後にした。
ラピードを連れて騎士団を出て街を歩いていくと、騎士団のメンバー達そして街の人々が別れのあいさつをしてくれたので
一人一人に手を振っていると街の出口でフレンが立っていることに気がついた。
「ルーク隊長とは話できたかい?」
「………お前の差し金かよ。まぁ、今回は礼を言うぜ…」
二人はお互いを見つめあうと小さく笑い、
ラピードが足元で首をかしげて見つめている。
「フレン…お前は強いな…俺には真似できねぇ…」
「君もね…僕は騎士団に残ることで隊長が目指していたことを追いかけるよ…ルーク隊長のもとでね…」
「………ルークのこと頼むわ。絶対迎えに来る。」
「あぁ…それまで僕が守るよ…君みたいに上手く守れないけど…」
お互いに強い握手で友情を確かめ合うとユーリは街の外へと足を踏み出した。
それはこれからの未来への第一歩…自分の未来を掴むための大切な一歩だ。
ふと、街の中から唄声が聞こえてきた。
誰が唄っているのか…そんなのこんな綺麗な唄を歌うのは一人しかいない…
けど今までの唄とは違う唄…ユーリはその唄声を心に刻み歩き出した。
光ハ影ノ 影ハ光ノ
果テマデ付イテ行クノダロウ…
僕ガ笑ッテ生キテイタノナラ
鐘ヲ鳴ラシテ君ニ知ラセヨウ…
「……ユーリ…ユーリってば…起きろ!!!」
「ん?ルーク…?」
「ったく…こんな日にまでぐーすか寝るなんて…流石ユーリだな…」
ルークに起こされしぶしぶ身体をベッド起こし大きな欠伸をすると、ルークから大きなため息が出た。
「しょーがねぇだろ…昨日騎士団のやつらが返してくれなかったんだから…」
「言いわけはきかねーし。まぁ遅刻しなかっただけよしとするか…」
「当たり前だろ?こんな綺麗なお前の姿…見過ごすわけにはいかねぇし…」
「………うるせー…エローウェル…」
ユーリがまじまじとルークの姿を見るとルークは頬を染めてそっぽを向いた。
普段は騎士団隊長の格好と男と間違われるような私服しかきていないルークだったが、
今日だけは違った…まっ白い純白のドレスに身を包み少し照れているのが解る。
ユーリもまた普段の露出の高い私服ではなく、まっ白いタキシード…首元までしっかりと止まっている。
「ったく……エステル様と駆け落ちした時はどうなることかと思ったぜ…」
「誰が駆け落ちだ誰が…それを言うならお前だってアレクセイ何かに捕まりやがって…」
「あ、あれは……まぁいいや…これからは四人で暮らすんだしな…」
「…………は?四人?」
ユーリの横に座ったルークの言葉にユーリは言葉を失った。
これからは二人で暮らして行く…それならまだ解る…だが四人…とは?
手が早いと思われがちなユーリだが、ルークには一切今まで手を出していない。
神に誓って過ちを犯していない。
それなのに……どういうことが全く見当がつかなかった。
「おい……どういう意味だ?お前まさか………想像にんしn……」
「お前馬鹿だろ……ちげーよ…今日夢で見たんだよ…二人の子供とお前と…一緒に暮らす夢をな…」
「あぁ…そういうことか…」
ルークの予言は未だに健在だ。
最近は昔に比べ見る回数は減っているようだが…それでもたまに見るらしい…
しかも的中率100%…これはこれですごいことだ。
「そういうことで、しっかり稼げよ…」
「……お前の方が稼いでるだろ…まぁ、カロル先生にがんばって貰わないとな…」
二人で小さく笑うと軽くお互いの唇にキスを落とした。
左腕を良くみればドレスとタキシードには似合わない魔道器が着けられている。
ルークは金色の、そしてユーリは銀色の魔導器がまるで二人を祝福しているかのように
キラキラと輝きを放っていた。
End
これはナイレンから最後に貰った魔道器…これがなければガリスタも倒すことができなかっただろう…
複雑な思いを胸にし左腕に着けているとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ…」
「ユーリ…ルーク隊長知らないか?」
ユーリの部屋に入ってきたのは副隊長のユルギスだった。
騎士団中を探しまわっているのか息が切れている。
「ルーク…?いや、今日は会ってないけど?」
「そうか…どこに行ったんだろう…しょうがない…ユーリ頼みがある…」
困ったようにため息を付くとユーリに近づきラッピングされた箱をユーリに手渡した。
「これは?」
「ナイレン隊長からの預かりものだ…ナイレン隊長がメンテナンスに出してて…
それが今届いた…ルークに渡して欲しい。」
「ルークに?ナイレン隊長の墓前にでも置くべきだろ?」
ユルギスは何も言わずにラッピングされた箱を指を差したので
見てみるtメッセージカードが付いており、【Dear Luke】と書かれている。
これはナイレンからルークへの最後の贈り物…
「ユーリ…君から渡して欲しい…話すこともいっぱいあるだろうし…
隊長に何も言わず出て行くつもりだったのだろう?」
ユルギスに先を読まれていた為苦笑いをするとユルギスは呆れた表情をする。
先日まで仲が良かった二人だが…ここ数日すれ違ってばかり…
いや、お互いが避けているような気がした。
「じゃぁ、頼むよ…僕は街の片付けを手伝ってくるから…」
「へいへい…」
ユルギスが部屋を出たのを確認するとユーリは持っていく予定だった
荷物を部屋の角に置きドアを閉めたのを確認しルークを探し始めた。
その後姿を物陰から一人の人間が見ていたが…ユーリはそれに気がつかなかった…。
シアワセノ唄【TFS10】
「ったく…あいつ何処に居るんだ…?」
食堂、中庭、ナイレンの部屋そして犬小屋などを探したが一向に見つかる気配がない。
街に出てしまっているのだろうかと思ったが、それならユルギスが知らせにくるはずだ…
となるとやはりこの騎士団の中…残るは各自の部屋だけ。
他人の部屋を勝手に覗きこむのは流石に心が痛むので、
街で出てユルギスに許可を貰おうと足を向けたが、ユーリが使っている部屋のドアが開いていることに気がついた。
部屋を出た時確かにドアを閉めたのを覚えている…まさか…
ドアをゆっくりと開けるとユーリが使っているベッドに朱色の塊が寝転がっているのを発見した。
ユーリの使っていた枕を大事そうに抱きかかえながら…
「ったく…もうベッド使わねぇから綺麗にしたのに…お前が直せよな…」
「……………俺…退職願受理してねーし……」
「ユルギスが押してくれたから受理になってる」
「あいつ…あとで説教してやる…」
ユーリの方を向こうとしないルーク。
仕方がないのでルークの身体を無理矢理起こし自分の方へと身体を向かせるが、
その顔は拗ねた子供のような表情…抱きかかえた枕に顔を埋めユーリの顔を見ようとしない。
このままでは話ができないのでユーリは枕を奪い取るとルークの顔をしっかりと掴み、
自分の方を向かせた。
「これ…隊長からお前へのプレゼント…」
「父上から…?」
拗ねていた表情から一変し、嬉しそうに手渡された箱を開けるとそこには見覚えのある魔道器が入っていた。
「ん?これ壊れたって言ってた隊長の魔導器じゃねぇか?」
「あぁ…ん?何かカードに書いてある…『隊長昇格おめでとう』父上…」
箱に入っていたのは長年ナイレンが使っていた金色の魔導器。
壊れたのではなくルークにあげるためにメンテナンスに出していたのだ…
味なことをする男だ。
「よかったな…」
ルークの頭を久しぶりに撫でてやると嬉しそうな表情を見せるが、
我に帰りユーリを睨みつけた。
「…………何で騎士団止めるんだよ。俺を守るんじゃねぇのかよ…傍に居ろよ…」
傍にあったユーリの手を軽く掴むと少し涙を浮かべた瞳でユーリを見つめる。
その行動に男心が揺らぐが、ユーリの決意は変わらなかった。
「……悪い。決めたことだ…」
「嘘つき…出て行くなら俺が納得する理由をいいやがれ…」
「…………解った。」
ユーリが騎士団を出て行くことになってから何度も聞きたかった訳…
けど怖くて聞けなかった…話をすると聞いてしまいそうで怖かった…
だからルークはここ数日ユーリを避けてしまっていたが、
今聞かないと今後聞くことができない気がした、そしてもう二人の関係は戻れない…そんな気がした。
「俺が此処を出て行く理由…お前を守る為だ」
「は?な、何で俺を守るのに出て行く必要があるんだよ…傍に居ないと守れないだろ?」
ユーリは辛そうな表情を見せるがルークの頭を優しく撫でると続きを話した。
「俺は弱い…今回のガリスタの件でそれを思い知った…お前を守るにはもっと強くならないと…
強くなるにはここじゃ駄目だ。外に出て思いっきり修行しねぇとな…」
「お前は弱くなんか…お、俺が鍛えてやるからっ…!!!」
「それじゃぁ駄目だ…本気で強くなりにいかねぇとな…けど安心しろ…俺は騎士団の外からお前をずっと守るし、
お前を守れるくらい強くなったら、絶対迎えに来る…」
「嘘だ…だってお前嘘つきだもん…信じられねぇ…」
自分の信用度がかなり落ちていることに苦笑いを浮かべると、
ユーリは左腕に着けていたナイレンから貰った魔道器を外しルークの手に渡した。
「ルーク…これを預ける…俺の宝物だ…お前を迎えに来た時に返してほしい…」
「ユーリ…」
「それと………」
ユーリは何も言わずルークを抱きしめた。
優しく…けど何処にも行かせないくらい強く…そしてルークの耳元で小さく呟いた。
「お前を迎えに行った時………………………………………結婚してくれ。」
その言葉にルークは顔を真っ赤にさせた。
何か返事をしないと…返事なんて決まっているのに…言葉が出ない…
ルークは仕方がないので小さく頷いた。
その行動にユーリは満足しルークの頬にキスを落とした。
「じゃ…じゃぁ…俺からも約束…」
「ん?」
ナイレンから貰った金色の魔導器をユーリの左腕に着けると二コリと笑った。
「俺……信じて待ってるから…お前が迎えに来てくれるのを…
迎えに来てくれた時…その魔導器返してくれ…約束な。」
ルークはユーリから預かった銀色の魔導器を左腕に着けると
顔を赤くしながらユーリを見つめる…
それはまるで婚約指輪…二人だけの将来の約束…
「ははは…面白いことするなお前は…解った…お前に絶対これ返すから…待ってろよ。」
「あぁ…待ってる…あ、それとこれ…」
ルークがユーリに手渡したのは銀色のロケットだった。
ロケットの蓋を開けてみるとロケットから唄が流れ始めた…
そう、その唄はいつもルークが唄っている名もない唄。
「これ…俺が騎士団に入った時父上に上げたんだ…大切な人に贈り物したくて…
今俺の大切な人はユーリだから…お守り代わりに持っててくれ。」
「あぁ…わかった…大切にするよ…じゃぁ、そろそろ行くわ…」
「うん…まぁ、俺もしばらくしたらまた帝都に戻るし…ちょっとだけ御別れかな?」
ユーリは最後にルークの頬にキスをすると、お返しとばかりにルークが頬にキスをしてくれた。
顔を少し緩めながらユーリは部屋を後にした。
ラピードを連れて騎士団を出て街を歩いていくと、騎士団のメンバー達そして街の人々が別れのあいさつをしてくれたので
一人一人に手を振っていると街の出口でフレンが立っていることに気がついた。
「ルーク隊長とは話できたかい?」
「………お前の差し金かよ。まぁ、今回は礼を言うぜ…」
二人はお互いを見つめあうと小さく笑い、
ラピードが足元で首をかしげて見つめている。
「フレン…お前は強いな…俺には真似できねぇ…」
「君もね…僕は騎士団に残ることで隊長が目指していたことを追いかけるよ…ルーク隊長のもとでね…」
「………ルークのこと頼むわ。絶対迎えに来る。」
「あぁ…それまで僕が守るよ…君みたいに上手く守れないけど…」
お互いに強い握手で友情を確かめ合うとユーリは街の外へと足を踏み出した。
それはこれからの未来への第一歩…自分の未来を掴むための大切な一歩だ。
ふと、街の中から唄声が聞こえてきた。
誰が唄っているのか…そんなのこんな綺麗な唄を歌うのは一人しかいない…
けど今までの唄とは違う唄…ユーリはその唄声を心に刻み歩き出した。
光ハ影ノ 影ハ光ノ
果テマデ付イテ行クノダロウ…
僕ガ笑ッテ生キテイタノナラ
鐘ヲ鳴ラシテ君ニ知ラセヨウ…
「……ユーリ…ユーリってば…起きろ!!!」
「ん?ルーク…?」
「ったく…こんな日にまでぐーすか寝るなんて…流石ユーリだな…」
ルークに起こされしぶしぶ身体をベッド起こし大きな欠伸をすると、ルークから大きなため息が出た。
「しょーがねぇだろ…昨日騎士団のやつらが返してくれなかったんだから…」
「言いわけはきかねーし。まぁ遅刻しなかっただけよしとするか…」
「当たり前だろ?こんな綺麗なお前の姿…見過ごすわけにはいかねぇし…」
「………うるせー…エローウェル…」
ユーリがまじまじとルークの姿を見るとルークは頬を染めてそっぽを向いた。
普段は騎士団隊長の格好と男と間違われるような私服しかきていないルークだったが、
今日だけは違った…まっ白い純白のドレスに身を包み少し照れているのが解る。
ユーリもまた普段の露出の高い私服ではなく、まっ白いタキシード…首元までしっかりと止まっている。
「ったく……エステル様と駆け落ちした時はどうなることかと思ったぜ…」
「誰が駆け落ちだ誰が…それを言うならお前だってアレクセイ何かに捕まりやがって…」
「あ、あれは……まぁいいや…これからは四人で暮らすんだしな…」
「…………は?四人?」
ユーリの横に座ったルークの言葉にユーリは言葉を失った。
これからは二人で暮らして行く…それならまだ解る…だが四人…とは?
手が早いと思われがちなユーリだが、ルークには一切今まで手を出していない。
神に誓って過ちを犯していない。
それなのに……どういうことが全く見当がつかなかった。
「おい……どういう意味だ?お前まさか………想像にんしn……」
「お前馬鹿だろ……ちげーよ…今日夢で見たんだよ…二人の子供とお前と…一緒に暮らす夢をな…」
「あぁ…そういうことか…」
ルークの予言は未だに健在だ。
最近は昔に比べ見る回数は減っているようだが…それでもたまに見るらしい…
しかも的中率100%…これはこれですごいことだ。
「そういうことで、しっかり稼げよ…」
「……お前の方が稼いでるだろ…まぁ、カロル先生にがんばって貰わないとな…」
二人で小さく笑うと軽くお互いの唇にキスを落とした。
左腕を良くみればドレスとタキシードには似合わない魔道器が着けられている。
ルークは金色の、そしてユーリは銀色の魔導器がまるで二人を祝福しているかのように
キラキラと輝きを放っていた。
End
暗い部屋で耳に手を当てながら何かを聞きとるように男は静かに心を落ち着かせていた。
よく見ればヘッドフォンが耳にあり大事な何かを聞き逃さないように
瞳を閉じて聞いている。
『……あいつは特異体質でな…大まかに分けて俺達と3つ違うところがある…』
『3つって…?』
『一つはエアルによる影響を受けずに技や術が使えることだ…
いや…魔導器が無くても使えるみたいだな…』
『なっ…それって…』
その言葉に満足したのか男は小さく微笑み机の上に置いてあった
紅茶を手に取り少しだけ飲む。
口に広がる紅茶の苦さがこれから起こるからの運命と同じような気がした…
面白い…実に面白い…
決意ノ唄
ガリスタが部屋に戻り自分の机に目をやると見覚えのある魔導器があり顔を曇らせる。
「その魔導器に見覚えがあるようですね…」
声がした方に顔を向けるとそこに居たのは新人騎士であるフレンとユーリであり、
二人ともすべての元凶を知っているのかガリスタを睨みつけた。
「何のことですか?」
「とぼけないでください…その魔導器は古城の中にあったもの…それは珍しいタイプで
騎士団の中でも貴方しか扱わないものだ…」
「ほぅ…それで?」
「つまり…アンタがこのエアルの暴走事件の犯人ってこった…」
ガリスタからの返事はなく、
このままとぼけるつもりでいるのかと思ったが、二人の予想とは違った言葉が帰ってきた。
「……流石ですね…そこまで見抜くとは大したものです…」
「認めるのですね…お願いです…自首してください…」
「…………。」
自首を勧めるフレンに対しユーリは納得をしていない顔をする。
ナイレンを失った原因を作ったのはガリスタだ、つまりルークに取ってガリスタはカタキ…
そんなガリスタをそうそう許せるはずはないがここは法にしたがって処罰する…
フレンとここに来る前に話合い決めたことだ。
自首を勧めるのは簡単だが、何故このようなことをしたのか…その理由を聞くくらいの権利はあった。
「何で…あんな魔導器なんか…」
「実験場ですよ…」
「実験?」
後を向いていたガリスタがようやくユーリ達の方を向いたが、
その顔はいつも優しいガリスタの表情ではなかった…鬼のような…
険しい顔をユーリ達に初めて見せた。
「人工的に魔核を作る為のね…魔導器が暴走してしまい葬り去ることにしたんですよ…
事実を知りすぎた貴方達ナイレン隊と共に………ね。」
「そんなくだらねぇことで…隊長は…」
ユーリの拳は震えている…ナイレンを失い悲しんでいる団員達の気持ち…
何より一番悲しんでいるが強がって涙を見せない彼女の心…
許せなかった…人の心を弄んでいる…そんな気がして…
フレンは今にも飛びかかろうとしているユーリを制し、
ガリスタにもう一度言葉を投げかけた。
「もう一度お願いします…自首をしてください…」
「はい…わかりました…何て言うと思っているのですか!?」
ガリスタが手を上げて呪文を唱えるとガリスタが付けていた魔導器が発動し、
魔術によってユーリ達は壁まで吹き飛ばされた。
「っあぁ!!」
「うわぁっ!!!」
二人は飛びそうになった意識を持ちこたえ、持っていた剣を手に取った。
剣には自信がある…もしかしたらガリスタを取り押さえることができるかもしれない…
そんな淡い期待が二人の心の隅にあった。
「私はあの方の為にまだやらなければいけないことがあるんですよ…
あぁ…そうだ…魔導器の暴走により新人二人が亡くなる…良いシナリオですね…」
ガリスタはここでユーリ達を消すつもりだ。
今までも邪魔なものはこんな風にして消してきたのだろう…そんな瞳だ。
だが、ユーリはここで倒れるわけにはいかない…
だってユーリにはナイレンから託された大切な守るべき人が居るのだから。
ユーリは心を決めてガリスタに切りかかるがバリアを貼られガリスタに剣が届かない…
そしてまた魔術により身体ごと吹き飛ばされた。
フレンも続けて切りかかるがユーリと同じように部屋の隅に吹き飛ばされてしまった。
「くそ…真正面から行ってもラチがあかねぇ…フレン!!」
「………あぁ…」
ユーリとフレンは目と目を合わせると近くにあった本棚が並ぶ場所へと逃げ込んだ。
ガリスタは小さく不気味に笑いながら二人を追いかけ本棚へと追いかけると、
いきなりフレンが切りかかってきた。
間一髪交わすが少しガリスタの額を剣先がかすめた。
フレンが本棚から逃げ出すと傍にあった本棚がガリスタめがけて倒れてきた。
「なっ…!!!」
大きな音を立てて本棚が倒れガリスタは下敷きになり、
押し倒された本棚の後にはユーリが立っていた。
「やったなフレン…」
「あぁ…早くみんなにこのことを知らせないと…」
フレンが部屋を出て誰かを呼びに行こうとした時、
倒れたはずの本棚が勢いよく吹き飛び下敷きになったガリスタが現れた。
しかし、今回は無傷ではない…額に少しだけ傷を負っていた。
その傷を確認したガリスタは先ほどよりもっと険しい顔をして二人を睨みつける。
「貴様ら…これ以上容赦はしないぞ…」
本気モードに切り替わったガリスタの空気に圧倒され身体が動かなくなったが、
二人は真剣な表情をして構えの体勢を取ったその時…
部屋のドアが開き一人の少女がこの光景を見て固まった。
「え?ユーリ…フレン…それにガリスタ…?何やってるんだ?」
「ルーク!!何しにきたんだ!?」
部屋に入ってきたのはルークだった。
ルークは状況が今だに飲み込めずきょとんとした顔をしてユーリ達とガリスタを交互に見つめ直す。
「何しにって…俺はガリスタに呼ばれて…」
「ガリスタは今回の事件の黒幕です!!すべての元凶は彼なんです!!」
フレンの言葉に目を見開くが、すぐに真剣な表情に戻りガリスタを鋭い目つきで睨みつける。
それはナイレンによく似た瞳だ…
「ガリスタ…フレンの言っていることは本当か?」
「えぇ…本当ですよ?」
「…………だったら…お前を連行する…」
ルークは腰に着けていた剣を手にとり刃の先をガリスタに向ける…
けどその手は震えていた…予想をしていないこの状況に心がまだ付いていけていないのだろう。
「この新人二人ならまだ軽くひねりつぶせましたが…
貴方が参加すると厄介ですね…少々そこでこの二人が消えるのを見ていてください。」
「何だとっ…!!!」
ガリスタが指を鳴らすとルークの足元に魔法陣が出現し、
そしてその魔法陣はルークの身体をしばりつけ身動きが一切取れない状況となってしまった。
「っく…!!!何だこれ…身体が…うごかねぇ…!!!」
「貴方には死なれたら困るんですよ…そこで大人しくしていなさい…」
「ルーク!!!」
ユーリがルークの周りにある魔法陣に切りかかろうとするが、
ガリスタの放つ魔術により阻まれ吹き飛ばされてしまった。
「うあぁっ!!」
「ユーリ!!お、俺に死なれたら困るってどういうことだ!!」
ガリスタはルークを冷たい瞳で見ると小さくわらった。
短い時間だったがこんなガリスタを見るのは初めてだ…
ルークの背中に冷たいものが流れ落ちる。
「あの方に貴方を献上するのですよ…貴方の特異体質はあの方の願いをかなえるのに丁度いい…」
ガリスタから出た特異体質という言葉にルークは困惑をした。
このことはナイレンしか知らないはず…何故この男が知っているのか…
ガリスタは動けないルークに近づき指でルークの顔を持ち上げた。
驚きのあまり声を発するできないルークをまるで面白い玩具を見つけたかのような表情で見つめる。
「ふふ…貴方はあの特異体質を抜いても良い女です…あの方に献上する前に私が直々に調教してあげましょう…
何も知らない貴方の身体を隅々までね…あの方にお会いする頃貴方は素敵な玩具になってますよ…」
「なっ…!!!」
「そんなことさせるかよっ…!!!」
ユーリはルークとガリスタの間に切りかかり二人の距離を離れさせる。
守らなければいけない…大切な人を…それだけが今のユーリを動かした。
「ルークの特異体質…何でお前が知ってるんだ!!」
「ナイレン隊長があなたに彼女のすべてを話した夜…私も聞いていたのですよ…
まぁ、私の場合は魔道器を通してですけどね…」
「なんだとっ…!!!」
「じゃぁ…ナイレン隊長の部屋にあったあの魔道器は…」
フレンはポケットに入れていた魔道器を取りだした。
今まで忘れていたが古城にあったこの魔道器もガリスタが使っているもの…
これは盗聴器だったのだ…ナイレンの動きを知るために仕掛けられた…
「ふふ…その通りです…まさかエアル無しで魔術を使える人間が他に居るなんて…
貴方が居ればあの方の野望も近づく…少々おしゃべりが過ぎたようですね…」
ガリスタの瞳の色が変った。
その色はこの戦いを終結させる決意をした色だ…
ルークはすぐにその意思を読みとり自分の前に居るユーリに叫ぶ。
「ユーリっ!!にげろ!!お前じゃ無理だ!!」
「馬鹿か!!お前を置いて逃げれるか!!それに俺は約束したんだ…ナイレン隊長と…
お前を守るって…いや、約束なんかなくたって俺はお前を守ってやるっ…!!!」
「ユーリ…」
「そうだな…僕達は守らないと…ルークと僕達の未来を…ルークが貴方に取って喉から手がでるほど
欲しい人材でも…ルーク……ルーク隊長は渡さないっ!!」
「フレン…」
二人の言葉はルークの心を響かせた…嬉しくて…涙がこぼれたが、
二人の力ではガリスタに適うはずがない…ここは自分が何とかしなくては…そう決意した。
「はははは…素晴らしい愛ですね…そんな茶番は必要ありません!!」
「「うわぁっ!!!!」」
「ユーリ!!フレン!!」
ガリスタの放つ魔術はユーリとフレンをいとも簡単に壁へと埋め込んだ。
それを見たルークはガリスタを睨みつけるが、心を落ち着かせ始めた…
するとルークの周りの空気が冷たく変り始める…
ユーリはそれに気が付きルークを止めようと手を動かすがまだ思うように動かない…。
「るーく…やめっ…」
ルークの異変に気がついたガリスタは少し表情を曇らせ、ルークの動きを封じ込めた時と同じように指を鳴らすと
魔法陣から電気が流れ始めた。
「っう…あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ…!!!!!!!!!」
「ルーク!!!」
甲高い悲痛な叫びが部屋中に響き渡る…再び指を鳴らすと電気は止まりルークはがっくりとその場に倒れこんだ。
ゆっくりと顔を上げるとガリスタを睨みつけた。
「ほう…あの電気を食らってまだ動けますか…流石ですね…けど貴方が悪いのですよ…無駄なあがきをするから…
そこでこの二人が消えるのを見てなさい…」
「やめ…ろ…っく…あぁっ…」
まだ身体中に電気が流れているのか、ルークが再び苦しみだした…
ユーリは止めをさそうとしているガリスタを睨みつけたが、自分達に術はなかった…
ルークを守るとナイレンと約束したのに…そのルークを簡単にとらえられてしまい、
ましてや苦しめてしまっている…自分の無力さをつくづくと痛感させられた。
ナイレン隊長ならこんな時どうしているのか…ナイレン隊長なら…
必死にこの場を切り抜ける方法を考えているとポケットに硬いものがあることに気がついた。
それをポケットの中で確認すると一つの方法が浮かび上がった。
「フレン…一瞬でいい…あいつの隙を作ってくれ…」
「ユーリ…?……解った。」
フレンは剣を再び握り締めるとガリスタに向かって剣をふるったが、
その剣はガリスタに届くのではなくガリスタの周りにあった本にあたりガリスタの視界を遮った。
「小癪な真似を…そ、それはっ…!!!」
ガリスタが見たのはナイレンの魔導器を腕に着けたユーリとそれを支えるフレンの姿だった。
二人は目と目と合わせると同時に叫んだ。
「「食らえっ!!!」」
「うあぁっ!!!!」
魔道器が光り、ガリスタの目を鈍らせると身体に激痛が走った。
胸元を見るとユーリとフレンが二人でガリスタに剣を突き指していた…
「こんなところで…あのか…た…の…やぼ…う…を…」
ガリスタが力なく床に倒れこみ身体が冷たくなっていくのを確認すると
二人は複雑な表情をして顔を見合わせた…
そしてルークの傍に駆け寄り状態を確認すると気を失っているだけだったのでため息を付いた。
重い瞳を開けるとそこは真っ暗な部屋だった。
体中が重い…おもりを付けている感じだ…
そんな動きの自由が利かない身体を起こすと窓辺に誰かが居るのに気がつく。
月明かりを頼りに確認するとそこに居たのはユーリだ。
「ユーリ…?」
「起きたか…身体大丈夫か…?」
ユーリが心配そうにベッドまで近づくと優しくルークの頭を撫でた。
よく見ればユーリはあちこちに小さな傷を作っていた…
「少し身体重いけど…明日になればもう大丈夫…………なぁ、あの後どうなったんだ?」
「………ははは。相変わらず驚くほどの回復力だな…」
「ユーリ話しを逸らすな…ガリスタは…?」
「…………………。」
何も答えないユーリ…
その何もない言葉はたった一つの答えしかない…
ルークはそれを理解し深いため息をついた。
「そっか…ごめん…俺またお前に…………」
「謝るんじゃねぇ…俺が弱かったから…こんな結末にしかならなかったんだよ…悪い…
ほんと…俺が弱かったから…俺が自分の力にうぬぼれていたから…」
「それは違う…違うから…ユーリは俺を守ってくれて…ありがと…」
ユーリは何も言わずにルークを抱きしめた…
今まで何度かユーリに抱きしめられたが今まで以上に強く…しっかりと抱きしめられた。
ようやくルークの身体を離すと「おやすみ…」と一言だけ呟き額にキスをすると
ユーリは部屋を出て行っていまった。
けどその背中は何かを決めたことをルークに伝えた。
ユーリが何を決めたのか…それはまだルークには解らない…
だけど、何だかとても寂しい気持ちになり、涙がこぼれ始めた…
ルークは何時も歌う唄を歌おうとしたが、この時初めて歌うことができなかった。
何時もはすぐに歌えるのに…何もしなくても歌えるのに…
今夜だけは歌いたくても歌えなかった…出てくる声は悲しみに満ちた泣き声だけだった…
よく見ればヘッドフォンが耳にあり大事な何かを聞き逃さないように
瞳を閉じて聞いている。
『……あいつは特異体質でな…大まかに分けて俺達と3つ違うところがある…』
『3つって…?』
『一つはエアルによる影響を受けずに技や術が使えることだ…
いや…魔導器が無くても使えるみたいだな…』
『なっ…それって…』
その言葉に満足したのか男は小さく微笑み机の上に置いてあった
紅茶を手に取り少しだけ飲む。
口に広がる紅茶の苦さがこれから起こるからの運命と同じような気がした…
面白い…実に面白い…
決意ノ唄
ガリスタが部屋に戻り自分の机に目をやると見覚えのある魔導器があり顔を曇らせる。
「その魔導器に見覚えがあるようですね…」
声がした方に顔を向けるとそこに居たのは新人騎士であるフレンとユーリであり、
二人ともすべての元凶を知っているのかガリスタを睨みつけた。
「何のことですか?」
「とぼけないでください…その魔導器は古城の中にあったもの…それは珍しいタイプで
騎士団の中でも貴方しか扱わないものだ…」
「ほぅ…それで?」
「つまり…アンタがこのエアルの暴走事件の犯人ってこった…」
ガリスタからの返事はなく、
このままとぼけるつもりでいるのかと思ったが、二人の予想とは違った言葉が帰ってきた。
「……流石ですね…そこまで見抜くとは大したものです…」
「認めるのですね…お願いです…自首してください…」
「…………。」
自首を勧めるフレンに対しユーリは納得をしていない顔をする。
ナイレンを失った原因を作ったのはガリスタだ、つまりルークに取ってガリスタはカタキ…
そんなガリスタをそうそう許せるはずはないがここは法にしたがって処罰する…
フレンとここに来る前に話合い決めたことだ。
自首を勧めるのは簡単だが、何故このようなことをしたのか…その理由を聞くくらいの権利はあった。
「何で…あんな魔導器なんか…」
「実験場ですよ…」
「実験?」
後を向いていたガリスタがようやくユーリ達の方を向いたが、
その顔はいつも優しいガリスタの表情ではなかった…鬼のような…
険しい顔をユーリ達に初めて見せた。
「人工的に魔核を作る為のね…魔導器が暴走してしまい葬り去ることにしたんですよ…
事実を知りすぎた貴方達ナイレン隊と共に………ね。」
「そんなくだらねぇことで…隊長は…」
ユーリの拳は震えている…ナイレンを失い悲しんでいる団員達の気持ち…
何より一番悲しんでいるが強がって涙を見せない彼女の心…
許せなかった…人の心を弄んでいる…そんな気がして…
フレンは今にも飛びかかろうとしているユーリを制し、
ガリスタにもう一度言葉を投げかけた。
「もう一度お願いします…自首をしてください…」
「はい…わかりました…何て言うと思っているのですか!?」
ガリスタが手を上げて呪文を唱えるとガリスタが付けていた魔導器が発動し、
魔術によってユーリ達は壁まで吹き飛ばされた。
「っあぁ!!」
「うわぁっ!!!」
二人は飛びそうになった意識を持ちこたえ、持っていた剣を手に取った。
剣には自信がある…もしかしたらガリスタを取り押さえることができるかもしれない…
そんな淡い期待が二人の心の隅にあった。
「私はあの方の為にまだやらなければいけないことがあるんですよ…
あぁ…そうだ…魔導器の暴走により新人二人が亡くなる…良いシナリオですね…」
ガリスタはここでユーリ達を消すつもりだ。
今までも邪魔なものはこんな風にして消してきたのだろう…そんな瞳だ。
だが、ユーリはここで倒れるわけにはいかない…
だってユーリにはナイレンから託された大切な守るべき人が居るのだから。
ユーリは心を決めてガリスタに切りかかるがバリアを貼られガリスタに剣が届かない…
そしてまた魔術により身体ごと吹き飛ばされた。
フレンも続けて切りかかるがユーリと同じように部屋の隅に吹き飛ばされてしまった。
「くそ…真正面から行ってもラチがあかねぇ…フレン!!」
「………あぁ…」
ユーリとフレンは目と目を合わせると近くにあった本棚が並ぶ場所へと逃げ込んだ。
ガリスタは小さく不気味に笑いながら二人を追いかけ本棚へと追いかけると、
いきなりフレンが切りかかってきた。
間一髪交わすが少しガリスタの額を剣先がかすめた。
フレンが本棚から逃げ出すと傍にあった本棚がガリスタめがけて倒れてきた。
「なっ…!!!」
大きな音を立てて本棚が倒れガリスタは下敷きになり、
押し倒された本棚の後にはユーリが立っていた。
「やったなフレン…」
「あぁ…早くみんなにこのことを知らせないと…」
フレンが部屋を出て誰かを呼びに行こうとした時、
倒れたはずの本棚が勢いよく吹き飛び下敷きになったガリスタが現れた。
しかし、今回は無傷ではない…額に少しだけ傷を負っていた。
その傷を確認したガリスタは先ほどよりもっと険しい顔をして二人を睨みつける。
「貴様ら…これ以上容赦はしないぞ…」
本気モードに切り替わったガリスタの空気に圧倒され身体が動かなくなったが、
二人は真剣な表情をして構えの体勢を取ったその時…
部屋のドアが開き一人の少女がこの光景を見て固まった。
「え?ユーリ…フレン…それにガリスタ…?何やってるんだ?」
「ルーク!!何しにきたんだ!?」
部屋に入ってきたのはルークだった。
ルークは状況が今だに飲み込めずきょとんとした顔をしてユーリ達とガリスタを交互に見つめ直す。
「何しにって…俺はガリスタに呼ばれて…」
「ガリスタは今回の事件の黒幕です!!すべての元凶は彼なんです!!」
フレンの言葉に目を見開くが、すぐに真剣な表情に戻りガリスタを鋭い目つきで睨みつける。
それはナイレンによく似た瞳だ…
「ガリスタ…フレンの言っていることは本当か?」
「えぇ…本当ですよ?」
「…………だったら…お前を連行する…」
ルークは腰に着けていた剣を手にとり刃の先をガリスタに向ける…
けどその手は震えていた…予想をしていないこの状況に心がまだ付いていけていないのだろう。
「この新人二人ならまだ軽くひねりつぶせましたが…
貴方が参加すると厄介ですね…少々そこでこの二人が消えるのを見ていてください。」
「何だとっ…!!!」
ガリスタが指を鳴らすとルークの足元に魔法陣が出現し、
そしてその魔法陣はルークの身体をしばりつけ身動きが一切取れない状況となってしまった。
「っく…!!!何だこれ…身体が…うごかねぇ…!!!」
「貴方には死なれたら困るんですよ…そこで大人しくしていなさい…」
「ルーク!!!」
ユーリがルークの周りにある魔法陣に切りかかろうとするが、
ガリスタの放つ魔術により阻まれ吹き飛ばされてしまった。
「うあぁっ!!」
「ユーリ!!お、俺に死なれたら困るってどういうことだ!!」
ガリスタはルークを冷たい瞳で見ると小さくわらった。
短い時間だったがこんなガリスタを見るのは初めてだ…
ルークの背中に冷たいものが流れ落ちる。
「あの方に貴方を献上するのですよ…貴方の特異体質はあの方の願いをかなえるのに丁度いい…」
ガリスタから出た特異体質という言葉にルークは困惑をした。
このことはナイレンしか知らないはず…何故この男が知っているのか…
ガリスタは動けないルークに近づき指でルークの顔を持ち上げた。
驚きのあまり声を発するできないルークをまるで面白い玩具を見つけたかのような表情で見つめる。
「ふふ…貴方はあの特異体質を抜いても良い女です…あの方に献上する前に私が直々に調教してあげましょう…
何も知らない貴方の身体を隅々までね…あの方にお会いする頃貴方は素敵な玩具になってますよ…」
「なっ…!!!」
「そんなことさせるかよっ…!!!」
ユーリはルークとガリスタの間に切りかかり二人の距離を離れさせる。
守らなければいけない…大切な人を…それだけが今のユーリを動かした。
「ルークの特異体質…何でお前が知ってるんだ!!」
「ナイレン隊長があなたに彼女のすべてを話した夜…私も聞いていたのですよ…
まぁ、私の場合は魔道器を通してですけどね…」
「なんだとっ…!!!」
「じゃぁ…ナイレン隊長の部屋にあったあの魔道器は…」
フレンはポケットに入れていた魔道器を取りだした。
今まで忘れていたが古城にあったこの魔道器もガリスタが使っているもの…
これは盗聴器だったのだ…ナイレンの動きを知るために仕掛けられた…
「ふふ…その通りです…まさかエアル無しで魔術を使える人間が他に居るなんて…
貴方が居ればあの方の野望も近づく…少々おしゃべりが過ぎたようですね…」
ガリスタの瞳の色が変った。
その色はこの戦いを終結させる決意をした色だ…
ルークはすぐにその意思を読みとり自分の前に居るユーリに叫ぶ。
「ユーリっ!!にげろ!!お前じゃ無理だ!!」
「馬鹿か!!お前を置いて逃げれるか!!それに俺は約束したんだ…ナイレン隊長と…
お前を守るって…いや、約束なんかなくたって俺はお前を守ってやるっ…!!!」
「ユーリ…」
「そうだな…僕達は守らないと…ルークと僕達の未来を…ルークが貴方に取って喉から手がでるほど
欲しい人材でも…ルーク……ルーク隊長は渡さないっ!!」
「フレン…」
二人の言葉はルークの心を響かせた…嬉しくて…涙がこぼれたが、
二人の力ではガリスタに適うはずがない…ここは自分が何とかしなくては…そう決意した。
「はははは…素晴らしい愛ですね…そんな茶番は必要ありません!!」
「「うわぁっ!!!!」」
「ユーリ!!フレン!!」
ガリスタの放つ魔術はユーリとフレンをいとも簡単に壁へと埋め込んだ。
それを見たルークはガリスタを睨みつけるが、心を落ち着かせ始めた…
するとルークの周りの空気が冷たく変り始める…
ユーリはそれに気が付きルークを止めようと手を動かすがまだ思うように動かない…。
「るーく…やめっ…」
ルークの異変に気がついたガリスタは少し表情を曇らせ、ルークの動きを封じ込めた時と同じように指を鳴らすと
魔法陣から電気が流れ始めた。
「っう…あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ…!!!!!!!!!」
「ルーク!!!」
甲高い悲痛な叫びが部屋中に響き渡る…再び指を鳴らすと電気は止まりルークはがっくりとその場に倒れこんだ。
ゆっくりと顔を上げるとガリスタを睨みつけた。
「ほう…あの電気を食らってまだ動けますか…流石ですね…けど貴方が悪いのですよ…無駄なあがきをするから…
そこでこの二人が消えるのを見てなさい…」
「やめ…ろ…っく…あぁっ…」
まだ身体中に電気が流れているのか、ルークが再び苦しみだした…
ユーリは止めをさそうとしているガリスタを睨みつけたが、自分達に術はなかった…
ルークを守るとナイレンと約束したのに…そのルークを簡単にとらえられてしまい、
ましてや苦しめてしまっている…自分の無力さをつくづくと痛感させられた。
ナイレン隊長ならこんな時どうしているのか…ナイレン隊長なら…
必死にこの場を切り抜ける方法を考えているとポケットに硬いものがあることに気がついた。
それをポケットの中で確認すると一つの方法が浮かび上がった。
「フレン…一瞬でいい…あいつの隙を作ってくれ…」
「ユーリ…?……解った。」
フレンは剣を再び握り締めるとガリスタに向かって剣をふるったが、
その剣はガリスタに届くのではなくガリスタの周りにあった本にあたりガリスタの視界を遮った。
「小癪な真似を…そ、それはっ…!!!」
ガリスタが見たのはナイレンの魔導器を腕に着けたユーリとそれを支えるフレンの姿だった。
二人は目と目と合わせると同時に叫んだ。
「「食らえっ!!!」」
「うあぁっ!!!!」
魔道器が光り、ガリスタの目を鈍らせると身体に激痛が走った。
胸元を見るとユーリとフレンが二人でガリスタに剣を突き指していた…
「こんなところで…あのか…た…の…やぼ…う…を…」
ガリスタが力なく床に倒れこみ身体が冷たくなっていくのを確認すると
二人は複雑な表情をして顔を見合わせた…
そしてルークの傍に駆け寄り状態を確認すると気を失っているだけだったのでため息を付いた。
重い瞳を開けるとそこは真っ暗な部屋だった。
体中が重い…おもりを付けている感じだ…
そんな動きの自由が利かない身体を起こすと窓辺に誰かが居るのに気がつく。
月明かりを頼りに確認するとそこに居たのはユーリだ。
「ユーリ…?」
「起きたか…身体大丈夫か…?」
ユーリが心配そうにベッドまで近づくと優しくルークの頭を撫でた。
よく見ればユーリはあちこちに小さな傷を作っていた…
「少し身体重いけど…明日になればもう大丈夫…………なぁ、あの後どうなったんだ?」
「………ははは。相変わらず驚くほどの回復力だな…」
「ユーリ話しを逸らすな…ガリスタは…?」
「…………………。」
何も答えないユーリ…
その何もない言葉はたった一つの答えしかない…
ルークはそれを理解し深いため息をついた。
「そっか…ごめん…俺またお前に…………」
「謝るんじゃねぇ…俺が弱かったから…こんな結末にしかならなかったんだよ…悪い…
ほんと…俺が弱かったから…俺が自分の力にうぬぼれていたから…」
「それは違う…違うから…ユーリは俺を守ってくれて…ありがと…」
ユーリは何も言わずにルークを抱きしめた…
今まで何度かユーリに抱きしめられたが今まで以上に強く…しっかりと抱きしめられた。
ようやくルークの身体を離すと「おやすみ…」と一言だけ呟き額にキスをすると
ユーリは部屋を出て行っていまった。
けどその背中は何かを決めたことをルークに伝えた。
ユーリが何を決めたのか…それはまだルークには解らない…
だけど、何だかとても寂しい気持ちになり、涙がこぼれ始めた…
ルークは何時も歌う唄を歌おうとしたが、この時初めて歌うことができなかった。
何時もはすぐに歌えるのに…何もしなくても歌えるのに…
今夜だけは歌いたくても歌えなかった…出てくる声は悲しみに満ちた泣き声だけだった…
朝…天気は快晴で雲ひとつない綺麗な空だったが、
窓から眺める町並みはどこか暗い表情を浮かべていた。
そんな町並みを背にルークは洗ったばかりの髪をタオルで乱暴に
拭きながら衣装箱を真剣な目で見つめる。
それが数分続くと深く深呼吸をし、衣装箱の蓋を開けた。
中には新品の鎧などが入っており、まだ一度も袖を通したことがないことがわかる。
ルークはその鎧を手に取ると小さく笑った。
真実ノ唄【TFS08】
フレンとユーリはナイレンの部屋で作業をしていた。
それは楽しい作業ではない、人が一人入るくらいの大きな箱に
ナイレンの今まで使っていた物を詰めていく作業なのだから。
服、愛用品そして写真などを詰めると重々しい蓋を閉じ上には
古城でフレンが預かった愛用の剣を置いた。
ユーリは前にナイレンと話をした時にフレンの父親のことを
ナイレンが尊敬していたことを箱の前で伝えたが、フレンから何も答えが帰ってこなかった。
二人で箱の前で色々な感情をめぐらしていると部屋のドアが開く音がした。
振り返り入ってきた人物を確認するとそこにはアレクセイの部下であるグラダナだった。
帝都からやっと応援が来たのだろうが…すでに遅かった。
そしてグラダナから出た言葉にユーリは耳を疑う。
「ふん…アレクセイ閣下からあずかった隊に手傷を負わせよって…ヒーローにでもなったつもりか?」
ネチネチとユーリとフレンの感情を逆なでる言葉が続き、
フレンはグラダナを睨みつけるが新人騎士の睨みで怯むような人間ではない。
しかし、ユーリは違っていた。
グラダナの前へ立つと力を込めて殴り飛ばした。
「ふがっ!!!き、きさま何をする!!」
「ゆ、ユーリ!!!」
「うるせぇ!!ごちゃごちゃと!!そんな言葉がよく平気で言えるよな!!」
そのままにしておくとまだ数発殴りそうな勢いであるユーリの身体をフレンが必死に抑えつける。
フレンに抑えつけられて動きが取れないユーリを恨みを込めて睨みつけるグラダナ…
こんな屈辱を受けるのは初めてに近かった。
「し、新人騎士が風情が…この私にこのようなことをしたら…」
「何かあったのですか?」
グラダナの後から入ってきたのはユルギスと力のある男性隊員数名だった。
グラダナはユルギスに無言で殴られたことを表すが、
ユルギスは何も言わず箱の前へと行き運び出す準備を始めた。
その態度に怒りを覚えたグラダナは顔を真っ赤にして怒鳴り始める。
「何なんだこの隊は!!命令違反に上司にこの態度…隊長の居なくなったこの隊なんて解散だ!!
お前らの処分心待ちにしたらいい…この私が直々に閣下にっ…」
「隊は解散させない…つーか閣下に無いこと吹き込むつもりじゃねーだろうな?このブタ糞が…」
「ブタ糞だ……と……お、お前はっ!!!!!!」
聞いたことのある声にユーリが振り返ると目を見開き驚いた。
入口に立っていたのは見事な赤毛…いや朱毛。
その長く風に揺れる朱毛はまるで太陽を思い出させるような温かさ…
煌めく碧の瞳はまっすぐに未来を見つめ希望の光が輝きを放つ。
そして赤を主とした隊長クラスの制服…福与かな胸と細い腰が強調され、
ミニスカートから見える太ももはその素晴らしい身体を表している。
ユーリ達はしばらく声を発することができなかった…その姿は女性であることを誰もが理解させる。
が、その顔は数日前に研修としてナイレン隊に来た人物…自分達の仲間の顔だ。
震える声でユーリがその人物に確認するように問いかけた。
「る…ルーク…だよな?」
「そうだよ…何?俺の名前忘れたのか?ルーク・フォン・ファブレ…まぁファブレは実家の名前で
騎士団に登録してる名前はルーク・フェドロックだけどな。」
聞き覚えのある名字に我に帰ったフレンは震えながらルークを見つめる。
「る、ルーク・フェドロックって…隊長の娘さんで…あの『聖なる焔』の…?」
「……別にそんな大層なあだ名付けられるようなことしてねーんだけど。」
照れるように笑うその顔はまだ幼さが出ているが、空気は違っている…少なくともそこで腰を抜かしている
グラダナよりは強い空気、そしてナイレン隊長に近い空気だ。
そしてユーリがみんなが疑問に思っているが質問できなかったことを問いかけた。
「お、お前髪は?赤茶色だっただろ?」
「ん?悪の譜術師印の毛染めばーい茶色。ほんとは茶髪になるはずだったんだけど…俺の赤が強すぎて
綺麗な茶色にならなかったんだよな…ちなみに石鹸で簡単に落とせます。」
「じゃぁ目は?」
「同じく悪の譜術師印のカラーコンタクト。一日使い捨てばーじょん」
「胸は!?」
「何でそこ強調して聞くんだ?……サラシ巻いてて…すげー動きにくかった…男性の服しか余ってなかったし…」
あの戦い方で動きにくかったのか…
そこにいたルークの戦い方を見たことのあるメンバーは一同に呟いた。
本気の彼女を見てみたい気もするが、いろいろ壊して始末書が増えそうなので遠慮をした。
「ほら、さっさと運ぶぞ。みんなが待ってるからな…」
つまらない話で時間が掛かってしまい予定より時間がオーバーしていた。
ユーリ達は箱を持ち上げると部屋から運び出そうとしたが、さっきまで腰を抜かしていたグラダナがやっと動きだした。
「お、お前は休暇中のはずだろ!!何故ここにいるんだ!?」
「あ?休暇を使って父上のところに遊びに来たんだよ…隊長就任の報告も兼ねて。閣下から許可もらってるぞ?
あー…わりー…俺が申請書書くのめんどーだからって…内密にしてたんだ。」
その雑というかめんどくさがり屋なところは父親であるナイレンにそっくりだ。
ユルギスはその性格のせいで散々な目に会ったことを思い出す。
胃がきりきりとし出したのは気のせいだろう…気のせいだと信じたい。
「た、隊を解散させないとはどういうことだ!!隊長が居なくなった今この隊の解散は決定事項…
むしろブタ糞って何だブタ糞って!!!」
「閣下に金魚のフ糞見たいにひっつきまわってるから丁度いいだろ?隊長が居ないのなら…俺が隊長になればいい。
俺のまだ配属先は決まってねーし同じフェドロックだしいいんじゃね?」
「そんないい加減なことで就任先を決めるなぁ!!!」
そんな単純な理由で隊長を務めていいのか?と一同は思ったがどうみても遊ばれているグラダナが面白く
しばらく様子を見ることにした。…もともと助ける気などなかったが。
「大体閣下がそんなこと御許しになるはず………」
ルークがグラダナの前に突き出したのは一枚の紙…
それは人事異動命令書でルークの物だ。
「父上の騒動のあとすぐに閣下に願い出てな…お前が持ってきた書類の中に入っていたぜ…
俺のシゾンタニア就任の命令書がな…」
「な、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あいつ何時の間に…」
あの夜はルークとユーリは一緒に犬小屋で寝た。
そのあともほとんどを一緒に過ごしていたが書類を送る姿を見ていない…
となるとユーリが見ていない時間…古城から戻ってきて本当にすぐに手紙を出したことになる。
侮れない…
「これでこの隊は俺のものだ…文句ねーよな?」
「こ、この…鮮血の分際で…」
「てめぇ…殴られたりねぇようだな…」
「……………ユーリ止めろ。」
ユーリは知っているルークがその二つ名を嫌っていることを…
今までこのような言われ方をしていたのだろう…その優しい心を傷つけながら耐えてきたのだ。
「俺は閣下のお気に入りだからな…閣下にお前の無いこと無いこと吹き込めば…どうなるかなー♪」
「なっ……」
「おいおい…無いこと無いことって…」
ルークがアレクセイ閣下のお気に入りというのは今までの話を見れば一目瞭然。
この場にいるメンバー全員が解りきっていた。
「お前の言う言葉と俺の言う言葉…閣下はどっちを信じるかな?」
ニヤリと笑うその姿…背後から黒いオーラが見えるのは気のせいだ、
気のせいだと信じたい…。
ルークのオーラに気負けしたグラダナは震えあがり言葉を発することすら忘れてしまっていた。
「ほら、さっさと運べ…みんな待ってるんだからな」
ルークはそう言うと長い髪を棚引かせて部屋を出て行った。
残されたユーリ達はショックのあまりその場で数分動けなかったが、
我に帰り箱を運ぼうとしたが、フレンが床に何かが落ちていることに気が付きそれを拾いあげた。
「フレン?何だそれ…?魔導器か?」
「あぁ…そうみたいだ…けど隊長はこんな魔導器使ってなかったし…
この魔導器古城にあったのと似ている気がする…」
フレンが広いあげた魔導器はひし形の形をしており特殊な魔導器だった。
その為使っている人間は限られている。
フレンは古城での最後の部屋で床にあった魔導器と今拾い上げた魔導器が似ていたことに
疑問を持ったがユルギスに呼ばれ拾った魔導器をポケットの中へと直した。
騎士団の外へ出ると街の人々がナイレンへの別れの為に集まっていた。
いきなり現れたルーク・フェドロックにみな驚きの表情を隠せなかったが、
快く受け入れてくれた。特に双子の姉妹は憧れのお姉さまに出会え飛び跳ねて喜んでいた。
ナイレンとの別れの為にみなが箱の中へ花を詰める。
その花の数はナイレンと街の人々の信頼の証…ナイレンが残した大切なものだ。
「フレン…死んだら何も残らないなんて…本当にそう思えるか?」
「……………。」
「少なくとも父上は残して行ったな…俺達全員の心にな…」
フレンは何も答えなかった。
自分の中で迷いがまだあるのだろう…それを見たルークは小さく笑い出発する馬車を見送る為
馬車の傍へと近寄りそして心を込めて別れの唄を歌った。
『トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ
クロア リョ ズェ トゥエ リョ レイ ネゥ リョ ズェ
ヴァ レイ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リョ トゥエ クロア
リョ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ ズェ レイ
ヴァ ネゥ ヴァ レイ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レイ
クロア リョ クロア ネゥ トゥエ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ
レイ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レイ レイ…』
その唄は街の人々そして騎士団の人々の心を癒す綺麗な唄声だった。
ユーリはその歌声に耳を澄ませて聞き入る…
何度聞いても心が温かくなるその歌声…
名前も知らないその唄はこの世界でルークだけが歌える唄なのだと実感した。
唄に聞き入るユーリを横目でフレンが笑って見ていたが、
ふとある人物と目が合った。
そしてその人物が持っている魔導器に目が止まり、フレンは絶句した。
この瞬間今まで点と点が線で結ばれすべての謎が解明された。
フレンは震えた…真実をしって身体の震えが止まらない。
それに気がついたユーリは心配そうに声をかける。
「フレン…?どうした?」
「ユーリ…まだ終わっていない…」
「なんだって…」
ユーリとフレンはルークの歌う唄声を背にその場を誰にも気がつかれないように抜けだした。
窓から眺める町並みはどこか暗い表情を浮かべていた。
そんな町並みを背にルークは洗ったばかりの髪をタオルで乱暴に
拭きながら衣装箱を真剣な目で見つめる。
それが数分続くと深く深呼吸をし、衣装箱の蓋を開けた。
中には新品の鎧などが入っており、まだ一度も袖を通したことがないことがわかる。
ルークはその鎧を手に取ると小さく笑った。
真実ノ唄【TFS08】
フレンとユーリはナイレンの部屋で作業をしていた。
それは楽しい作業ではない、人が一人入るくらいの大きな箱に
ナイレンの今まで使っていた物を詰めていく作業なのだから。
服、愛用品そして写真などを詰めると重々しい蓋を閉じ上には
古城でフレンが預かった愛用の剣を置いた。
ユーリは前にナイレンと話をした時にフレンの父親のことを
ナイレンが尊敬していたことを箱の前で伝えたが、フレンから何も答えが帰ってこなかった。
二人で箱の前で色々な感情をめぐらしていると部屋のドアが開く音がした。
振り返り入ってきた人物を確認するとそこにはアレクセイの部下であるグラダナだった。
帝都からやっと応援が来たのだろうが…すでに遅かった。
そしてグラダナから出た言葉にユーリは耳を疑う。
「ふん…アレクセイ閣下からあずかった隊に手傷を負わせよって…ヒーローにでもなったつもりか?」
ネチネチとユーリとフレンの感情を逆なでる言葉が続き、
フレンはグラダナを睨みつけるが新人騎士の睨みで怯むような人間ではない。
しかし、ユーリは違っていた。
グラダナの前へ立つと力を込めて殴り飛ばした。
「ふがっ!!!き、きさま何をする!!」
「ゆ、ユーリ!!!」
「うるせぇ!!ごちゃごちゃと!!そんな言葉がよく平気で言えるよな!!」
そのままにしておくとまだ数発殴りそうな勢いであるユーリの身体をフレンが必死に抑えつける。
フレンに抑えつけられて動きが取れないユーリを恨みを込めて睨みつけるグラダナ…
こんな屈辱を受けるのは初めてに近かった。
「し、新人騎士が風情が…この私にこのようなことをしたら…」
「何かあったのですか?」
グラダナの後から入ってきたのはユルギスと力のある男性隊員数名だった。
グラダナはユルギスに無言で殴られたことを表すが、
ユルギスは何も言わず箱の前へと行き運び出す準備を始めた。
その態度に怒りを覚えたグラダナは顔を真っ赤にして怒鳴り始める。
「何なんだこの隊は!!命令違反に上司にこの態度…隊長の居なくなったこの隊なんて解散だ!!
お前らの処分心待ちにしたらいい…この私が直々に閣下にっ…」
「隊は解散させない…つーか閣下に無いこと吹き込むつもりじゃねーだろうな?このブタ糞が…」
「ブタ糞だ……と……お、お前はっ!!!!!!」
聞いたことのある声にユーリが振り返ると目を見開き驚いた。
入口に立っていたのは見事な赤毛…いや朱毛。
その長く風に揺れる朱毛はまるで太陽を思い出させるような温かさ…
煌めく碧の瞳はまっすぐに未来を見つめ希望の光が輝きを放つ。
そして赤を主とした隊長クラスの制服…福与かな胸と細い腰が強調され、
ミニスカートから見える太ももはその素晴らしい身体を表している。
ユーリ達はしばらく声を発することができなかった…その姿は女性であることを誰もが理解させる。
が、その顔は数日前に研修としてナイレン隊に来た人物…自分達の仲間の顔だ。
震える声でユーリがその人物に確認するように問いかけた。
「る…ルーク…だよな?」
「そうだよ…何?俺の名前忘れたのか?ルーク・フォン・ファブレ…まぁファブレは実家の名前で
騎士団に登録してる名前はルーク・フェドロックだけどな。」
聞き覚えのある名字に我に帰ったフレンは震えながらルークを見つめる。
「る、ルーク・フェドロックって…隊長の娘さんで…あの『聖なる焔』の…?」
「……別にそんな大層なあだ名付けられるようなことしてねーんだけど。」
照れるように笑うその顔はまだ幼さが出ているが、空気は違っている…少なくともそこで腰を抜かしている
グラダナよりは強い空気、そしてナイレン隊長に近い空気だ。
そしてユーリがみんなが疑問に思っているが質問できなかったことを問いかけた。
「お、お前髪は?赤茶色だっただろ?」
「ん?悪の譜術師印の毛染めばーい茶色。ほんとは茶髪になるはずだったんだけど…俺の赤が強すぎて
綺麗な茶色にならなかったんだよな…ちなみに石鹸で簡単に落とせます。」
「じゃぁ目は?」
「同じく悪の譜術師印のカラーコンタクト。一日使い捨てばーじょん」
「胸は!?」
「何でそこ強調して聞くんだ?……サラシ巻いてて…すげー動きにくかった…男性の服しか余ってなかったし…」
あの戦い方で動きにくかったのか…
そこにいたルークの戦い方を見たことのあるメンバーは一同に呟いた。
本気の彼女を見てみたい気もするが、いろいろ壊して始末書が増えそうなので遠慮をした。
「ほら、さっさと運ぶぞ。みんなが待ってるからな…」
つまらない話で時間が掛かってしまい予定より時間がオーバーしていた。
ユーリ達は箱を持ち上げると部屋から運び出そうとしたが、さっきまで腰を抜かしていたグラダナがやっと動きだした。
「お、お前は休暇中のはずだろ!!何故ここにいるんだ!?」
「あ?休暇を使って父上のところに遊びに来たんだよ…隊長就任の報告も兼ねて。閣下から許可もらってるぞ?
あー…わりー…俺が申請書書くのめんどーだからって…内密にしてたんだ。」
その雑というかめんどくさがり屋なところは父親であるナイレンにそっくりだ。
ユルギスはその性格のせいで散々な目に会ったことを思い出す。
胃がきりきりとし出したのは気のせいだろう…気のせいだと信じたい。
「た、隊を解散させないとはどういうことだ!!隊長が居なくなった今この隊の解散は決定事項…
むしろブタ糞って何だブタ糞って!!!」
「閣下に金魚のフ糞見たいにひっつきまわってるから丁度いいだろ?隊長が居ないのなら…俺が隊長になればいい。
俺のまだ配属先は決まってねーし同じフェドロックだしいいんじゃね?」
「そんないい加減なことで就任先を決めるなぁ!!!」
そんな単純な理由で隊長を務めていいのか?と一同は思ったがどうみても遊ばれているグラダナが面白く
しばらく様子を見ることにした。…もともと助ける気などなかったが。
「大体閣下がそんなこと御許しになるはず………」
ルークがグラダナの前に突き出したのは一枚の紙…
それは人事異動命令書でルークの物だ。
「父上の騒動のあとすぐに閣下に願い出てな…お前が持ってきた書類の中に入っていたぜ…
俺のシゾンタニア就任の命令書がな…」
「な、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あいつ何時の間に…」
あの夜はルークとユーリは一緒に犬小屋で寝た。
そのあともほとんどを一緒に過ごしていたが書類を送る姿を見ていない…
となるとユーリが見ていない時間…古城から戻ってきて本当にすぐに手紙を出したことになる。
侮れない…
「これでこの隊は俺のものだ…文句ねーよな?」
「こ、この…鮮血の分際で…」
「てめぇ…殴られたりねぇようだな…」
「……………ユーリ止めろ。」
ユーリは知っているルークがその二つ名を嫌っていることを…
今までこのような言われ方をしていたのだろう…その優しい心を傷つけながら耐えてきたのだ。
「俺は閣下のお気に入りだからな…閣下にお前の無いこと無いこと吹き込めば…どうなるかなー♪」
「なっ……」
「おいおい…無いこと無いことって…」
ルークがアレクセイ閣下のお気に入りというのは今までの話を見れば一目瞭然。
この場にいるメンバー全員が解りきっていた。
「お前の言う言葉と俺の言う言葉…閣下はどっちを信じるかな?」
ニヤリと笑うその姿…背後から黒いオーラが見えるのは気のせいだ、
気のせいだと信じたい…。
ルークのオーラに気負けしたグラダナは震えあがり言葉を発することすら忘れてしまっていた。
「ほら、さっさと運べ…みんな待ってるんだからな」
ルークはそう言うと長い髪を棚引かせて部屋を出て行った。
残されたユーリ達はショックのあまりその場で数分動けなかったが、
我に帰り箱を運ぼうとしたが、フレンが床に何かが落ちていることに気が付きそれを拾いあげた。
「フレン?何だそれ…?魔導器か?」
「あぁ…そうみたいだ…けど隊長はこんな魔導器使ってなかったし…
この魔導器古城にあったのと似ている気がする…」
フレンが広いあげた魔導器はひし形の形をしており特殊な魔導器だった。
その為使っている人間は限られている。
フレンは古城での最後の部屋で床にあった魔導器と今拾い上げた魔導器が似ていたことに
疑問を持ったがユルギスに呼ばれ拾った魔導器をポケットの中へと直した。
騎士団の外へ出ると街の人々がナイレンへの別れの為に集まっていた。
いきなり現れたルーク・フェドロックにみな驚きの表情を隠せなかったが、
快く受け入れてくれた。特に双子の姉妹は憧れのお姉さまに出会え飛び跳ねて喜んでいた。
ナイレンとの別れの為にみなが箱の中へ花を詰める。
その花の数はナイレンと街の人々の信頼の証…ナイレンが残した大切なものだ。
「フレン…死んだら何も残らないなんて…本当にそう思えるか?」
「……………。」
「少なくとも父上は残して行ったな…俺達全員の心にな…」
フレンは何も答えなかった。
自分の中で迷いがまだあるのだろう…それを見たルークは小さく笑い出発する馬車を見送る為
馬車の傍へと近寄りそして心を込めて別れの唄を歌った。
『トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ
クロア リョ ズェ トゥエ リョ レイ ネゥ リョ ズェ
ヴァ レイ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リョ トゥエ クロア
リョ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ ズェ レイ
ヴァ ネゥ ヴァ レイ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レイ
クロア リョ クロア ネゥ トゥエ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ
レイ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レイ レイ…』
その唄は街の人々そして騎士団の人々の心を癒す綺麗な唄声だった。
ユーリはその歌声に耳を澄ませて聞き入る…
何度聞いても心が温かくなるその歌声…
名前も知らないその唄はこの世界でルークだけが歌える唄なのだと実感した。
唄に聞き入るユーリを横目でフレンが笑って見ていたが、
ふとある人物と目が合った。
そしてその人物が持っている魔導器に目が止まり、フレンは絶句した。
この瞬間今まで点と点が線で結ばれすべての謎が解明された。
フレンは震えた…真実をしって身体の震えが止まらない。
それに気がついたユーリは心配そうに声をかける。
「フレン…?どうした?」
「ユーリ…まだ終わっていない…」
「なんだって…」
ユーリとフレンはルークの歌う唄声を背にその場を誰にも気がつかれないように抜けだした。
「じゃぁ…二つ目の特異体質は…?」
「予言だ…予知夢の方が正しいか?」
空になったユーリのコップにぶどうジュースを注ぎながら
曖昧な答えをナイレンは出した。
「予言…?」
「たまーにらしいが…未来の姿が夢に出てくるらしい…
最初は俺も信じてなかったが…あいつが夢に見たことは100%当たっている。」
「まじかよ…」
ユーリはもともと占いなど魔術的な物を信じるタイプではなかったが、
ナイレンの真剣な目を見れば信じるほかない…
いや、この状況で冗談などは言わないだろう…。
「多分あいつ…また何か悪い夢でも見たんだろうな…
それを今覆す為に必死になってもがき苦しんでいる…」
「………三つ目は?」
ナイレンの言う三つの特異体質の最後の一つ。
今まで聞いた特異体質が異様なものだったのだから、
ユーリの中に不安と期待が交互に沸きあがる。
が、ナイレンの口から出た言葉は予想外の言葉だった。
「三つ目は……俺の口から言うのも面白くないな…自分で考えろ。」
「は、はぁ?」
ここまで話をしておいてそれはないだろ…と呟いたが、
ナイレンは話す気はないらしい…ケラケラと笑いながらワインを飲み干す。
「お前はもうすでに感じてるはずだ…その身体と耳でな…」
「身体と耳…?」
ユーリは何のことか解らず拗ねた表情を見せながら
疲れたように椅子にもたれ掛かる。
予想外の言葉ばかりが飛び出て自分の中で整理する必要があるからだ。
だがその時、ふと誰かの気配を感じた…人の気配ではない、何か別の物が
自分達の会話を聞いている感じがした。
だが、すぐにその気配は闇へと消え部屋には二人の気配しか残らなかった。
「ユーリ…?どうした?」
「いや…気のせい…か?」
ユーリは頭を掻きながらナイレンともう少し話を続けた。
愛シノ唄【TFS07】
リタという研究員から貰った魔導器のおかげで大きい魔導器は一時は動きを止めたが、
負荷のかかった魔導器は大暴走を始めた。
地面などに刺さっていた巨大なコードが抜け、ユーリ達に襲いかかり逃げ遅れた
シャスティルは腹にコードが当たってしまった。
「きゃぁっ!!!」
「シャスティル!!」
ヒスカが慌てて駆け寄り状態を確かめると、シャスティルは気を失っているだけだった。
シャスティルを見捨てるわけにはいかない…大切な仲間だ。
一番体格の良いナイレンがシャスティルを運ぶことになり、
シャスティルを背中に乗せるが両手が塞がるのでフレンに愛用の剣を預けた。
すると今度は各地で爆発が起き地面が落下を始める。
隊員達は大急ぎでその場を離れようとするが、ふとフレンが何かを見つけ足を止める。
「フレン…?何か見つけたのか?」
「い、いや…何でもない…ルーク早くユーリのところへ」
「わ、わかった」
先ほどのゴーレムを倒した時の影響か、まだ少し元気のないルークを気遣うように
部屋の外へと誘導させる。
先に部屋の出入り口に到着していたユーリがルークが自分のもとに来たのを確認すると、
安堵の表情を見せるが、フレンの後から大きな爆発音が鳴り振り帰ると
フレンの後でシャスティルを運んでいたナイレンが地面ごと落下していた。
「隊長!!」
「ユーリ!!!!」
隊長がユーリの名前を呼び担いでいたシャスティルの身体を放り投げた。
ユーリは投げられたシャスティルの身体を見事にキャッチすると
今度は隊長を助ける為に手を必死に伸ばした。
「隊長…手出せ…!!!くそ、何か長い物ないのか!?」
隊員が持っていた斧を借りナイレンに向けて伸ばすがナイレンには一向に届かない、
ましてやナイレンは自ら腕を伸ばそうとはしない…。
「ユーリ…やめろ…俺はもう助からない…」
そう言って見せたのは腐敗し始めた左腕…中庭で受けた触手の影響と判断できる。
「馬鹿野郎!!何で諦めるんだ!!そんな怪我絶対治せるから!!」
ユーリが必死になって叫んでいるとルークがユーリの横へ来て
暴走をしている魔導器に手を上げた。
すると先ほどと同じように周りの空気が変り小さな石などが次々と細かく分解されていく…
ルークが何をしようとしているのか解ったナイレンは叫んだ。
「ユーリ!!ルークを止めろ!!あの技を連続で使ったら…命の保証はねぇ!!」
「な、何だって!?ルーク…!!!」
「うわぁっ!!!何しやがる!!」
ユーリがルークに飛びかかりルークの身体を地面へと押しつけた。
バランスを崩し集中が途切れてしまった為空気はもとの空気へと変っていく。
「あの魔導器さえなんとかすれば暴走は収まる!!
だったらこれしかねーだろ!!これくらいしないとちっ…ナ、ナイレン隊長を助けることは…!!」
「だからってお前が死んだらどうするんだ!!」
「俺が死ぬのと隊長が死ぬのとどっちの影響力が大きいか考えろ!!!」
「ばか!!影響力とかの問題じゃねぇ!!どっちも大切な命だろうが!!
それにお前が死んだら…俺は……お前に伝えたいことが沢山あるんだからな!!
死ぬとか簡単に言うんじゃねぇ!!!」
「……ユーリ…」
ルークの上になっていたユーリは顔を少し赤くしながらナイレンに一番近づけるところまで戻り、
そして再び手を伸ばしてナイレンを助けようとするが…届かない。
「聞いたか隊長!?アンタは生きなきゃいけないんだ!!ルークの為にも…俺達の為にも!!」
「ははは…俺は愛されているんだな…ユーリ…これを持っていけ」
ナイレンはユーリに向かって何かを投げた。
それはナイレンが腕に着けていた銀色の魔導器…いつも煙管を吸う時に火を付けていた魔導器だった。
「た、隊長…」
「それと…ルークにはこれだな…返すよ」
次にナイレンが鎧の隙間から取り出したのは銀色のロケット。
それをルークに投げるとルークは驚いた表情を見せてそのロケットを見つめる。
「これ…まだ持ってたのかよ…」
「俺の宝だからな…ユーリ…ルークのこと…みんなのこと頼むぞ…」
「隊長…」
ユーリに笑顔を見せたナイレンは今度はフレンの方を見るとまた笑顔で最後の言葉を伝える。
「フレン…お前は親父さんを超えろ…お前ならできる…」
「ナイレン隊長…」
「みんなも…あとは頼んだぞ…」
周りにいた隊員達は一同に頷き決意を表した…
そして、最後に今にも泣きそうな顔をしている愛おしい子と目を合わせる。
「泣くなルーク…お前には笑顔が一番似合ってる…お前は俺を超えれる…
どんな苦難があっても…お前は超えていけるから…俺が居なくても大丈夫だ。
お前はあの時であった幼いお前じゃない…。」
ナイレンの言葉で我に帰ったルークは泣きそうだった顔を振り払い、
真剣な目でナイレンを見つめる…が感情を抑えて話しているのが解る。
「お、俺は…まだ子供だ…一人じゃ…無理…」
「大丈夫…お前には俺の信じてる隊員達が傍に居る…それにユーリがお前を…助けてくれるから…」
「ユーリが…?」
隣に居たユーリの顔を見ると、まっすぐにルークを見つめている。
それは俺を信じろと言っているかのように…
ルークはその言葉を受け取りナイレンの方に顔を向けると頭を下げた。
「……隊長…助けれなくてごめん…俺解ってたのに…夢で見てたのに…」
「気にするな…ほら、早く行け…ここももう長くはない…行け…俺の愛おしい子…幸せに暮らせよ。」
ルークは小さくうなずくと重い腰を持ち上げてナイレンに背中を向けた。
「みんな…行くぞ…ここから脱出するんだ…」
その言葉で隊員達は一同に立ちあがり部屋の出口へと走り出した。
出口に到着したところでナイレンの居た天井が崩れ落ちて行く音がしたが、
誰も後ろを振り向こうとはしなかった…
「………今までありがとう…大好きな…… ……」
無事古城から脱出した隊員達は湖の畔で身体を休めていた…
いや、身体だけではない…傷ついた精神を癒していた。
一緒に入っていったギルドのメンバー達は先に街へと戻っていった。
古城内で気を失ったシャスティルがようやく目を覚まし
辺りを見回すと隊長の姿がないことに気がついた。
「…あれ?隊長は?」
その言葉に誰も答えることができなかった。
「ユーリ!?隊長はどこ!?」
「隊長…すっげーかっこよかったぜ…」
ユーリの言葉で隊長がどうなったかを悟ったシャスティルは顔を手で隠すように泣きだした。
その泣き声を聞いた隊員達の気持は一層暗い気持ちになる。
ユーリの隣で湖を座って眺めて居たルークが立ちあがり、
大きく深呼吸をすると古城に向かって言葉を発した。
『トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ
クロア リョ ズェ トゥエ リョ レイ ネゥ リョ ズェ
ヴァ レイ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リョ トゥエ クロア
リョ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ ズェ レイ
ヴァ ネゥ ヴァ レイ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レイ
クロア リョ クロア ネゥ トゥエ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ
レイ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レイ レイ…』
ルークの歌う唄に隊員達は耳を傾ける。
その歌声は透き通るような唄声…傷ついた心を癒してくれる…
名前も知らないその唄は何故か耳に残り身体に染みついてくる。
ルークが唄を歌いきると隣にいたユーリがルークの頭を優しく撫でたが、
何の反応もなくルークはユルギスのもとへ足を運ぶ。
ユーリはルークのいつもと違う態度に心配になるが、
今は見ていることにした…彼は強い…そして優しい…
初めてであった森の中でそれを知っているから。
「ユルギス…そろそろ帰ろう…街のみんなが待っているからな」
「あぁ…そうだな…」
しかしユルギスはどことなくまだ元気がない…
ルークは笑顔をユルギスに向けると隊員達の方を向く。
「ほら、みんな行くぞ。エアルの影響が無くなったから魔物が出てくるかもしれない。
俺が先頭に行くから…みんな無事に帰ろうぜ」
「お前が先頭に行くなら、俺も行くぜ…剣の腕は隊の中でもダントツだからな」
「それ自分で言うか?」
ルークとユーリの言葉に隊員達の消えていた笑顔が戻った。
それをみたフレンはルークと隊長の面影を重ねてしまう。
今回の任務でルークは山を越えたようだ…彼になら付いて行ける…そう感じた。
「ルーク…ユーリだけじゃ心もとないから僕も先頭を行くよ。」
「お、フレンが居たら安心だな」
「俺だと安心じゃねーのかよ」
「できない」
「おいおい…はっきり言うなよ…」
フレンを交えた会話に再び隊員達から笑いがこぼれた。
そしてナイレン隊は全員立ちあがり自分達の帰る場所へと足を進めた。
その夜。
ルークの事が気になったユーリは部屋を訪ねてみたが、ルークは部屋に居なかった。
隊長の部屋、食堂などを探したがルークの姿は見つからない…
残る場所は一つしかない。
ユーリは犬小屋に向かうと予想通り犬小屋に灯が付いていた。
中を覗くと後を向いて子犬のラピードに何かを話している赤茶色の人物を見つけた。
「ラピード…家族を失うって悲しいことなんだな…父上や母上…それにアッシュも…
俺が居なくなってこんな気持ちだったのかな?」
「くぅん?」
「あははは…お前に聞いてもわからないか…ユーリ…いつまで覗いてるんだ?」
気配を隠して覗いていたが、ばれてしまいユーリはルークの傍へと近寄っていく。
そして頭を数回軽く…優しく叩くとルークの身体が小さく震えた。
「早く部屋戻れよ…風邪ひくぞ」
「今日はここで寝る…一人で泣くと辛いだろ?俺が胸貸してやるから…
思いっきり泣けよ…今居るのは俺だけ…だから泣けよ…ルーク…」
ルークはユーリに飛びつくと顔を上げずに小さく泣きだした。
みんなの前では泣けなかった…自分が泣いたら隊が崩れてしまうから…
隊のメンバー達とは違う大切な人を失ったのだから…
本当はシャスティルが泣きだしたときも一緒に泣きたかったのだろう。
けど、泣けなかった…ナイレンが残した隊を守る為にも…泣けなかった。
普段強いルークもユーリの前では強くなれなかった。
本当の弱い自分が出てしまう。
ルークは何故ユーリの前ではそれが出てしまうかわからなかった…
けど今はこの優しい腕の中で泣きたい…と思っていた。
「予言だ…予知夢の方が正しいか?」
空になったユーリのコップにぶどうジュースを注ぎながら
曖昧な答えをナイレンは出した。
「予言…?」
「たまーにらしいが…未来の姿が夢に出てくるらしい…
最初は俺も信じてなかったが…あいつが夢に見たことは100%当たっている。」
「まじかよ…」
ユーリはもともと占いなど魔術的な物を信じるタイプではなかったが、
ナイレンの真剣な目を見れば信じるほかない…
いや、この状況で冗談などは言わないだろう…。
「多分あいつ…また何か悪い夢でも見たんだろうな…
それを今覆す為に必死になってもがき苦しんでいる…」
「………三つ目は?」
ナイレンの言う三つの特異体質の最後の一つ。
今まで聞いた特異体質が異様なものだったのだから、
ユーリの中に不安と期待が交互に沸きあがる。
が、ナイレンの口から出た言葉は予想外の言葉だった。
「三つ目は……俺の口から言うのも面白くないな…自分で考えろ。」
「は、はぁ?」
ここまで話をしておいてそれはないだろ…と呟いたが、
ナイレンは話す気はないらしい…ケラケラと笑いながらワインを飲み干す。
「お前はもうすでに感じてるはずだ…その身体と耳でな…」
「身体と耳…?」
ユーリは何のことか解らず拗ねた表情を見せながら
疲れたように椅子にもたれ掛かる。
予想外の言葉ばかりが飛び出て自分の中で整理する必要があるからだ。
だがその時、ふと誰かの気配を感じた…人の気配ではない、何か別の物が
自分達の会話を聞いている感じがした。
だが、すぐにその気配は闇へと消え部屋には二人の気配しか残らなかった。
「ユーリ…?どうした?」
「いや…気のせい…か?」
ユーリは頭を掻きながらナイレンともう少し話を続けた。
愛シノ唄【TFS07】
リタという研究員から貰った魔導器のおかげで大きい魔導器は一時は動きを止めたが、
負荷のかかった魔導器は大暴走を始めた。
地面などに刺さっていた巨大なコードが抜け、ユーリ達に襲いかかり逃げ遅れた
シャスティルは腹にコードが当たってしまった。
「きゃぁっ!!!」
「シャスティル!!」
ヒスカが慌てて駆け寄り状態を確かめると、シャスティルは気を失っているだけだった。
シャスティルを見捨てるわけにはいかない…大切な仲間だ。
一番体格の良いナイレンがシャスティルを運ぶことになり、
シャスティルを背中に乗せるが両手が塞がるのでフレンに愛用の剣を預けた。
すると今度は各地で爆発が起き地面が落下を始める。
隊員達は大急ぎでその場を離れようとするが、ふとフレンが何かを見つけ足を止める。
「フレン…?何か見つけたのか?」
「い、いや…何でもない…ルーク早くユーリのところへ」
「わ、わかった」
先ほどのゴーレムを倒した時の影響か、まだ少し元気のないルークを気遣うように
部屋の外へと誘導させる。
先に部屋の出入り口に到着していたユーリがルークが自分のもとに来たのを確認すると、
安堵の表情を見せるが、フレンの後から大きな爆発音が鳴り振り帰ると
フレンの後でシャスティルを運んでいたナイレンが地面ごと落下していた。
「隊長!!」
「ユーリ!!!!」
隊長がユーリの名前を呼び担いでいたシャスティルの身体を放り投げた。
ユーリは投げられたシャスティルの身体を見事にキャッチすると
今度は隊長を助ける為に手を必死に伸ばした。
「隊長…手出せ…!!!くそ、何か長い物ないのか!?」
隊員が持っていた斧を借りナイレンに向けて伸ばすがナイレンには一向に届かない、
ましてやナイレンは自ら腕を伸ばそうとはしない…。
「ユーリ…やめろ…俺はもう助からない…」
そう言って見せたのは腐敗し始めた左腕…中庭で受けた触手の影響と判断できる。
「馬鹿野郎!!何で諦めるんだ!!そんな怪我絶対治せるから!!」
ユーリが必死になって叫んでいるとルークがユーリの横へ来て
暴走をしている魔導器に手を上げた。
すると先ほどと同じように周りの空気が変り小さな石などが次々と細かく分解されていく…
ルークが何をしようとしているのか解ったナイレンは叫んだ。
「ユーリ!!ルークを止めろ!!あの技を連続で使ったら…命の保証はねぇ!!」
「な、何だって!?ルーク…!!!」
「うわぁっ!!!何しやがる!!」
ユーリがルークに飛びかかりルークの身体を地面へと押しつけた。
バランスを崩し集中が途切れてしまった為空気はもとの空気へと変っていく。
「あの魔導器さえなんとかすれば暴走は収まる!!
だったらこれしかねーだろ!!これくらいしないとちっ…ナ、ナイレン隊長を助けることは…!!」
「だからってお前が死んだらどうするんだ!!」
「俺が死ぬのと隊長が死ぬのとどっちの影響力が大きいか考えろ!!!」
「ばか!!影響力とかの問題じゃねぇ!!どっちも大切な命だろうが!!
それにお前が死んだら…俺は……お前に伝えたいことが沢山あるんだからな!!
死ぬとか簡単に言うんじゃねぇ!!!」
「……ユーリ…」
ルークの上になっていたユーリは顔を少し赤くしながらナイレンに一番近づけるところまで戻り、
そして再び手を伸ばしてナイレンを助けようとするが…届かない。
「聞いたか隊長!?アンタは生きなきゃいけないんだ!!ルークの為にも…俺達の為にも!!」
「ははは…俺は愛されているんだな…ユーリ…これを持っていけ」
ナイレンはユーリに向かって何かを投げた。
それはナイレンが腕に着けていた銀色の魔導器…いつも煙管を吸う時に火を付けていた魔導器だった。
「た、隊長…」
「それと…ルークにはこれだな…返すよ」
次にナイレンが鎧の隙間から取り出したのは銀色のロケット。
それをルークに投げるとルークは驚いた表情を見せてそのロケットを見つめる。
「これ…まだ持ってたのかよ…」
「俺の宝だからな…ユーリ…ルークのこと…みんなのこと頼むぞ…」
「隊長…」
ユーリに笑顔を見せたナイレンは今度はフレンの方を見るとまた笑顔で最後の言葉を伝える。
「フレン…お前は親父さんを超えろ…お前ならできる…」
「ナイレン隊長…」
「みんなも…あとは頼んだぞ…」
周りにいた隊員達は一同に頷き決意を表した…
そして、最後に今にも泣きそうな顔をしている愛おしい子と目を合わせる。
「泣くなルーク…お前には笑顔が一番似合ってる…お前は俺を超えれる…
どんな苦難があっても…お前は超えていけるから…俺が居なくても大丈夫だ。
お前はあの時であった幼いお前じゃない…。」
ナイレンの言葉で我に帰ったルークは泣きそうだった顔を振り払い、
真剣な目でナイレンを見つめる…が感情を抑えて話しているのが解る。
「お、俺は…まだ子供だ…一人じゃ…無理…」
「大丈夫…お前には俺の信じてる隊員達が傍に居る…それにユーリがお前を…助けてくれるから…」
「ユーリが…?」
隣に居たユーリの顔を見ると、まっすぐにルークを見つめている。
それは俺を信じろと言っているかのように…
ルークはその言葉を受け取りナイレンの方に顔を向けると頭を下げた。
「……隊長…助けれなくてごめん…俺解ってたのに…夢で見てたのに…」
「気にするな…ほら、早く行け…ここももう長くはない…行け…俺の愛おしい子…幸せに暮らせよ。」
ルークは小さくうなずくと重い腰を持ち上げてナイレンに背中を向けた。
「みんな…行くぞ…ここから脱出するんだ…」
その言葉で隊員達は一同に立ちあがり部屋の出口へと走り出した。
出口に到着したところでナイレンの居た天井が崩れ落ちて行く音がしたが、
誰も後ろを振り向こうとはしなかった…
「………今までありがとう…大好きな…… ……」
無事古城から脱出した隊員達は湖の畔で身体を休めていた…
いや、身体だけではない…傷ついた精神を癒していた。
一緒に入っていったギルドのメンバー達は先に街へと戻っていった。
古城内で気を失ったシャスティルがようやく目を覚まし
辺りを見回すと隊長の姿がないことに気がついた。
「…あれ?隊長は?」
その言葉に誰も答えることができなかった。
「ユーリ!?隊長はどこ!?」
「隊長…すっげーかっこよかったぜ…」
ユーリの言葉で隊長がどうなったかを悟ったシャスティルは顔を手で隠すように泣きだした。
その泣き声を聞いた隊員達の気持は一層暗い気持ちになる。
ユーリの隣で湖を座って眺めて居たルークが立ちあがり、
大きく深呼吸をすると古城に向かって言葉を発した。
『トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ ズェ
クロア リョ ズェ トゥエ リョ レイ ネゥ リョ ズェ
ヴァ レイ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リョ トゥエ クロア
リョ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ ズェ レイ
ヴァ ネゥ ヴァ レイ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レイ
クロア リョ クロア ネゥ トゥエ レイ クロア リョ ズェ レイ ヴァ
レイ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レイ レイ…』
ルークの歌う唄に隊員達は耳を傾ける。
その歌声は透き通るような唄声…傷ついた心を癒してくれる…
名前も知らないその唄は何故か耳に残り身体に染みついてくる。
ルークが唄を歌いきると隣にいたユーリがルークの頭を優しく撫でたが、
何の反応もなくルークはユルギスのもとへ足を運ぶ。
ユーリはルークのいつもと違う態度に心配になるが、
今は見ていることにした…彼は強い…そして優しい…
初めてであった森の中でそれを知っているから。
「ユルギス…そろそろ帰ろう…街のみんなが待っているからな」
「あぁ…そうだな…」
しかしユルギスはどことなくまだ元気がない…
ルークは笑顔をユルギスに向けると隊員達の方を向く。
「ほら、みんな行くぞ。エアルの影響が無くなったから魔物が出てくるかもしれない。
俺が先頭に行くから…みんな無事に帰ろうぜ」
「お前が先頭に行くなら、俺も行くぜ…剣の腕は隊の中でもダントツだからな」
「それ自分で言うか?」
ルークとユーリの言葉に隊員達の消えていた笑顔が戻った。
それをみたフレンはルークと隊長の面影を重ねてしまう。
今回の任務でルークは山を越えたようだ…彼になら付いて行ける…そう感じた。
「ルーク…ユーリだけじゃ心もとないから僕も先頭を行くよ。」
「お、フレンが居たら安心だな」
「俺だと安心じゃねーのかよ」
「できない」
「おいおい…はっきり言うなよ…」
フレンを交えた会話に再び隊員達から笑いがこぼれた。
そしてナイレン隊は全員立ちあがり自分達の帰る場所へと足を進めた。
その夜。
ルークの事が気になったユーリは部屋を訪ねてみたが、ルークは部屋に居なかった。
隊長の部屋、食堂などを探したがルークの姿は見つからない…
残る場所は一つしかない。
ユーリは犬小屋に向かうと予想通り犬小屋に灯が付いていた。
中を覗くと後を向いて子犬のラピードに何かを話している赤茶色の人物を見つけた。
「ラピード…家族を失うって悲しいことなんだな…父上や母上…それにアッシュも…
俺が居なくなってこんな気持ちだったのかな?」
「くぅん?」
「あははは…お前に聞いてもわからないか…ユーリ…いつまで覗いてるんだ?」
気配を隠して覗いていたが、ばれてしまいユーリはルークの傍へと近寄っていく。
そして頭を数回軽く…優しく叩くとルークの身体が小さく震えた。
「早く部屋戻れよ…風邪ひくぞ」
「今日はここで寝る…一人で泣くと辛いだろ?俺が胸貸してやるから…
思いっきり泣けよ…今居るのは俺だけ…だから泣けよ…ルーク…」
ルークはユーリに飛びつくと顔を上げずに小さく泣きだした。
みんなの前では泣けなかった…自分が泣いたら隊が崩れてしまうから…
隊のメンバー達とは違う大切な人を失ったのだから…
本当はシャスティルが泣きだしたときも一緒に泣きたかったのだろう。
けど、泣けなかった…ナイレンが残した隊を守る為にも…泣けなかった。
普段強いルークもユーリの前では強くなれなかった。
本当の弱い自分が出てしまう。
ルークは何故ユーリの前ではそれが出てしまうかわからなかった…
けど今はこの優しい腕の中で泣きたい…と思っていた。
「けど…別に俺にあいつを任せなくても…あいつ十分強いだろ?
わざわざ守らなくても大丈夫じゃ…」
ジュースを飲みほしたユーリはナイレンに真剣な表情で問うと、
持っていたコップを机に置き思いつめた表情で口を動かす。
「……あいつは特異体質でな…大まかに分けて俺達と3つ違うところがある…」
ナイレンが三本の指を上げユーリの前へと付きだされ
その行動に若干身構えてしまったが、心を落ち着かせナイレンの瞳を見る。
「3つって…?」
「一つはエアルによる影響を受けずに技や術が使えることだ…
いや…魔導器が無くても使えるみたいだな…」
「なっ…それって…」
この世界では技や術を使うには魔導器そしてエアルが必要となる。
その理を無視する存在など今まで聞いたことがなかった。
「理由はわからない…けどそれは事実だ…
もしこの事実があいつに知られたらルークは…」
「あいつ…?」
ユーリが首をかしげてナイレンに問うが
何を迷っているのかナイレンはなかなかその人物の名前を告げようとはしなかった。
「……今は言えない…だが、ルークを守ってくれ…あいつの手から…
俺が守ってやりたいが…いつまでもルークの傍に居られるわけじゃないからな…」
ナイレンは少し寂しく笑うと机に置いていたコップを手に取り再び口へ酒を流し込む。
その姿はまるでこの後の自分の運命を知っているかのように…
戦イノ唄【TFS06】
古城に入りまず襲ってきたのは石の塊をしたゴーレムだった。
入口で二手に別れたナイレン隊は戦力が半分しか居ない為逃げるしかなかった…
いや、全員そろって居てもあの硬いゴーレムをなんとかできたかはわからない。
なんとか追いかけてきた石の塊から逃げたナイレン隊が辿り着いたのは中庭。
その中央には柱が立っており、柱の穴を覗くと下から濃いエアルが吹き出しているのが確認できる。
「この下か…」
「あそこから入れるみたいですね」
中庭の角にあった地下への階段。
罠があるのは丸わかりだったが…行くしかないようだ。
地下へ続く階段にナイレンが向かおうとすると、
ルークが何も言わずにナイレンの前に立ちはだかった。
「ルーク…?どうした?」
「俺が少し様子を見てくる…全員ここで少し待ってろ…」
「お…おい…待てって…たっく…」
ナイレンが止めるがルークの足は止まらずまっすぐと階段へと近づいていくが、
その途中で自分の少し後に人の気配を感じ取った。
振り向かなくてもわかる…今日一日ルークにべったりとひっついているあの黒髪野郎だ。
「ユーリ…お前もここに居ろ…隊長の傍に居やがれ」
「俺が居なくても他のやつらが守ってくれるさ…何をそんなに気にしてるんだ?」
「別に…」
古城の奥へ進むにつれルークの表情がだんだんと険しくなっていくのがわかる。
それと同時にナイレンに視線を送る回数が増えて行っている…
何をそんなに気にしているのか…何度聞いても答えてはくれなかった。
地下へと続く階段の前に着き身体を柱で隠しながら中の様子を伺うが、
中は暗くて様子が全くわからない。
ただ解るのは濃い濃度のエアルが吹き出し続けている…それだけだ。
ルークとユーリが中に入ろうと足を踏み出した途端、
二人の後から悲痛な声が耳に届いた。
慌てて振り返るとナイレンの左腕に赤い触手が襲いかかり腕を突き刺していた。
その姿を見たルークは顔を真っ青にさせてナイレンの元へと走りだした。
「お、おい!!ルーク!!あいつ…何なんだ?」
走りだしたルークを追いかける時にナイレンの様子を確認するが、
フレン達が抜こうとするが赤い触手が抜けず苦戦しているようだった。
どうにかしてナイレンの身体から触手を引き離さないといけない…
その方法を頭で考えていると頭上から大きな物体が飛んできた。
「うわぁっ!!!…って、メルゾム!?」
前を走っていたルークはいきなり目の前に何かが飛んできて驚いてしまい
バランスを崩し尻もちを付く形になってしまった。
そして、頭上から飛んできたのはギルドのボスであるメルゾムだった。
メルゾムがナイレンから触手を引き離してくれた為、ヒスカとシャスティルが
急いでナイレンに治癒魔法をかけはじめた。
「よぅ…何だ?余裕のない顔してるじゃねぇか…ユーリ…そしてルーク…」
にやにやと笑いながらナイレンの元へ駆けつけた二人を茶化す。
その言葉にユーリとルークは苦笑いしかでなかった。
「もういい…ありがとう…痛みは無くなった…」
二人に治療を止めさせナイレンは立ちあがるが、
その傍にルークが心配そうな表情を見せながら近寄ってきた。
「……本当に大丈夫か?ここで待っててもいいんだぞ?」
「ばーか…隊長がこの先行かなくてどうするんだ?
どうした?今日はえらく過保護だな…明日は雨かもな」
「茶化すな…ほんと…無理するなよな…」
予想以上のルークの真剣な表情にナイレンは驚いた表情を表すが、
またすぐにいつもの表情へと戻りルーク頭を激しく撫で始めた。
「あぁ…大丈夫だ…そんな湿気たツラするな…ほら、お前ら行くぞ」
周りにいた隊員達を集めナイレンは地下へと続く階段へと向かう。
本当は自分が先に入って安全を確認してから隊長達を入れる予定だったが、
それも流れてしまったようだ。
「ルーク…大丈夫かい?」
フレンが心配そうに声をかけてくるが、
その返事に答える余裕もないようで無言で隊長達の後を追いかけていった。
「だぁっ…やっぱり俺が先に行って安全確認するんだった!!」
「いや、いくらお前でもこいつらは無理だろ…」
地下に入ったナイレン隊を待ちうけていたのはやはりゴーレムの群れだったが、
先ほどのゴーレムは石の塊だったのに対し今回は人間の形をしたゴーレムだった。
剣で攻撃しても全く通じていない。
いや、ルークの技でゴーレムの一部が破壊されるが、
それもまたすぐに元に戻る…無限ループだ。
「ちょっと…ルークだけ魔導器なんで使えるの!?」
「俺のは特注なんだよ!!」
「何それずるい!!」
ヒスカとシャスティルが文句を言いながらもゴーレムの攻撃を交わす。
確かにルークの魔導器は特注だ。
魔導器の形をしているが、実はレプリカ…魔導器ではない。
魔導器が無くても術などが使えるのを隠す為のカモフラージュだった。
「だったらもっと威力のあるやつ使ってよ!!」
「威力のあるやつ…」
ヒスカに言われて自分の使える技などを頭で並べるが、
どれもこのゴーレム達を倒すには威力が足りない…
いや、2つだけこのゴーレム達を吹き飛ばす技があった…
ルークを意を決してゴーレムから距離を取ると、
一体のゴーレムに向かって手をつきだした。
「はあああぁ…」
ルークの周りの空気が変った。
その傍に近づくだけで吹き飛ばされてしまいそうな…そんな重い空気だ。
「……これでもくらえっ!!レディアント・ハウr「ルークやめろ!!!!!!!!!」
ナイレンの声でルークの周りにあった空気が元に戻った。
「こんなところで使うな!!周りを巻き込む気か!!」
「じゃぁどうしろと……うわぁっ!!!!!!」
「ルーク!!!」
ナイレンに止められ気をそっちに向けていた為、
ゴーレムの攻撃に気づかず防御もできないまままともに食らいルークの身体は壁へと埋め込まれた。
その姿に血相を変えたユーリが走り寄る。
「ルーク!!大丈夫か!?」
「あぁ…大丈夫だ…」
一人で立ちあがったルークを確認するとユーリは安心したようでルークの身体を支える。
「ユーリ!!赤い筋だ!!あの赤い筋を切るんだ!!」
「赤い…筋…?…了解っ!!」
フレンに言われゴーレム達の赤い糸を切ると、
今まで苦戦していたゴーレム達は脆く崩れて行くが、
崩れた途端次々と新しいゴーレムがユーリ達を遅い掛ってきた。
「ここは俺達に任せて先へ進め!!」
「わかった…無事でいろよメルゾム!!」
メルゾム達ギルドメンバーがこの場を引き受けてくれたおかげで、
ナイレン達は先へと進むことができた。
途中少し歩くのが辛そうにしているルークをユーリが支える姿が見られたが、
すぐに自分だけで動けるようになりその回復力にユーリは驚かされた。
ナイレン達が先へ進むと次に現れたのはまたもやゴーレムだったが、
今度のゴーレムは先ほどのゴーレムの数倍の大きさだった。
「でかいって…」
「どんなタイムサービスだ…いらねぇ…うぜーだけだし…」
ユーリとルークが文句を呟くが、ゴーレムは関係なしにナイレン達に襲いかかる。
バリアを貼ろうとしたシャスティルもゴーレムの攻撃で吹き飛ばされ
魔導器が暴走を始めたところをユーリが助ける。
だが、魔導器も使えない…剣も効かない…絶体絶命の大ピンチだ。
「ユーリ!!来い!!あいつの頭まで飛ばすぞ!!」
「あぁ…!!わかった!!」
隊の中で一番の体格を持つエルヴィンがユーリをゴーレムの頭まで飛ばし、
無事にゴーレムの頭に辿り着いたユーリは赤い筋を次々に切り落として行く。
赤い筋を切り落とされたゴーレムは土埃を立て崩れ落ちて行った。
「ユーリ!!」
ルークが心配そうに土埃に向かって叫ぶと、ユーリが手を振って無事を表す。
その姿を確認し安堵のため息をつくが、まだ消えてない気配に気が付きユーリに向かって叫んだ。
「ユーリ!!まだだ!!まだそいつ動くぞ!!」
「え?なっ…なにっ!!!」
新たに筋が加わり、
ゴーレムは再び動き出した…さきほどより大きくはないもののピンチはまだ回避できていなかった。
「くそ…どうすれば…」
「みんな…下がってろ…」
「ルーク!!」
「これしか方法はないからしょうがねぇだろ!!大丈夫だって…コントロールちゃんとするから…」
一人前に出たルークをナイレンが止めようとするが、
確かに今の状況をクリアするにはルークの力が必要だ。
ナイレンはそれが一番良い方法だと判断し何も言わずルークより後に下がった。
そしてルークは静かに両手を上げ息を整えると、
ルークの周りにあった小さな石が浮き上がりそして細かく分解され消えていく…
最初は小さな石だったが、どんどんと大きなものへと変る。
そして心を決めたルークが呪文を唱え始めた。
「響け!集え!全てを滅する刃と化せ!ロストフォン!ドライブ!」
ルークから放たれた光はまっすぐゴーレムへと向かい、
光が消えたあとには何も残らなかった。
「な、何なんだ…今の技…」
「ルーク…すごい…」
メンバー達が呆気に取られているとルークの身体が揺れその場に倒れこんだ。
「ルーク!!大丈夫か!?」
一番にルークに駆け寄ったのはユーリだ。
ユーリはルークを抱きかかえると小さくルークの身体を揺さぶる。
少し気を失っていたのかルークがゆっくりと目を開かせるとみんな安堵の表情を浮かべる。
「ゴーレム……消えた?」
「あぁ…跡形もなくな…助かったぜ…けど、もうあの技使うなよ…お前が倒れたら意味がねぇ…」
「うん……わかってるよ…ユーリ…ごめん…俺大丈夫だから…」
ユーリの腕から立ち上がろうとするが、身体がふらつきユーリに支えて貰わなかったら倒れてしまっていた。
「無理するな…」
「けど、この先が目的地なんだろ?休憩なんて取ってられない…」
ルークは再び立ち上がると今度は身体が揺れずまっすぐ立つことができたので
メンバーに笑って大丈夫であることを訴えた。
それを見たナイレンは何も言わずルークの頭を撫で先へ続く道を歩み始めた。
そのあとをメンバー達が追いかけ、ルーク、ユーリそしてフレンが一番後で追いかけた。
少し辛そうなルークを気にかけながら歩むユーリ…
ユーリは治癒術が使えない、何かルークにできないかと考え頭に一つの提案が浮かんだ。
「……トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ……」
「え?」
「……続きなんだっけ?はぁ…あいつみたいに上手く歌えたら少しはお前の疲れ和らげるかと思ったんだが…」
初めてその歌を聞いた時ユーリは心が安らいだのを思い出した。
もし、自分が唄ってルークが少しでも楽になるのであれば…と思い歌ってみたが、
一度しか聞いたこともない唄…上手く歌えるはずがなかった。
「へったくそ…そんなんで回復するかよ…けど、ありがとうな…」
辛そうな顔をしていたルークは再び笑顔を取り戻した。
「ルークは笑っている顔が一番だね…」
ユーリと一緒にルークを支えていたフレンが笑いながら話に参加する。
目的地が目の前だというのにこんなに笑っていていいのか疑問だったが、
ユーリのおかげでルークの心が和らいだのは確かだ。
そうこうしているうちに目的である場所に辿りつき
メルゾム達も後から追いかけてきて合流することがでた。
目的の場所にはやはり大きい魔導器があり、これがエアルの濃度が濃くなった原因だと判断できる。
誰が…何の為に…理由は解らない。
とにかく今はこの魔導器を止めることが先だ。
ナイレンは先日森へ出かけた時にリタという少女から貰った魔導器を発動させ、
エアルを濃くしている魔導器の動きを止めさせた。
一時は魔導器は静かに動きを止めたが…それもつかの間また再び動きだした。
今度は先ほどとは違い暴走を始め繋がれていたコードなどがユーリ達に遅いかかった。
わざわざ守らなくても大丈夫じゃ…」
ジュースを飲みほしたユーリはナイレンに真剣な表情で問うと、
持っていたコップを机に置き思いつめた表情で口を動かす。
「……あいつは特異体質でな…大まかに分けて俺達と3つ違うところがある…」
ナイレンが三本の指を上げユーリの前へと付きだされ
その行動に若干身構えてしまったが、心を落ち着かせナイレンの瞳を見る。
「3つって…?」
「一つはエアルによる影響を受けずに技や術が使えることだ…
いや…魔導器が無くても使えるみたいだな…」
「なっ…それって…」
この世界では技や術を使うには魔導器そしてエアルが必要となる。
その理を無視する存在など今まで聞いたことがなかった。
「理由はわからない…けどそれは事実だ…
もしこの事実があいつに知られたらルークは…」
「あいつ…?」
ユーリが首をかしげてナイレンに問うが
何を迷っているのかナイレンはなかなかその人物の名前を告げようとはしなかった。
「……今は言えない…だが、ルークを守ってくれ…あいつの手から…
俺が守ってやりたいが…いつまでもルークの傍に居られるわけじゃないからな…」
ナイレンは少し寂しく笑うと机に置いていたコップを手に取り再び口へ酒を流し込む。
その姿はまるでこの後の自分の運命を知っているかのように…
戦イノ唄【TFS06】
古城に入りまず襲ってきたのは石の塊をしたゴーレムだった。
入口で二手に別れたナイレン隊は戦力が半分しか居ない為逃げるしかなかった…
いや、全員そろって居てもあの硬いゴーレムをなんとかできたかはわからない。
なんとか追いかけてきた石の塊から逃げたナイレン隊が辿り着いたのは中庭。
その中央には柱が立っており、柱の穴を覗くと下から濃いエアルが吹き出しているのが確認できる。
「この下か…」
「あそこから入れるみたいですね」
中庭の角にあった地下への階段。
罠があるのは丸わかりだったが…行くしかないようだ。
地下へ続く階段にナイレンが向かおうとすると、
ルークが何も言わずにナイレンの前に立ちはだかった。
「ルーク…?どうした?」
「俺が少し様子を見てくる…全員ここで少し待ってろ…」
「お…おい…待てって…たっく…」
ナイレンが止めるがルークの足は止まらずまっすぐと階段へと近づいていくが、
その途中で自分の少し後に人の気配を感じ取った。
振り向かなくてもわかる…今日一日ルークにべったりとひっついているあの黒髪野郎だ。
「ユーリ…お前もここに居ろ…隊長の傍に居やがれ」
「俺が居なくても他のやつらが守ってくれるさ…何をそんなに気にしてるんだ?」
「別に…」
古城の奥へ進むにつれルークの表情がだんだんと険しくなっていくのがわかる。
それと同時にナイレンに視線を送る回数が増えて行っている…
何をそんなに気にしているのか…何度聞いても答えてはくれなかった。
地下へと続く階段の前に着き身体を柱で隠しながら中の様子を伺うが、
中は暗くて様子が全くわからない。
ただ解るのは濃い濃度のエアルが吹き出し続けている…それだけだ。
ルークとユーリが中に入ろうと足を踏み出した途端、
二人の後から悲痛な声が耳に届いた。
慌てて振り返るとナイレンの左腕に赤い触手が襲いかかり腕を突き刺していた。
その姿を見たルークは顔を真っ青にさせてナイレンの元へと走りだした。
「お、おい!!ルーク!!あいつ…何なんだ?」
走りだしたルークを追いかける時にナイレンの様子を確認するが、
フレン達が抜こうとするが赤い触手が抜けず苦戦しているようだった。
どうにかしてナイレンの身体から触手を引き離さないといけない…
その方法を頭で考えていると頭上から大きな物体が飛んできた。
「うわぁっ!!!…って、メルゾム!?」
前を走っていたルークはいきなり目の前に何かが飛んできて驚いてしまい
バランスを崩し尻もちを付く形になってしまった。
そして、頭上から飛んできたのはギルドのボスであるメルゾムだった。
メルゾムがナイレンから触手を引き離してくれた為、ヒスカとシャスティルが
急いでナイレンに治癒魔法をかけはじめた。
「よぅ…何だ?余裕のない顔してるじゃねぇか…ユーリ…そしてルーク…」
にやにやと笑いながらナイレンの元へ駆けつけた二人を茶化す。
その言葉にユーリとルークは苦笑いしかでなかった。
「もういい…ありがとう…痛みは無くなった…」
二人に治療を止めさせナイレンは立ちあがるが、
その傍にルークが心配そうな表情を見せながら近寄ってきた。
「……本当に大丈夫か?ここで待っててもいいんだぞ?」
「ばーか…隊長がこの先行かなくてどうするんだ?
どうした?今日はえらく過保護だな…明日は雨かもな」
「茶化すな…ほんと…無理するなよな…」
予想以上のルークの真剣な表情にナイレンは驚いた表情を表すが、
またすぐにいつもの表情へと戻りルーク頭を激しく撫で始めた。
「あぁ…大丈夫だ…そんな湿気たツラするな…ほら、お前ら行くぞ」
周りにいた隊員達を集めナイレンは地下へと続く階段へと向かう。
本当は自分が先に入って安全を確認してから隊長達を入れる予定だったが、
それも流れてしまったようだ。
「ルーク…大丈夫かい?」
フレンが心配そうに声をかけてくるが、
その返事に答える余裕もないようで無言で隊長達の後を追いかけていった。
「だぁっ…やっぱり俺が先に行って安全確認するんだった!!」
「いや、いくらお前でもこいつらは無理だろ…」
地下に入ったナイレン隊を待ちうけていたのはやはりゴーレムの群れだったが、
先ほどのゴーレムは石の塊だったのに対し今回は人間の形をしたゴーレムだった。
剣で攻撃しても全く通じていない。
いや、ルークの技でゴーレムの一部が破壊されるが、
それもまたすぐに元に戻る…無限ループだ。
「ちょっと…ルークだけ魔導器なんで使えるの!?」
「俺のは特注なんだよ!!」
「何それずるい!!」
ヒスカとシャスティルが文句を言いながらもゴーレムの攻撃を交わす。
確かにルークの魔導器は特注だ。
魔導器の形をしているが、実はレプリカ…魔導器ではない。
魔導器が無くても術などが使えるのを隠す為のカモフラージュだった。
「だったらもっと威力のあるやつ使ってよ!!」
「威力のあるやつ…」
ヒスカに言われて自分の使える技などを頭で並べるが、
どれもこのゴーレム達を倒すには威力が足りない…
いや、2つだけこのゴーレム達を吹き飛ばす技があった…
ルークを意を決してゴーレムから距離を取ると、
一体のゴーレムに向かって手をつきだした。
「はあああぁ…」
ルークの周りの空気が変った。
その傍に近づくだけで吹き飛ばされてしまいそうな…そんな重い空気だ。
「……これでもくらえっ!!レディアント・ハウr「ルークやめろ!!!!!!!!!」
ナイレンの声でルークの周りにあった空気が元に戻った。
「こんなところで使うな!!周りを巻き込む気か!!」
「じゃぁどうしろと……うわぁっ!!!!!!」
「ルーク!!!」
ナイレンに止められ気をそっちに向けていた為、
ゴーレムの攻撃に気づかず防御もできないまままともに食らいルークの身体は壁へと埋め込まれた。
その姿に血相を変えたユーリが走り寄る。
「ルーク!!大丈夫か!?」
「あぁ…大丈夫だ…」
一人で立ちあがったルークを確認するとユーリは安心したようでルークの身体を支える。
「ユーリ!!赤い筋だ!!あの赤い筋を切るんだ!!」
「赤い…筋…?…了解っ!!」
フレンに言われゴーレム達の赤い糸を切ると、
今まで苦戦していたゴーレム達は脆く崩れて行くが、
崩れた途端次々と新しいゴーレムがユーリ達を遅い掛ってきた。
「ここは俺達に任せて先へ進め!!」
「わかった…無事でいろよメルゾム!!」
メルゾム達ギルドメンバーがこの場を引き受けてくれたおかげで、
ナイレン達は先へと進むことができた。
途中少し歩くのが辛そうにしているルークをユーリが支える姿が見られたが、
すぐに自分だけで動けるようになりその回復力にユーリは驚かされた。
ナイレン達が先へ進むと次に現れたのはまたもやゴーレムだったが、
今度のゴーレムは先ほどのゴーレムの数倍の大きさだった。
「でかいって…」
「どんなタイムサービスだ…いらねぇ…うぜーだけだし…」
ユーリとルークが文句を呟くが、ゴーレムは関係なしにナイレン達に襲いかかる。
バリアを貼ろうとしたシャスティルもゴーレムの攻撃で吹き飛ばされ
魔導器が暴走を始めたところをユーリが助ける。
だが、魔導器も使えない…剣も効かない…絶体絶命の大ピンチだ。
「ユーリ!!来い!!あいつの頭まで飛ばすぞ!!」
「あぁ…!!わかった!!」
隊の中で一番の体格を持つエルヴィンがユーリをゴーレムの頭まで飛ばし、
無事にゴーレムの頭に辿り着いたユーリは赤い筋を次々に切り落として行く。
赤い筋を切り落とされたゴーレムは土埃を立て崩れ落ちて行った。
「ユーリ!!」
ルークが心配そうに土埃に向かって叫ぶと、ユーリが手を振って無事を表す。
その姿を確認し安堵のため息をつくが、まだ消えてない気配に気が付きユーリに向かって叫んだ。
「ユーリ!!まだだ!!まだそいつ動くぞ!!」
「え?なっ…なにっ!!!」
新たに筋が加わり、
ゴーレムは再び動き出した…さきほどより大きくはないもののピンチはまだ回避できていなかった。
「くそ…どうすれば…」
「みんな…下がってろ…」
「ルーク!!」
「これしか方法はないからしょうがねぇだろ!!大丈夫だって…コントロールちゃんとするから…」
一人前に出たルークをナイレンが止めようとするが、
確かに今の状況をクリアするにはルークの力が必要だ。
ナイレンはそれが一番良い方法だと判断し何も言わずルークより後に下がった。
そしてルークは静かに両手を上げ息を整えると、
ルークの周りにあった小さな石が浮き上がりそして細かく分解され消えていく…
最初は小さな石だったが、どんどんと大きなものへと変る。
そして心を決めたルークが呪文を唱え始めた。
「響け!集え!全てを滅する刃と化せ!ロストフォン!ドライブ!」
ルークから放たれた光はまっすぐゴーレムへと向かい、
光が消えたあとには何も残らなかった。
「な、何なんだ…今の技…」
「ルーク…すごい…」
メンバー達が呆気に取られているとルークの身体が揺れその場に倒れこんだ。
「ルーク!!大丈夫か!?」
一番にルークに駆け寄ったのはユーリだ。
ユーリはルークを抱きかかえると小さくルークの身体を揺さぶる。
少し気を失っていたのかルークがゆっくりと目を開かせるとみんな安堵の表情を浮かべる。
「ゴーレム……消えた?」
「あぁ…跡形もなくな…助かったぜ…けど、もうあの技使うなよ…お前が倒れたら意味がねぇ…」
「うん……わかってるよ…ユーリ…ごめん…俺大丈夫だから…」
ユーリの腕から立ち上がろうとするが、身体がふらつきユーリに支えて貰わなかったら倒れてしまっていた。
「無理するな…」
「けど、この先が目的地なんだろ?休憩なんて取ってられない…」
ルークは再び立ち上がると今度は身体が揺れずまっすぐ立つことができたので
メンバーに笑って大丈夫であることを訴えた。
それを見たナイレンは何も言わずルークの頭を撫で先へ続く道を歩み始めた。
そのあとをメンバー達が追いかけ、ルーク、ユーリそしてフレンが一番後で追いかけた。
少し辛そうなルークを気にかけながら歩むユーリ…
ユーリは治癒術が使えない、何かルークにできないかと考え頭に一つの提案が浮かんだ。
「……トゥエ レイ ズェ クロア リョ トゥエ……」
「え?」
「……続きなんだっけ?はぁ…あいつみたいに上手く歌えたら少しはお前の疲れ和らげるかと思ったんだが…」
初めてその歌を聞いた時ユーリは心が安らいだのを思い出した。
もし、自分が唄ってルークが少しでも楽になるのであれば…と思い歌ってみたが、
一度しか聞いたこともない唄…上手く歌えるはずがなかった。
「へったくそ…そんなんで回復するかよ…けど、ありがとうな…」
辛そうな顔をしていたルークは再び笑顔を取り戻した。
「ルークは笑っている顔が一番だね…」
ユーリと一緒にルークを支えていたフレンが笑いながら話に参加する。
目的地が目の前だというのにこんなに笑っていていいのか疑問だったが、
ユーリのおかげでルークの心が和らいだのは確かだ。
そうこうしているうちに目的である場所に辿りつき
メルゾム達も後から追いかけてきて合流することがでた。
目的の場所にはやはり大きい魔導器があり、これがエアルの濃度が濃くなった原因だと判断できる。
誰が…何の為に…理由は解らない。
とにかく今はこの魔導器を止めることが先だ。
ナイレンは先日森へ出かけた時にリタという少女から貰った魔導器を発動させ、
エアルを濃くしている魔導器の動きを止めさせた。
一時は魔導器は静かに動きを止めたが…それもつかの間また再び動きだした。
今度は先ほどとは違い暴走を始め繋がれていたコードなどがユーリ達に遅いかかった。