「……流石…ファブレ家の別荘ってところか?」
「そうか?普通の別荘だと思うけどな…」
ユーリが見上げているのは避暑地にあるファブレ家の別荘。
他に立っている別荘と比べても数段大きいのが解る…
ルークとユーリは夏休みを利用してこの別荘に遊びに来た。
出会ってから初めての旅行…
本当は嬉しくて仕方がないはずだったが…
「すっげー…でけぇ別荘だな!!」
「ロイド、少し落ち着きなよ。
ルーク…いいのかい?こんな立派なところ借りてしまって」
「クレスさんの言う通り…ルークありがとう…」
「フレン部長、荷物全部降ろしました。」
「あ、アスベル悪いな…ほら、さっさと入ろうぜ」
二人きりの旅行ではない…お邪魔虫が4匹…
いや、この4匹はどうにでもなるが、
ユーリが一番邪魔だと思っている人物が他に居た。
「……おい、屑狼。さっさと入りやがれ。」
「…へいへい。つーか何でお前まで居るんだよ…
俺はルークと二人で旅行に誘ったのに…ったく…」
ルークと楽しいはずの旅行はどうやら邪魔者ばかりで前途多難のようだ。
07:別荘
ファブレ家の別荘に遊びに来た青春ど真ん中の7人。
本当は朝から来て近くの海で遊ぶ予定だったが、
アッシュ達の部活の関係上昼過ぎからの出発となり
別荘に着いたのは日が傾き始めた頃だった。
なので今日は晩御飯を別荘で食べ、明日海に行くということとなった。
別荘には最低限の生活用品が新品同様で置いてあり、
全員で協力しながら晩御飯を作った。
「おい…ちゃんと見てろって言っただろうがこの屑が!!!」
「え?ああああ!!!やっべ!!焦げてる!!!
うわぁん!!俺のチキンがぁ~!!!」
一部ハプニングなどもあったが、ルーク達は無事晩御飯を食べ終え
持ち寄ったスナック菓子などを食べながらリビングのソファーで小さな懇親会を開いた。
ロイドとクレスはルーク達と同じ学校、アッシュと同じ部活だったので面識があったが、
ユーリ、フレン、アスベルとは今日が初めて会ったからだ。
同じ剣道をしている為かみんな初めてなのにすぐに仲良くなった。
そして、いろいろ話をしているうちにいつの間にかリビングで寝てしまっていた。
「ん…んんっ?あれ?俺いつの間にか寝てたのか…」
時計を見るともうすでに真夜中を過ぎている。
ルークの肩から何かが落ちたので見てみると、
それは毛布だった…誰かが気を使ってかけてくれたのだろう。
周りを見渡すとアッシュ以外のメンバーがそこにいた。
トイレかどこかに行ったのかと思ったが、
少し心配になったのでアッシュを探しにいこうとしたが…
自分の身体に毛布以外の物が巻きついていることに気がついた。
ルークの身体に巻きついていたのは手。
お化けかと思い恐る恐るその手の持ち主をたどっていくと、
辿り着いた先は漆黒の王子だった。
「な、何だ…ユーリかよ…おどろかせやがって…」
ユーリはまるでルークを守るかのように手でルークを捕まえていた。
起こさないようにユーリに近づくと、
今まで見たことのなかったユーリの寝顔をまじまじと見ることができた。
「へー…やっぱりこいつ美人なんだな…まつ毛とか長いし…
本当に俺と同じ男なんだよな…?」
眠っているユーリはすごく綺麗で…
まるでどこかの童話に出てくるお姫様のようだった。
起きている時もカッコイイ姿などに心臓が動きっぱなしのことが多々あったが。
寝ている時でさえ心臓の運動を活発にさせてくるとは思ってもいなかった。
「…………こんなカッコイイユーリが…俺のこと好きって言ってくれるんだよな…
変な世の中だよな…俺も男なのに…」
ユーリは初めて会ったときからルークのことを好きと言ってくれた。
それはロイドやクレス達とは違った好き…愛しているという意味の好きだ。
その言葉を思い出すだけでやっと落ち着いてきた心臓が、また再び活発に動き出す。
ふと、ユーリの静かな寝顔を見ていると悪戯をしたくなってきた。
ルークは寝ているユーリの頬に静かに近づいた…が、
あと少しでユーリの頬に唇が当たるところで我に帰り慌ててユーリから離れた。
ユーリがしっかりとルークの服を握っていたのでそんなには離れることはできなかったが。
「な、何やってるんだ俺…!!これじゃまるでエロユーリじゃん…!!!
落ち着け俺…落ち着くんだ…」
深い深呼吸をしながら自分を落ち着かせるように暗示をかけるが、
ルークの心臓はまるで別の人間の物のように言うことをきかず
ますます激しく動き出すばかりだ。
「まてよ…確かナタリアからかりた少女漫画によると…
ユーリみたなタイプは起きてても狸寝入りしてて、
ヒロインがキスしようとすると自分の懐に無理矢理連れ込むのが鉄板らしいな…
へへっ…その手には乗るかよ。」
まさかナタリアから借りた…いや、正確には押しつけられて読まされた
少女マンガの知識がこんなところで役に立つとは思ってもいなかった。
ルークは再び恐る恐るユーリに近づくが、
ユーリの身体が少し動いたことに驚きまたユーリから離れた。
「や、やっぱりお前起きてやがった…んだ…な…?あれ?ユーリ?」
ユーリの身体が動いたので
やはり狸寝入りをしていたと思ったルークだったが…
規則正しく動く呼吸でまだ寝ている…と思われる。
「んっ……ルー…ク……」
「……夢の中でまで俺かよ…」
ユーリはどんな夢を見ているのだろう…
少し気になりながらもそんなユーリを愛おしく感じルークは静かにユーリの頬にキスを落とす。
初めて自らするキスに顔を真っ赤にさせながらルークはユーリを見つめる。
狸寝入りかもしれない…後でからかわれるかもしれない…
恥ずかしいけど、自らキスをしたかった…それだけだ。
ルークは顔を真っ赤にさせながら傍に落ちていた毛布を頭から被り再び眠りについた。
ルークから規則正しい呼吸音が聞こえ始めた頃。
4つの身体がごそごそと動き寝ていた身体を起こした。
「……あ、みんな起きてたんだね…」
クレスが苦笑いをしながら起きてきた他の3人に目を合わせ、
3人とも渋い顔をしながらも小さく笑っている。
「だって、ルークのやつでかい声で独り言言うから…普通目が覚めるって」
ロイドの言葉に3人は小さくうなずく。
「ユーリも狸寝入りしてるならさっさと起きればいいのに…まったく」
フレンが呆れたようにため息をつくとアスベルが不思議そうな顔をしていた。
「え?ユーリ起きてるんですか?寝てるのかと思ってた…」
「彼はこんな恋愛イベントを見逃すような人間じゃないよ…
今は寝ているかもしれないけど…絶対起きてた…そういうやつだ」
長年付き合った幼馴染であるからわかることなのだろう…
4人がこそこそと会話をしていると部屋の奥から別の人間がリビングへと戻ってきた。
「お前ら…起きていたのか?起きたのなら部屋で寝たらどうだ?」
「あ、アッシュ…どこにいってたんだ?」
ロイドがアッシュの手元を見るとルークにかけられていた毛布と同じものが
アッシュの手に握られていた。
「戸締りと…お前らの毛布を取ってきた。1枚だけしか近くに毛布が無かったからな…」
多分その1枚をルークにかけたと推測ができた。
兄思いのアッシュ…いや兄としての思いだけではないが、ルークへの優しさがそれだけで解る。
「あ、じゃぁ…アッシュは今までのこと見てないんだね?」
クレスがアッシュに確認をするとアッシュは首をかしげた。
「何のことだ?またあの馬鹿が何かしでかしたのか?」
「え?いや…何でもないよ…ははははははっ……」
クレスの可笑しな笑いに眉間のシワを増やすアッシュだった。
アッシュが先ほどのルークの行動を見ていたのならユーリと全面戦争がここで勃発していただろう…
それだけは避けれたので心から喜ぶ4人がいた。
次の日の朝。
天気は上々、7人は予定通り海に出かけることとなった。
「んー…良い天気だな…」
「そうだね。君はここに来る前、ルークと二人が良かったとか言ってたけど…
ちゃっかり良い思いをして…さすがユーリだね」
ベランダから気持ちの良い海を眺めていたユーリにフレンは声をかける。
しかし、ユーリはフレンの言葉に理解できていないらしく
首をかしげてフレンの方を見る。
「良い思い…何か俺したか?」
「何言ってるだ?君のことだからちゃんと起きてたんだろ?
全然距離が縮まらない二人の関係に少し心配したけど…少しずつ距離が
縮まってきているようで安心したよ」
ユーリの一方通行で終わる恋ではないかと心配していたフレンだったが、
昨日の様子を見る限り少しだが距離が無くなっていると思われる。
今後どうなるかは二人次第だが…
フレンが少し機嫌よくユーリに話しかけるが、
ユーリの方は全く解っていないらしく不思議そうな顔をしたままだ。
「…フレン。お前の言ってる意味がわからないんだが…」
「え?君もしかして…本当に寝てたのかい?」
「あぁ…昨日はずっと寝てた…ルークが何かしたのか?」
フレンはしまったと後悔した。
ユーリのことだからルークがユーリにキスをした時起きていて
わざと起きなかったと思っていたが…本当に寝ていたようだ。
折角のめずらしいイベントを見逃すとは…ユーリがとても可哀そうに思える。
「おい…ルークが俺に何かしたのか?」
「え?いや…その…」
言うべきか言わないべきか…
ルークは誰もみていないと思っている。
しかし、実際はアッシュ、ユーリ以外のメンバー全員に目撃されてしまっている…
ルークの純粋な心を壊してしまいそうでフレンは戸惑ったが…
「……まぁいい。ルークに直接聞くわ。おーい、ルーク!!!」
「へ!?あ、ちょ…ユーリ!!!」
ルークを呼ぶユーリをなんとかして止めようとしたが…
フレンの手は届かずユーリに次の言葉を言わせてしまった。
「ん?何?」
「お前…昨夜俺になんかしたか?」
「へ?え?あっ………」
あちゃ~…とフレンは自分の顔を手で押さえる。
ルークを見ると顔が真っ赤になりまるで金魚のように口を動かしている。
その顔にユーリはにやにやと笑い楽しんでいるのが丸わかりだ。
「な、何もしてねぇし!!寝言は寝ていいやがれ!!」
「何だよルーク…教えてくれたっていいんじゃねぇのか?
おい、何したんだよ…」
「う、うるせー!!何にもしてねぇから!!このエローウェル!!!」
そういうとルークはユーリから逃げるように走りだした。
ユーリは相変わらず楽しそうな笑顔をみせながらルークを追いかける…
フレンはルークに心の中で謝罪をするが、
あっちの方が二人らしいと思いながら海へ行く用意をするためにベランダから離れた。
その後アッシュとユーリから散々誘導尋問されるルークの姿が目撃され
心からルークに謝罪をするフレンの姿があった。