旭屋本舗
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腐向けサイトですご理解のある方のみどうぞ。
始めての方はカテゴリー【What】をお読みください。
目の前に広がる大きな舞台。
舞台の中央には天井にまで伸びるパイプオルガンが設置されている。
その舞台の真中では赤毛の青年が立ち感動を味わう姿はどこか微笑ましい。
「うわぁ~すっげー!!でかい舞台だなぁ~…」
「おい、屑騒ぐんじゃねぇ…みっともねぇぞ」
「まぁ…ルークったら子供ですわね」
「うるせぇなぁ…けどアッシュすげぇな…ここでティアと演奏するなんて…」
「ふん…別にバイオリンくらい…普通だ」
少し赤く頬を染めるのは舞台の真中で感動を味わっている青年と同じ顔をした青年…
いや、似ているがどこか違う顔をした青年だ。
「俺…ここの大学に来たい…」
「私もですわ…」
「俺もだ…」
三人は顔を見合わせて小さく笑った。
「じゃぁ、俺達3人同じ大学に行く約束…守れそうだな」
ルークは無邪気に笑いアッシュの心を緩ませた。
『入学式~4月~』
カーテンの隙間から差しこむ太陽の光でアッシュは目を覚ます。
枕元に置いてあった時計を見ると目ざましをかけていた時刻より
ほんの少しだけ早く目を覚ました。
起きたばかりの身体をゆっくりと起き上がらせると、
枕の横に置いてある籠の中身に顔を移した。
籠の中にはアッシュと同じ顔をした…いや、似ているがどこか違う顔をした
小さな小人が気持ちよさそうに眠っている。
眠っている小さな小人の姿はやはり誰かを思い出させるくらい似ている。
そう…もう二度と会うことのできないあの人に…
アッシュは人差し指で小人の頭を優しく撫でると、
小人は小さく動き緑色の瞳がゆっくりと開いた。
「…悪いルーク。起こしたか…もう少し寝ていても大丈夫だぞ?」
「……………(ふるふる)」
まだ眠たそうな顔をしているが首を横に振り起きる意思を表した。
ルークと暮らし始めて一カ月近くになるが未だにルークは言葉を話さない…
いや、一つの言葉を除いては話すことはできなかった。
「あっしゅ…あっしゅ…」
「ん?どうした…?」
指でルークの頬を触ってやるとルークは嬉しそうに笑いかける。
その笑顔もまたあの人とそっくりで戸惑ってしまう…。
アッシュはベッドから立ち上がりドアへ足を向ける
昨日までは二度寝ができたが今日からはまた新しい生活が始まるのでゆっくりはしていられない。
「もうすぐガイが起こしにくるから、お前はそれからリビングにこい…」
「……(こくり)」
籠の中で少し寂しそうにルークは頷いた。
その顔に少し心が痛むが一緒に顔を洗いに行って洗面台でおぼれでもしたら一大事。
またジェイドの世話になってしまってはあの日決意をした意味がなくなってしまうので
アッシュは心を少しばかり鬼にした。
「いい子だ…俺は先に顔をあらtt「ルーーーーーーークーーーーーーー朝だぞーーーーーーー!!!」
アッシュが扉を開けようとした時、いきなり反対側から扉が開き金髪の青年がアッシュの部屋へと入り
そしてそのまま籠に目を向けると嬉しそうにルークへと近づいていく。
ドアを開ける時にドアに何かが盛大にぶつかる音がしたが金髪の青年には届いていない。
「お、ルークえらいなぁ。一人で起きれたのか…えらいえらい。」
アッシュの部屋に入ってきたのは実家の使用人だったガイだ。
もともとはアッシュの実家で使用人をしていたが、とある事情により今は一人暮らしのアッシュと一緒に暮らしている。
最近はこの小さいルークに熱があるようで…親馬鹿全開な日々を送っている。
そんなガイはルークをリビングへ移動させる為に両手でルークを包み込んで
リビングへと足を向けようとしたが、ドアの前でアッシュが何やらうずくまっていることに気がついた。
「ん?アッシュ何してるんだ…?早く支度しないと入学式に遅れるぞ?って…顔どこかでぶつけたのか?」
「誰のせいだとおもってやがるこの屑使用人がっ!!!!!!!!!」
「♪♪♪」
「だから、悪かったって…ドアの前にアッシュが居るとは思わなかったから…」
「…………うっせーぞこの機械オタク」
リビングのソファーに座っているガイが顔だけを向けアッシュに声をかけるが、
まだ根に持っているのか眉間にシワを寄せて出かける準備をしている。
その姿にガイはため息を漏らす。
「しかし…もう大学の入学式か…はやいものだな…」
「…そう…だな…」
今日は大学の入学式。
アッシュにとっては新たな生活の始まりでもある。
そう…あの人が居ない学生生活が始まる日…
ガイとアッシュの間に少し重い空気が流れ始めた時、
ガイの膝に乗っていたルークが小さな手を叩いてガイを呼び始めた。
「ん?ルークどうした?あ、もうこんな時間か、テレビつけないと始まるな」
ガイがテレビの電源をつけると、丁度ドラマが始まるところだった。
「前から思っていたが…こいつ…ドラマ見て理解できるのか?」
「さぁ?でもこのドラマだけは何故かいつも見たがるんだよなぁ…
まぁ、丁度ナタリアが出てるドラマだしいいんじゃないか?」
ガイの膝にいるルークを見ると両手を大きくあげ嬉しそうな顔をしてテレビを見ている。
ドラマの内容を理解しているのか判断しにくい行動だ。
これくらいの少年にならアニメや教育番組の方が喜ぶはずだが…
ルークはあまりそちらには…特に教育番組には興味がない様子だった。
「しかし…ナタリアもがんばってるよな…ドラマのヒロインとか…」
「……努力家だからなあいつは」
アッシュの幼馴染であるナタリアは今タレントとして活躍している。
この春から朝のドラマにヒロインとして抜擢された。
タレント業だけでも忙しいのに彼女はアッシュと同じ大学へ進学する。
今日も入学式で会う予定…卒業式以来なので久しぶりに話をしたいが、
ゆっくりと話ができるとは思っていない。
しかし、ナタリアにはルークを今日紹介するつもりでいる。
また後日でもいいが早く紹介しないと何を言われるか分かったものではないからだ。
「そろそろ出かけないとな…鞄を取ってくる」
「おー」
アッシュが自室へと向かったのを確認し、
膝に乗っているルークに目を向けるとルークは真剣にテレビを見ていた。
画面に目を移すとナタリアが顔を赤く染め相手役の男性に何かを伝えようとしている。
『好き…そ、その私…あなたのことが…好き…です。』
「おー…流石ナタリア…可愛い…なぁ、ルーク……ルーク?」
「――――――――――――――――――――――――――――――ッピッピッピ。」
ルークはしっかりとテレビを見ていた、それはさきほどまでとは変らないがいつもと様子が全く違っている。
明らかに瞳の色が翳み、身体からは小さい機械音が発している…今までこのような状態になったことはない。
「おい、ルーク!!ルーク!!しっかりしろルーク!!」
「ガイ!!ルークがどうした!?」
部屋に戻っていたアッシュが鞄を持って慌ててリビングに戻ってきた。
ガイは膝に乗せてたルークを両手で抱えアッシュの前に差しだすが、
ルークは固まったまま動こうとはしない、瞳もまっすぐしか見つめていない…
こんなルークは今までみたことなかった。
「おい、ルーク!!ルーク!!返事をしやがれ!!」
「ッピッピピピ………!!!」
アッシュの言葉でルークの身体が小さく揺れた。
小さなその瞳を数回瞬きさせると、首を数回横に振り周りの状況を確認する行動を見せた。
そしてアッシュの姿を見つけると嬉しそうに笑いかける。
その姿を見たアッシュとガイは良かったとつぶやいた。
「ったく…心配かけさせるな…一体今のは…?」
機械に詳しいはずのガイに質問するが、ガイも分からないらしく苦い顔を作る。
「さ、さぁ…?ルークは試作品だからなぁ…普通のテイルズとは違うところ多いし…何とも…」
「そうなのか…どこが違うんだ?」
「あー…それはまた帰ってからで…ほら、急がないと遅刻するぞ」
アッシュが時計を見ると出発予定時刻を過ぎていた。
慌てて玄関へ向かい靴を履くと見送りにリビングから出てきた二人に照れながら顔を向けた。
「スーツよく似合ってるぞ。」
「うっせーぞ。……ルークのこと頼む」
「あぁ…あとから連れていくよ。いってらっしゃい。」
「…いってきます。あとからちゃんと来いよルーク…泣くんじゃねぇぞ」
「(こくり)」
小さな手で必死に手を振る姿はまるで妖精のように可愛らしい。
その姿にアッシュの顔は少し緩むが、すぐに顔を引き締めて家を出て大学へと向かった。
「アッシュ!!!」
始業式が終わり、講堂を出たところで慣れ親しんだ声が自分の名前を呼ぶ。
振り向かなくても友人がまだ居ない大学で名前を呼ぶのはただ一人…
そう…幼馴染のナタリアとアッシュはすぐにわかった。
「ナタリア…こんなところで俺と話してていいのか?」
ナタリアはドラマのにも出るタレント…の卵である。
今朝も報道陣が今注目を浴びるナタリアの入学式を撮影しようと集まっていた。
だが、大学の中には入れず入学式前にインタビューはできたが、
諦めがつかない報道陣がまだ数名残っている。
そんな報道陣にとって幼馴染であるが、青年と仲良く会話しているところをスクープされたら
ナタリアの今後の芸能生活に支障がでてしまうことをアッシュは心配した。
そんな心配を余所にナタリアは不思議そうな顔をしてアッシュに話しかける。
「何故幼馴染と会話するのがダメなのです?」
アッシュは眉間にしわを増やす。
自分の兄といいこの幼馴染といい…どうして自分の周りには天然しかいないのかと…
「それより、私に見せたいものってなんですの?私楽しみで昨日あまり眠れませんでしたわ!!」
この後も仕事があるだろうに…寝れないのは関心できなかったが
どうしても今日先日アッシュの前に現れたルークのことを紹介しておきたかった。
あとでばれた時に五月蠅いのもあったが…
「あぁ…もうすぐガイが連れてくる…」
「おーい、アッシュー!!」
丁度スーツを着たガイがアッシュの傍へと近寄ってきた。
手にはスーツには不釣り合いな小さなランチバックがあり、その中にルークが居ると思った。
「ガイ…その中か?」
「あぁ…そうだ。早速紹介するのか?けどここだと少し目立つから人が居ないところd…」
ランチバックの中を覗いたガイが何故か固まった。
アッシュが不振に思い、同じくランチバックを覗くとそこには小さなタオルが引かれているだけで
一番の目的であるルークの姿はなかった。
「おい…ガイ…あのチビはどこだ…」
「え?あ、あれ?講堂でるまではここに居たのに…」
「何の話ですの?早く見せてくださらない?」
ガイの顔は真っ青になり、ナタリアは一人会話についてこれず少し怒っている。
アッシュは舌打ちをすると講堂へと走りだした。
「お、おい!!アッシュ!!!」
「ガイ!!何の話か説明しなさい!!」
「え?あ…あ、あんまり近づかないで欲しいな…」
「ガイ!!!」
ナタリアのことはガイに任せアッシュはガイが最後にルークをみた講堂へと走る。
姿形だけではなく、こんなところまで一緒とは思っていなかった…
講堂へと続く階段をかけあがり、中へ入るとぽつんと椅子の上に座っている紅い小さな小人を見つけた。
深いため息をつき傍へとよるが…その後ろ姿は何故か悲しげな空気を出している…
まるで何かを懐かしむかのように…何かを思い出すように…そんな空気…
その身体からは想像もできない…悲しげな思いを…
アッシュは少し声をかけるのをためらったが、優しく声をかけた。
「ルーク…」
「!!!」
その声にすぐ反応し振り向いたルークの表情はいつもとかわらない…
可愛らしく、まだまだ幼い表情…
先ほどの空気が嘘に思えてしまう。
「あっしゅ!!あっしゅ!!」
「何処にいってやがった…心配したぞ…」
嬉しそうにアッシュに飛びつくその姿に頬が緩む。
一度失くしたもの…もう二度と手放したくない人だから…そんな表情ができるのだろうか…
アッシュはルークを肩に乗せ講堂を出ようとしたが、
講堂の出口で見知らぬ人に出会った。
「ここで何をしている…入学式は終わったぞ」
アッシュの記憶が正しければその人はモース教授。
教授の中でもかなりの実力をもった人物だ。
「あ…すみません…忘れ物を取りに…」
「なら、すぐ帰りたまえ…ん?それは…テイルズか?」
アッシュの肩に乗っていたルークを見てモースは少し驚いた表情をした。
隠す必要もないアッシュは小さく「はい…」と返事するとモースは何か
考えごとをし始めたが、すぐに元の顔に戻りその場を後にした。
アッシュにはモースの行動がよくわからず、眉間にしわを寄せると
心配したルークがアッシュの髪を引っ張った。
その姿に少し心が緩みルーク頭を指で撫でながら講堂を出たが、
講堂を出たところで今度は良く知る2人に捕まった。
「「アッシュ!!」」
ガイとナタリアだ。
ガイはアッシュの肩に乗っているルークを見るとホッとした顔した。
逆にナタリアはルークの姿を見て驚いた表情をみせる。
当たり前だ…死んだはずの幼馴染と同じ姿をした小人が目の前にる…
本来なら考えられないことだった。
アッシュは肩に乗っていたルークを自分の掌に移動させると
ナタリアの前へと差し出し紹介をした。
「ナタリア…この前ジェイドから託された…テイルズの【Luke】…ルークだ…」
「まぁ…」
ナタリアの瞳からは涙がこぼれた…
死んだはずの幼馴染…二度と会えないはずの彼…
違うものだとしてもまた会えた感動はナタリアの身体から溢れだした…
「わ、私はナタリア…ですわ…どうぞ…よろしく…ルーク…」
「…♪♪♪」
ルークはナタリアに嬉しそうな表情を見せた。
その顔を見たナタリアはますます泣きだしてしまい…アッシュはどうすればいいかわからなかった…
「まさか…ナタリアがあそこまで泣くなんて…」
「そりゃそうだろ…俺だってルークの姿見た時は…」
家に帰ってきたガイとアッシュは少し疲れた表情をみせた。
あれから涙が止まらないナタリアを落ち着かせようとしたが…
ルークがアッシュの家に来たのが一カ月近く前だと説明すると
今度は怒りだした。
『何故すぐに会わせてくれませんでしたの!?』
予想はしていたが…想像以上に怒られてしまった。
これだと今日紹介を逃していたらどうなっていたかわからない…
ルークともっと一緒に居たそうな顔をしていたが、
ナタリアにはこのあと撮影があった為しぶしぶ帰っていった。
もし撮影がなければ…泊る勢いで家まで押し掛けてきたに違いない…
スーツを脱ぐ為に肩に乗せていたルークを机の上に置いた。
そしてネクタイを取って自分の部屋に行こうとした…が…
「あっしゅ、あっしゅ!!」
「あ…?何だ?腹でも減ったのか…?」
「あっしゅ…あっしゅ…」
「だから…なんだ?」
「すき」
「「………………は?」」
ルークの方へと振り向いた瞬間言われた言葉にアッシュは固まった。
さっきまで「あっしゅ」としか言えなかったルーク…
大きな一歩を踏み出したのは嬉しかったが…その大きな一歩が何故「すき」なのかが理解できない。
「る、ルーク!!お前すごいな!!流石だ!!」
「あっしゅ、すき。すき。」
「な、な、な…何連呼しやがる!!!!」
アッシュの顔は真っ赤だ。
そんなアッシュを放置してガイは自分の子供が初めてしゃべったようにはしゃいでいる…
親馬鹿…いや、ルーク馬鹿と言った方が正しい。
「ルーク…次は「ガイ」だ…ほら、言ってみろお前なら言えるはずだ!!」
「????????」
何としてもルークに「ガイ」と呼んで欲しいガイは必死に言葉を教えようとするが
ルークのあの表情を見る限り…多分無理だろうとアッシュは思った。
そんなガイを放置してアッシュは自分の部屋へと着替えに戻る。
まだ電気をつけていない暗い部屋…そんな中アッシュは一枚の写真に手を伸ばす。
そこには髪の短い自分の顔に似た青年…双子の兄弟の片割れであるルークだ…
『アッシュ…好きだよ!!だーい好き!!!』
二度と聞けないと思っていたその声…その言葉…
アッシュはその写真に小さく笑いかける。
リビングでは未だにガイは必死になって小さなルークに名前を教えてる声が聞こえる。
そろそろ止めないと泣き始めてしまいそうだ…
アッシュは写真を元の場所に戻し、急いで部屋着へと着替え始めた。
舞台の中央には天井にまで伸びるパイプオルガンが設置されている。
その舞台の真中では赤毛の青年が立ち感動を味わう姿はどこか微笑ましい。
「うわぁ~すっげー!!でかい舞台だなぁ~…」
「おい、屑騒ぐんじゃねぇ…みっともねぇぞ」
「まぁ…ルークったら子供ですわね」
「うるせぇなぁ…けどアッシュすげぇな…ここでティアと演奏するなんて…」
「ふん…別にバイオリンくらい…普通だ」
少し赤く頬を染めるのは舞台の真中で感動を味わっている青年と同じ顔をした青年…
いや、似ているがどこか違う顔をした青年だ。
「俺…ここの大学に来たい…」
「私もですわ…」
「俺もだ…」
三人は顔を見合わせて小さく笑った。
「じゃぁ、俺達3人同じ大学に行く約束…守れそうだな」
ルークは無邪気に笑いアッシュの心を緩ませた。
『入学式~4月~』
カーテンの隙間から差しこむ太陽の光でアッシュは目を覚ます。
枕元に置いてあった時計を見ると目ざましをかけていた時刻より
ほんの少しだけ早く目を覚ました。
起きたばかりの身体をゆっくりと起き上がらせると、
枕の横に置いてある籠の中身に顔を移した。
籠の中にはアッシュと同じ顔をした…いや、似ているがどこか違う顔をした
小さな小人が気持ちよさそうに眠っている。
眠っている小さな小人の姿はやはり誰かを思い出させるくらい似ている。
そう…もう二度と会うことのできないあの人に…
アッシュは人差し指で小人の頭を優しく撫でると、
小人は小さく動き緑色の瞳がゆっくりと開いた。
「…悪いルーク。起こしたか…もう少し寝ていても大丈夫だぞ?」
「……………(ふるふる)」
まだ眠たそうな顔をしているが首を横に振り起きる意思を表した。
ルークと暮らし始めて一カ月近くになるが未だにルークは言葉を話さない…
いや、一つの言葉を除いては話すことはできなかった。
「あっしゅ…あっしゅ…」
「ん?どうした…?」
指でルークの頬を触ってやるとルークは嬉しそうに笑いかける。
その笑顔もまたあの人とそっくりで戸惑ってしまう…。
アッシュはベッドから立ち上がりドアへ足を向ける
昨日までは二度寝ができたが今日からはまた新しい生活が始まるのでゆっくりはしていられない。
「もうすぐガイが起こしにくるから、お前はそれからリビングにこい…」
「……(こくり)」
籠の中で少し寂しそうにルークは頷いた。
その顔に少し心が痛むが一緒に顔を洗いに行って洗面台でおぼれでもしたら一大事。
またジェイドの世話になってしまってはあの日決意をした意味がなくなってしまうので
アッシュは心を少しばかり鬼にした。
「いい子だ…俺は先に顔をあらtt「ルーーーーーーークーーーーーーー朝だぞーーーーーーー!!!」
アッシュが扉を開けようとした時、いきなり反対側から扉が開き金髪の青年がアッシュの部屋へと入り
そしてそのまま籠に目を向けると嬉しそうにルークへと近づいていく。
ドアを開ける時にドアに何かが盛大にぶつかる音がしたが金髪の青年には届いていない。
「お、ルークえらいなぁ。一人で起きれたのか…えらいえらい。」
アッシュの部屋に入ってきたのは実家の使用人だったガイだ。
もともとはアッシュの実家で使用人をしていたが、とある事情により今は一人暮らしのアッシュと一緒に暮らしている。
最近はこの小さいルークに熱があるようで…親馬鹿全開な日々を送っている。
そんなガイはルークをリビングへ移動させる為に両手でルークを包み込んで
リビングへと足を向けようとしたが、ドアの前でアッシュが何やらうずくまっていることに気がついた。
「ん?アッシュ何してるんだ…?早く支度しないと入学式に遅れるぞ?って…顔どこかでぶつけたのか?」
「誰のせいだとおもってやがるこの屑使用人がっ!!!!!!!!!」
「♪♪♪」
「だから、悪かったって…ドアの前にアッシュが居るとは思わなかったから…」
「…………うっせーぞこの機械オタク」
リビングのソファーに座っているガイが顔だけを向けアッシュに声をかけるが、
まだ根に持っているのか眉間にシワを寄せて出かける準備をしている。
その姿にガイはため息を漏らす。
「しかし…もう大学の入学式か…はやいものだな…」
「…そう…だな…」
今日は大学の入学式。
アッシュにとっては新たな生活の始まりでもある。
そう…あの人が居ない学生生活が始まる日…
ガイとアッシュの間に少し重い空気が流れ始めた時、
ガイの膝に乗っていたルークが小さな手を叩いてガイを呼び始めた。
「ん?ルークどうした?あ、もうこんな時間か、テレビつけないと始まるな」
ガイがテレビの電源をつけると、丁度ドラマが始まるところだった。
「前から思っていたが…こいつ…ドラマ見て理解できるのか?」
「さぁ?でもこのドラマだけは何故かいつも見たがるんだよなぁ…
まぁ、丁度ナタリアが出てるドラマだしいいんじゃないか?」
ガイの膝にいるルークを見ると両手を大きくあげ嬉しそうな顔をしてテレビを見ている。
ドラマの内容を理解しているのか判断しにくい行動だ。
これくらいの少年にならアニメや教育番組の方が喜ぶはずだが…
ルークはあまりそちらには…特に教育番組には興味がない様子だった。
「しかし…ナタリアもがんばってるよな…ドラマのヒロインとか…」
「……努力家だからなあいつは」
アッシュの幼馴染であるナタリアは今タレントとして活躍している。
この春から朝のドラマにヒロインとして抜擢された。
タレント業だけでも忙しいのに彼女はアッシュと同じ大学へ進学する。
今日も入学式で会う予定…卒業式以来なので久しぶりに話をしたいが、
ゆっくりと話ができるとは思っていない。
しかし、ナタリアにはルークを今日紹介するつもりでいる。
また後日でもいいが早く紹介しないと何を言われるか分かったものではないからだ。
「そろそろ出かけないとな…鞄を取ってくる」
「おー」
アッシュが自室へと向かったのを確認し、
膝に乗っているルークに目を向けるとルークは真剣にテレビを見ていた。
画面に目を移すとナタリアが顔を赤く染め相手役の男性に何かを伝えようとしている。
『好き…そ、その私…あなたのことが…好き…です。』
「おー…流石ナタリア…可愛い…なぁ、ルーク……ルーク?」
「――――――――――――――――――――――――――――――ッピッピッピ。」
ルークはしっかりとテレビを見ていた、それはさきほどまでとは変らないがいつもと様子が全く違っている。
明らかに瞳の色が翳み、身体からは小さい機械音が発している…今までこのような状態になったことはない。
「おい、ルーク!!ルーク!!しっかりしろルーク!!」
「ガイ!!ルークがどうした!?」
部屋に戻っていたアッシュが鞄を持って慌ててリビングに戻ってきた。
ガイは膝に乗せてたルークを両手で抱えアッシュの前に差しだすが、
ルークは固まったまま動こうとはしない、瞳もまっすぐしか見つめていない…
こんなルークは今までみたことなかった。
「おい、ルーク!!ルーク!!返事をしやがれ!!」
「ッピッピピピ………!!!」
アッシュの言葉でルークの身体が小さく揺れた。
小さなその瞳を数回瞬きさせると、首を数回横に振り周りの状況を確認する行動を見せた。
そしてアッシュの姿を見つけると嬉しそうに笑いかける。
その姿を見たアッシュとガイは良かったとつぶやいた。
「ったく…心配かけさせるな…一体今のは…?」
機械に詳しいはずのガイに質問するが、ガイも分からないらしく苦い顔を作る。
「さ、さぁ…?ルークは試作品だからなぁ…普通のテイルズとは違うところ多いし…何とも…」
「そうなのか…どこが違うんだ?」
「あー…それはまた帰ってからで…ほら、急がないと遅刻するぞ」
アッシュが時計を見ると出発予定時刻を過ぎていた。
慌てて玄関へ向かい靴を履くと見送りにリビングから出てきた二人に照れながら顔を向けた。
「スーツよく似合ってるぞ。」
「うっせーぞ。……ルークのこと頼む」
「あぁ…あとから連れていくよ。いってらっしゃい。」
「…いってきます。あとからちゃんと来いよルーク…泣くんじゃねぇぞ」
「(こくり)」
小さな手で必死に手を振る姿はまるで妖精のように可愛らしい。
その姿にアッシュの顔は少し緩むが、すぐに顔を引き締めて家を出て大学へと向かった。
「アッシュ!!!」
始業式が終わり、講堂を出たところで慣れ親しんだ声が自分の名前を呼ぶ。
振り向かなくても友人がまだ居ない大学で名前を呼ぶのはただ一人…
そう…幼馴染のナタリアとアッシュはすぐにわかった。
「ナタリア…こんなところで俺と話してていいのか?」
ナタリアはドラマのにも出るタレント…の卵である。
今朝も報道陣が今注目を浴びるナタリアの入学式を撮影しようと集まっていた。
だが、大学の中には入れず入学式前にインタビューはできたが、
諦めがつかない報道陣がまだ数名残っている。
そんな報道陣にとって幼馴染であるが、青年と仲良く会話しているところをスクープされたら
ナタリアの今後の芸能生活に支障がでてしまうことをアッシュは心配した。
そんな心配を余所にナタリアは不思議そうな顔をしてアッシュに話しかける。
「何故幼馴染と会話するのがダメなのです?」
アッシュは眉間にしわを増やす。
自分の兄といいこの幼馴染といい…どうして自分の周りには天然しかいないのかと…
「それより、私に見せたいものってなんですの?私楽しみで昨日あまり眠れませんでしたわ!!」
この後も仕事があるだろうに…寝れないのは関心できなかったが
どうしても今日先日アッシュの前に現れたルークのことを紹介しておきたかった。
あとでばれた時に五月蠅いのもあったが…
「あぁ…もうすぐガイが連れてくる…」
「おーい、アッシュー!!」
丁度スーツを着たガイがアッシュの傍へと近寄ってきた。
手にはスーツには不釣り合いな小さなランチバックがあり、その中にルークが居ると思った。
「ガイ…その中か?」
「あぁ…そうだ。早速紹介するのか?けどここだと少し目立つから人が居ないところd…」
ランチバックの中を覗いたガイが何故か固まった。
アッシュが不振に思い、同じくランチバックを覗くとそこには小さなタオルが引かれているだけで
一番の目的であるルークの姿はなかった。
「おい…ガイ…あのチビはどこだ…」
「え?あ、あれ?講堂でるまではここに居たのに…」
「何の話ですの?早く見せてくださらない?」
ガイの顔は真っ青になり、ナタリアは一人会話についてこれず少し怒っている。
アッシュは舌打ちをすると講堂へと走りだした。
「お、おい!!アッシュ!!!」
「ガイ!!何の話か説明しなさい!!」
「え?あ…あ、あんまり近づかないで欲しいな…」
「ガイ!!!」
ナタリアのことはガイに任せアッシュはガイが最後にルークをみた講堂へと走る。
姿形だけではなく、こんなところまで一緒とは思っていなかった…
講堂へと続く階段をかけあがり、中へ入るとぽつんと椅子の上に座っている紅い小さな小人を見つけた。
深いため息をつき傍へとよるが…その後ろ姿は何故か悲しげな空気を出している…
まるで何かを懐かしむかのように…何かを思い出すように…そんな空気…
その身体からは想像もできない…悲しげな思いを…
アッシュは少し声をかけるのをためらったが、優しく声をかけた。
「ルーク…」
「!!!」
その声にすぐ反応し振り向いたルークの表情はいつもとかわらない…
可愛らしく、まだまだ幼い表情…
先ほどの空気が嘘に思えてしまう。
「あっしゅ!!あっしゅ!!」
「何処にいってやがった…心配したぞ…」
嬉しそうにアッシュに飛びつくその姿に頬が緩む。
一度失くしたもの…もう二度と手放したくない人だから…そんな表情ができるのだろうか…
アッシュはルークを肩に乗せ講堂を出ようとしたが、
講堂の出口で見知らぬ人に出会った。
「ここで何をしている…入学式は終わったぞ」
アッシュの記憶が正しければその人はモース教授。
教授の中でもかなりの実力をもった人物だ。
「あ…すみません…忘れ物を取りに…」
「なら、すぐ帰りたまえ…ん?それは…テイルズか?」
アッシュの肩に乗っていたルークを見てモースは少し驚いた表情をした。
隠す必要もないアッシュは小さく「はい…」と返事するとモースは何か
考えごとをし始めたが、すぐに元の顔に戻りその場を後にした。
アッシュにはモースの行動がよくわからず、眉間にしわを寄せると
心配したルークがアッシュの髪を引っ張った。
その姿に少し心が緩みルーク頭を指で撫でながら講堂を出たが、
講堂を出たところで今度は良く知る2人に捕まった。
「「アッシュ!!」」
ガイとナタリアだ。
ガイはアッシュの肩に乗っているルークを見るとホッとした顔した。
逆にナタリアはルークの姿を見て驚いた表情をみせる。
当たり前だ…死んだはずの幼馴染と同じ姿をした小人が目の前にる…
本来なら考えられないことだった。
アッシュは肩に乗っていたルークを自分の掌に移動させると
ナタリアの前へと差し出し紹介をした。
「ナタリア…この前ジェイドから託された…テイルズの【Luke】…ルークだ…」
「まぁ…」
ナタリアの瞳からは涙がこぼれた…
死んだはずの幼馴染…二度と会えないはずの彼…
違うものだとしてもまた会えた感動はナタリアの身体から溢れだした…
「わ、私はナタリア…ですわ…どうぞ…よろしく…ルーク…」
「…♪♪♪」
ルークはナタリアに嬉しそうな表情を見せた。
その顔を見たナタリアはますます泣きだしてしまい…アッシュはどうすればいいかわからなかった…
「まさか…ナタリアがあそこまで泣くなんて…」
「そりゃそうだろ…俺だってルークの姿見た時は…」
家に帰ってきたガイとアッシュは少し疲れた表情をみせた。
あれから涙が止まらないナタリアを落ち着かせようとしたが…
ルークがアッシュの家に来たのが一カ月近く前だと説明すると
今度は怒りだした。
『何故すぐに会わせてくれませんでしたの!?』
予想はしていたが…想像以上に怒られてしまった。
これだと今日紹介を逃していたらどうなっていたかわからない…
ルークともっと一緒に居たそうな顔をしていたが、
ナタリアにはこのあと撮影があった為しぶしぶ帰っていった。
もし撮影がなければ…泊る勢いで家まで押し掛けてきたに違いない…
スーツを脱ぐ為に肩に乗せていたルークを机の上に置いた。
そしてネクタイを取って自分の部屋に行こうとした…が…
「あっしゅ、あっしゅ!!」
「あ…?何だ?腹でも減ったのか…?」
「あっしゅ…あっしゅ…」
「だから…なんだ?」
「すき」
「「………………は?」」
ルークの方へと振り向いた瞬間言われた言葉にアッシュは固まった。
さっきまで「あっしゅ」としか言えなかったルーク…
大きな一歩を踏み出したのは嬉しかったが…その大きな一歩が何故「すき」なのかが理解できない。
「る、ルーク!!お前すごいな!!流石だ!!」
「あっしゅ、すき。すき。」
「な、な、な…何連呼しやがる!!!!」
アッシュの顔は真っ赤だ。
そんなアッシュを放置してガイは自分の子供が初めてしゃべったようにはしゃいでいる…
親馬鹿…いや、ルーク馬鹿と言った方が正しい。
「ルーク…次は「ガイ」だ…ほら、言ってみろお前なら言えるはずだ!!」
「????????」
何としてもルークに「ガイ」と呼んで欲しいガイは必死に言葉を教えようとするが
ルークのあの表情を見る限り…多分無理だろうとアッシュは思った。
そんなガイを放置してアッシュは自分の部屋へと着替えに戻る。
まだ電気をつけていない暗い部屋…そんな中アッシュは一枚の写真に手を伸ばす。
そこには髪の短い自分の顔に似た青年…双子の兄弟の片割れであるルークだ…
『アッシュ…好きだよ!!だーい好き!!!』
二度と聞けないと思っていたその声…その言葉…
アッシュはその写真に小さく笑いかける。
リビングでは未だにガイは必死になって小さなルークに名前を教えてる声が聞こえる。
そろそろ止めないと泣き始めてしまいそうだ…
アッシュは写真を元の場所に戻し、急いで部屋着へと着替え始めた。
この世界にはテイルズと呼ばれるコンピューターの意識集合体が
人間と一緒に共存している。
テイルズと呼ばれる者達にもシリーズがあり、
特にアビスシリーズと呼ばれる者達は唄を歌うのが得意だ。
そんなアビスシリーズの開発者はジェイド・カーティスと呼ばれる
いろいろと性格に難がある眼鏡野郎だ。
何故か俺はそいつと昔から縁があり、
明日高校の卒業式を迎えるその日…そいつが家に訪ねてきた。
『お帰りなさい~3月~』
「いやぁ~…あなたのその学生服も今日で見おさめなのですねぇ…」
「明日の卒業式もこれを着る。その前にてめぇ…鍵かけてる部屋にどうやって入った…」
「あんなの私の頭脳にかかれば鍵とはいいませんよ。」
黒い頬笑みでリビングの椅子に悠々と座っているジェイドがアッシュに笑いかけた。
アッシュは高校生だが今は訳があり高級マンションで一人暮らしをしている。
両親が安全の為にと選んだ高性能のセキュリティーロックもジェイドにかかれば
鍵がかかっていないのと同じのようだ。
普通に考えて不法侵入で訴えれるが、訴えたところで無罪にされてしまうのが
目に見えていたのでアッシュはそれ以上何も言わなかった。
「で?今日は何の用だ…用がないならとっとと帰りやがれ。」
「相変わらずつれないですねぇ…ルークとは大違いですね。」
ジェイドの口からでた人物の名前を耳にした途端アッシュの眉間に皺が増えジェイドを睨みつけた。
「あいつの名前を口にするんじゃねぇ…窓から放りだすぞ。」
ここは高層マンションの上階…ここから放り出されればいくらジェイドでも
助かる見込みはない…………はずだ。
「おやおや…まだ引きずっているのですね。そんな貴方に高校卒業祝いと大学入学祝いです。」
ジェイドが鞄から出したのは両手で抱えれるくらい大きなカプセルと分厚い説明書だった。
カプセルの中には小さな光が輝いて外に出るのを今か今かと待っている…。
「それは…テイルズの種か…?」
「コンピューターに弱いアッシュでも流石にわかりましたか。
そうです、テイルズ…しかもアビスシリーズの最新版ですよ。まぁ、まだ試作段階の物ですが…」
「で?これを俺にどうしろと…?」
「だから卒業祝いと入学祝いのプレゼントです。どうぞ。」
プレゼントと言ってるがきっと市販される前にデータを取る実験の間違いだとアッシュは感じる。
この男が自分の利益なしに人にプレゼントをあげるとは想像もできないからだ。
「いらねぇ…」
「おやおや、人の好意をそんな風に返すものではありませんよ。ルークなら素直に受け取るでしょうねぇ」
「だから…!!!あいつの名前を言うんじゃねぇ!!!」
また眉間に皺を増やしジェイドを睨みつけるが、ジェイドは変わらず笑顔で笑っている。
普通の人ならばアッシュの怒り顔を見ただけで震えあがってしまうが…
昔からの知り合いで慣れたのか、はたまたジェイドが普通の人ではないから無害なのかは定かではない。
「おっと…もうこんな時間ですか…でわ、私はこれで帰りますね。定期的にデータよろしくお願いしますね。」
「待て…!!!これ持って帰れっ…!!!」
アッシュが掴みかかってジェイドをとらえようとしたが、
ジェイドは風のようにアッシュをかわして玄関から逃走した。
30代後半とは思えない動きである。
アッシュは深いため息をつき手元にあるカプセルを見た。
カプセルの中にある光の粒はふわふわと浮いており自分の誕生を心待ちにしているように見える。
このまま放置すればこの光の粒は消えてしまう…
ジェイドの掌に踊らされているような感じはしたが、この光の粒には何も罪はない…
仕方がないのでアッシュは自分のパソコンにカプセルを接続させ、テイルズを作成するために説明書を読み始めた。
テイルズはまずパソコンに繋ぎ、自分の好みの姿にカスタマイズすることができる。
初心者用としてネットで身体のパーツが売られており、
上級者は自分がデザインしたパーツを組み合わせてオリジナルを作っている。
アッシュは初心者なのでネットで売られているパーツで作ろうかと思っていたが、
説明書を読むとこれは試作品の為市販されているパーツを組み合わせることはできないらしい…
残る選択肢は自分でデザインをして作らなければならないが初心者であるアッシュにできる技術ではない。
テイルズマニアであるガイを呼びだそうかと思ったが、
何故かジェイドに負けた気がするのでその選択肢は消し去った。
パーツの作り方が乗っているサイトを見て回ったが専門用語が数多く飛び交っていて意味が理解できない。
ふと、パソコンの横に置いてある写真が目に止まる。
写真の中には自分にそっくりな短髪の青年…顔は似ているのに自分には作れない笑顔をしている。
「……この屑兄貴が…何笑ってやがる…」
彼はアッシュの双子の兄…ルークだ。
ルークは丁度1年前…アッシュが高校2年の時交通事故で亡くなった…
ハンドル操作を誤りアッシュに車が激突しそうになっていたところをルークが庇って…亡くなった。
ルークが亡くなってからアッシュは家を出た。
彼との思いでの詰まった家に居ると気がくるってしまいそうだったからだ…
両親もそれを理解してくれたのか反対はしなかった。
目を閉じれば鮮明に思い出すことができる彼との思い出…
家族で旅行に行った思い出。
幼馴染であるナタリアの演劇を一緒に見に行った思い出。
クリスマスに一緒にツリーを見に行った思い出。
そして…高校入学の時に交わした約束。
『俺達3人一緒に同じ大学行こうぜ。』
しかし、その約束は守られることはできなかった…
アッシュとナタリアは同じ大学に行く…けどルークは…
目を閉じてルークとの思い出を思い出しているうちにアッシュはいつの間にか眠ってしまっていた。
誰も居ない部屋…外は暗くなり電気をつけていなかったアッシュの家は暗闇に覆われている。
そんな暗闇の中でカプセルの中にる光の粒は輝いている。
その光はどんどんと強まり…小さい粒だった光は一つの大きな光となった。
そしてその光は形を変え、人間の姿へと変化していった…。
『アッシュ…アッシュ…。』
何処からか聞こえてくる懐かしい声。
あぁ…そうだこの声はルークの声…もう二度と聞くことができない声。
声と一緒に誰かが頬を叩く感触が伝わってくる。
目を開けるとそこには…小さな髪の長い赤毛の青年がアッシュの頬を叩いていた。
「…!!。♪♪♪」
「え?な、な…なっ…ルーク!!!!???」
アッシュの目の前に居たのは死んだはずのルークの姿をした小人。
違うとすれば身体の大きさ…そして髪の長さだった。
「てめぇ…誰だっ…何でルークの姿してやがる…って…お前もしかして…」
アッシュはパソコンにつながれたカプセルを見ると
目が覚める前まであったはずの光と粒が無い。
しかも何故か勝手に蓋があいている。
「お前…テイルズなのか…?俺はまだパーツとか組み合わせてないのに何で…」
「…?。」
まだ生まれたてで話すことができないのか一言も話してこない。
話さない変りにいろいろな表情に変化している…ルークのように…。
時計を見ると起床しないと卒業式に間に合わない時間だった。
どれだけ自分は寝ていたのかと後悔しながらも慌てて朝食を作り始めた。
両手の掌に収まるくらいの大きさであるテイルズはアッシュの肩に乗り楽しそうにアッシュが朝食の準備をする姿を見ている。
その姿すらルークを思い出してしまいアッシュは胸が苦しくなる。
朝食ができたので早速食べようとするが、テイルズは興味深々で焼き立てのパンを眺めている。
説明書を読むと人間と同じ食べ物を食べることができるそうなので、
アッシュはパンを食べやすい大きさにちぎってテイルズに渡した。
パンを渡されたテイルズは最初はわかっていないようだったが、
アッシュがパンを食べる姿を見て食べ物だと学習したのか同じようにパンを食べ始めた。
朝食を食べ終わり片付けをすませると出かけるのに丁度いい時間になっていた。
指定鞄に適当に荷物を詰め込み玄関で靴を履いていると
テイルズが一緒に付いて行くと言っているように肩に乗ってきた。
アッシュは一瞬連れて行こうとしたが、今日は大事な卒業式…連れて行くわけにはいかなかった。
「お前は今日は留守番だ…適当に昼寝でもしてろ」
肩に乗ってきたテイルズを絨毯の上に降ろすと一緒に連れて行って貰えないと理解したのか
今にも泣きそうな顔をしている。
その顔に心が揺らいだがアッシュは心を鬼にして告げた。
「今日はダメだ…明日からならしばらく一緒にいてやれるが…今日は留守番だ。いいか分かったか?」
「!!!!!!!!!!。」
何かを言いたいようだが言葉を覚えてない為機械音みたいな音しか出ておらず何を言っているかわからない。
しかも泣きだしてしまった…。
「っく…行ってくる…」
罪悪感が残っていたがアッシュは玄関の扉を閉めた。
聞こえるはずがないのにテイルズの泣き声が耳に届いてくる気がする。
こんな気持ちになったのは久しぶりな気がする…あの小さな小人がルークと同じ顔をしているからだろうか…
帰ったらあのテイルズを連れてジェイドのところへ怒鳴りに行こうと決めた。
「卒業生…アッシュ・フォン・ファブレ。」
「はい。」
卒業式が始まった。
アッシュは自分の卒業証書を貰うと自分の席より後にある空席をに目を移した。
次々に卒業生の名前が呼ばれ、呼ばれた卒業生は卒業証書を貰っていく…
そして最後の卒業生の名前が呼ばれた。
「ルーク・フォン・ファブレ。」
呼ばれた卒業生は返事をしなかった。
担当の先生はそれをわかっていたので特に何も言わずにマイクから離れた。
本当なら一緒に卒業していたはずなのに…
卒業式が終わり教室で担任から代理としてルークの卒業証書を受け取り
そのまま家へ帰ろうとした時幼馴染の少女に呼びとめられた。
「アッシュ…もう帰ってしまいますの?みんなと少し話でもされたらいかが?」
「いや…そんな気分にはなれない…」
「そう…ですの…」
本当は居るはずだったルークの姿を追いかけてしまうのだろう…
ナタリアはルークが亡くなってアッシュが一番苦しんでいることを知っていた。
「卒業式の唄…私感動しましたわ…流石ティアの唄ですわね。」
「そうだな…」
クラス全員で亡くなったルークに届くように選んだ唄。
それは今人気のテイルズ、ティア・グランツの唄だった。
ルークがティアの唄をとても好きだったから選ばれた…
ティアのマスターであるヴァンもそのことを聞きとても嬉しいとこの前会ったときに話していた。
ヴァンはアッシュとルークの幼いころ家庭教師をしており今でも時々会う。
ルークが亡くなってからは会う機会が減ってしまっているが…。
「おーい、アッシュ。」
後から呼ばれたので振りかえってみるとそこにはスーツに身を固めた実家の使用人であるガイが立っていた。
「ガイ…来るなと言ったじゃねぇか。」
「そんなこと言われて来ないやつなんているか。旦那様と奥様も来てたけど先に帰ったぜ。」
多分アッシュに気を使って声をかけずに帰ったのだろう…まだ傷の癒えていないアッシュの為に。
「ほら、アッシュ帰るんだろ?車で来てるから送ってやるよ。」
「あぁ…わかった。じゃぁ、ナタリア…次は入学式か?」
「えぇ…そうですわね。またメールしますわ。」
寂しそうに笑うナタリアに小さく手を振りガイの乗ってきた車に乗り込んだ。
何故か助手席には大きな荷物があった。
「おい、ガイ…。何だこの荷物は…」
「ん?あぁ…今日からお前の世話係として一緒に暮らすから。旦那様と奥様の命令で」
「なっ…!!!何勝手なことしやがる!!!」
「全く連絡してこないお前が悪いんだろ?」
家を出る時に定期的に連絡をすると約束をしたがアッシュは守れていない。
連絡をしようとするとルークのことを思い出し電話をかけることができないからだ。
何度も注意されたが治る気配がなかったので心配性の両親は最終手段としてガイを向わせたのだろう。
「そういえばお前。ジェイドの旦那からテイルズ貰ったんだって?」
「何で知ってるんだ…」
「本人から聞いた。多分お前一人じゃ作れないから手伝ってやれってな。」
「あの野郎…」
悪い笑顔で笑っているジェイドの顔がはっきりと思い浮かべれる。
だが、アッシュに取っては良いことでもある。
何故ならテイルズの知識などほとんどないアッシュ一人ではあの小人を育てることなど難しいからだ。
起動プログラムも設定していないのに動き出したあの小人…
試作品なのでバグかもしれないがガイに見せたら何かわかるかもしれない。
きっと今頃泣き疲れてベッドの上で寝ているあの小さなテイルズの姿が目に浮かんだ。
そうこうしているうちに車はアッシュが暮らすマンションの駐車場へと着いた。
ガイは大きな荷物を一緒に運び出しているので本気でここに住むつもりなのだろう。
玄関の扉をあけると絨毯の上には小さな赤毛の小人が眠っていた。
朝絨毯の上に置いてから一歩も動いていないのだろう…。
「ったく…屑が…」
「お邪魔しま…って、る、ルーク!?じゃないな…テイルズか…これってまさか…」
「あの屑眼鏡から貰ったテイルズだ」
「へー…お前ちゃんとプログラムとか全部できたんだな…ん?何かこいつ様子おかしくないか?」
ガイに言われてよくみれば小さく震えているように見える。
まだ泣いているのだろうと思いテイルズの身体を触ったがアッシュは反射的にその手をひっこめた。
「熱っ…!!!」
ガイが慌ててテイルズの身体を触り様子を調べると慌てて絨毯ごとテイルズを持ちあげた。
「お、おい…ガイ…?」
「熱暴走してる…!!!このままじゃこいつ死ぬぞ!!!」
「え?…し、死ぬ…?」
何故か死んだルークの姿が目の前に現れた。
彼の最後を見たのもアッシュだった…
最後も彼はいつもの笑顔をアッシュに向けて眠るようにアッシュの手から離れていった。
「ガイ…どうにかならないのか!!」
「旦那なら…治せるかもしれない…かなり手遅れに近いが…一応連れて行こう。」
「あ、あぁ…」
二人は急いで地下の駐車場へ戻りジェイドの居る研究所へと車を走らせた。
研究所に着いた二人はジェイドに説明をすると応急処置としてテイルズが最初に入っていた
カプセルと同じような容器に入れ冷却作業を始めてくれた。
が、かなり熱暴走が進行しており助かるかはわからないらしい…。
「貴方っては人は…生まれたての子を放置するなんて…無責任にもほどがありますよ。」
「…………す、すまない…」
「まぁまぁ、旦那…今日は卒業式で連れて行こうにも連れていけなかったんだから…」
「困って私のところに預けてくると思ってたのですがねぇ…」
アッシュは何も言い返せなかった。
言い返すよりもまた自分のせいで人を失ってしまうのかと思うと怖くて仕方がない。
ジェイドが言うにはアッシュが家を出たあとずっと泣いており、
そのせいで熱暴走をしてしまったのだろう…とう見方だ。
やはり無理にでも連れていくべきだった…意地を張らずにガイやジェイドに相談すればよかった…
と心から反省している。
「…朝になっても様態が変わらないようでしたら…諦めてください。」
ジェイドの言葉でアッシュの脳内にはまたルークの最後が浮かんだ。
笑顔で自分の手から離れて行ったルーク…
また自分はルークを手離してしまうのだろうか…
ジェイドは仕事があると言い部屋を出て行き、ガイも近くのコンビニで晩御飯を買ってくると言って出て行った。
部屋には二人きり…様子を見るためカプセルに近づくが様態は変わらない…。
「すまない…俺のせいで…頼むから…死なないでくれ…もう、俺の前から消えないでくれ…」
ルークが死んだ時に自分からはもう涙など出ないと思っていたくらい泣いたのに…
アッシュの目からは涙が流れ始めた。
「ずっと…そばにいてくれ…お前のいない世界なんていらない…二度と手を離さないから…ルーク…」
いきなりカプセルの中にいたテイルズの身体が光だした。
その光は何故かとても温かく…優しくて、懐かしい光だった。
光が収まりアッシュがテイルズの様子を見るとさっきまで真っ赤な顔をしていた顔が
徐々に元の色に戻ってきている。
元の色にまで戻るとその小さな瞳が開き、あたりをきょろきょろと伺いアッシュの姿を見つけると
嬉しそうにアッシュにとびかかろうとしたが、カプセルのガラスに阻まれ飛びつくことができない。
アッシュに触れないことを理解したのかまた泣きそうな表情をみせたので、
慌てて装置の電源を切りカプセルの蓋をあけ外に出してやるとそのままアッシュの顔に飛びついた。
「なっ…てめぇ…さっきまで死にそうになってたのにめちゃくちゃ元気じゃねぇかっ!!!」
「♪♪♪」
テイルズは嬉しそうにアッシュの頬と自分の小さな頬を擦らせる。
その姿を見てアッシュは優しそうな顔をして指でその小さな頭を優しく撫でた。
アッシュは小さなテイルズを研究室のパソコンに接続し、まだつけていなかった名前を登録した。
『Luke…ルーク…登録しました。』
パソコンから機械的な女性の声で登録した名前の確認をした。
アッシュはパソコンの接続を切り、ルークと名付けたテイルズを優しく両手で持ち上げ自分の肩へと移動させた。
「やっぱり…その姿じゃこの名前以外ねぇな…」
すりすりと自分の頬にじゃれてくる小さなルークをみて久しぶりに温かい気持ちを思い出した。
小さなルークはアッシュの髪をひっぱりアッシュを自分の方へと向けると笑顔で口を動かした。
「……あ…あ…っしゅ…。あっしゅ…。」
「お、お前…俺の名前教えてもないのに…どうして…」
ルークはそれ以外まだ話せないのかアッシュの名前を何度も呼ぶ。
まるで忘れてないよ…自分はここにいるよと訴えているかのように…
何度も自分の名前を呼ばれ顔を真っ赤にさせた。
このテイルズにはいろいろと不思議なことがあるが
とりあえず今はこの帰ってきた小さなルークを心から迎えようと思った。
「………お帰り…ルーク。」
「………♪。」
人間と一緒に共存している。
テイルズと呼ばれる者達にもシリーズがあり、
特にアビスシリーズと呼ばれる者達は唄を歌うのが得意だ。
そんなアビスシリーズの開発者はジェイド・カーティスと呼ばれる
いろいろと性格に難がある眼鏡野郎だ。
何故か俺はそいつと昔から縁があり、
明日高校の卒業式を迎えるその日…そいつが家に訪ねてきた。
『お帰りなさい~3月~』
「いやぁ~…あなたのその学生服も今日で見おさめなのですねぇ…」
「明日の卒業式もこれを着る。その前にてめぇ…鍵かけてる部屋にどうやって入った…」
「あんなの私の頭脳にかかれば鍵とはいいませんよ。」
黒い頬笑みでリビングの椅子に悠々と座っているジェイドがアッシュに笑いかけた。
アッシュは高校生だが今は訳があり高級マンションで一人暮らしをしている。
両親が安全の為にと選んだ高性能のセキュリティーロックもジェイドにかかれば
鍵がかかっていないのと同じのようだ。
普通に考えて不法侵入で訴えれるが、訴えたところで無罪にされてしまうのが
目に見えていたのでアッシュはそれ以上何も言わなかった。
「で?今日は何の用だ…用がないならとっとと帰りやがれ。」
「相変わらずつれないですねぇ…ルークとは大違いですね。」
ジェイドの口からでた人物の名前を耳にした途端アッシュの眉間に皺が増えジェイドを睨みつけた。
「あいつの名前を口にするんじゃねぇ…窓から放りだすぞ。」
ここは高層マンションの上階…ここから放り出されればいくらジェイドでも
助かる見込みはない…………はずだ。
「おやおや…まだ引きずっているのですね。そんな貴方に高校卒業祝いと大学入学祝いです。」
ジェイドが鞄から出したのは両手で抱えれるくらい大きなカプセルと分厚い説明書だった。
カプセルの中には小さな光が輝いて外に出るのを今か今かと待っている…。
「それは…テイルズの種か…?」
「コンピューターに弱いアッシュでも流石にわかりましたか。
そうです、テイルズ…しかもアビスシリーズの最新版ですよ。まぁ、まだ試作段階の物ですが…」
「で?これを俺にどうしろと…?」
「だから卒業祝いと入学祝いのプレゼントです。どうぞ。」
プレゼントと言ってるがきっと市販される前にデータを取る実験の間違いだとアッシュは感じる。
この男が自分の利益なしに人にプレゼントをあげるとは想像もできないからだ。
「いらねぇ…」
「おやおや、人の好意をそんな風に返すものではありませんよ。ルークなら素直に受け取るでしょうねぇ」
「だから…!!!あいつの名前を言うんじゃねぇ!!!」
また眉間に皺を増やしジェイドを睨みつけるが、ジェイドは変わらず笑顔で笑っている。
普通の人ならばアッシュの怒り顔を見ただけで震えあがってしまうが…
昔からの知り合いで慣れたのか、はたまたジェイドが普通の人ではないから無害なのかは定かではない。
「おっと…もうこんな時間ですか…でわ、私はこれで帰りますね。定期的にデータよろしくお願いしますね。」
「待て…!!!これ持って帰れっ…!!!」
アッシュが掴みかかってジェイドをとらえようとしたが、
ジェイドは風のようにアッシュをかわして玄関から逃走した。
30代後半とは思えない動きである。
アッシュは深いため息をつき手元にあるカプセルを見た。
カプセルの中にある光の粒はふわふわと浮いており自分の誕生を心待ちにしているように見える。
このまま放置すればこの光の粒は消えてしまう…
ジェイドの掌に踊らされているような感じはしたが、この光の粒には何も罪はない…
仕方がないのでアッシュは自分のパソコンにカプセルを接続させ、テイルズを作成するために説明書を読み始めた。
テイルズはまずパソコンに繋ぎ、自分の好みの姿にカスタマイズすることができる。
初心者用としてネットで身体のパーツが売られており、
上級者は自分がデザインしたパーツを組み合わせてオリジナルを作っている。
アッシュは初心者なのでネットで売られているパーツで作ろうかと思っていたが、
説明書を読むとこれは試作品の為市販されているパーツを組み合わせることはできないらしい…
残る選択肢は自分でデザインをして作らなければならないが初心者であるアッシュにできる技術ではない。
テイルズマニアであるガイを呼びだそうかと思ったが、
何故かジェイドに負けた気がするのでその選択肢は消し去った。
パーツの作り方が乗っているサイトを見て回ったが専門用語が数多く飛び交っていて意味が理解できない。
ふと、パソコンの横に置いてある写真が目に止まる。
写真の中には自分にそっくりな短髪の青年…顔は似ているのに自分には作れない笑顔をしている。
「……この屑兄貴が…何笑ってやがる…」
彼はアッシュの双子の兄…ルークだ。
ルークは丁度1年前…アッシュが高校2年の時交通事故で亡くなった…
ハンドル操作を誤りアッシュに車が激突しそうになっていたところをルークが庇って…亡くなった。
ルークが亡くなってからアッシュは家を出た。
彼との思いでの詰まった家に居ると気がくるってしまいそうだったからだ…
両親もそれを理解してくれたのか反対はしなかった。
目を閉じれば鮮明に思い出すことができる彼との思い出…
家族で旅行に行った思い出。
幼馴染であるナタリアの演劇を一緒に見に行った思い出。
クリスマスに一緒にツリーを見に行った思い出。
そして…高校入学の時に交わした約束。
『俺達3人一緒に同じ大学行こうぜ。』
しかし、その約束は守られることはできなかった…
アッシュとナタリアは同じ大学に行く…けどルークは…
目を閉じてルークとの思い出を思い出しているうちにアッシュはいつの間にか眠ってしまっていた。
誰も居ない部屋…外は暗くなり電気をつけていなかったアッシュの家は暗闇に覆われている。
そんな暗闇の中でカプセルの中にる光の粒は輝いている。
その光はどんどんと強まり…小さい粒だった光は一つの大きな光となった。
そしてその光は形を変え、人間の姿へと変化していった…。
『アッシュ…アッシュ…。』
何処からか聞こえてくる懐かしい声。
あぁ…そうだこの声はルークの声…もう二度と聞くことができない声。
声と一緒に誰かが頬を叩く感触が伝わってくる。
目を開けるとそこには…小さな髪の長い赤毛の青年がアッシュの頬を叩いていた。
「…!!。♪♪♪」
「え?な、な…なっ…ルーク!!!!???」
アッシュの目の前に居たのは死んだはずのルークの姿をした小人。
違うとすれば身体の大きさ…そして髪の長さだった。
「てめぇ…誰だっ…何でルークの姿してやがる…って…お前もしかして…」
アッシュはパソコンにつながれたカプセルを見ると
目が覚める前まであったはずの光と粒が無い。
しかも何故か勝手に蓋があいている。
「お前…テイルズなのか…?俺はまだパーツとか組み合わせてないのに何で…」
「…?。」
まだ生まれたてで話すことができないのか一言も話してこない。
話さない変りにいろいろな表情に変化している…ルークのように…。
時計を見ると起床しないと卒業式に間に合わない時間だった。
どれだけ自分は寝ていたのかと後悔しながらも慌てて朝食を作り始めた。
両手の掌に収まるくらいの大きさであるテイルズはアッシュの肩に乗り楽しそうにアッシュが朝食の準備をする姿を見ている。
その姿すらルークを思い出してしまいアッシュは胸が苦しくなる。
朝食ができたので早速食べようとするが、テイルズは興味深々で焼き立てのパンを眺めている。
説明書を読むと人間と同じ食べ物を食べることができるそうなので、
アッシュはパンを食べやすい大きさにちぎってテイルズに渡した。
パンを渡されたテイルズは最初はわかっていないようだったが、
アッシュがパンを食べる姿を見て食べ物だと学習したのか同じようにパンを食べ始めた。
朝食を食べ終わり片付けをすませると出かけるのに丁度いい時間になっていた。
指定鞄に適当に荷物を詰め込み玄関で靴を履いていると
テイルズが一緒に付いて行くと言っているように肩に乗ってきた。
アッシュは一瞬連れて行こうとしたが、今日は大事な卒業式…連れて行くわけにはいかなかった。
「お前は今日は留守番だ…適当に昼寝でもしてろ」
肩に乗ってきたテイルズを絨毯の上に降ろすと一緒に連れて行って貰えないと理解したのか
今にも泣きそうな顔をしている。
その顔に心が揺らいだがアッシュは心を鬼にして告げた。
「今日はダメだ…明日からならしばらく一緒にいてやれるが…今日は留守番だ。いいか分かったか?」
「!!!!!!!!!!。」
何かを言いたいようだが言葉を覚えてない為機械音みたいな音しか出ておらず何を言っているかわからない。
しかも泣きだしてしまった…。
「っく…行ってくる…」
罪悪感が残っていたがアッシュは玄関の扉を閉めた。
聞こえるはずがないのにテイルズの泣き声が耳に届いてくる気がする。
こんな気持ちになったのは久しぶりな気がする…あの小さな小人がルークと同じ顔をしているからだろうか…
帰ったらあのテイルズを連れてジェイドのところへ怒鳴りに行こうと決めた。
「卒業生…アッシュ・フォン・ファブレ。」
「はい。」
卒業式が始まった。
アッシュは自分の卒業証書を貰うと自分の席より後にある空席をに目を移した。
次々に卒業生の名前が呼ばれ、呼ばれた卒業生は卒業証書を貰っていく…
そして最後の卒業生の名前が呼ばれた。
「ルーク・フォン・ファブレ。」
呼ばれた卒業生は返事をしなかった。
担当の先生はそれをわかっていたので特に何も言わずにマイクから離れた。
本当なら一緒に卒業していたはずなのに…
卒業式が終わり教室で担任から代理としてルークの卒業証書を受け取り
そのまま家へ帰ろうとした時幼馴染の少女に呼びとめられた。
「アッシュ…もう帰ってしまいますの?みんなと少し話でもされたらいかが?」
「いや…そんな気分にはなれない…」
「そう…ですの…」
本当は居るはずだったルークの姿を追いかけてしまうのだろう…
ナタリアはルークが亡くなってアッシュが一番苦しんでいることを知っていた。
「卒業式の唄…私感動しましたわ…流石ティアの唄ですわね。」
「そうだな…」
クラス全員で亡くなったルークに届くように選んだ唄。
それは今人気のテイルズ、ティア・グランツの唄だった。
ルークがティアの唄をとても好きだったから選ばれた…
ティアのマスターであるヴァンもそのことを聞きとても嬉しいとこの前会ったときに話していた。
ヴァンはアッシュとルークの幼いころ家庭教師をしており今でも時々会う。
ルークが亡くなってからは会う機会が減ってしまっているが…。
「おーい、アッシュ。」
後から呼ばれたので振りかえってみるとそこにはスーツに身を固めた実家の使用人であるガイが立っていた。
「ガイ…来るなと言ったじゃねぇか。」
「そんなこと言われて来ないやつなんているか。旦那様と奥様も来てたけど先に帰ったぜ。」
多分アッシュに気を使って声をかけずに帰ったのだろう…まだ傷の癒えていないアッシュの為に。
「ほら、アッシュ帰るんだろ?車で来てるから送ってやるよ。」
「あぁ…わかった。じゃぁ、ナタリア…次は入学式か?」
「えぇ…そうですわね。またメールしますわ。」
寂しそうに笑うナタリアに小さく手を振りガイの乗ってきた車に乗り込んだ。
何故か助手席には大きな荷物があった。
「おい、ガイ…。何だこの荷物は…」
「ん?あぁ…今日からお前の世話係として一緒に暮らすから。旦那様と奥様の命令で」
「なっ…!!!何勝手なことしやがる!!!」
「全く連絡してこないお前が悪いんだろ?」
家を出る時に定期的に連絡をすると約束をしたがアッシュは守れていない。
連絡をしようとするとルークのことを思い出し電話をかけることができないからだ。
何度も注意されたが治る気配がなかったので心配性の両親は最終手段としてガイを向わせたのだろう。
「そういえばお前。ジェイドの旦那からテイルズ貰ったんだって?」
「何で知ってるんだ…」
「本人から聞いた。多分お前一人じゃ作れないから手伝ってやれってな。」
「あの野郎…」
悪い笑顔で笑っているジェイドの顔がはっきりと思い浮かべれる。
だが、アッシュに取っては良いことでもある。
何故ならテイルズの知識などほとんどないアッシュ一人ではあの小人を育てることなど難しいからだ。
起動プログラムも設定していないのに動き出したあの小人…
試作品なのでバグかもしれないがガイに見せたら何かわかるかもしれない。
きっと今頃泣き疲れてベッドの上で寝ているあの小さなテイルズの姿が目に浮かんだ。
そうこうしているうちに車はアッシュが暮らすマンションの駐車場へと着いた。
ガイは大きな荷物を一緒に運び出しているので本気でここに住むつもりなのだろう。
玄関の扉をあけると絨毯の上には小さな赤毛の小人が眠っていた。
朝絨毯の上に置いてから一歩も動いていないのだろう…。
「ったく…屑が…」
「お邪魔しま…って、る、ルーク!?じゃないな…テイルズか…これってまさか…」
「あの屑眼鏡から貰ったテイルズだ」
「へー…お前ちゃんとプログラムとか全部できたんだな…ん?何かこいつ様子おかしくないか?」
ガイに言われてよくみれば小さく震えているように見える。
まだ泣いているのだろうと思いテイルズの身体を触ったがアッシュは反射的にその手をひっこめた。
「熱っ…!!!」
ガイが慌ててテイルズの身体を触り様子を調べると慌てて絨毯ごとテイルズを持ちあげた。
「お、おい…ガイ…?」
「熱暴走してる…!!!このままじゃこいつ死ぬぞ!!!」
「え?…し、死ぬ…?」
何故か死んだルークの姿が目の前に現れた。
彼の最後を見たのもアッシュだった…
最後も彼はいつもの笑顔をアッシュに向けて眠るようにアッシュの手から離れていった。
「ガイ…どうにかならないのか!!」
「旦那なら…治せるかもしれない…かなり手遅れに近いが…一応連れて行こう。」
「あ、あぁ…」
二人は急いで地下の駐車場へ戻りジェイドの居る研究所へと車を走らせた。
研究所に着いた二人はジェイドに説明をすると応急処置としてテイルズが最初に入っていた
カプセルと同じような容器に入れ冷却作業を始めてくれた。
が、かなり熱暴走が進行しており助かるかはわからないらしい…。
「貴方っては人は…生まれたての子を放置するなんて…無責任にもほどがありますよ。」
「…………す、すまない…」
「まぁまぁ、旦那…今日は卒業式で連れて行こうにも連れていけなかったんだから…」
「困って私のところに預けてくると思ってたのですがねぇ…」
アッシュは何も言い返せなかった。
言い返すよりもまた自分のせいで人を失ってしまうのかと思うと怖くて仕方がない。
ジェイドが言うにはアッシュが家を出たあとずっと泣いており、
そのせいで熱暴走をしてしまったのだろう…とう見方だ。
やはり無理にでも連れていくべきだった…意地を張らずにガイやジェイドに相談すればよかった…
と心から反省している。
「…朝になっても様態が変わらないようでしたら…諦めてください。」
ジェイドの言葉でアッシュの脳内にはまたルークの最後が浮かんだ。
笑顔で自分の手から離れて行ったルーク…
また自分はルークを手離してしまうのだろうか…
ジェイドは仕事があると言い部屋を出て行き、ガイも近くのコンビニで晩御飯を買ってくると言って出て行った。
部屋には二人きり…様子を見るためカプセルに近づくが様態は変わらない…。
「すまない…俺のせいで…頼むから…死なないでくれ…もう、俺の前から消えないでくれ…」
ルークが死んだ時に自分からはもう涙など出ないと思っていたくらい泣いたのに…
アッシュの目からは涙が流れ始めた。
「ずっと…そばにいてくれ…お前のいない世界なんていらない…二度と手を離さないから…ルーク…」
いきなりカプセルの中にいたテイルズの身体が光だした。
その光は何故かとても温かく…優しくて、懐かしい光だった。
光が収まりアッシュがテイルズの様子を見るとさっきまで真っ赤な顔をしていた顔が
徐々に元の色に戻ってきている。
元の色にまで戻るとその小さな瞳が開き、あたりをきょろきょろと伺いアッシュの姿を見つけると
嬉しそうにアッシュにとびかかろうとしたが、カプセルのガラスに阻まれ飛びつくことができない。
アッシュに触れないことを理解したのかまた泣きそうな表情をみせたので、
慌てて装置の電源を切りカプセルの蓋をあけ外に出してやるとそのままアッシュの顔に飛びついた。
「なっ…てめぇ…さっきまで死にそうになってたのにめちゃくちゃ元気じゃねぇかっ!!!」
「♪♪♪」
テイルズは嬉しそうにアッシュの頬と自分の小さな頬を擦らせる。
その姿を見てアッシュは優しそうな顔をして指でその小さな頭を優しく撫でた。
アッシュは小さなテイルズを研究室のパソコンに接続し、まだつけていなかった名前を登録した。
『Luke…ルーク…登録しました。』
パソコンから機械的な女性の声で登録した名前の確認をした。
アッシュはパソコンの接続を切り、ルークと名付けたテイルズを優しく両手で持ち上げ自分の肩へと移動させた。
「やっぱり…その姿じゃこの名前以外ねぇな…」
すりすりと自分の頬にじゃれてくる小さなルークをみて久しぶりに温かい気持ちを思い出した。
小さなルークはアッシュの髪をひっぱりアッシュを自分の方へと向けると笑顔で口を動かした。
「……あ…あ…っしゅ…。あっしゅ…。」
「お、お前…俺の名前教えてもないのに…どうして…」
ルークはそれ以外まだ話せないのかアッシュの名前を何度も呼ぶ。
まるで忘れてないよ…自分はここにいるよと訴えているかのように…
何度も自分の名前を呼ばれ顔を真っ赤にさせた。
このテイルズにはいろいろと不思議なことがあるが
とりあえず今はこの帰ってきた小さなルークを心から迎えようと思った。
「………お帰り…ルーク。」
「………♪。」