旭屋本舗
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この世界にはテイルズと呼ばれるコンピューターの意識集合体が
人間と一緒に共存している。
テイルズと呼ばれる者達にもシリーズがあり、
特にアビスシリーズと呼ばれる者達は唄を歌うのが得意だ。
そんなアビスシリーズの開発者はジェイド・カーティスと呼ばれる
いろいろと性格に難がある眼鏡野郎だ。
何故か俺はそいつと昔から縁があり、
明日高校の卒業式を迎えるその日…そいつが家に訪ねてきた。
『お帰りなさい~3月~』
「いやぁ~…あなたのその学生服も今日で見おさめなのですねぇ…」
「明日の卒業式もこれを着る。その前にてめぇ…鍵かけてる部屋にどうやって入った…」
「あんなの私の頭脳にかかれば鍵とはいいませんよ。」
黒い頬笑みでリビングの椅子に悠々と座っているジェイドがアッシュに笑いかけた。
アッシュは高校生だが今は訳があり高級マンションで一人暮らしをしている。
両親が安全の為にと選んだ高性能のセキュリティーロックもジェイドにかかれば
鍵がかかっていないのと同じのようだ。
普通に考えて不法侵入で訴えれるが、訴えたところで無罪にされてしまうのが
目に見えていたのでアッシュはそれ以上何も言わなかった。
「で?今日は何の用だ…用がないならとっとと帰りやがれ。」
「相変わらずつれないですねぇ…ルークとは大違いですね。」
ジェイドの口からでた人物の名前を耳にした途端アッシュの眉間に皺が増えジェイドを睨みつけた。
「あいつの名前を口にするんじゃねぇ…窓から放りだすぞ。」
ここは高層マンションの上階…ここから放り出されればいくらジェイドでも
助かる見込みはない…………はずだ。
「おやおや…まだ引きずっているのですね。そんな貴方に高校卒業祝いと大学入学祝いです。」
ジェイドが鞄から出したのは両手で抱えれるくらい大きなカプセルと分厚い説明書だった。
カプセルの中には小さな光が輝いて外に出るのを今か今かと待っている…。
「それは…テイルズの種か…?」
「コンピューターに弱いアッシュでも流石にわかりましたか。
そうです、テイルズ…しかもアビスシリーズの最新版ですよ。まぁ、まだ試作段階の物ですが…」
「で?これを俺にどうしろと…?」
「だから卒業祝いと入学祝いのプレゼントです。どうぞ。」
プレゼントと言ってるがきっと市販される前にデータを取る実験の間違いだとアッシュは感じる。
この男が自分の利益なしに人にプレゼントをあげるとは想像もできないからだ。
「いらねぇ…」
「おやおや、人の好意をそんな風に返すものではありませんよ。ルークなら素直に受け取るでしょうねぇ」
「だから…!!!あいつの名前を言うんじゃねぇ!!!」
また眉間に皺を増やしジェイドを睨みつけるが、ジェイドは変わらず笑顔で笑っている。
普通の人ならばアッシュの怒り顔を見ただけで震えあがってしまうが…
昔からの知り合いで慣れたのか、はたまたジェイドが普通の人ではないから無害なのかは定かではない。
「おっと…もうこんな時間ですか…でわ、私はこれで帰りますね。定期的にデータよろしくお願いしますね。」
「待て…!!!これ持って帰れっ…!!!」
アッシュが掴みかかってジェイドをとらえようとしたが、
ジェイドは風のようにアッシュをかわして玄関から逃走した。
30代後半とは思えない動きである。
アッシュは深いため息をつき手元にあるカプセルを見た。
カプセルの中にある光の粒はふわふわと浮いており自分の誕生を心待ちにしているように見える。
このまま放置すればこの光の粒は消えてしまう…
ジェイドの掌に踊らされているような感じはしたが、この光の粒には何も罪はない…
仕方がないのでアッシュは自分のパソコンにカプセルを接続させ、テイルズを作成するために説明書を読み始めた。
テイルズはまずパソコンに繋ぎ、自分の好みの姿にカスタマイズすることができる。
初心者用としてネットで身体のパーツが売られており、
上級者は自分がデザインしたパーツを組み合わせてオリジナルを作っている。
アッシュは初心者なのでネットで売られているパーツで作ろうかと思っていたが、
説明書を読むとこれは試作品の為市販されているパーツを組み合わせることはできないらしい…
残る選択肢は自分でデザインをして作らなければならないが初心者であるアッシュにできる技術ではない。
テイルズマニアであるガイを呼びだそうかと思ったが、
何故かジェイドに負けた気がするのでその選択肢は消し去った。
パーツの作り方が乗っているサイトを見て回ったが専門用語が数多く飛び交っていて意味が理解できない。
ふと、パソコンの横に置いてある写真が目に止まる。
写真の中には自分にそっくりな短髪の青年…顔は似ているのに自分には作れない笑顔をしている。
「……この屑兄貴が…何笑ってやがる…」
彼はアッシュの双子の兄…ルークだ。
ルークは丁度1年前…アッシュが高校2年の時交通事故で亡くなった…
ハンドル操作を誤りアッシュに車が激突しそうになっていたところをルークが庇って…亡くなった。
ルークが亡くなってからアッシュは家を出た。
彼との思いでの詰まった家に居ると気がくるってしまいそうだったからだ…
両親もそれを理解してくれたのか反対はしなかった。
目を閉じれば鮮明に思い出すことができる彼との思い出…
家族で旅行に行った思い出。
幼馴染であるナタリアの演劇を一緒に見に行った思い出。
クリスマスに一緒にツリーを見に行った思い出。
そして…高校入学の時に交わした約束。
『俺達3人一緒に同じ大学行こうぜ。』
しかし、その約束は守られることはできなかった…
アッシュとナタリアは同じ大学に行く…けどルークは…
目を閉じてルークとの思い出を思い出しているうちにアッシュはいつの間にか眠ってしまっていた。
誰も居ない部屋…外は暗くなり電気をつけていなかったアッシュの家は暗闇に覆われている。
そんな暗闇の中でカプセルの中にる光の粒は輝いている。
その光はどんどんと強まり…小さい粒だった光は一つの大きな光となった。
そしてその光は形を変え、人間の姿へと変化していった…。
『アッシュ…アッシュ…。』
何処からか聞こえてくる懐かしい声。
あぁ…そうだこの声はルークの声…もう二度と聞くことができない声。
声と一緒に誰かが頬を叩く感触が伝わってくる。
目を開けるとそこには…小さな髪の長い赤毛の青年がアッシュの頬を叩いていた。
「…!!。♪♪♪」
「え?な、な…なっ…ルーク!!!!???」
アッシュの目の前に居たのは死んだはずのルークの姿をした小人。
違うとすれば身体の大きさ…そして髪の長さだった。
「てめぇ…誰だっ…何でルークの姿してやがる…って…お前もしかして…」
アッシュはパソコンにつながれたカプセルを見ると
目が覚める前まであったはずの光と粒が無い。
しかも何故か勝手に蓋があいている。
「お前…テイルズなのか…?俺はまだパーツとか組み合わせてないのに何で…」
「…?。」
まだ生まれたてで話すことができないのか一言も話してこない。
話さない変りにいろいろな表情に変化している…ルークのように…。
時計を見ると起床しないと卒業式に間に合わない時間だった。
どれだけ自分は寝ていたのかと後悔しながらも慌てて朝食を作り始めた。
両手の掌に収まるくらいの大きさであるテイルズはアッシュの肩に乗り楽しそうにアッシュが朝食の準備をする姿を見ている。
その姿すらルークを思い出してしまいアッシュは胸が苦しくなる。
朝食ができたので早速食べようとするが、テイルズは興味深々で焼き立てのパンを眺めている。
説明書を読むと人間と同じ食べ物を食べることができるそうなので、
アッシュはパンを食べやすい大きさにちぎってテイルズに渡した。
パンを渡されたテイルズは最初はわかっていないようだったが、
アッシュがパンを食べる姿を見て食べ物だと学習したのか同じようにパンを食べ始めた。
朝食を食べ終わり片付けをすませると出かけるのに丁度いい時間になっていた。
指定鞄に適当に荷物を詰め込み玄関で靴を履いていると
テイルズが一緒に付いて行くと言っているように肩に乗ってきた。
アッシュは一瞬連れて行こうとしたが、今日は大事な卒業式…連れて行くわけにはいかなかった。
「お前は今日は留守番だ…適当に昼寝でもしてろ」
肩に乗ってきたテイルズを絨毯の上に降ろすと一緒に連れて行って貰えないと理解したのか
今にも泣きそうな顔をしている。
その顔に心が揺らいだがアッシュは心を鬼にして告げた。
「今日はダメだ…明日からならしばらく一緒にいてやれるが…今日は留守番だ。いいか分かったか?」
「!!!!!!!!!!。」
何かを言いたいようだが言葉を覚えてない為機械音みたいな音しか出ておらず何を言っているかわからない。
しかも泣きだしてしまった…。
「っく…行ってくる…」
罪悪感が残っていたがアッシュは玄関の扉を閉めた。
聞こえるはずがないのにテイルズの泣き声が耳に届いてくる気がする。
こんな気持ちになったのは久しぶりな気がする…あの小さな小人がルークと同じ顔をしているからだろうか…
帰ったらあのテイルズを連れてジェイドのところへ怒鳴りに行こうと決めた。
「卒業生…アッシュ・フォン・ファブレ。」
「はい。」
卒業式が始まった。
アッシュは自分の卒業証書を貰うと自分の席より後にある空席をに目を移した。
次々に卒業生の名前が呼ばれ、呼ばれた卒業生は卒業証書を貰っていく…
そして最後の卒業生の名前が呼ばれた。
「ルーク・フォン・ファブレ。」
呼ばれた卒業生は返事をしなかった。
担当の先生はそれをわかっていたので特に何も言わずにマイクから離れた。
本当なら一緒に卒業していたはずなのに…
卒業式が終わり教室で担任から代理としてルークの卒業証書を受け取り
そのまま家へ帰ろうとした時幼馴染の少女に呼びとめられた。
「アッシュ…もう帰ってしまいますの?みんなと少し話でもされたらいかが?」
「いや…そんな気分にはなれない…」
「そう…ですの…」
本当は居るはずだったルークの姿を追いかけてしまうのだろう…
ナタリアはルークが亡くなってアッシュが一番苦しんでいることを知っていた。
「卒業式の唄…私感動しましたわ…流石ティアの唄ですわね。」
「そうだな…」
クラス全員で亡くなったルークに届くように選んだ唄。
それは今人気のテイルズ、ティア・グランツの唄だった。
ルークがティアの唄をとても好きだったから選ばれた…
ティアのマスターであるヴァンもそのことを聞きとても嬉しいとこの前会ったときに話していた。
ヴァンはアッシュとルークの幼いころ家庭教師をしており今でも時々会う。
ルークが亡くなってからは会う機会が減ってしまっているが…。
「おーい、アッシュ。」
後から呼ばれたので振りかえってみるとそこにはスーツに身を固めた実家の使用人であるガイが立っていた。
「ガイ…来るなと言ったじゃねぇか。」
「そんなこと言われて来ないやつなんているか。旦那様と奥様も来てたけど先に帰ったぜ。」
多分アッシュに気を使って声をかけずに帰ったのだろう…まだ傷の癒えていないアッシュの為に。
「ほら、アッシュ帰るんだろ?車で来てるから送ってやるよ。」
「あぁ…わかった。じゃぁ、ナタリア…次は入学式か?」
「えぇ…そうですわね。またメールしますわ。」
寂しそうに笑うナタリアに小さく手を振りガイの乗ってきた車に乗り込んだ。
何故か助手席には大きな荷物があった。
「おい、ガイ…。何だこの荷物は…」
「ん?あぁ…今日からお前の世話係として一緒に暮らすから。旦那様と奥様の命令で」
「なっ…!!!何勝手なことしやがる!!!」
「全く連絡してこないお前が悪いんだろ?」
家を出る時に定期的に連絡をすると約束をしたがアッシュは守れていない。
連絡をしようとするとルークのことを思い出し電話をかけることができないからだ。
何度も注意されたが治る気配がなかったので心配性の両親は最終手段としてガイを向わせたのだろう。
「そういえばお前。ジェイドの旦那からテイルズ貰ったんだって?」
「何で知ってるんだ…」
「本人から聞いた。多分お前一人じゃ作れないから手伝ってやれってな。」
「あの野郎…」
悪い笑顔で笑っているジェイドの顔がはっきりと思い浮かべれる。
だが、アッシュに取っては良いことでもある。
何故ならテイルズの知識などほとんどないアッシュ一人ではあの小人を育てることなど難しいからだ。
起動プログラムも設定していないのに動き出したあの小人…
試作品なのでバグかもしれないがガイに見せたら何かわかるかもしれない。
きっと今頃泣き疲れてベッドの上で寝ているあの小さなテイルズの姿が目に浮かんだ。
そうこうしているうちに車はアッシュが暮らすマンションの駐車場へと着いた。
ガイは大きな荷物を一緒に運び出しているので本気でここに住むつもりなのだろう。
玄関の扉をあけると絨毯の上には小さな赤毛の小人が眠っていた。
朝絨毯の上に置いてから一歩も動いていないのだろう…。
「ったく…屑が…」
「お邪魔しま…って、る、ルーク!?じゃないな…テイルズか…これってまさか…」
「あの屑眼鏡から貰ったテイルズだ」
「へー…お前ちゃんとプログラムとか全部できたんだな…ん?何かこいつ様子おかしくないか?」
ガイに言われてよくみれば小さく震えているように見える。
まだ泣いているのだろうと思いテイルズの身体を触ったがアッシュは反射的にその手をひっこめた。
「熱っ…!!!」
ガイが慌ててテイルズの身体を触り様子を調べると慌てて絨毯ごとテイルズを持ちあげた。
「お、おい…ガイ…?」
「熱暴走してる…!!!このままじゃこいつ死ぬぞ!!!」
「え?…し、死ぬ…?」
何故か死んだルークの姿が目の前に現れた。
彼の最後を見たのもアッシュだった…
最後も彼はいつもの笑顔をアッシュに向けて眠るようにアッシュの手から離れていった。
「ガイ…どうにかならないのか!!」
「旦那なら…治せるかもしれない…かなり手遅れに近いが…一応連れて行こう。」
「あ、あぁ…」
二人は急いで地下の駐車場へ戻りジェイドの居る研究所へと車を走らせた。
研究所に着いた二人はジェイドに説明をすると応急処置としてテイルズが最初に入っていた
カプセルと同じような容器に入れ冷却作業を始めてくれた。
が、かなり熱暴走が進行しており助かるかはわからないらしい…。
「貴方っては人は…生まれたての子を放置するなんて…無責任にもほどがありますよ。」
「…………す、すまない…」
「まぁまぁ、旦那…今日は卒業式で連れて行こうにも連れていけなかったんだから…」
「困って私のところに預けてくると思ってたのですがねぇ…」
アッシュは何も言い返せなかった。
言い返すよりもまた自分のせいで人を失ってしまうのかと思うと怖くて仕方がない。
ジェイドが言うにはアッシュが家を出たあとずっと泣いており、
そのせいで熱暴走をしてしまったのだろう…とう見方だ。
やはり無理にでも連れていくべきだった…意地を張らずにガイやジェイドに相談すればよかった…
と心から反省している。
「…朝になっても様態が変わらないようでしたら…諦めてください。」
ジェイドの言葉でアッシュの脳内にはまたルークの最後が浮かんだ。
笑顔で自分の手から離れて行ったルーク…
また自分はルークを手離してしまうのだろうか…
ジェイドは仕事があると言い部屋を出て行き、ガイも近くのコンビニで晩御飯を買ってくると言って出て行った。
部屋には二人きり…様子を見るためカプセルに近づくが様態は変わらない…。
「すまない…俺のせいで…頼むから…死なないでくれ…もう、俺の前から消えないでくれ…」
ルークが死んだ時に自分からはもう涙など出ないと思っていたくらい泣いたのに…
アッシュの目からは涙が流れ始めた。
「ずっと…そばにいてくれ…お前のいない世界なんていらない…二度と手を離さないから…ルーク…」
いきなりカプセルの中にいたテイルズの身体が光だした。
その光は何故かとても温かく…優しくて、懐かしい光だった。
光が収まりアッシュがテイルズの様子を見るとさっきまで真っ赤な顔をしていた顔が
徐々に元の色に戻ってきている。
元の色にまで戻るとその小さな瞳が開き、あたりをきょろきょろと伺いアッシュの姿を見つけると
嬉しそうにアッシュにとびかかろうとしたが、カプセルのガラスに阻まれ飛びつくことができない。
アッシュに触れないことを理解したのかまた泣きそうな表情をみせたので、
慌てて装置の電源を切りカプセルの蓋をあけ外に出してやるとそのままアッシュの顔に飛びついた。
「なっ…てめぇ…さっきまで死にそうになってたのにめちゃくちゃ元気じゃねぇかっ!!!」
「♪♪♪」
テイルズは嬉しそうにアッシュの頬と自分の小さな頬を擦らせる。
その姿を見てアッシュは優しそうな顔をして指でその小さな頭を優しく撫でた。
アッシュは小さなテイルズを研究室のパソコンに接続し、まだつけていなかった名前を登録した。
『Luke…ルーク…登録しました。』
パソコンから機械的な女性の声で登録した名前の確認をした。
アッシュはパソコンの接続を切り、ルークと名付けたテイルズを優しく両手で持ち上げ自分の肩へと移動させた。
「やっぱり…その姿じゃこの名前以外ねぇな…」
すりすりと自分の頬にじゃれてくる小さなルークをみて久しぶりに温かい気持ちを思い出した。
小さなルークはアッシュの髪をひっぱりアッシュを自分の方へと向けると笑顔で口を動かした。
「……あ…あ…っしゅ…。あっしゅ…。」
「お、お前…俺の名前教えてもないのに…どうして…」
ルークはそれ以外まだ話せないのかアッシュの名前を何度も呼ぶ。
まるで忘れてないよ…自分はここにいるよと訴えているかのように…
何度も自分の名前を呼ばれ顔を真っ赤にさせた。
このテイルズにはいろいろと不思議なことがあるが
とりあえず今はこの帰ってきた小さなルークを心から迎えようと思った。
「………お帰り…ルーク。」
「………♪。」
人間と一緒に共存している。
テイルズと呼ばれる者達にもシリーズがあり、
特にアビスシリーズと呼ばれる者達は唄を歌うのが得意だ。
そんなアビスシリーズの開発者はジェイド・カーティスと呼ばれる
いろいろと性格に難がある眼鏡野郎だ。
何故か俺はそいつと昔から縁があり、
明日高校の卒業式を迎えるその日…そいつが家に訪ねてきた。
『お帰りなさい~3月~』
「いやぁ~…あなたのその学生服も今日で見おさめなのですねぇ…」
「明日の卒業式もこれを着る。その前にてめぇ…鍵かけてる部屋にどうやって入った…」
「あんなの私の頭脳にかかれば鍵とはいいませんよ。」
黒い頬笑みでリビングの椅子に悠々と座っているジェイドがアッシュに笑いかけた。
アッシュは高校生だが今は訳があり高級マンションで一人暮らしをしている。
両親が安全の為にと選んだ高性能のセキュリティーロックもジェイドにかかれば
鍵がかかっていないのと同じのようだ。
普通に考えて不法侵入で訴えれるが、訴えたところで無罪にされてしまうのが
目に見えていたのでアッシュはそれ以上何も言わなかった。
「で?今日は何の用だ…用がないならとっとと帰りやがれ。」
「相変わらずつれないですねぇ…ルークとは大違いですね。」
ジェイドの口からでた人物の名前を耳にした途端アッシュの眉間に皺が増えジェイドを睨みつけた。
「あいつの名前を口にするんじゃねぇ…窓から放りだすぞ。」
ここは高層マンションの上階…ここから放り出されればいくらジェイドでも
助かる見込みはない…………はずだ。
「おやおや…まだ引きずっているのですね。そんな貴方に高校卒業祝いと大学入学祝いです。」
ジェイドが鞄から出したのは両手で抱えれるくらい大きなカプセルと分厚い説明書だった。
カプセルの中には小さな光が輝いて外に出るのを今か今かと待っている…。
「それは…テイルズの種か…?」
「コンピューターに弱いアッシュでも流石にわかりましたか。
そうです、テイルズ…しかもアビスシリーズの最新版ですよ。まぁ、まだ試作段階の物ですが…」
「で?これを俺にどうしろと…?」
「だから卒業祝いと入学祝いのプレゼントです。どうぞ。」
プレゼントと言ってるがきっと市販される前にデータを取る実験の間違いだとアッシュは感じる。
この男が自分の利益なしに人にプレゼントをあげるとは想像もできないからだ。
「いらねぇ…」
「おやおや、人の好意をそんな風に返すものではありませんよ。ルークなら素直に受け取るでしょうねぇ」
「だから…!!!あいつの名前を言うんじゃねぇ!!!」
また眉間に皺を増やしジェイドを睨みつけるが、ジェイドは変わらず笑顔で笑っている。
普通の人ならばアッシュの怒り顔を見ただけで震えあがってしまうが…
昔からの知り合いで慣れたのか、はたまたジェイドが普通の人ではないから無害なのかは定かではない。
「おっと…もうこんな時間ですか…でわ、私はこれで帰りますね。定期的にデータよろしくお願いしますね。」
「待て…!!!これ持って帰れっ…!!!」
アッシュが掴みかかってジェイドをとらえようとしたが、
ジェイドは風のようにアッシュをかわして玄関から逃走した。
30代後半とは思えない動きである。
アッシュは深いため息をつき手元にあるカプセルを見た。
カプセルの中にある光の粒はふわふわと浮いており自分の誕生を心待ちにしているように見える。
このまま放置すればこの光の粒は消えてしまう…
ジェイドの掌に踊らされているような感じはしたが、この光の粒には何も罪はない…
仕方がないのでアッシュは自分のパソコンにカプセルを接続させ、テイルズを作成するために説明書を読み始めた。
テイルズはまずパソコンに繋ぎ、自分の好みの姿にカスタマイズすることができる。
初心者用としてネットで身体のパーツが売られており、
上級者は自分がデザインしたパーツを組み合わせてオリジナルを作っている。
アッシュは初心者なのでネットで売られているパーツで作ろうかと思っていたが、
説明書を読むとこれは試作品の為市販されているパーツを組み合わせることはできないらしい…
残る選択肢は自分でデザインをして作らなければならないが初心者であるアッシュにできる技術ではない。
テイルズマニアであるガイを呼びだそうかと思ったが、
何故かジェイドに負けた気がするのでその選択肢は消し去った。
パーツの作り方が乗っているサイトを見て回ったが専門用語が数多く飛び交っていて意味が理解できない。
ふと、パソコンの横に置いてある写真が目に止まる。
写真の中には自分にそっくりな短髪の青年…顔は似ているのに自分には作れない笑顔をしている。
「……この屑兄貴が…何笑ってやがる…」
彼はアッシュの双子の兄…ルークだ。
ルークは丁度1年前…アッシュが高校2年の時交通事故で亡くなった…
ハンドル操作を誤りアッシュに車が激突しそうになっていたところをルークが庇って…亡くなった。
ルークが亡くなってからアッシュは家を出た。
彼との思いでの詰まった家に居ると気がくるってしまいそうだったからだ…
両親もそれを理解してくれたのか反対はしなかった。
目を閉じれば鮮明に思い出すことができる彼との思い出…
家族で旅行に行った思い出。
幼馴染であるナタリアの演劇を一緒に見に行った思い出。
クリスマスに一緒にツリーを見に行った思い出。
そして…高校入学の時に交わした約束。
『俺達3人一緒に同じ大学行こうぜ。』
しかし、その約束は守られることはできなかった…
アッシュとナタリアは同じ大学に行く…けどルークは…
目を閉じてルークとの思い出を思い出しているうちにアッシュはいつの間にか眠ってしまっていた。
誰も居ない部屋…外は暗くなり電気をつけていなかったアッシュの家は暗闇に覆われている。
そんな暗闇の中でカプセルの中にる光の粒は輝いている。
その光はどんどんと強まり…小さい粒だった光は一つの大きな光となった。
そしてその光は形を変え、人間の姿へと変化していった…。
『アッシュ…アッシュ…。』
何処からか聞こえてくる懐かしい声。
あぁ…そうだこの声はルークの声…もう二度と聞くことができない声。
声と一緒に誰かが頬を叩く感触が伝わってくる。
目を開けるとそこには…小さな髪の長い赤毛の青年がアッシュの頬を叩いていた。
「…!!。♪♪♪」
「え?な、な…なっ…ルーク!!!!???」
アッシュの目の前に居たのは死んだはずのルークの姿をした小人。
違うとすれば身体の大きさ…そして髪の長さだった。
「てめぇ…誰だっ…何でルークの姿してやがる…って…お前もしかして…」
アッシュはパソコンにつながれたカプセルを見ると
目が覚める前まであったはずの光と粒が無い。
しかも何故か勝手に蓋があいている。
「お前…テイルズなのか…?俺はまだパーツとか組み合わせてないのに何で…」
「…?。」
まだ生まれたてで話すことができないのか一言も話してこない。
話さない変りにいろいろな表情に変化している…ルークのように…。
時計を見ると起床しないと卒業式に間に合わない時間だった。
どれだけ自分は寝ていたのかと後悔しながらも慌てて朝食を作り始めた。
両手の掌に収まるくらいの大きさであるテイルズはアッシュの肩に乗り楽しそうにアッシュが朝食の準備をする姿を見ている。
その姿すらルークを思い出してしまいアッシュは胸が苦しくなる。
朝食ができたので早速食べようとするが、テイルズは興味深々で焼き立てのパンを眺めている。
説明書を読むと人間と同じ食べ物を食べることができるそうなので、
アッシュはパンを食べやすい大きさにちぎってテイルズに渡した。
パンを渡されたテイルズは最初はわかっていないようだったが、
アッシュがパンを食べる姿を見て食べ物だと学習したのか同じようにパンを食べ始めた。
朝食を食べ終わり片付けをすませると出かけるのに丁度いい時間になっていた。
指定鞄に適当に荷物を詰め込み玄関で靴を履いていると
テイルズが一緒に付いて行くと言っているように肩に乗ってきた。
アッシュは一瞬連れて行こうとしたが、今日は大事な卒業式…連れて行くわけにはいかなかった。
「お前は今日は留守番だ…適当に昼寝でもしてろ」
肩に乗ってきたテイルズを絨毯の上に降ろすと一緒に連れて行って貰えないと理解したのか
今にも泣きそうな顔をしている。
その顔に心が揺らいだがアッシュは心を鬼にして告げた。
「今日はダメだ…明日からならしばらく一緒にいてやれるが…今日は留守番だ。いいか分かったか?」
「!!!!!!!!!!。」
何かを言いたいようだが言葉を覚えてない為機械音みたいな音しか出ておらず何を言っているかわからない。
しかも泣きだしてしまった…。
「っく…行ってくる…」
罪悪感が残っていたがアッシュは玄関の扉を閉めた。
聞こえるはずがないのにテイルズの泣き声が耳に届いてくる気がする。
こんな気持ちになったのは久しぶりな気がする…あの小さな小人がルークと同じ顔をしているからだろうか…
帰ったらあのテイルズを連れてジェイドのところへ怒鳴りに行こうと決めた。
「卒業生…アッシュ・フォン・ファブレ。」
「はい。」
卒業式が始まった。
アッシュは自分の卒業証書を貰うと自分の席より後にある空席をに目を移した。
次々に卒業生の名前が呼ばれ、呼ばれた卒業生は卒業証書を貰っていく…
そして最後の卒業生の名前が呼ばれた。
「ルーク・フォン・ファブレ。」
呼ばれた卒業生は返事をしなかった。
担当の先生はそれをわかっていたので特に何も言わずにマイクから離れた。
本当なら一緒に卒業していたはずなのに…
卒業式が終わり教室で担任から代理としてルークの卒業証書を受け取り
そのまま家へ帰ろうとした時幼馴染の少女に呼びとめられた。
「アッシュ…もう帰ってしまいますの?みんなと少し話でもされたらいかが?」
「いや…そんな気分にはなれない…」
「そう…ですの…」
本当は居るはずだったルークの姿を追いかけてしまうのだろう…
ナタリアはルークが亡くなってアッシュが一番苦しんでいることを知っていた。
「卒業式の唄…私感動しましたわ…流石ティアの唄ですわね。」
「そうだな…」
クラス全員で亡くなったルークに届くように選んだ唄。
それは今人気のテイルズ、ティア・グランツの唄だった。
ルークがティアの唄をとても好きだったから選ばれた…
ティアのマスターであるヴァンもそのことを聞きとても嬉しいとこの前会ったときに話していた。
ヴァンはアッシュとルークの幼いころ家庭教師をしており今でも時々会う。
ルークが亡くなってからは会う機会が減ってしまっているが…。
「おーい、アッシュ。」
後から呼ばれたので振りかえってみるとそこにはスーツに身を固めた実家の使用人であるガイが立っていた。
「ガイ…来るなと言ったじゃねぇか。」
「そんなこと言われて来ないやつなんているか。旦那様と奥様も来てたけど先に帰ったぜ。」
多分アッシュに気を使って声をかけずに帰ったのだろう…まだ傷の癒えていないアッシュの為に。
「ほら、アッシュ帰るんだろ?車で来てるから送ってやるよ。」
「あぁ…わかった。じゃぁ、ナタリア…次は入学式か?」
「えぇ…そうですわね。またメールしますわ。」
寂しそうに笑うナタリアに小さく手を振りガイの乗ってきた車に乗り込んだ。
何故か助手席には大きな荷物があった。
「おい、ガイ…。何だこの荷物は…」
「ん?あぁ…今日からお前の世話係として一緒に暮らすから。旦那様と奥様の命令で」
「なっ…!!!何勝手なことしやがる!!!」
「全く連絡してこないお前が悪いんだろ?」
家を出る時に定期的に連絡をすると約束をしたがアッシュは守れていない。
連絡をしようとするとルークのことを思い出し電話をかけることができないからだ。
何度も注意されたが治る気配がなかったので心配性の両親は最終手段としてガイを向わせたのだろう。
「そういえばお前。ジェイドの旦那からテイルズ貰ったんだって?」
「何で知ってるんだ…」
「本人から聞いた。多分お前一人じゃ作れないから手伝ってやれってな。」
「あの野郎…」
悪い笑顔で笑っているジェイドの顔がはっきりと思い浮かべれる。
だが、アッシュに取っては良いことでもある。
何故ならテイルズの知識などほとんどないアッシュ一人ではあの小人を育てることなど難しいからだ。
起動プログラムも設定していないのに動き出したあの小人…
試作品なのでバグかもしれないがガイに見せたら何かわかるかもしれない。
きっと今頃泣き疲れてベッドの上で寝ているあの小さなテイルズの姿が目に浮かんだ。
そうこうしているうちに車はアッシュが暮らすマンションの駐車場へと着いた。
ガイは大きな荷物を一緒に運び出しているので本気でここに住むつもりなのだろう。
玄関の扉をあけると絨毯の上には小さな赤毛の小人が眠っていた。
朝絨毯の上に置いてから一歩も動いていないのだろう…。
「ったく…屑が…」
「お邪魔しま…って、る、ルーク!?じゃないな…テイルズか…これってまさか…」
「あの屑眼鏡から貰ったテイルズだ」
「へー…お前ちゃんとプログラムとか全部できたんだな…ん?何かこいつ様子おかしくないか?」
ガイに言われてよくみれば小さく震えているように見える。
まだ泣いているのだろうと思いテイルズの身体を触ったがアッシュは反射的にその手をひっこめた。
「熱っ…!!!」
ガイが慌ててテイルズの身体を触り様子を調べると慌てて絨毯ごとテイルズを持ちあげた。
「お、おい…ガイ…?」
「熱暴走してる…!!!このままじゃこいつ死ぬぞ!!!」
「え?…し、死ぬ…?」
何故か死んだルークの姿が目の前に現れた。
彼の最後を見たのもアッシュだった…
最後も彼はいつもの笑顔をアッシュに向けて眠るようにアッシュの手から離れていった。
「ガイ…どうにかならないのか!!」
「旦那なら…治せるかもしれない…かなり手遅れに近いが…一応連れて行こう。」
「あ、あぁ…」
二人は急いで地下の駐車場へ戻りジェイドの居る研究所へと車を走らせた。
研究所に着いた二人はジェイドに説明をすると応急処置としてテイルズが最初に入っていた
カプセルと同じような容器に入れ冷却作業を始めてくれた。
が、かなり熱暴走が進行しており助かるかはわからないらしい…。
「貴方っては人は…生まれたての子を放置するなんて…無責任にもほどがありますよ。」
「…………す、すまない…」
「まぁまぁ、旦那…今日は卒業式で連れて行こうにも連れていけなかったんだから…」
「困って私のところに預けてくると思ってたのですがねぇ…」
アッシュは何も言い返せなかった。
言い返すよりもまた自分のせいで人を失ってしまうのかと思うと怖くて仕方がない。
ジェイドが言うにはアッシュが家を出たあとずっと泣いており、
そのせいで熱暴走をしてしまったのだろう…とう見方だ。
やはり無理にでも連れていくべきだった…意地を張らずにガイやジェイドに相談すればよかった…
と心から反省している。
「…朝になっても様態が変わらないようでしたら…諦めてください。」
ジェイドの言葉でアッシュの脳内にはまたルークの最後が浮かんだ。
笑顔で自分の手から離れて行ったルーク…
また自分はルークを手離してしまうのだろうか…
ジェイドは仕事があると言い部屋を出て行き、ガイも近くのコンビニで晩御飯を買ってくると言って出て行った。
部屋には二人きり…様子を見るためカプセルに近づくが様態は変わらない…。
「すまない…俺のせいで…頼むから…死なないでくれ…もう、俺の前から消えないでくれ…」
ルークが死んだ時に自分からはもう涙など出ないと思っていたくらい泣いたのに…
アッシュの目からは涙が流れ始めた。
「ずっと…そばにいてくれ…お前のいない世界なんていらない…二度と手を離さないから…ルーク…」
いきなりカプセルの中にいたテイルズの身体が光だした。
その光は何故かとても温かく…優しくて、懐かしい光だった。
光が収まりアッシュがテイルズの様子を見るとさっきまで真っ赤な顔をしていた顔が
徐々に元の色に戻ってきている。
元の色にまで戻るとその小さな瞳が開き、あたりをきょろきょろと伺いアッシュの姿を見つけると
嬉しそうにアッシュにとびかかろうとしたが、カプセルのガラスに阻まれ飛びつくことができない。
アッシュに触れないことを理解したのかまた泣きそうな表情をみせたので、
慌てて装置の電源を切りカプセルの蓋をあけ外に出してやるとそのままアッシュの顔に飛びついた。
「なっ…てめぇ…さっきまで死にそうになってたのにめちゃくちゃ元気じゃねぇかっ!!!」
「♪♪♪」
テイルズは嬉しそうにアッシュの頬と自分の小さな頬を擦らせる。
その姿を見てアッシュは優しそうな顔をして指でその小さな頭を優しく撫でた。
アッシュは小さなテイルズを研究室のパソコンに接続し、まだつけていなかった名前を登録した。
『Luke…ルーク…登録しました。』
パソコンから機械的な女性の声で登録した名前の確認をした。
アッシュはパソコンの接続を切り、ルークと名付けたテイルズを優しく両手で持ち上げ自分の肩へと移動させた。
「やっぱり…その姿じゃこの名前以外ねぇな…」
すりすりと自分の頬にじゃれてくる小さなルークをみて久しぶりに温かい気持ちを思い出した。
小さなルークはアッシュの髪をひっぱりアッシュを自分の方へと向けると笑顔で口を動かした。
「……あ…あ…っしゅ…。あっしゅ…。」
「お、お前…俺の名前教えてもないのに…どうして…」
ルークはそれ以外まだ話せないのかアッシュの名前を何度も呼ぶ。
まるで忘れてないよ…自分はここにいるよと訴えているかのように…
何度も自分の名前を呼ばれ顔を真っ赤にさせた。
このテイルズにはいろいろと不思議なことがあるが
とりあえず今はこの帰ってきた小さなルークを心から迎えようと思った。
「………お帰り…ルーク。」
「………♪。」
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