ひゅるるるっ~………パーン……
小さな光が空高く飛び途中で大きく弾け飛んだ。
それは誰かが魔導器を使った証拠…こんな辺鄙は町で
魔導器を使える者は騎士団以外居ない。
「おいおい…ここの隊員どうなってるんだよ…」
「はははは…お前に似て元気いっぱいなやつらばっかりだよ。
しかし…お前その色…もうちょっとなんとかならなかったのか?」
「………うぜーし…黙ってろ…………ほら、さっさと行くぞ」
赤茶色の髪をした人物は騎士団の制服を見に纏いナイレンと共にシゾンタニアの街へと向かって行った。
運命ノ唄【TFS02】
「お前ら…なーにあぶねぇことやってるんだ…
固まってないでさっさと見回りに行け。」
「た、隊長っ…!!!!」
ユーリに見せろと急かされ魔導器を使ったシャスティルとヒスカだったが、
まさか隊長に見られていたとは思わず小さくなり反省をしていた。
ユーリが笑いながら二人を見ていると、
隊長の横に見慣れない人物が立っていることに気がつく。
長く赤茶色の髪に、やる気のない紅い瞳…一般騎士団の男性服を着ていることから同じ騎士団のメンバーだと
理解できたが、ユーリはその人物を一度も見たことがない。
いや…正確にいえば一度だけ見たことがある気がした…
昨日少しだけ見たあの人物に…しかし、特徴が全然違っている…
「なぁ…あれ誰?」
小さくなっていたヒスカにその人物を聞くが、
ヒスカも知らないらしく首を横に振った。
「隊長…あの…どちら様ですか?」
シャスティルが赤茶色の人物のことを隊長に聞くと、
隊長は隣にいた赤茶色の頭を激しく撫で始めた…撫でられた本人は迷惑そうな顔をしている。
「あぁ…こいつか?こいつは今日からしばらくうちで研修の為に配属された…
えっと……名前は……」
「ルーク…ルーク・フォン・ファブレだ…よろしくな。」
ルークと名乗った人物は小さく笑ったが、
またすぐにやる気のない瞳へと戻り、
ナイレンはルークの姿に複雑そうな顔を見せた…
「え?隊長私達そんな話聞いてませんけど!!」
「あぁ…わりぃ…忘れてた…」
「「はあぁっ!?」
ヒスカとシャスティルは色々とナイレンに文句を言い始めたが、
ナイレンは慣れているのか聞く耳を持たず…笑いながら4人の横を通り騎士団へと向かっていく。
「なぁ…ルーク…だっけか?アンタ…昨日森に居なかったか?」
ユーリの横を通り過ぎる時にルークに声をかけた。
かなり小柄なルークは必然的にユーリを見上げる形となり
そのやる気のない瞳でユーリを見つめた。
「いや…俺今ここに来たばっかりだし…
あんな大掛かりな魔物退治見てねぇ…」
「……そっか。悪い…人違いだ」
ルークは興味を失くしたのか紅い瞳を進行方向へと向けると
すたすたとナイレンの後を追いかけていった。
その後姿はやはり昨日見た人物とそっくりだったが……
昨日見た人は朱い髪に碧の瞳…ルークは赤茶色の髪に紅い瞳。
共通点が見当たらなかった。
「……人違いか。」
「人違いかもしれないけど…彼は嘘を一つ付いてるね」
「は?何で解るんだよ…」
「彼は今ここに着いたと言った…けど彼は昨日の大掛かりな魔物退治のことを知っている。
君が昨日会った人物と同一人物とは言えないけど…昨日あの森付近に居たことは確かだ。」
「なるほど…確かに…」
ユーリが遠く離れていくルークの後姿を見つめていると、
先輩2人に呼ばれてしまいそこで思考は一度終わりを告げた。
「いってぇ~!!!もう少し優しくできねぇのかよ!!」
「自業自得」
「お前…馬鹿だろ…そんな喧嘩くらい無傷で終われよ。だっせーつーの。」
ユーリとフレンはその日の夜酒場で喧嘩をした。
相手はギルドの人間…ユーリからちょっかいをかけ喧嘩になり、
フレンまで巻きこむ大ゲンカとなってしまった。
ユーリもフレンもそこそこ強い方だったが無傷ではなく、
指導係の先輩二人に傷を直して貰っていた。
フレンは魔導器、ユーリは消毒と差が歴然としていたが…。
その治療中にたまたま傍を通りかかったルークが呆れた表情をしてその様子を眺めていた。
「うるせぇ…あんな大人数ならしょうがねぇだろ…」
「大人数相手なら立ちまわりを考えろ、いいか例えば相手がこう…」
「あ~!!!もう、ちょっとストップストップ!!!」
いつの間にかルーク先生による大人数時の喧嘩の仕方講座が始まり
ヒスカが慌ててそれを止める…これいじょうユーリに問題を起こされたら大変だからだ。
「なんだよ…騎士団なら大人数相手の戦いとか普通にあるだろ?別にいいじゃん。」
「よくない!!それに今は必要ないでしょ!!あ~…!!もう、変なのばっかり入ってくるぅ!!!」
ヒスカが頭を抱えて唸っていると、
隣にいたシャスティルが慰めるように肩をたたいた。
「ヒスカ…落ち着いて…私達には希望があるじゃない…聖なる焔…ルーク様にもうすぐ会えるのよ」
「っは…そうだった…憧れのルークお姉さまに会えるんだった…」
「ルーク…おねえさま?」
「……………。」
ヒスカとシャスティルは目をキラキラと輝かせ夢の国へと意識を飛ばしていたが、
ユーリは何のことかわからず首をかしげて二人を見ている。
その横ではルークが複雑な表情を見せて意識を夢の国へ飛ばしている二人を見つめた。
「ルークお姉さまって…あの、聖なる焔のルーク様ですか?」
「そうよ!!流石フレンね!!どっかの誰かと違って理解力があるわぁ~」
「悪かったな理解力なくて…誰だよそいつ…」
ユーリの言葉にフレンと双子は驚いた顔を見せる。
多少冗談かと思ったが、ユーリの顔を見ると本当に知らないらしく…フレンは呆れてため息をついた。
「ユーリ…騎士団に入ったのだから有名な人くらいは知っておいた方がいい…ルーク様は…」
「フレン待って。私達が教えてあげる…ルーク様はね最年少で騎士団に入団。
そして先日行われた隊長昇任試験では最年少で合格し、歴代最高記録を叩きだしたのよ!!」
「ふーん……で?」
ユーリのいまいちな反応にヒスカはまた怒鳴りそうになったが、
シャスティルの語る声によりそれは止められてしまった。
「しかも、男性社会であるこの騎士団で唯一の女性騎士隊長…女性騎士には憧れの存在なのよ…
綺麗な長く朱い髪に、宝石のような碧の瞳…そしてナイスバディなお姿…憧れるぅ~…」
「へー…ふーん…」
ユーリは本当に興味がないようでやる気のない相槌を返す…
3人は目をキラキラと輝かせ、残り2人は呆れた表情を見せる…
この場面だけでかなりの温度差がみられた。
「ルーク様にお会いできるって…もしかして、お二人の同期とかですか?」
「そんなわけないじゃん!!もうすぐここにくるのよ!!このシゾンタニアに!!」
「えぇ!!??ルーク様は確か帝都勤務ですよね?何故こんなところまで…?」
何が嬉しいのかユーリには全く理解ができなかった…
ユーリはさっさと部屋に戻る用意を始めたが、
隣にいたルークがその紅い瞳でで3人を難しい顔をしながら見つめていることに気がついた。
ふと、ユーリは気がついた…こいつもルークだよな…と。
「あれ?フレンは知らないの?ルーク様のフルネームはルーク・フェドロック…ナイレン隊長の娘さんなのよ」
「えぇ!!!???」
この話にはユーリも興味が沸いた。
あのゴリラのような隊長の娘となると…やっぱりゴリラのような娘なのだろうかと想像する。
しかし、2人曰くスタイルは良いそうなので…父親には似ることはなかったのだろうか…
それはそれで幸せなのかもしれない。
「先日の隊長昇格試験の報告に休みを取ってシゾンタニアまで来るらしいのよ!!
あ~…お姉さま…早くお会いしたい…」
「なぁ…そのルークお姉さまって…こいつのことじゃねぇの?」
話に入れなかったユーリが隣に居た人物を指指し会話に参加する。
ユーリが指さした人物…それは今日から入ってきたルーク・フォン・ファブレだ。
指を差されたルークは驚いた表情を見せ何故か口をぱくぱくと動かしている、
そして瞳を輝かせていた3人はげんなりとテンションを下げてしまっていた。
「あんたねぇ…人の話聞いてた?ルークお姉さまは女よ…お・ん・な!!」
「え?こいつ女だろ?」
ユーリの発言にその場に居た4人は言葉を失った。
発言をしたユーリのみが首をかしげ何か間違えたことを言ったのかと不思議そうな顔をしている。
「あんた…ルークはどう見ても男でしょお・と・こ!!!それに髪とか目の色が違うじゃない!!」
「え?あ…お前男だったのか…悪い…間違えてた…」
「いや…あの…えっと…別に謝らなくても…」
ルークが何かを言いかけていたが、
隊長が怒って待っていると別団員が教えに来てくれた為、ルークの言葉は聞くことができなかった。
隊長に呼び出された後フレンの小言を聞くのが嫌になったユーリは
ラピード達が寝る犬小屋で一夜を明かそうと向かうが、
誰も居ないはずの犬小屋から光が漏れていることに気がついた。
相手に気がつかれないように犬小屋に入り相手を確認すると
赤茶色の髪の毛でルークが中に居るかすぐにわかった。
ルークは優しそうな声でラピードに餌をやりながら撫でている。
「お前は良い子だなぁ…父上は優しそうでいいな…俺ももっと素直に甘えれたらいいのに…」
「だったら、素直に甘えたらいいんじゃねぇの?」
「だ、誰!?」
ユーリの気配に気が付いていなかったルークは慌てて声のする方に振り向き、
声の主を確認するとほっとした表情を見せた。
「何だ…ユーリか…何しに来たんだよ…」
「ん?フレンとちょっと喧嘩してな…ここで寝ようと…」
「馬鹿だな…お前…」
「うるせー」
何の断りもなくルークの隣に座り、ラピードが美味しそうに餌を食べている姿を見つめていたが、
気になって隣にいたルークの顔を盗み見る。
近くで見ないとわからないが長いまつげに大きな瞳…ラピードを見つめる顔はまだ幼さが残っている。
どう考えても女にしか本能的には思わないが…みんなルークは男だと言い張る。
ユーリの視線に気がついたのかルークは照れながらユーリを睨みつけた。
その瞳は今朝みたやる気のない表情ではない…まるで別人のように生き生きとした表情だった。
「な、何だよ…人の顔じっとみて…」
「いや…やっぱり美人だよなぁ…って」
「お前に言われたくねぇし…」
「ははは…たしかにそうだな…俺もよく間違えられる…さっきは悪かったな性別間違えて。」
ルークは困った表情を見せながらも小さくうなずいた。
その姿が何だか可愛らしく思えユーリは優しく頭を撫でる…。
「その…お前も会いたいか?ルーク・フェドロックに…」
「ん?あー…まぁ別に…ここに来て会うくらいなら別にいいけどな…」
「それくらいのがいいよ…期待しない方がいい…聖なる焔って表では言われてるけど…
裏では鮮血のルークって呼ばれてる…」
「鮮血の…?」
さっき3人から聞いた話とはまた別の話だった。
その言葉があの3人から出てこなかったということはあの3人が知らないことなのだろう…。
「あぁ…戦場で戦った姿が…まるで血を全身に浴びたような姿だって…
朱い髪がまるで血の様だって…」
ルークのことではないはずなのに、ルークはまるで自分のことのように語る。
先ほどまで丸く輝いていた碧色の瞳からどんどん輝きが失われて行く…
ユーリは何としてでもその光が失われるのを止めたくて、ルークに手を伸ばし、
自分の胸へと引き込んだ。
「ばか…お前がそんな辛そうな顔するんじゃねぇ…他人が何て言おうとそいつはそいつだ…
二つ名なんて気にするな…本当のそいつを知らないやつが勝手につけた言葉だ。
お前が辛そうな顔する必要なんてねぇ…」
ルークの身体をしっかりと抱きしめてルークの耳元で優しく語りかける…
強く抱きしめるが壊さないように…優しく…温かく抱きしめる…
「ユーリ…」
ユーリに抱きしめられて生き場を失った手は弱い力でユーリの制服の端を掴む。
それがまた可愛らしく…愛おしい…
「その…ありがとう…」
「どういたしまして。お前は笑ってる方がいいぜ…やる気のない顔や辛い顔なんて似合わないからな…」
ユーリは優しくルークの頬にキスを落とす。
最初はきょとんとしていたルークだったが、キスをされたと解ったのか
だんだんと顔が真っ赤になりユーリから慌てて離れた。
「こ、この天然タラシが!!お前なんてここで寝て風邪ひいちまえ!!」
と大声で言うと風のように宿舎へと逃げ帰ってしまった。
一人取り残されたユーリは少し寂しそうな顔をするとラピード達が眠る藁の一部を借りて横になる。
横になったユーリだったが、中々寝付けることができず色々と考えてしまう。
主に思うのはルークのこと…
ルークの碧色の瞳…どこかで見たような気がした。
あんな綺麗な碧…一度どこかで出会っていたら忘れることなんてできないはずだ…
けど、ユーリは中々思いだせない…碧色の瞳を持ちそうな知り合いを片っ端から思い浮かべていたが、
ふとある矛盾点に気がついた。
「………あいつ、さっきヒスカ達と居たときは…瞳紅色じゃなかったか…?碧色って…見間違えたのか?」
また横になるとルークのことについていろいろと考え始める。
確か、初めてであった時は紅い色だった…
ヒスカ達と似たような紅い色だけど、少し違っていて…
その時は女と思っていて…けど実は………
そこでユーリの思考は止まり、再び身体を起こすが今度は顔を真っ青にしている。
「あ、あいつ…男なんだよな…俺男に何キスしてるんだ…え?あれ?
俺ってもしかしてそっち系だったのか…?いやいや…違う違うぞ…」
自分の真実に気が付いてしまったユーリは中々眠ることができず
やっと眠れたのは夜中をかなり過ぎた時間。
そして、眠りに落ちて行く途中でどこかで聞いた唄が聞こえてきた…。
ラピードに噛まれて起こされたユーリは自分の身体に毛布が掛かっていることに気がついた。
昨夜は何も持たずこの犬小屋に来たはずだった…
「フレン…いやいや違うな…なら…隊長か?」
ナイレンなら毛布くらいかけてくれるだろうと思い使っていた毛布を畳んでいると、
毛布の角に小さなアップリケを見つけた。
「……ひよこ?隊長…ひよこ好きなのか?」
ナイレンの意外な姿を知ってしまったユーリは苦笑いをしながら朝食を取る為に食堂へと足を向けた。