「あそこに今回狙う魔核があるわ…」
「ん?兵隊達が警護している宝物庫とは全然違う場所じゃねぇか…」
「そんなの知らないわよ。あそこの部屋から反応あるんだから!!」
「へいへい…りょーかい。それじゃぁ…いきますかっ…」
漆黒の服に包まれた青年は夜の色に包まれながら
標的のある部屋へと静かに駆けて行った。
Steal
ユーリが辿りついた屋敷の部屋…
そこは本邸から少し離れた小さな小屋の様な部屋。
窓から静かに中を覗き込むと机とベッド…最低限の生活用品しかない…
しかし、ここに誰かが住んでいるのは確かだ。
「ここで誰かに守らせているのか…?けど…誰が…?」
中を観察しているとドアをノックする音が聞こえたので
静かに身を隠すが、中の様子が解るように窓の傍からはあまり離れないようにする。
「………どーぞ。」
「……まだ寝ていなかったのか?」
「あぁ…何か寝付けなくて……泥棒の予告時間もうすぐだろ?
こんなところに居ていいのかよ…」
部屋に入ってきたのは自分がよく知る人物とそっくりな青年…
フレンと双子の兄弟ですと言われても信じてしまいそうなくらい似ていた。
そして、話の相手はベッドの中で寝ていたが
ゆっくりとだるそうに身体を起こしユーリにその姿を見せた。
赤く燃えるような長髪…いや、赤というより朱に近い色だ…
「あぁ…もうすぐ予告時間だ…今日はもうここには来れないから…
大人しく寝ていろよ?絶対お前を守ってやるから…」
「別に頼んでねぇし…それに…この部屋から外に出れるなら俺…」
「ルーク!!我儘をいうな…何時か…旦那様も解ってくださる…」
「…………ガイうぜー…もう寝るから出て行けよ」
「わかった。お休みルーク」
「おやすみ」
ガイは静かに扉を閉め、
ルークはその閉まった扉を静かに見つめまたベッドへと潜り込んだ。
ガイとルークの会話を聞いていてわかったが
ここはルークの部屋らしい…このままここにかくれていても
ルークが部屋から出て行くことはない。
人に見られるのは他の仲間達が五月蠅いのでしたくはなかったが、
今回ばかりは仕方がないと思いユーリは窓を押すと簡単に窓が開いた。
「誰だ!?」
窓が開いた音でベッドで寝ていたルークが飛び起きる。
「よぅ、今夜の月は綺麗だぜ?月見とかご一緒にどうだ?」
ユーリは軽々と窓から部屋に侵入すると突然枕がユーリめがけて飛んできた。
「おっと…あぶねぇ」
軽々とその枕を避けると投げてきた人物に視線を向けると
避けられると思っていなかったのかおどおどとベッドの中で困り果てていた。
「お、お前が…今日うちの家宝の魔核を盗むって予告状を出してきた…怪盗ヴェスペリアか…」
「正解。宝物庫にはアンタの家宝【聖なる焔】は無いことはわかってるんだ…
お前が持ってるんだろ?大人しく俺に渡しな」
ユーリは持っていた剣を抜きルークに突き刺した。
初めて向けられる剣に戸惑いを隠し切れていなかったが、
その碧色の目はしっかりとユーリを睨みつけた。
「っは…あんな魔核持っていきたいなら持っていけよ…お前に盗めるわけないけどな…
あれは別名【不幸を呼ぶ聖焔】とも呼ばれてるんだぜ…てめぇが手にいれたら不幸になるぞ」
「不幸になるかどうかは俺が決める…大人しく出しな」
剣先でルークの顎を軽く突き魔核を出すように要求するが、
ルークは一向にユーリの言うことを聞こうとはしない…
このままでは埒が明かないのでユーリは耳に着けていた小さなヘッドフォンに手を置いた。
「おい…部屋に侵入できたが魔核がみつからねぇんだ…どこかわかるか?」
『はぁ?あんたの目の前にあるじゃない機械はそう反応してるわよ。』
「…は?俺の目の前って…」
ユーリの目の前にあるのは…いや居るのはルークただ一人。
まさかと思いユーリはルークの腕を掴んだ。
『あ、今魔核手に入れた?ものすごい反応してるわよ。』
「…………お前が持ってるのか…大人しく出せよ」
「渡したら…どうするつもりだ?返答次第で考えてやるよ」
ルークはしっかりとした瞳でユーリを睨みつける…
その瞳はどこか生気を失っている瞳だが…奥では輝きが消えていなかった。
「…はぁ…壊すんだよ…俺達が狙う魔核は人間に害を与える魔核だけだ…」
「壊す…のか…戦争とかにつかわねぇのか?」
「はぁ?俺何かが戦争起こして何の得があるんだよ…いい加減渡せ」
「そうか…戦争に…は使わないんだな…だったら…いいや…連れていけよ…」
さっきまでユーリを睨みつけていた瞳は消え
何かを決めたような瞳へと映り変った…
「連れていけよ…って何言ってるんだ?」
「俺がお前の探してる魔核の【聖なる焔】だ…」
「は、はぁ!?」
ユーリは驚きのあまりルークの手を離し数歩後へと下がる。
かなりの力でルークの手を掴んでいたので
やっと離された手をルークは痛そうに反対側の手で掴まれた箇所を撫でる。
「正確にいえば…俺はファブレ家の嫡男【アッシュ】と魔核【聖なる焔】を合わせたレプリカ…
けど、魔核の力はちゃんと持ってるぞ…」
「れ、レプリカって…何でそんなものを…」
ルークは言いづらいのか少し口を動かしていたが
ユーリにも聞こえるような声で説明を始めた。
「魔核が意思を持って…人間の命令だけで魔導器を動かせたら…どう思う?」
「そりゃ…いろいろと便利で…ま、まさかっ…」
ユーリはルークが先ほど言ったキーワードと
ルークの話の意味を合わせてルークが言いたいことを推理する…
ルークが言ったキーワード…それは…
「そう…戦争で使う為に俺は作られたんだよ…」
「………。」
驚きのあまりユーリからは言葉が出ない…
あまり良くない動きをファブレ家がしているとは聞いていたが…
ここまでとは予想していなかった。
「まぁ、俺はアッシュ曰く劣化しているから…魔核の力を自由に使えなくて…
戦争なんかに使えないそうだけどな…だから俺はこの部屋に閉じ込められてる…
敵対国に取られないように…情報が漏れないように…」
ルーク手を見ると震えていた。
怒りからなのか…それとも悲しみからなのかは分からない…
だが、確かにその手は震え自分の生きる道を探していた。
「最初は使いものにならないから…破棄する予定だったけど…
俺の身体に傷を付けて壊したら…魔核のオリジナルに力が戻らないからって…
だから自然に……………」
碧色の瞳からは涙が流れていた…
ユーリはルークに何て言ってやればいいかわからない…
どうすればこの涙を止めてやれるかもわからない……
何も言わず、ルークの頭を優しく撫でた。
「同情してるのかよ…ほら、さっさと壊せよ…お前らの目的はそれだろ?」
「俺は…人間を壊すほど…落ちぶれてねぇよ…生きたいと思わないのか?」
「………俺は生きている限り…周りに不幸を呼ぶんだ…
現に俺が生まれて…この計画に関わった人間…ファブレ家の人間を不幸した。
もし、力が使えていたら…別の人間を不幸にしてた…だから俺は…」
ユーリは何も言わずルークを抱きしめた。
人からの愛を知らず生かされ続けたこの魔核を…
いや、一部の人間からは愛されていたのだろう…けど、それを壊すほどの人間の欲望。
助けたい…救いたい…守りたい…それだけが今のユーリを動かした。
「ちょっと…俺に付き合え…」
「は?ちょ…何しやがる!!」
抱きしめていたルークの身体を軽々と抱きかかえ
ユーリは入ってきた窓から外へと飛び出して闇夜を駆け抜けて行った。
そして目的の場所へとたどり着くとルークを静かに下ろした。
「ほら、見ろよ…」
「え?あ……すげぇ…」
ルークが見たのは初めてみる夜の街灯…
それはまるで宝石のように漆黒のじゅうたんに散らばり輝いているが
どこか寂しげな雰囲気を残していた。
「俺…部屋から10年間出たこと無かったから…初めてみた…」
「10年もあの狭い部屋にいたのか…俺には無理だな…」
「俺やっぱり…生きてたら駄目だ…俺はきっといつかこの世界を壊す…」
「……………覚悟はいいのか?」
静かにルークは頷いた。
それを確認したユーリは剣を鞘から抜きルークへと切りつけた。
だが、いくら経っても何も感じない…
感覚まで劣化してしまったのかと思い閉じていた瞳を開くと目の前にはユーリが笑いながら居た。
ユーリの手を見るとそこには赤い髪の束…
自分の髪の毛を確認すると長かったはずの髪は短く切られていた。
「これで魔核のお前は居ない…ここに居るのは人間のお前だ…」
「へ?あ…俺…人間…?生きてていいのか?俺一人ぼっちじゃ…」
「あぁ…いいぜ…俺がずっとお前と一緒に居る」
「でも…お前が不幸に…」
「言っただろ?不幸かどうかは俺が決める…」
「…………」
ルークは何も言わずにユーリに抱きついた。
いや、何かを言っていたが…小さすぎてユーリには届いてなかった…
次の日ファブレ家から魔核【聖なる焔】が盗まれたというニュースが
国中に報道された。
ファブレ家から【聖なる焔】が盗まれてから一年が経とうとしていた。
ルークの世話係をしていたガイはファブレ家の使用人を止めた新しい生活を始めている。
「たっく…ジェイドの旦那は人使いが荒いよなぁ…」
ジェイドに頼まれた買い物をしていると何処からか懐かしい声が聞こえてきた。
「ユーリてめぇもっとゆっくり歩きやがれ!!」
「これでも温室育ちのお坊ちゃんに合わせてるつもりなんだがな…」
「……にゃろう…そこで待ってろよ!!すぐに追いついてやるからな!!」
「今度の仕事…お前を連れて行くのやめるかな…」
「ぜってー連れていけよ!!相棒おいていくとか無しだからな!!」
「へいへい」
振りかえり声の主を探すがそこには目的の人はいなかった。
いや、一瞬だけ赤い色を持った青年が見えたが…声を掛けることはできなかった。
彼は新しい人生を歩いている…それだけを確認できただけでも嬉しかった。
ガイは頼まれていたものを探し出し、一緒にレターセットを買った。
ファブレ家で使用人…いや親友だった自分より彼のことを心配している
もう一人の赤毛の彼に連絡をするために…。