目の前に広がる大きな舞台。
舞台の中央には天井にまで伸びるパイプオルガンが設置されている。
その舞台の真中では赤毛の青年が立ち感動を味わう姿はどこか微笑ましい。
「うわぁ~すっげー!!でかい舞台だなぁ~…」
「おい、屑騒ぐんじゃねぇ…みっともねぇぞ」
「まぁ…ルークったら子供ですわね」
「うるせぇなぁ…けどアッシュすげぇな…ここでティアと演奏するなんて…」
「ふん…別にバイオリンくらい…普通だ」
少し赤く頬を染めるのは舞台の真中で感動を味わっている青年と同じ顔をした青年…
いや、似ているがどこか違う顔をした青年だ。
「俺…ここの大学に来たい…」
「私もですわ…」
「俺もだ…」
三人は顔を見合わせて小さく笑った。
「じゃぁ、俺達3人同じ大学に行く約束…守れそうだな」
ルークは無邪気に笑いアッシュの心を緩ませた。
『入学式~4月~』
カーテンの隙間から差しこむ太陽の光でアッシュは目を覚ます。
枕元に置いてあった時計を見ると目ざましをかけていた時刻より
ほんの少しだけ早く目を覚ました。
起きたばかりの身体をゆっくりと起き上がらせると、
枕の横に置いてある籠の中身に顔を移した。
籠の中にはアッシュと同じ顔をした…いや、似ているがどこか違う顔をした
小さな小人が気持ちよさそうに眠っている。
眠っている小さな小人の姿はやはり誰かを思い出させるくらい似ている。
そう…もう二度と会うことのできないあの人に…
アッシュは人差し指で小人の頭を優しく撫でると、
小人は小さく動き緑色の瞳がゆっくりと開いた。
「…悪いルーク。起こしたか…もう少し寝ていても大丈夫だぞ?」
「……………(ふるふる)」
まだ眠たそうな顔をしているが首を横に振り起きる意思を表した。
ルークと暮らし始めて一カ月近くになるが未だにルークは言葉を話さない…
いや、一つの言葉を除いては話すことはできなかった。
「あっしゅ…あっしゅ…」
「ん?どうした…?」
指でルークの頬を触ってやるとルークは嬉しそうに笑いかける。
その笑顔もまたあの人とそっくりで戸惑ってしまう…。
アッシュはベッドから立ち上がりドアへ足を向ける
昨日までは二度寝ができたが今日からはまた新しい生活が始まるのでゆっくりはしていられない。
「もうすぐガイが起こしにくるから、お前はそれからリビングにこい…」
「……(こくり)」
籠の中で少し寂しそうにルークは頷いた。
その顔に少し心が痛むが一緒に顔を洗いに行って洗面台でおぼれでもしたら一大事。
またジェイドの世話になってしまってはあの日決意をした意味がなくなってしまうので
アッシュは心を少しばかり鬼にした。
「いい子だ…俺は先に顔をあらtt「ルーーーーーーークーーーーーーー朝だぞーーーーーーー!!!」
アッシュが扉を開けようとした時、いきなり反対側から扉が開き金髪の青年がアッシュの部屋へと入り
そしてそのまま籠に目を向けると嬉しそうにルークへと近づいていく。
ドアを開ける時にドアに何かが盛大にぶつかる音がしたが金髪の青年には届いていない。
「お、ルークえらいなぁ。一人で起きれたのか…えらいえらい。」
アッシュの部屋に入ってきたのは実家の使用人だったガイだ。
もともとはアッシュの実家で使用人をしていたが、とある事情により今は一人暮らしのアッシュと一緒に暮らしている。
最近はこの小さいルークに熱があるようで…親馬鹿全開な日々を送っている。
そんなガイはルークをリビングへ移動させる為に両手でルークを包み込んで
リビングへと足を向けようとしたが、ドアの前でアッシュが何やらうずくまっていることに気がついた。
「ん?アッシュ何してるんだ…?早く支度しないと入学式に遅れるぞ?って…顔どこかでぶつけたのか?」
「誰のせいだとおもってやがるこの屑使用人がっ!!!!!!!!!」
「♪♪♪」
「だから、悪かったって…ドアの前にアッシュが居るとは思わなかったから…」
「…………うっせーぞこの機械オタク」
リビングのソファーに座っているガイが顔だけを向けアッシュに声をかけるが、
まだ根に持っているのか眉間にシワを寄せて出かける準備をしている。
その姿にガイはため息を漏らす。
「しかし…もう大学の入学式か…はやいものだな…」
「…そう…だな…」
今日は大学の入学式。
アッシュにとっては新たな生活の始まりでもある。
そう…あの人が居ない学生生活が始まる日…
ガイとアッシュの間に少し重い空気が流れ始めた時、
ガイの膝に乗っていたルークが小さな手を叩いてガイを呼び始めた。
「ん?ルークどうした?あ、もうこんな時間か、テレビつけないと始まるな」
ガイがテレビの電源をつけると、丁度ドラマが始まるところだった。
「前から思っていたが…こいつ…ドラマ見て理解できるのか?」
「さぁ?でもこのドラマだけは何故かいつも見たがるんだよなぁ…
まぁ、丁度ナタリアが出てるドラマだしいいんじゃないか?」
ガイの膝にいるルークを見ると両手を大きくあげ嬉しそうな顔をしてテレビを見ている。
ドラマの内容を理解しているのか判断しにくい行動だ。
これくらいの少年にならアニメや教育番組の方が喜ぶはずだが…
ルークはあまりそちらには…特に教育番組には興味がない様子だった。
「しかし…ナタリアもがんばってるよな…ドラマのヒロインとか…」
「……努力家だからなあいつは」
アッシュの幼馴染であるナタリアは今タレントとして活躍している。
この春から朝のドラマにヒロインとして抜擢された。
タレント業だけでも忙しいのに彼女はアッシュと同じ大学へ進学する。
今日も入学式で会う予定…卒業式以来なので久しぶりに話をしたいが、
ゆっくりと話ができるとは思っていない。
しかし、ナタリアにはルークを今日紹介するつもりでいる。
また後日でもいいが早く紹介しないと何を言われるか分かったものではないからだ。
「そろそろ出かけないとな…鞄を取ってくる」
「おー」
アッシュが自室へと向かったのを確認し、
膝に乗っているルークに目を向けるとルークは真剣にテレビを見ていた。
画面に目を移すとナタリアが顔を赤く染め相手役の男性に何かを伝えようとしている。
『好き…そ、その私…あなたのことが…好き…です。』
「おー…流石ナタリア…可愛い…なぁ、ルーク……ルーク?」
「――――――――――――――――――――――――――――――ッピッピッピ。」
ルークはしっかりとテレビを見ていた、それはさきほどまでとは変らないがいつもと様子が全く違っている。
明らかに瞳の色が翳み、身体からは小さい機械音が発している…今までこのような状態になったことはない。
「おい、ルーク!!ルーク!!しっかりしろルーク!!」
「ガイ!!ルークがどうした!?」
部屋に戻っていたアッシュが鞄を持って慌ててリビングに戻ってきた。
ガイは膝に乗せてたルークを両手で抱えアッシュの前に差しだすが、
ルークは固まったまま動こうとはしない、瞳もまっすぐしか見つめていない…
こんなルークは今までみたことなかった。
「おい、ルーク!!ルーク!!返事をしやがれ!!」
「ッピッピピピ………!!!」
アッシュの言葉でルークの身体が小さく揺れた。
小さなその瞳を数回瞬きさせると、首を数回横に振り周りの状況を確認する行動を見せた。
そしてアッシュの姿を見つけると嬉しそうに笑いかける。
その姿を見たアッシュとガイは良かったとつぶやいた。
「ったく…心配かけさせるな…一体今のは…?」
機械に詳しいはずのガイに質問するが、ガイも分からないらしく苦い顔を作る。
「さ、さぁ…?ルークは試作品だからなぁ…普通のテイルズとは違うところ多いし…何とも…」
「そうなのか…どこが違うんだ?」
「あー…それはまた帰ってからで…ほら、急がないと遅刻するぞ」
アッシュが時計を見ると出発予定時刻を過ぎていた。
慌てて玄関へ向かい靴を履くと見送りにリビングから出てきた二人に照れながら顔を向けた。
「スーツよく似合ってるぞ。」
「うっせーぞ。……ルークのこと頼む」
「あぁ…あとから連れていくよ。いってらっしゃい。」
「…いってきます。あとからちゃんと来いよルーク…泣くんじゃねぇぞ」
「(こくり)」
小さな手で必死に手を振る姿はまるで妖精のように可愛らしい。
その姿にアッシュの顔は少し緩むが、すぐに顔を引き締めて家を出て大学へと向かった。
「アッシュ!!!」
始業式が終わり、講堂を出たところで慣れ親しんだ声が自分の名前を呼ぶ。
振り向かなくても友人がまだ居ない大学で名前を呼ぶのはただ一人…
そう…幼馴染のナタリアとアッシュはすぐにわかった。
「ナタリア…こんなところで俺と話してていいのか?」
ナタリアはドラマのにも出るタレント…の卵である。
今朝も報道陣が今注目を浴びるナタリアの入学式を撮影しようと集まっていた。
だが、大学の中には入れず入学式前にインタビューはできたが、
諦めがつかない報道陣がまだ数名残っている。
そんな報道陣にとって幼馴染であるが、青年と仲良く会話しているところをスクープされたら
ナタリアの今後の芸能生活に支障がでてしまうことをアッシュは心配した。
そんな心配を余所にナタリアは不思議そうな顔をしてアッシュに話しかける。
「何故幼馴染と会話するのがダメなのです?」
アッシュは眉間にしわを増やす。
自分の兄といいこの幼馴染といい…どうして自分の周りには天然しかいないのかと…
「それより、私に見せたいものってなんですの?私楽しみで昨日あまり眠れませんでしたわ!!」
この後も仕事があるだろうに…寝れないのは関心できなかったが
どうしても今日先日アッシュの前に現れたルークのことを紹介しておきたかった。
あとでばれた時に五月蠅いのもあったが…
「あぁ…もうすぐガイが連れてくる…」
「おーい、アッシュー!!」
丁度スーツを着たガイがアッシュの傍へと近寄ってきた。
手にはスーツには不釣り合いな小さなランチバックがあり、その中にルークが居ると思った。
「ガイ…その中か?」
「あぁ…そうだ。早速紹介するのか?けどここだと少し目立つから人が居ないところd…」
ランチバックの中を覗いたガイが何故か固まった。
アッシュが不振に思い、同じくランチバックを覗くとそこには小さなタオルが引かれているだけで
一番の目的であるルークの姿はなかった。
「おい…ガイ…あのチビはどこだ…」
「え?あ、あれ?講堂でるまではここに居たのに…」
「何の話ですの?早く見せてくださらない?」
ガイの顔は真っ青になり、ナタリアは一人会話についてこれず少し怒っている。
アッシュは舌打ちをすると講堂へと走りだした。
「お、おい!!アッシュ!!!」
「ガイ!!何の話か説明しなさい!!」
「え?あ…あ、あんまり近づかないで欲しいな…」
「ガイ!!!」
ナタリアのことはガイに任せアッシュはガイが最後にルークをみた講堂へと走る。
姿形だけではなく、こんなところまで一緒とは思っていなかった…
講堂へと続く階段をかけあがり、中へ入るとぽつんと椅子の上に座っている紅い小さな小人を見つけた。
深いため息をつき傍へとよるが…その後ろ姿は何故か悲しげな空気を出している…
まるで何かを懐かしむかのように…何かを思い出すように…そんな空気…
その身体からは想像もできない…悲しげな思いを…
アッシュは少し声をかけるのをためらったが、優しく声をかけた。
「ルーク…」
「!!!」
その声にすぐ反応し振り向いたルークの表情はいつもとかわらない…
可愛らしく、まだまだ幼い表情…
先ほどの空気が嘘に思えてしまう。
「あっしゅ!!あっしゅ!!」
「何処にいってやがった…心配したぞ…」
嬉しそうにアッシュに飛びつくその姿に頬が緩む。
一度失くしたもの…もう二度と手放したくない人だから…そんな表情ができるのだろうか…
アッシュはルークを肩に乗せ講堂を出ようとしたが、
講堂の出口で見知らぬ人に出会った。
「ここで何をしている…入学式は終わったぞ」
アッシュの記憶が正しければその人はモース教授。
教授の中でもかなりの実力をもった人物だ。
「あ…すみません…忘れ物を取りに…」
「なら、すぐ帰りたまえ…ん?それは…テイルズか?」
アッシュの肩に乗っていたルークを見てモースは少し驚いた表情をした。
隠す必要もないアッシュは小さく「はい…」と返事するとモースは何か
考えごとをし始めたが、すぐに元の顔に戻りその場を後にした。
アッシュにはモースの行動がよくわからず、眉間にしわを寄せると
心配したルークがアッシュの髪を引っ張った。
その姿に少し心が緩みルーク頭を指で撫でながら講堂を出たが、
講堂を出たところで今度は良く知る2人に捕まった。
「「アッシュ!!」」
ガイとナタリアだ。
ガイはアッシュの肩に乗っているルークを見るとホッとした顔した。
逆にナタリアはルークの姿を見て驚いた表情をみせる。
当たり前だ…死んだはずの幼馴染と同じ姿をした小人が目の前にる…
本来なら考えられないことだった。
アッシュは肩に乗っていたルークを自分の掌に移動させると
ナタリアの前へと差し出し紹介をした。
「ナタリア…この前ジェイドから託された…テイルズの【Luke】…ルークだ…」
「まぁ…」
ナタリアの瞳からは涙がこぼれた…
死んだはずの幼馴染…二度と会えないはずの彼…
違うものだとしてもまた会えた感動はナタリアの身体から溢れだした…
「わ、私はナタリア…ですわ…どうぞ…よろしく…ルーク…」
「…♪♪♪」
ルークはナタリアに嬉しそうな表情を見せた。
その顔を見たナタリアはますます泣きだしてしまい…アッシュはどうすればいいかわからなかった…
「まさか…ナタリアがあそこまで泣くなんて…」
「そりゃそうだろ…俺だってルークの姿見た時は…」
家に帰ってきたガイとアッシュは少し疲れた表情をみせた。
あれから涙が止まらないナタリアを落ち着かせようとしたが…
ルークがアッシュの家に来たのが一カ月近く前だと説明すると
今度は怒りだした。
『何故すぐに会わせてくれませんでしたの!?』
予想はしていたが…想像以上に怒られてしまった。
これだと今日紹介を逃していたらどうなっていたかわからない…
ルークともっと一緒に居たそうな顔をしていたが、
ナタリアにはこのあと撮影があった為しぶしぶ帰っていった。
もし撮影がなければ…泊る勢いで家まで押し掛けてきたに違いない…
スーツを脱ぐ為に肩に乗せていたルークを机の上に置いた。
そしてネクタイを取って自分の部屋に行こうとした…が…
「あっしゅ、あっしゅ!!」
「あ…?何だ?腹でも減ったのか…?」
「あっしゅ…あっしゅ…」
「だから…なんだ?」
「すき」
「「………………は?」」
ルークの方へと振り向いた瞬間言われた言葉にアッシュは固まった。
さっきまで「あっしゅ」としか言えなかったルーク…
大きな一歩を踏み出したのは嬉しかったが…その大きな一歩が何故「すき」なのかが理解できない。
「る、ルーク!!お前すごいな!!流石だ!!」
「あっしゅ、すき。すき。」
「な、な、な…何連呼しやがる!!!!」
アッシュの顔は真っ赤だ。
そんなアッシュを放置してガイは自分の子供が初めてしゃべったようにはしゃいでいる…
親馬鹿…いや、ルーク馬鹿と言った方が正しい。
「ルーク…次は「ガイ」だ…ほら、言ってみろお前なら言えるはずだ!!」
「????????」
何としてもルークに「ガイ」と呼んで欲しいガイは必死に言葉を教えようとするが
ルークのあの表情を見る限り…多分無理だろうとアッシュは思った。
そんなガイを放置してアッシュは自分の部屋へと着替えに戻る。
まだ電気をつけていない暗い部屋…そんな中アッシュは一枚の写真に手を伸ばす。
そこには髪の短い自分の顔に似た青年…双子の兄弟の片割れであるルークだ…
『アッシュ…好きだよ!!だーい好き!!!』
二度と聞けないと思っていたその声…その言葉…
アッシュはその写真に小さく笑いかける。
リビングでは未だにガイは必死になって小さなルークに名前を教えてる声が聞こえる。
そろそろ止めないと泣き始めてしまいそうだ…
アッシュは写真を元の場所に戻し、急いで部屋着へと着替え始めた。