「あ、ルーク様…クリームはその程度でよろしいかと…」
「そうなのか…わかった。スポンジは焼けたかな?」
「んー…もうちょっとみたいですね」
ある日の午後。
いつもと変わらないバンエルティア号だったが、食堂だけは何時もと違う色が混じっていた。
それは髪を短くしたルーク。
昼を過ぎ食堂が落ち着きを見せたこの時間にルークはせっせとケーキを作っている。
理由はもうすぐ帰ってくる恋人の為…
一週間ほど護衛で家を開けているのできっと疲れた顔をして帰ってくると予想したルークは、
彼の大好きなケーキを作って待っていようと先ほど昼寝をしていた時に思いつきクレアとロックスに手伝いを頼んだ。
もうすぐで焼き上がるスポンジを嬉しそうに待っていると食堂のドアが開いた。
「ただいま~…わりぃ、何か甘いものねぇか?」
「あ、ユーリお帰り!!」
食堂の扉をあけたのは死んだような目をしたユーリだった。
その姿から相当疲れているのがわかったが、
恋人が帰ってきたので嬉しそうにひよこ頭をひょこひょこと動かしルークはユーリに近づく。
その姿はクレアの頬を緩ませたがその時ルークの頭から花びらが一枚落ちたことに気が付いた。
「ルーク…?珍しいなこんな時間にここにいるなんて…………」
「あ…えっと…ユーリの為にさ…ケーキ作ってて…もう少しで出来上がるから待っててくれよな」
「へー…お前がケーキねぇ……ん?」
死んだような目をしていたユーリの目が何故か獲物を狙うような狼の目に変った。
それに気が付いたルークは首を傾げてユーリを見つめる。
「ユーリ…?どうかしたか…?」
「……………………。」
ユーリは何も返事をしない。
不思議そうに見つめるルークだったが、次の瞬間言葉を失った…
いや、その場にいたクレス、ロックスも言葉を失った。
「ユーリ……?え?」
ガブッ。
ルークに近づいたユーリはルークの匂いを嗅ぐと、
何故かルークの首元に無言で噛みついた。
「えぇ!!???はぇ!!!!!!!!?????????
な、何しやがるんだこのエロ狼があああああああああああああああああ!!!!」
「ぐはっ!!!」
顔を真っ赤にしたルークは利き腕で烈破掌をユーリに食わせた。
桜×変態×称号
ルークの部屋の入り口にはには大きな文字で
『変態狼立ち入り禁止』
と書かれた紙が貼られたいた。
その紙を見たユーリはがっくりと肩を落とした。
「アンタ、サイテーよね…」
「ユーリ…サイテーです。」
「君というやつは…見損なったよ」
同じ国の出身であるリタ、エステル、フレンは先ほどからかなり厳しい言葉を投げてくる。
ユーリはルークに謝りたくここまで来たが…先ほどから声を掛けても返事がない。
「なぁ、ルーク久しぶりに剣の稽古をしないか?」
「そうそう、剣の稽古ついでにユーリの話も聞いてやってくれよ」
「俺の話はついでかよ…」
親友であるクレスとロイドが声を掛けても全くの無反応。
よほど怒っているらしい…
ユーリ自身もひどいことをしたと心から反省している。
「ルーク悪い…言い訳にしかならねぇだろうけど…お前の身体から甘い花のような匂いが漂ってて…
無意識で噛みついてた…ほんとすまねぇ…」
そう、あの時何故かルークの身体からは甘い匂いが漂った。
ケーキの匂いではない…ほかほかと温かい太陽のような甘い香り…
その匂いを嗅いだ瞬間ユーリは無意識でルークに噛みついていた。
「無意識で噛みつくなんてサイテー」
「うるせー…本当のことなんだからしょうがねぇだろ…」
扉が開かないルークの部屋をもう一度見返し、ため息をつくと一度食堂に戻って
また改めてここに謝罪に来ようとしたが、その時扉が開く音がした。
「お、俺から…花のような甘い香りがしたって…ほんとか?」
ルークはまだ警戒しているのか扉から半分だけ顔を出しユーリを睨みつけた。
ルークが睨みつけても可愛いだけだったが、今はそれをいう状況ではない…
その言葉を飲み込みユーリは力強くうなづいた。
「あぁ…すっげー良い香りだった…」
「だったら…俺のせいだ…ごめん…」
「は?」
その場に居たメンバー全員がルークの言葉に首を傾げた。
今回の件は100%ユーリが悪い…それなのになぜルークが悪くなるのか…
接点が全く見つからなかった。
「お、俺午前中眠くて…甲板で昼寝してたら…桜の花にいつの間にか埋もれてて…
一応風呂入ったんだけど…甘い香りとれてなかったんだな…ごめん」
花びらに埋もれるくらい寝てたってどれくらいだよと言いたかったが
ルークの言葉で全てが理解できた。
ユーリが反応した甘い香りとは桜の香り。
甘くて優しくて…太陽のような甘い香り…その香りに無性に糖分が欲しかったユーリは
無意識に反応してしまいルークに噛みついたのだった。
原因が解ったとはいえ悪いのはユーリだが…
「あ…いや…悪りぃ…俺も我慢効かなくて…良い大人が…」
「ユーリは疲れてたんだからしょうがねぇーよ…俺こそごめん…叩いて…」
部屋から半分だけ身体を出していたルークはやっと部屋から出てきて
ユーリの傍に行き抱きついた。
抱きつかれたユーリは嬉しそうにしっかりとルークを抱きしめた。
それを見ていたメンバー達はため息をついたり、笑ったりなど各々の反応をみせた。
「あ…ケーキ…作りかけどうしよう…クリームはできてるんだけど…」
あまりの衝撃な出来事だったのでルークはケーキ作りを放棄して部屋に逃げ込んだ。
クレアとロックスがスポンジを取り出してくれてるとは思うが…
今から作るには晩御飯の準備と鉢合わせになってしまうので邪魔なだけだった。
「俺はクリームだけでもいいぜ…」
「え?そうなのか?」
「あぁ…ただしお前の身体にn……「ユーリ!!!!!!!!!」」
ユーリが良い終わる前にフレンから強烈なツッコミが後頭部に入りユーリは気絶をした。
「え?あ…ユーリ!?大丈夫か?ユーリ!!!」
心配そうにユーリの身体をルークが揺すったが完全にノックアウトされており、
ユーリの目が覚めたのは次の日になってからだった。
そして目覚めたユーリは『変態な狼取り扱い注意』という称号を手に入れた。