暗い夜空の中ユーリ一行は野宿の準備をしていた。
最初の見張りはルークに決まりそれ以外のメンバーである
カロル、リタ、エステルそしてユーリはそれぞれ眠りにつこうとしていたが
ルークが火の横で日記を書いていることに気が付いた。
ルークと旅を続けて数日経っているユーリとエステルには
普通の光景だったが、先日仲間になったカロルにはそれが珍しく、
ルークの傍へと近づいていった。
「ルーク…何してるの?」
「ん?日記書いてるんだよ…今日リタと出会ったこととか…でかい魔物とか…」
「案外アンタまめなのね…」
リタが少し驚いた声で話しに混ざるとカロルが目を光らせながらルークの袖を引っ張った。
「じゃぁ、じゃぁ僕のことかっこよく書いてよビックベアを倒した時とかのこととかさぁ~」
「えー…日記に嘘書いていいのか?」
カロルのお願いに苦笑いをしながら筆を止めたルークは
頭を書きながら悩み始めた…こんなお願いは初めてのことだから仕方がないだろう…
「だってさぁ~作者の都合で僕とリタの登場シーンはカットされてるし…
それくらいカッコよく書いても罰は当たらないよ!!」
「だったらミュウもカッコよく書いてほしいですの!!」
「は、はぁ!?」
カロルとミュウからおねだり攻撃をされ困り果てたルークは、
傍に居たユーリに助けを求めた。
「ユーリ~…なんとかしてくれよぉ~…」
「はぁ…しょうがねぇな…おーい、カロル先生。かっこよく書かれるには
普段からかっこいい姿でいなきゃダメだろ?カロル先生にはその要素あるのか?」
こう言えば普段自信がないカロルのことだから引き下がるだろうと思っていたが、
何故かカロルは引き下がらず自信満々にユーリに答えた。
「あるよ!!ビックベアの時だけは!!」
「………あっそ…悪い。諦めろルーク」
「えぇ!!??」
唯一の救いに見放されルークはカロルとミュウからのおねだり攻撃を食らい続けた…
リタが切れてタイダルウェーブを発動するまで。
そんな漫才を横目に仲間達に囲まれて困っているルークを
見るのもどこか楽しいと思えてきたユーリが居た。
その思う心の名前をユーリはまだ知らずに…
朱の明星~誘拐~
ハルルの街を目指しているユーリ達はようやく
遠くの方にハルルの木を確認できるところまで来ていた。
「相変わらず綺麗だな…こんな遠くからでもそう思えるんだし」
ルークは遠くにあるハルルの木を見て心が緩んだ。
この綺麗な花をティア達にも見せてあげたい…
そう思っていたがここがどこかも解らない…
ローレライもあれから一度も姿を見せないので少し困っていた。
「ご主人様…大丈夫ですの?」
「怪我でもしたならエステルに見て貰えよ」
心配そうに肩に乗っていたミュウと傍にいたユーリが同時に話しかけてきた。
自分の顔がそれほど暗くなっていたのかと思い慌ててルークは笑顔を見せた。
「だ、大丈夫だって。ほら、早くハルルの街へ行こうぜ。
こんな良い天気なんだから花見とかしたらすっげー綺麗…ん?空が急に…」
空を見上げれば一面に広がる蒼い景色…
しかし、何故かルークの周りだけ徐々に暗くなり始めた。
不思議に思い空を見上げると何かがルークに向かって落ちてくるのがわかった。
最初は小さい点だったが…よくよく見ればつい最近までよく見かけていたものだ。
黄色くて大きな物体…可愛げのないその顔…そう…それは…
「え?あ…あれは………………………………と…と…
トクナガあああああああああああああ!!!???げふっ!!!!!!!!!!!」
そう、それはアニスが何時も背中からぶらさげていた人情トクナガ(戦闘サイズ)だった。
何故かルークめがけて落ちてきてルークの真上に落っこちた。
まさかトクナガが落ちてくるとは思っていなかったルークは
防御もできずに一瞬にして体力が0になり戦闘不能状態にまで落ちた。
ちなみに肩に乗っていたミュウは落ちてきた衝撃で飛ばされ気絶していたがラピードに保護された。
「きゃぁ!!る、ルーク大丈夫ですか!?」
「お、おい!!大丈夫か!?一体何なんだこの人形は!!!」
いきなり可愛げのない人形が落ちてきて驚いたところに後から気配を感じて慌ててユーリは振り向き
そこにいた人物達に言葉を失った。
「な、何なんだお前らは…」
「ん?私達ですか?私達は………正義の使者アビスグリーンです」
「同じくアビスピンク♪」
「えー…あー…お、同じく…アビスオレンジ…ってこの格好で来る意味ないんじゃないのか!?」
そこに居た3人は全員似たようなスーツに身を包み顔が解らないように全体が隠れる仮面をしていた。
グリーンとピンクは何故かノリノリだが…オレンジだけは恥ずかしそうにしている…
きっとオレンジだけが常識人なのだろう。
「うわぁ~戦隊ヒーローって初めてみたかっこいい!!」
「あれはカッコイイのです?」
「そんなわけないでしょ!!」
ヒーローものに憧れる年代なのかカロルだけ目を輝かせていた。
けどぶっちゃけ正義と名乗っているが怪しいものは怪しい…
げんにラピードが警戒しまくって唸っている。
「その正義の使者が何の用だ?ってかこの不細工な人形お前らのか?」
「ひっどーい!!トクナガは不細工じゃないですぅ~ちょー可愛いじゃん!!」
「そ、そうなのか…?」
「いやぁ~…年寄りには解らない感性ですからねぇ~」
このトクナガという人形はピンクの持ち物らしいが…ユーリには可愛いとは思えなかった。
むしろこの不細工な人形の下で目を回して気絶しているルークの方が可愛いと思えた…
本人は気が付いてないけど…末期ですね(真顔
「正義の使者って言ってるわりには…あくどいことするんだな…」
「そんな…私達はただルークを誘かi…じゃなくて、お借りしに来たんですよ。
ただ普通に貸して下さいって言っても面白くないので強硬手段ですが」
「ちょ、旦那!!!面白くないって理由でルークを傷つけるのか!?」
グリーンの言葉を聞いたオレンジが慌てて反論を言いだした。
やはりこの3人の中でオレンジだけは常識人なのだろう…この作戦に参加している時点で
常識人と言っていいのかは不明だが。
しかし、この正義の使者達とルークは顔見知りなのだろうか…
ルークに問い詰めたいがあいにくまだ戦闘不能状態で問い詰めることもできない。
引っ張り出そうとエステルが思考錯誤をしているが人形が重くて引き出せないらしい。
「お前ら…すぐに謝罪して俺に殴られるのがいいか、殴られてから謝罪するのがいいかどっちがいい?」
「おやおや…短気なお方ですね。そんなに短気だとどっかのオールバックみたいに将来ハゲ予備軍になりますよ」
「いやいや、そのネタ身内にしか通じないからな。」
どうやら謝罪するつもりがないらしいのでユーリはカタナを抜いて戦闘態勢に入ったが、
ユーリの背後が急に暗くなり慌てて後を振り返るとさっきまでルークを潰していたトクナガが急に起き上がり、
ルークを抱えてアビスピンクの傍へと移動していった。
「ちょっと!!その人形動けるの!!一体どういう仕組み!?」
動けるとは思っていなかったのかリタの研究心に火が付き目を輝かせ始めた。
けど、今はそれどころではない…ルークがさらわれかけようとしているのだ…
ユーリは誘拐犯(予備軍)を睨みつけるとグリーンが何やらじっとこちらを見ていることに気が付いた。
「グリーンって言ったか?お前俺の顔に何かついているのか?」
「いえ…貴方もしかしてルークのこと…」
「……?ルークが何なんだ?」
グリーンが何を言いたいのか解らず首を傾げるユーリだった。
そんなユーリの姿が面白いのかグリーンは小さく笑うと(仮面で隠れて解らないが雰囲気的に)
トクナガの上に乗り手を上げた。
よく見ればいつの間にかピンクもトクナガの上に乗っている。
「それは私達はそろそろ時間ですのでこれで失礼します。
ルークは少しの間お借りしますね…返してほしければハルルの街までお越しください」
「大佐がその台詞言うとすっごく悪い人に見えますよ~」
「おやおや心外ですねぇ…こんなに良い人なのに」
「どこがだ」
オレンジのツッコミにユーリ達も頷いた。
どう見てもグリーンが首謀者にしか見えない…良い人には絶対見えない…アビスマンスーツを着ていなくても。
「でわ…オレンジ足止めは頼みましたよ」
「え?えぇ!!??そんな話し聞いてないぞ!!!」
「はい、今決めましたから」
「じゃぁねぇ~♪」
そういうとトクナガは走りだし(短足なのでそんなには早くはないが)ハルルの街へと向かっていった。
そしてオレンジだけが残されため息をつくと後から嫌な殺気を感じたので、
恐る恐る振り返るとユーリ達がオレンジを睨みつけて戦闘態勢に入っていた。
「いや…待て…話せばわかる…俺達にも事情があってだな…」
「問答無用です」
「だな…とりあえずルークの居場所吐いて貰おうか!!!」
「そ、それはハルルの宿屋に…ってちょっとまてええええええええええええ!!!」
ユーリ達は一斉にオレンジに切りかかりオレンジは必死になって逃げ始め
ミュウを介抱していたラピードは犬らしくないため息をついてその戦いが終わるのを眺めていた。
アッシュは鏡に映る自分の姿を睨みつけていた。
正確に言えば主に頭皮…オールバックをしている前髪の生え際を…。
「…………やはりあの眼鏡野郎の言う通り若い頃からオールバックをしていたら
若くして………薄くなるのか…?いや…俺のはまだまだ大丈夫だ…けど最近……」
一般人がその姿を見れば腰を抜かすような睨みだったが…どことなく寂しそうな空気も漂わせていた。
そこへドアをノックする音が聞こえてナタリアが部屋へと入って来た。
「あら?アッシュどうかされましたの?おでこなんか押さえて…」
「い、いや…何でもない…大丈夫…俺は大丈夫だ…まだ大丈夫…」
「???」
アッシュは自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟くとナタリアと一緒に宿屋の部屋を出た。