祝イの詩【TFSV02】
何故かアッシュとナタリアの護衛を任されたフレンとヒスカ。
最初は慣れない貴族相手に失礼なこととかしてしまうのでは…
という不安があったが、二人が知っている傲慢な貴族達とはかけ離れた
二人の性格のおかげがあってかすぐに打ち解けることができた。
そして式典当日。
今日を乗り越えれば明日からまた通常勤務に入る二人の心には、
仕事をやりとげた安心感とそして少し寂しさがあった。
「ナタリア…先に会場へ行ってもらってよろしいですか?
こちらにはまだ準備がありますので」
「わかりましたわ…アッシュ、早く来てくださいね」
「あぁ…」
こちらも準備が整ってすぐにでも出発できるはずだったが、
何故かジェイドはナタリア達を先に会場へと向かわせた。
その行動に首を傾げるフレンだったが、自分は護衛を任されたただの騎士…
アッシュ達にも何か深い事情があるのだろうと口をださないでいた。
そしてナタリア達が部屋から出て行ってから数十分経った頃。
準備があると言っていたが何も準備をする様子を見せなかったジェイドだが、
時計を確認し、アッシュの方を向き何かを企んでいるような笑顔で話しかける。
「それではアッシュ行きましょうか」
「そうだな…ナタリアも会場に着いた頃だろうしな…」
椅子に座っていたアッシュがゆっくりと立ち上がり部屋を出ようと扉まで向かと、
フレンはすぐに駆けより扉を開けて先に部屋を出て安全を確認する。
安全を確認した後にアッシュが外に出てその後をジェイドとガイがアッシュの後を守るように
外へ出て安全を確認する…まるで命を狙われているかのように警備が厳重だ。
式典会場に向かおうと足を進めたが、会場の方から見知らぬ騎士が一人フレンの元へと寄ってきた。
フレンは最初警戒心をあらわにしたが、その騎士はただ伝言を伝えに来ただけらしく
警戒心をすぐに隠した。
「フレン殿…ルーク隊長から伝言です。すぐに屯所の方へ来るようにとのことです。
何やら重要な話しとかで…」
「ルーク隊長が?」
今朝あいさつした時は何もそんなことを言っていなかったなとフレンは思い返したが、
ルークは隊長でありこの時期特に忙しいので用事ができてもおかしくはない…そう考え直した。
「わかりました。すぐに向かいます…アッシュ様すみませんが少し私は離れます…」
「……あぁ…わかった」
フレンが行くことを騎士に伝えると騎士も他の仕事がある為か急いでその場を離れた。
そしてフレンは、アッシュに持ち場を離れる許可を貰うが少し間を置いて返事をしたのが気になったが
一礼をしてルークの待つ屯所の方へと走りだそうとしたが、ジェイドに呼び止められた。
「フレン…先ほどの騎士は貴方のお知り合いですか?」
「え?いえ…見たことのない騎士ですが…私も騎士団全員の顔を知っているわけではありませんので…」
「そうですか…ほら、早く行かないとルークに怒られますよ」
「旦那が呼びとめたんだろうが…」
苦笑いをするガイの顔を見て吊られて苦笑いをするフレンだった。
でもジェイドのいう通り早く行かないと怒られてしまうのでフレンは駆け足で走り去った。
「さて…行きますか…ガイ貴方は前をお願いしますね。私はこれでも年寄りなので…」
「よく言うよ…」
普段のジェイドから想像もつかない単語が飛び出したが、いつものことなのでアッシュとガイは軽く流して式典会場へと向かった。
ここから屯所まではかなりの距離がある…フレンがこちらに戻ってくる頃にはアッシュ達は会場へ着き
式が始まる頃になるだろうと予測した。
しばらく式典会場へと続く長い廊下を歩いていると
今度は式典会場の方から見たことのある朱色の女騎士がこちらへ向かっていくのが見えた。
「あれは…ルーク?」
「あ、フレン…?じゃねーなガイか…ん?フレン何処行ったんだ?」
そう、向こうから歩いてきたのは先ほど屯所で待っているはずのルークだった。
遠くから見て先頭を歩いていたガイを一瞬フレンと間違えたルークだったが、
すぐにフレンが居ないことに気が付き首を傾げる。
「騎士からの伝言でお前がフレンに用があるって言うからフレンは屯所の方へ向かったぞ?」
「はぁ?俺が?そんなわけねーし…誰だよそんなでたらめな伝言伝えたの…」
「やはり嘘でしたか…まぁ、目的は警備を手薄にさせるためでしょうね…」
「え?」
ルークの間抜けな声を出した途端、どこから現れたのか黒いマントを全身に纏った男達が数名現れた。
両手には武器を持っており友好関係を持ちに来たのではないことは明白だった。
「なっ…こいつらどっから…!!」
「騎士団の警備…見直しした方がいいんじゃないですか?」
「うっせーつーの!!!ほら、来るぞ!!」
ジェイドの嫌みを聞きながら剣をかまえたルーク…それと同時にガイとアッシュも持っていた剣を男達に向ける。
マントをかぶり顔は良く見えないところがまた不気味だったが相手は人間…
なんとかできるだろうと思いつつも襲ってくる男達から防戦を始める。
「ジェイド!!お前でかい術一発放してこいつらなんとかしろよ!!」
「お断りします。騎士団内でそんな揉め事を起こして始末書はごめんですから」
ジェイドの言葉にがっくりと肩を落とすルークだったが、
落ち込んでいる暇など与える様子はなく次々と男達がルークへと襲いかかる…
ルークが一番男達の相手をしているのは気のせいだろうか…?
「ルーク大丈夫か!?」
「な、なんとか…けど新調したばかりの鎧だから動きにくい…」
「この屑がっ!!!」
動きにくいもの動きにくいのだからしょうがない…と呟くがますますアッシュから睨みつけられ苦笑いをするルーク。
余裕な表情を見せているルークだったが、この数を一人で相手するのは少し無理があった…
一人では適わないと思った男達は二人同時にルークへと切りかかって来た為
ルークは剣で受け止めるがその隙に別の男がルークの背中を取った。
「ルーク!!!」
それを見ていたガイがルークの名前を呼びルークは襲いかかってくる男に気が付いたが、
今は男二人を剣で受け止めていて身動きが取れない。
それをいいことに背中を取った男は剣を大きく振り上げてルークに向かって切りつけたが、
ルークにその剣は届かなかった。
ルークに剣が届く前に金髪の騎士がその剣を受け止めたからだ。
「ふ、フレン…何処に行ってたんだよ…」
「申し訳ございませんルーク様…このっ…」
受け止めた男の剣を払いのけたフレンは次にルークが相手をしている男二人に剣を向けると
男達は数歩下がり体勢を整え始めた。
「ルーク隊長ご無事ですか!?」
フレンが来た方向からユルギスとシャスティルが慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
男達は顔を見合わせると何故かフレンを睨みつけるとどこかへと消え去って行った。
「あ、待てこら!!逃がすか!!」
「ルーク…深追いは危険ですよ」
「……解ってる」
謎の男達を追いかけようとしていたルークだったが、ジェイドに止められしぶしぶ剣を納めてアッシュに近寄った。
「アッシュ…無事か?」
「俺はな…お前はどうだ?」
「俺?俺は大丈夫だ…フレンのおかげでな」
珍しくルークを心配するアッシュに驚いたルークだったが、嬉しそうに微笑みその頬笑みをみたアッシュは
恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「フレン、ナイスタイミングだったな…ここから屯所まで結構距離があるのに…」
「あ…途中でユルギス副隊長に会って…ルーク様は会場にいると教えて貰ったので慌てて…」
「なるほどね…」
フレンがこちらに戻ってくる時間が異様に早かった謎がようやく解けた。
なんとか危機を乗り越えほっとしているとルークの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ルーク…何をしている…早く会場に行かないか」
会場の方から来たのは騎士団長アレクセイだった。
顔は見るからに不機嫌そうな顔をしていてルークは「やべっ」と小さな声で叫んだ。
「アレクセイ閣下…申し訳ございません…さきほど不審な輩が現れファブレ子爵のお命を…」
「何だと…ファブレ子爵…お怪我は?」
「あぁ…優秀な騎士団達のおかげで無傷だ…礼を言う」
思ってもないことを…と思う一同だったが、そんなことは口が裂けても言えず
お互い苦笑いをした顔をしながらアッシュとアレクセイの話を聞いていた。
「それは良かった…ですが今日の式典の出席はおやめになった方が…」
「いや、俺が出席することはすでに知れ渡っている…これくらいで欠席などできない」
「わかりました。もうすぐ式が始まりますのでどうぞこちらに…」
「あぁ…」
アッシュを案内するアレクセイだったが、一度だけルークの方をみて目を細めるが
すぐにその場から立ち去っていった。
その様子に首を傾げるルークだったが、特に気にすることもなく式場へと向かって行った。
「ルーク…怪我をしないよう気を付けてくださいね」
「あぁ…大丈夫だって…ナタリアは心配性だな…」
「ルーク、いいか…変なやつについて行ったり、あぶないことに首突っ込むんじゃないぞ」
「ガイ…お前は過保護すぎだつーの…」
それから式典が無事にはじまり何事もなく終わった次の日、
ナタリアとアッシュは屋敷へと戻る為に騎士団が用意した馬車が騎士団前に到着する予定だったがまだ姿が見えない。
馬車を待っている間にナタリアとガイはルークが心配なのか
ずっと同じことをルークに言い聞かせていた。
「俺はガキじゃねーつーの…」
「そんなこと言う奴ほどガキなんだよ…」
「アッシュ…ひでぇ…」
アッシュの一言に苦笑いをするルークとフレンだった。
そんな時やっと馬車が二台到着し、馬車の中から長身の髭の生えた男が現れ
その男の姿をみたルークは目を輝かせて近寄った。
「ヴァン師匠お久しぶりです!!」
「あぁ…ルークか…久しぶりだな…」
ヴァンと呼ばれた男はルークの頭を優しく撫でると
フレンの姿を見つけフレンへと近寄って行く。
「貴殿がフレン・シーフォ殿か?」
「あ…はい…えっと…」
「申し遅れた、私は白光騎士団所属、ヴァン・グランツだ…」
「俺とアッシュの剣の師匠でもあるけどな」
「はぁ…」
ルークの追加の説明で何故ルークが「師匠」と呼ぶのかが解ったが、
面識のないこの人物が何故フレンの名前を知っているかが謎だった。
「ジェイド殿から報告を受けている…ルークの危機を救ってくれたそうだな…礼を言う」
「あ…いえ、そんな…私はいつも隊長にお世話になっていて…お礼を言うのはこちらの方で…
深く頭を下げるヴァンに戸惑い、フレンも吊られて同じくらい頭を下げる。
その光景がおかしくてルークは笑ってしまった。
「それではナタリア殿、帰りましょうか」
「はい…ルーク是非遊びに来てくださいね…おばさま達も心配しておりますわ」
「まぁ…考えておく」
珍しく歯切れの悪いルークの返事にナタリアはため息をつくが、
ティアに中に入るように言われしぶしぶ馬車の中へと入って行った。
そしてそのあとに別の馬車にアッシュ達が乗り込み馬車は貴族街へと向かって行った。
「やっと嵐が過ぎ去ったか…」
「嵐って隊長…ほら早く準備しないとユーリとの約束に遅れますよ」
「あ、そうだった…」
時計を見たルークとフレンはは慌てて騎士団の中に戻って行った。
そして騎士団から貴族街へ向かう馬車の中…
アッシュ達が乗り込んだ馬車の中では静かに会議が開かれていた。
「それではやはりルークが…」
「えぇ…アッシュを狙っているようでしたが…ルークを狙っていたのは確実です」
ジェイドは静かに答えるとガイとアッシュはため息をついた。
「やはり、ローレライのこと知られているようだな…」
「今回の件でフレンのやつが狙われるようにならないといいが…」
ガイとアッシュの言葉にヴァンは何かを考え始めた。
その仕草にジェイドは小さく笑ったが今後の行動をどうするか…
ヴァンと同じように考え始めた。
「ふーん…ジェイドってやつが事前にお前の弟が狙われてるって情報を掴んで
騎士団に護衛の協力要請を申請したのか」
「あぁ…しかも何故か俺の隊を指定してきたんだぜ?ありえねーつの」
「だからユルギス副隊長の胃薬の量が最近増えてたんですね…」
「あぁ…失敗したらまた解散とかになるからな」
ルークは大きな花束を抱えながらユーリとフレンと共に静かな道を歩いていた。
今日は午後から休暇を取っていたので服は私服だ。
久しぶりに会えたユーリに最近あったことを嬉しそうに話すルーク…
そんなルークを見て表情には出さないが幼馴染だからわかるその仕草…ユーリも喜んでいる。
ルークの足元にはまだまだ子犬のラピードがしっかりと貼り着き離れようとはしない。
モテモテな自分の隊長に苦笑いをするフレンだったが…このメンバーでいる時間は
フレンの中で今一番楽しい時間だった…これからも大切にしていきたい時間だ。
そんな三人と一匹が向かったのは下町にある墓場だった。
もちろん向かう先は一つしかない…そう、「ナイレン・フェドロック」と書かれた墓標だけだ。
すでに多くの人が来ていたのか花束が沢山そなえられている。
ルークはナイレンの墓に花を供えると手を合わせて報告をする。
「父上…遅くなってごめんな…今年も無事式典終わったぜ…」
ナイレンの墓に手を合わし終えた後隣にあるナイレンの奥さんと実の子供の墓にも手を合わせた。
フレンとユーリそしてラピードも静かに祈りルークの後姿を見つめるが、
ルークは直ぐに立ち上がり墓場をあとにした。
「ルーク…もう少し居たらどうだ?」
「大丈夫だって…父上は俺の傍にいつもいてくれてるし…」
笑うルークの姿にユーリはそれ以上何も言えなかった…
今でも鮮明に思い出すあの日…
ナイレン隊長の最後の言葉…
ナイレン隊長から預かった大切なもの…
鮮明に思い出すことができるのはユーリだけではない、フレンも同じだった。
「さーて、ユーリの家行って祝杯あげねーとな」
「祝杯ですか?何のです?」
フレンとユーリには何の祝杯か見当もつかなかった…
二人が首を傾げているとルークはきょとんとした顔でフレンを見つめた。
「あれ?言ってなかったか?フレンお前明日からうちの小隊長だぜ」
「え?えええええええええええええええええ!!!???聞いてませんよそんなこと!!!!」
「……あ、わりぃ…言い忘れてたか…」
「おー…フレンすげーなおめでとさん」
フレンはあまりの驚きに口をぱくぱくさせてその場から動けなくなり、
その様子にルークとユーリは大笑いをしてそのあとフレンに怒られてしまった。
「あの娘は殺すなと言ってあったはずだ…なのにどういうことだ…!!!」
「っは…申し訳ありません…」
「それにフレン・シーフォか……どうにかしなければな…」
騎士団の最奥で話される黒い影…
これはユーリとエステルが出会う前のお話…