旭屋本舗
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目を閉じれば鮮明に思い出せる夢。
手を伸ばしても届かない腕…
助けたいのに…助けることができない…
自分の無力さ…
あぁ…自分は【また】人を助けることができなかった…
落ちて行ってしまう人を助けることができなかった…
……また?
いや、俺は過去にそんな経験をした覚えがない。
ましてやまだ夢でみた経験をしていない。
けれど…昔…どこかで…似たような経験をした記憶がある…
前世の記憶か、または異世界の記憶か…
俺には解らない…こんな気持ちになる理由が…
俺は変えてみせる…絶対に助ける…その為にわざわざここまで来たんだ。
絶対に…未来を変えてみせるよ…
父上…
夜ト朝ノ唄【TFS05】
ユーリは遠慮がちに隊長室の扉を叩いた。
するとさきほどまで鳴っていた音は止まり、
変りに低い声で部屋の中へ呼ぶ声が聞こえる。
ゆっくりと扉を開けると中にはナイレンが椅子に座り、
一人寂しく晩酌を始めているところだったようで笑いながらユーリに声をかけた。
「どうしたユーリ?」
「ちょっと…眠れなくて…」
「……そうか、話くらいなら聞いてやるぞ…」
空いていた椅子に座りナイレンが入れてくれたぶどうジュースを少し飲むと、
ぶどう独特の甘さと苦さが口の中に広がった。
それはまるで今のユーリの心を表しているかのように…
ユーリは隊長に話したいことがあったはずなのに、中々口に出せなかった。
今回の騒動のことが大半だったが、先日研修として来た人物に対する思いもあった。
同性なのに気になる存在で…
別に同性だからという小さなことで悩むのは自分らしくない。
彼が傍にいてくれたらユーリはそれで良かった…
けど、彼の方がユーリの思いを知って迷惑ではないだろうか…
離れてしまうのではないか…
そんな不安が心の角にあった。
まだ若いユーリだからこれほど悩むのだろう…もう少し成長すれば…
こんなに悩まなかったかもしれない…。
ぶどうジュースを飲んでいると机の上にあった写真に目が止まり、
そこには小さな女の子と若い女性の姿が映し出されていた。
「あぁ…それは俺の子供と女房だ…二人とももうこの世には居ないけどな…」
「え?けど、ルークって騎士団に所属してる娘が居るって…」
ルークの名前を耳にした途端ナイレンの表情が真剣な顔になったが、
またすぐにいつもの少し抜けた顔にもどった。
「あいつは養子だ…あいつが10歳の頃…だったかな?
昔馴染みの友人…父親から預かったんだ…複雑な家庭内事情ってやつだ」
「何でアンタが…?」
ナイレンは考えるような仕草を見せた。
複雑な家庭内事情をどう解りやすく説明すればよいか…そう考えているのだろう。
「いろいろあってな…ルークのやつこのまま自分が家に居たら両親、弟、幼馴染達に迷惑がかかるって
思い込んで…家出したんだ…家出していた所を保護したのがたまたま俺だったわけだ。」
「……………。」
「まぁ、あの家に居てもルークにとって良くないって判断した両親は家庭内事情が収まるまで
ルークを俺のところに預けるってことにしたんだ…養子としてな…
あいつの実家は今は結構安定してきてるし、いつでも戻ってきて良い体勢なんだが…戻る気はないみたいだな」
ナイレンが何故ここまで詳しい話を聞かせてくれるかユーリにはわからなかった。
会ったこともないルーク・フェドロック…その話から聞く性格に
一人の人物と姿が重なって見える…その優しすぎる性格…が特に。
グラスに入っていたワインをナイレンがすべて飲み干すと、
真剣な表情でユーリに目を合わせた。
「ユーリ…頼みがあるんだが…」
「…何だよ。改まって…」
「あいつ…ルークのこと頼む…」
「は、はぁ?」
ナイレンの何時にない真剣な表情だけでも驚いていたのに、
その口から出た言葉に飲んでいたジュースをもう少しで吹き出しそうになった。
「な、何だよそれ…娘を嫁にやるような言い方するなよ…」
「お前なら…あいつを嫁にやってもいいと思ってる」
「……まじかよ…」
自分が悩みを話に来たのに…何時の間にこんな婚約話になっているのだろうか…
いつから話の腰が折れたのか…ユーリの頭は混乱し始めた。
そんなユーリを余所にナイレンは話を続ける。
「そんな会ったことないやつを……嫁になんて貰えねぇ…」
「あぁ、写真ならあるぞ。ほれこの赤毛のやつだ」
「をい…そういう問題じゃ…ね…ぇ…」
ナイレンから手渡された写真を見てユーリの動きが止まる。
その写真に写っている人物…
双子の先輩から聞いた通りの綺麗な赤毛…いや朱色の長い髪。
宝石のような輝く碧の瞳。
そしてその福与かな胸と細い腰…女性らしさを存分に出している。
双子の先輩達が騒ぐのも無理はない…
いや、それ以前にユーリは写真に映る人物の顔を確認すると小さくわらった。
「どうだ?いい女だろ?ちょっとお転婆がすぎるけどな…」
「確かに…いい女だな…嫁にするのがもったいないくらいだ…」
さっきまで悩んでいる表情しかみせていなかったユーリだが、
今は何時もの…いや、いつも以上に楽しいおもちゃを見つけた子供のような笑顔を見せるが、
裏では何故か黒いオーラが目に見える。
「………いや、それは…それぐらいの気持ちってことで…別に本気で…」
「お父様にも認められて俺達の結婚はもう壁なんてねぇな~」
「おい、人の話を聞けっ…」
この時ナイレンは人選ミスをしたと後悔した。
自分の愛する娘を任せるのならフレンにすればよかったと…
翌朝。
ナイレン隊のメンバーは湖にある古い城へと出発を開始した。
森の中ではエアルが異常な濃さを出しており、
早急に解決しないと街の結界が暴走してしまう恐れがあることを、
森の中で隊長から告げられたメンバー達。
ましてや魔導器も使えない…事前に言えと文句を言っているメンバー達を
ユーリ、フレンそしてルークが苦笑いをしながらその様子を眺めている。
「あんなおっさんに任せて大丈夫なのかねぇ…」
「ありゃぜってーわざと言わなかった目だ…いろいろあるんだろ…」
「その前にユーリ…今日はやけにルークにひっついていないかい?」
赤茶色の髪をしたルークの傍には漆黒の狼がずっとそばにいた。
前からよく吊るんでいた二人だったが、今日はやけに距離が近い…
正確に言えばルークが離れようとしてもユーリが絶対に離れようとしない。
「そうなんだよな…何か今日はやけに傍にいるつーのか…
なぁ、俺別に怪我は大丈夫だから少し離れろって…」
「隊長から直々の命令なんだよ…諦めろ」
「意味わかんねーし」
ユーリの言葉にルークがため息をつくとその姿にフレンが小さく笑う。
ずっと硬い表情だったフレンの笑顔を見るのは
隊員達に取って久しぶりの顔だった。
「そういえば…僕も隊長から直々に命令があってね…」
「なにっ…お前もルークの傍に居ろって命令か!?あのおっさん…二股かけやがって…」
前を歩く隊長を殺せるような睨みで睨みつけると、
その間にいた他のメンバー達に寒気が走る。
一番の標的であるナイレンは気がついているはずだが、あえて後を振り向こうとはしない。
「いや…全然違う命令で…」
「どんな命令だ?」
隊長命令で付けていた魔導器を外していたルークがフレンに問いかけると
何処から取り出したのかでかい黒い武器を片手で持ちルークに見せた。
「それが…黒くて変態な狼がルークに変なことをしようとしたら…これでガツン!!と叩くようにって命令で…
流石の狼もこの鍋で叩かれたら…軽傷じゃ済まないかと…」
そう、フレンが持っていた黒い武器は鍋…しかも頑丈な中華鍋だ。
フレンとルークはその命令の意図が解らず首をかしげる。
ナイレンが出した命令の意味がわかったユーリは苦笑いをしながらも
前を歩くナイレンを睨みつけるが、
その時ユーリの前から聞き覚えのあるメロディが聞こえてきた。
そのメロディを初めて聞いたのは森の中…そして昨夜も隊長の部屋の前で聞いたメロディ…
今回はちゃんとした唄ではない…鼻唄だ…
ユーリが慌てて歌っている人物の傍へ行くと
唄っていたのはヒスカとシャスティルだった。
「な、なぁ…その唄…何て言う唄なんだ?」
「え?さぁ?この前部屋で誰かが歌ってるのを聞いて覚えただけだし…
けど、この唄気持ちが温かくなるし、結構気に入ってるから…緊張をほぐす為に歌っただけよ」
確かにヒスカとシャスティルが唄っていた鼻唄はユーリが初めて聞いた
森の中での唄声とは全然違っている…もっと透き通るような唄声だった。
あの人物は何者なのか…ユーリはまだそれを知らなかった。
手を伸ばしても届かない腕…
助けたいのに…助けることができない…
自分の無力さ…
あぁ…自分は【また】人を助けることができなかった…
落ちて行ってしまう人を助けることができなかった…
……また?
いや、俺は過去にそんな経験をした覚えがない。
ましてやまだ夢でみた経験をしていない。
けれど…昔…どこかで…似たような経験をした記憶がある…
前世の記憶か、または異世界の記憶か…
俺には解らない…こんな気持ちになる理由が…
俺は変えてみせる…絶対に助ける…その為にわざわざここまで来たんだ。
絶対に…未来を変えてみせるよ…
父上…
夜ト朝ノ唄【TFS05】
ユーリは遠慮がちに隊長室の扉を叩いた。
するとさきほどまで鳴っていた音は止まり、
変りに低い声で部屋の中へ呼ぶ声が聞こえる。
ゆっくりと扉を開けると中にはナイレンが椅子に座り、
一人寂しく晩酌を始めているところだったようで笑いながらユーリに声をかけた。
「どうしたユーリ?」
「ちょっと…眠れなくて…」
「……そうか、話くらいなら聞いてやるぞ…」
空いていた椅子に座りナイレンが入れてくれたぶどうジュースを少し飲むと、
ぶどう独特の甘さと苦さが口の中に広がった。
それはまるで今のユーリの心を表しているかのように…
ユーリは隊長に話したいことがあったはずなのに、中々口に出せなかった。
今回の騒動のことが大半だったが、先日研修として来た人物に対する思いもあった。
同性なのに気になる存在で…
別に同性だからという小さなことで悩むのは自分らしくない。
彼が傍にいてくれたらユーリはそれで良かった…
けど、彼の方がユーリの思いを知って迷惑ではないだろうか…
離れてしまうのではないか…
そんな不安が心の角にあった。
まだ若いユーリだからこれほど悩むのだろう…もう少し成長すれば…
こんなに悩まなかったかもしれない…。
ぶどうジュースを飲んでいると机の上にあった写真に目が止まり、
そこには小さな女の子と若い女性の姿が映し出されていた。
「あぁ…それは俺の子供と女房だ…二人とももうこの世には居ないけどな…」
「え?けど、ルークって騎士団に所属してる娘が居るって…」
ルークの名前を耳にした途端ナイレンの表情が真剣な顔になったが、
またすぐにいつもの少し抜けた顔にもどった。
「あいつは養子だ…あいつが10歳の頃…だったかな?
昔馴染みの友人…父親から預かったんだ…複雑な家庭内事情ってやつだ」
「何でアンタが…?」
ナイレンは考えるような仕草を見せた。
複雑な家庭内事情をどう解りやすく説明すればよいか…そう考えているのだろう。
「いろいろあってな…ルークのやつこのまま自分が家に居たら両親、弟、幼馴染達に迷惑がかかるって
思い込んで…家出したんだ…家出していた所を保護したのがたまたま俺だったわけだ。」
「……………。」
「まぁ、あの家に居てもルークにとって良くないって判断した両親は家庭内事情が収まるまで
ルークを俺のところに預けるってことにしたんだ…養子としてな…
あいつの実家は今は結構安定してきてるし、いつでも戻ってきて良い体勢なんだが…戻る気はないみたいだな」
ナイレンが何故ここまで詳しい話を聞かせてくれるかユーリにはわからなかった。
会ったこともないルーク・フェドロック…その話から聞く性格に
一人の人物と姿が重なって見える…その優しすぎる性格…が特に。
グラスに入っていたワインをナイレンがすべて飲み干すと、
真剣な表情でユーリに目を合わせた。
「ユーリ…頼みがあるんだが…」
「…何だよ。改まって…」
「あいつ…ルークのこと頼む…」
「は、はぁ?」
ナイレンの何時にない真剣な表情だけでも驚いていたのに、
その口から出た言葉に飲んでいたジュースをもう少しで吹き出しそうになった。
「な、何だよそれ…娘を嫁にやるような言い方するなよ…」
「お前なら…あいつを嫁にやってもいいと思ってる」
「……まじかよ…」
自分が悩みを話に来たのに…何時の間にこんな婚約話になっているのだろうか…
いつから話の腰が折れたのか…ユーリの頭は混乱し始めた。
そんなユーリを余所にナイレンは話を続ける。
「そんな会ったことないやつを……嫁になんて貰えねぇ…」
「あぁ、写真ならあるぞ。ほれこの赤毛のやつだ」
「をい…そういう問題じゃ…ね…ぇ…」
ナイレンから手渡された写真を見てユーリの動きが止まる。
その写真に写っている人物…
双子の先輩から聞いた通りの綺麗な赤毛…いや朱色の長い髪。
宝石のような輝く碧の瞳。
そしてその福与かな胸と細い腰…女性らしさを存分に出している。
双子の先輩達が騒ぐのも無理はない…
いや、それ以前にユーリは写真に映る人物の顔を確認すると小さくわらった。
「どうだ?いい女だろ?ちょっとお転婆がすぎるけどな…」
「確かに…いい女だな…嫁にするのがもったいないくらいだ…」
さっきまで悩んでいる表情しかみせていなかったユーリだが、
今は何時もの…いや、いつも以上に楽しいおもちゃを見つけた子供のような笑顔を見せるが、
裏では何故か黒いオーラが目に見える。
「………いや、それは…それぐらいの気持ちってことで…別に本気で…」
「お父様にも認められて俺達の結婚はもう壁なんてねぇな~」
「おい、人の話を聞けっ…」
この時ナイレンは人選ミスをしたと後悔した。
自分の愛する娘を任せるのならフレンにすればよかったと…
翌朝。
ナイレン隊のメンバーは湖にある古い城へと出発を開始した。
森の中ではエアルが異常な濃さを出しており、
早急に解決しないと街の結界が暴走してしまう恐れがあることを、
森の中で隊長から告げられたメンバー達。
ましてや魔導器も使えない…事前に言えと文句を言っているメンバー達を
ユーリ、フレンそしてルークが苦笑いをしながらその様子を眺めている。
「あんなおっさんに任せて大丈夫なのかねぇ…」
「ありゃぜってーわざと言わなかった目だ…いろいろあるんだろ…」
「その前にユーリ…今日はやけにルークにひっついていないかい?」
赤茶色の髪をしたルークの傍には漆黒の狼がずっとそばにいた。
前からよく吊るんでいた二人だったが、今日はやけに距離が近い…
正確に言えばルークが離れようとしてもユーリが絶対に離れようとしない。
「そうなんだよな…何か今日はやけに傍にいるつーのか…
なぁ、俺別に怪我は大丈夫だから少し離れろって…」
「隊長から直々の命令なんだよ…諦めろ」
「意味わかんねーし」
ユーリの言葉にルークがため息をつくとその姿にフレンが小さく笑う。
ずっと硬い表情だったフレンの笑顔を見るのは
隊員達に取って久しぶりの顔だった。
「そういえば…僕も隊長から直々に命令があってね…」
「なにっ…お前もルークの傍に居ろって命令か!?あのおっさん…二股かけやがって…」
前を歩く隊長を殺せるような睨みで睨みつけると、
その間にいた他のメンバー達に寒気が走る。
一番の標的であるナイレンは気がついているはずだが、あえて後を振り向こうとはしない。
「いや…全然違う命令で…」
「どんな命令だ?」
隊長命令で付けていた魔導器を外していたルークがフレンに問いかけると
何処から取り出したのかでかい黒い武器を片手で持ちルークに見せた。
「それが…黒くて変態な狼がルークに変なことをしようとしたら…これでガツン!!と叩くようにって命令で…
流石の狼もこの鍋で叩かれたら…軽傷じゃ済まないかと…」
そう、フレンが持っていた黒い武器は鍋…しかも頑丈な中華鍋だ。
フレンとルークはその命令の意図が解らず首をかしげる。
ナイレンが出した命令の意味がわかったユーリは苦笑いをしながらも
前を歩くナイレンを睨みつけるが、
その時ユーリの前から聞き覚えのあるメロディが聞こえてきた。
そのメロディを初めて聞いたのは森の中…そして昨夜も隊長の部屋の前で聞いたメロディ…
今回はちゃんとした唄ではない…鼻唄だ…
ユーリが慌てて歌っている人物の傍へ行くと
唄っていたのはヒスカとシャスティルだった。
「な、なぁ…その唄…何て言う唄なんだ?」
「え?さぁ?この前部屋で誰かが歌ってるのを聞いて覚えただけだし…
けど、この唄気持ちが温かくなるし、結構気に入ってるから…緊張をほぐす為に歌っただけよ」
確かにヒスカとシャスティルが唄っていた鼻唄はユーリが初めて聞いた
森の中での唄声とは全然違っている…もっと透き通るような唄声だった。
あの人物は何者なのか…ユーリはまだそれを知らなかった。
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