旭屋本舗
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電車の窓から見える町は完全に漆黒の色に染まっている。
その色はまるで今の俺を映し出しているようだ。
俺の心が暗い理由それは
今日の練習試合は本当につまらないものだったからだ。
つまらないといっても実力は中の上くらい学校で、
他の生徒にとっては有意義な試合だったかもしれないが
俺にとってはつまらない試合だ。
面白い試合といえばセイント・ヴェスペリア学園の練習試合が
一番最初に頭によぎるが、あそことは二度と試合はしたくない。
めんどくせぇエロ王子…もとい黒狼が居るからだ。
あぁ…早く帰りたい…今にも雨が降りそうだ。
何時ごろに帰れるかと思い逆算していると
予想通り雨が降り出してきた…しかも大雨ときた。
ほんと今日は最悪な日だ。
雨
アッシュは家の最寄り駅で電車を降りたが雨で足止めを食らってしまう。
小雨なら走って帰っても問題はないが、
バケツをひっくりかえしたような大雨で勇気を持って走り出す心すら奪われる。
どれくらい待てば止むかは見当がつかないでいた。
家に電話をして迎えに来てもらうのが賢明だが、
きっと迎えに来るのは双子の兄と予測ができたので複雑な思いから電話をかけれないでいた。
雨が少し弱くなったところを走って帰ろうと決断した時
目の前から見たことのある…いや、毎日拝んでいる顔が近づいてきていた。
「あ、アッシュ見つけた。おーい、アッシュー!!!」
「あの屑がっ…でかい声で呼ぶんじゃねぇ!!!」
「アッシュの方が声でかいよ。」
しまったと思い周りを見るとみんなアッシュの方を見ていたが
アッシュに睨まれると皆顔を別の方向へと向けた。
アッシュの方へ傘を差し嬉しそうに近づいてきたのは双子の兄ルークだ。
帰宅時間など言っていなかったのに迎えに来たことにアッシュは少し驚いている。
「おい、何しに来たんだ」
「迎えにきたに決まってるだろ。アッシュ傘持ってなかったし」
ルークは緩んだ顔でアッシュに笑いかける。
その顔は双子とは思えないくらい違う笑顔…アッシュにはこんな笑顔は作れないとわかっている。
だから心を惹かれてしまうのだろうか…自分が持っていないものをもっている双子の兄に…
「ほら、早く帰ろうぜ。母上が心配して待ってるからさ。」
ルークは傘を差していない方の手でアッシュに手を差し伸べるが、
アッシュの眉間には皺が増えた。
それは手を差し伸べられたから増えたわけではない…ルークの格好を見て皺を増やしたのだ。
ルークの持ち物は差している傘、ポケットが少し膨らんでいるので多分携帯と家の鍵…
それ以外何も持っていない…アッシュは嫌な予感がしながらも口を動かした。
「おい…お前俺を迎えに来たんだよな?」
「そうだってさっきから言ってるじゃねぇか」
「じゃぁ、俺が差す傘はどこにある?」
「………え?あっ………忘れた」
普段の癖でまた怒鳴ってしまいそうになったが、ここは学校でも家でもない公共の場。
心からくる怒りを必死に抑えながらアッシュはルークを睨みつけた。
「ま、まぁ二人でこの傘使って帰ろうぜ。」
「そんな傘じゃ半分しかはいらないだろ…どうせ濡れるなら傘なんていらねぇ」
濡れて帰るのは決定事項なので走って帰ろうと自分の荷物を持ちなおした時、
ルークに腕を掴まれて無理矢理傘の中へと入れられてしまった。
「おいっ!!」
「いーじゃんいーじゃん。半分濡れないでも傘の意味あるって。ほら、帰ろう」
「っく…この屑が…」
ルークが家へと帰る道へ歩きだしてしまったので、アッシュも仕方がなく歩幅を合わせて帰ることにした。
半分しか傘に入れないので少しずつ身体が濡れていくのがわかる。
アッシュは自分が半分濡れていくのでルークの身体を見ると
ルークもアッシュと同じように少しずつ身体が濡れていっていた。
「おい…濡れてるからもっとこっちに入れ」
「え?それじゃぁアッシュが…」
「いいから…こっちにこい。俺のせいで風邪でも引かれたら後味が悪い。」
「あ…うん…。ありがとう…」
きっとこの迎えのせいでルークが風邪をひいたら、
ルーク命の某親友兼使用人が毎日食事にアッシュの嫌いなものを入れてくると予想できる。
今も学校などへ行く時二人で並んで行くことが多いが、
これほど近づいて並んで歩くのは久しぶりだとアッシュは感じた。
昔はよく御揃いの雨コートを着て幼稚園へ通ったのを思い出す。
いつから並ばなくなったのだろうか…それは多分アッシュが自分の心の中にあるルークへの思いに
気がついた時からだろう…
いろいろと思いにふけっていると近くに居るのに会話がない時間が続いていることに気がつく
なんとか話題を出そうと先ほどから少し疑問に思っていたことを持ちだした。
「何でお前俺の帰宅時間分かったんだ…俺が駅についた途端迎えに来ていたし…」
「あぁ…何となくもうすぐアッシュが帰ってくる気がしたんだ。
そうしたら雨が降り出してたし、アッシュ傘持ってないだろ?双子の感ってやつ?」
何故アッシュが傘を持っていないことを断言できるのかがわからない。
もしかしたら鞄に折りたたみを入れているかもしれないのに…そこもルークの言う
双子の感というものなのだろうか…
そこから他愛もない話が少しだけど続いていた。
周りは喫茶店やファーストフード店が並び少しお腹が減っていたが
二人の会話からはどこか寄ろうという話はでなかった。
そんな二人の会話を遮る音がルークのポケットから流れ始めた。
「おい…携帯が鳴ってるぞ…ずっと鳴っているから電話じゃないのか?」
「え?あ、本当だ。誰だろう?」
ルークの着信音は昔から変らない。
めんどうだからといってメールも電話も同じ曲を使っているが
使っている曲は初めて携帯を持ち始めたころからずっとかわらないでいた。
前に何故その曲なのかと聞いたところ
『俺達二人のことを歌ってるみたいな曲だから』と顔が赤くなってしまうような回答が帰ってきた。
おかげで街中でその曲が流れたり、ガラス玉をみたりすると自然と頭にルークの顔が浮かんでしまう
もうこれは一種の病気ではないかとアッシュは心配になっていた。
そんなルークの着信音はずっと鳴り続けている。
電話の相手はどれだけルークに急ぎの用事なのかと思っていたが
相手の名前を聞いた途端アッシュの額に皺が増えた。
「あ、ユーリから電話だ…何だろう?」
「なんだと…」
空いている手でルークから携帯を取り上げるとディスプレイに浮かぶ名前は
確かに「ユーリ」と浮かんでいる。
アッシュは少し辺りを伺ったがルークのが居る位置で顔を止め黒い笑顔で笑ったが
その笑顔はルークの方を向いているがルークに向けられたものではない。
アッシュは今も鳴り続けるルークの携帯の音を止め、ついでに電源も切り自分の鞄の中へと誘拐をした。
「え?ちょ、アッシュ何するんだよ!!!」
「うるせぇ…おい、少し走るぞ…」
アッシュは空いている手でルークの手と掴みそのまま全速力で走りだした。
「は?え?何で?ちょ、アッシュ?アッシュってばっ!!!」
ルークとアッシュは全身を濡らしながら夜の街を駆け抜け
家の前まで来るとやっとアッシュの足がとまった。
「ここまでくればもう安心か…」
「ぜぇ、はぁ…な、何が…安心なんだよ…」
「お前には関係ない…その前にお前…息切れすぎだ。運動不足なんじゃねぇのか?」
同じ距離を同じ速度で走ったにも関わらずアッシュは息を切らしていなかった。
その反対にルークはさきほどから息を切らしており少し苦しそうだが、
息を切らしていたルークだがすぐに元の息使いに戻ったあたり中々のものだ。
「うるせぇ…帰宅部に文句いうな。あーあー…折角迎えに来たのに全身濡れたじゃねぇか」
ルークとアッシュの身体全体が雨でぬれていた。
持っていた傘も走っていた為あまり役には立たなかった。
春から夏へ移り変わる時期の為ルークは薄着だ。
薄着の為雨でぬれた服はルークの身体のラインをはっきりと映し出す。
アッシュの中で何かが少しずつ熱くなっていくのがわかった…。
「うぅ…雨が苦い…やべっ…目に雨が入った…いてぇ…涙出てきた…」
「ほう…」
アッシュは何も言わず痛そうに目から出る涙を舌で舐め取り、
ルークはいきなりのアッシュの行動に驚いて顔を真っ赤にさせる。
「確かに…苦いな…いや、しょっぱいか?」
「ばかっ…何するんだ!!!ってかそれは雨じゃなくて俺の涙だ!!!」
「どっちも一緒だろ…ほら家に入るぞ」
そういうとアッシュは一人家へはいる為玄関の鍵を開け始めた。
「一緒じゃねぇよ!!人の話最後まで聞けっ!!!」
文句を言ってやろうとアッシュに食い付いたが、
扉を開けて出てきたガイに二人の姿を見られ怒られてしまった為アッシュに文句が言えなかった…。
玄関先でガイに怒られている時
アッシュは雨のあまり悪くないなと思っておりガイの話は全く耳に入っていなかった。
「あ、あれルークと…アッシュじゃないかい?」
「んぁ?」
練習試合の帰り道、雨が強く降ってきたので部員と一緒に入ったファーストフード店。
窓側に座っていたフレンが外を見ると見覚えのある赤毛二人を見つけたので
ポテトを食べていたユーリに声をかけた。
ユーリが外を見ると確かにルークとアッシュだった。
外は暗いし雨が降っていたのではっきりとはわからなかったが、
ユーリがルークを間違えるわけがなかった…アッシュは別として。
「あぁ…あれがアビス学園の主将アッシュさんか…」
フレンの隣に居た副主将のアスベルが後から窓の外を見る。
「アスベルはまだ顔合わせてなかったんだね」
「えぇ…ルークさんとは話しましたが…しかし、二人で同じ傘に入るって仲がいいんですね。」
いくら双子でも二人で同じ傘に入ることはほぼない…
ましてや男同士ならなおさらだ、二人のその帰り姿はまわりからはよほど仲がいいとわかる。
「へぇ…あの二人が喧嘩せずに帰るなんてめずらしいな…
まぁ、今日はこのまま二人で帰らせてやるか…」
少し寂しそうな瞳でルークとアッシュの姿を見るユーリ。
いつもならルークをからかいにアッシュとの間に入るが、
さすがにあんな仲がいい二人を見て割って入る気にはならないのだろう。
「うんうん。流石ユーリ…いくらルークのことを好きでも今日くらいは…」
「なーんてな…」
ユーリは食べていたポテトを食べ終わると鞄から携帯を取り出した。
目の前にいたアスベルとフレンは嫌な予感を肌で感じる。
「この俺がそんなお優しいことすると思ってるのかよ…」
さっきまで寂しそうだった瞳が面白いおもちゃを見つけた時の瞳に変化した。
そして慣れた手つきで携帯に登録されている人物に電話をかけ始めた。
フレンがルークの方を向くと同時にルークがポケットから携帯を取り出したのが確認できる。
「ゆ、ユーリ…まさかルークに…」
「ルークに大事な用があったのを思い出してな」
そういいながらユーリは黒い笑顔をフレンに向ける。
ユーリの性格はかなり大人な性格のはずだが、
たまに子供っぽい性格になるのがまだまだ自分達は未成年だと実感できる。
ルーク達の様子をみているといきなりアッシュがルークの携帯を取りあげて
周りを見渡しこちらに顔を向けて何やら黒い笑顔で笑いかけてきた。
あの顔はこっち側に気が付いている顔だ。
そして何やらルークの携帯を触って操作しはじめた。
「え?なっ…あいつ電話切りやがった!!!電源まで落としてやがる…」
「さ、流石アッシュ…容赦ないな…」
「アッシュさんは何でこっちに気がついたんだ…?」
「そこは魔王と王子間柄だからかな?」
「おい、フレン…あいつとの間柄とか…きもいこというなっ…!!!って、あっ!!!」
ユーリがアッシュを睨みつけていると
アッシュはルークの手を掴み夜の街へと走っていった。
その走りはどこか勝ち誇ったような走りだ。
今から追いかけてもきっと間に合わないだろう…そんな速さでもあった。
「あーあー…行ってしまたね。」
「はぁ…いいさ、明日デートするから。」
「約束してたのかい?」
「いや、してない。明日会いに行ってそのまま出かける」
フレンとアスベルは苦笑いしかでなかった。
けどどこか楽しそうなユーリにフレンは少し嬉しそうにユーリを見つめる。
大人しく今日は終わるはずだったが、次の一言で嵐が再び蘇った。
「まぁ、今日は魔王の勝ちってことだな」
アスベルのその一言にユーリの顔が険しくなった
「誰が、いつ、どこで、誰に負けただって?」
「え?あ、いや…そのっ…」
「アスベル…寮に帰ったら覚悟しておけよ…」
その後寮に戻ったアスベルがどうなったかは誰もしらない。
いや、フレンは知っているようだったがその話になると一目散に逃げてしまうので迷宮入りとなった。
その色はまるで今の俺を映し出しているようだ。
俺の心が暗い理由それは
今日の練習試合は本当につまらないものだったからだ。
つまらないといっても実力は中の上くらい学校で、
他の生徒にとっては有意義な試合だったかもしれないが
俺にとってはつまらない試合だ。
面白い試合といえばセイント・ヴェスペリア学園の練習試合が
一番最初に頭によぎるが、あそことは二度と試合はしたくない。
めんどくせぇエロ王子…もとい黒狼が居るからだ。
あぁ…早く帰りたい…今にも雨が降りそうだ。
何時ごろに帰れるかと思い逆算していると
予想通り雨が降り出してきた…しかも大雨ときた。
ほんと今日は最悪な日だ。
雨
アッシュは家の最寄り駅で電車を降りたが雨で足止めを食らってしまう。
小雨なら走って帰っても問題はないが、
バケツをひっくりかえしたような大雨で勇気を持って走り出す心すら奪われる。
どれくらい待てば止むかは見当がつかないでいた。
家に電話をして迎えに来てもらうのが賢明だが、
きっと迎えに来るのは双子の兄と予測ができたので複雑な思いから電話をかけれないでいた。
雨が少し弱くなったところを走って帰ろうと決断した時
目の前から見たことのある…いや、毎日拝んでいる顔が近づいてきていた。
「あ、アッシュ見つけた。おーい、アッシュー!!!」
「あの屑がっ…でかい声で呼ぶんじゃねぇ!!!」
「アッシュの方が声でかいよ。」
しまったと思い周りを見るとみんなアッシュの方を見ていたが
アッシュに睨まれると皆顔を別の方向へと向けた。
アッシュの方へ傘を差し嬉しそうに近づいてきたのは双子の兄ルークだ。
帰宅時間など言っていなかったのに迎えに来たことにアッシュは少し驚いている。
「おい、何しに来たんだ」
「迎えにきたに決まってるだろ。アッシュ傘持ってなかったし」
ルークは緩んだ顔でアッシュに笑いかける。
その顔は双子とは思えないくらい違う笑顔…アッシュにはこんな笑顔は作れないとわかっている。
だから心を惹かれてしまうのだろうか…自分が持っていないものをもっている双子の兄に…
「ほら、早く帰ろうぜ。母上が心配して待ってるからさ。」
ルークは傘を差していない方の手でアッシュに手を差し伸べるが、
アッシュの眉間には皺が増えた。
それは手を差し伸べられたから増えたわけではない…ルークの格好を見て皺を増やしたのだ。
ルークの持ち物は差している傘、ポケットが少し膨らんでいるので多分携帯と家の鍵…
それ以外何も持っていない…アッシュは嫌な予感がしながらも口を動かした。
「おい…お前俺を迎えに来たんだよな?」
「そうだってさっきから言ってるじゃねぇか」
「じゃぁ、俺が差す傘はどこにある?」
「………え?あっ………忘れた」
普段の癖でまた怒鳴ってしまいそうになったが、ここは学校でも家でもない公共の場。
心からくる怒りを必死に抑えながらアッシュはルークを睨みつけた。
「ま、まぁ二人でこの傘使って帰ろうぜ。」
「そんな傘じゃ半分しかはいらないだろ…どうせ濡れるなら傘なんていらねぇ」
濡れて帰るのは決定事項なので走って帰ろうと自分の荷物を持ちなおした時、
ルークに腕を掴まれて無理矢理傘の中へと入れられてしまった。
「おいっ!!」
「いーじゃんいーじゃん。半分濡れないでも傘の意味あるって。ほら、帰ろう」
「っく…この屑が…」
ルークが家へと帰る道へ歩きだしてしまったので、アッシュも仕方がなく歩幅を合わせて帰ることにした。
半分しか傘に入れないので少しずつ身体が濡れていくのがわかる。
アッシュは自分が半分濡れていくのでルークの身体を見ると
ルークもアッシュと同じように少しずつ身体が濡れていっていた。
「おい…濡れてるからもっとこっちに入れ」
「え?それじゃぁアッシュが…」
「いいから…こっちにこい。俺のせいで風邪でも引かれたら後味が悪い。」
「あ…うん…。ありがとう…」
きっとこの迎えのせいでルークが風邪をひいたら、
ルーク命の某親友兼使用人が毎日食事にアッシュの嫌いなものを入れてくると予想できる。
今も学校などへ行く時二人で並んで行くことが多いが、
これほど近づいて並んで歩くのは久しぶりだとアッシュは感じた。
昔はよく御揃いの雨コートを着て幼稚園へ通ったのを思い出す。
いつから並ばなくなったのだろうか…それは多分アッシュが自分の心の中にあるルークへの思いに
気がついた時からだろう…
いろいろと思いにふけっていると近くに居るのに会話がない時間が続いていることに気がつく
なんとか話題を出そうと先ほどから少し疑問に思っていたことを持ちだした。
「何でお前俺の帰宅時間分かったんだ…俺が駅についた途端迎えに来ていたし…」
「あぁ…何となくもうすぐアッシュが帰ってくる気がしたんだ。
そうしたら雨が降り出してたし、アッシュ傘持ってないだろ?双子の感ってやつ?」
何故アッシュが傘を持っていないことを断言できるのかがわからない。
もしかしたら鞄に折りたたみを入れているかもしれないのに…そこもルークの言う
双子の感というものなのだろうか…
そこから他愛もない話が少しだけど続いていた。
周りは喫茶店やファーストフード店が並び少しお腹が減っていたが
二人の会話からはどこか寄ろうという話はでなかった。
そんな二人の会話を遮る音がルークのポケットから流れ始めた。
「おい…携帯が鳴ってるぞ…ずっと鳴っているから電話じゃないのか?」
「え?あ、本当だ。誰だろう?」
ルークの着信音は昔から変らない。
めんどうだからといってメールも電話も同じ曲を使っているが
使っている曲は初めて携帯を持ち始めたころからずっとかわらないでいた。
前に何故その曲なのかと聞いたところ
『俺達二人のことを歌ってるみたいな曲だから』と顔が赤くなってしまうような回答が帰ってきた。
おかげで街中でその曲が流れたり、ガラス玉をみたりすると自然と頭にルークの顔が浮かんでしまう
もうこれは一種の病気ではないかとアッシュは心配になっていた。
そんなルークの着信音はずっと鳴り続けている。
電話の相手はどれだけルークに急ぎの用事なのかと思っていたが
相手の名前を聞いた途端アッシュの額に皺が増えた。
「あ、ユーリから電話だ…何だろう?」
「なんだと…」
空いている手でルークから携帯を取り上げるとディスプレイに浮かぶ名前は
確かに「ユーリ」と浮かんでいる。
アッシュは少し辺りを伺ったがルークのが居る位置で顔を止め黒い笑顔で笑ったが
その笑顔はルークの方を向いているがルークに向けられたものではない。
アッシュは今も鳴り続けるルークの携帯の音を止め、ついでに電源も切り自分の鞄の中へと誘拐をした。
「え?ちょ、アッシュ何するんだよ!!!」
「うるせぇ…おい、少し走るぞ…」
アッシュは空いている手でルークの手と掴みそのまま全速力で走りだした。
「は?え?何で?ちょ、アッシュ?アッシュってばっ!!!」
ルークとアッシュは全身を濡らしながら夜の街を駆け抜け
家の前まで来るとやっとアッシュの足がとまった。
「ここまでくればもう安心か…」
「ぜぇ、はぁ…な、何が…安心なんだよ…」
「お前には関係ない…その前にお前…息切れすぎだ。運動不足なんじゃねぇのか?」
同じ距離を同じ速度で走ったにも関わらずアッシュは息を切らしていなかった。
その反対にルークはさきほどから息を切らしており少し苦しそうだが、
息を切らしていたルークだがすぐに元の息使いに戻ったあたり中々のものだ。
「うるせぇ…帰宅部に文句いうな。あーあー…折角迎えに来たのに全身濡れたじゃねぇか」
ルークとアッシュの身体全体が雨でぬれていた。
持っていた傘も走っていた為あまり役には立たなかった。
春から夏へ移り変わる時期の為ルークは薄着だ。
薄着の為雨でぬれた服はルークの身体のラインをはっきりと映し出す。
アッシュの中で何かが少しずつ熱くなっていくのがわかった…。
「うぅ…雨が苦い…やべっ…目に雨が入った…いてぇ…涙出てきた…」
「ほう…」
アッシュは何も言わず痛そうに目から出る涙を舌で舐め取り、
ルークはいきなりのアッシュの行動に驚いて顔を真っ赤にさせる。
「確かに…苦いな…いや、しょっぱいか?」
「ばかっ…何するんだ!!!ってかそれは雨じゃなくて俺の涙だ!!!」
「どっちも一緒だろ…ほら家に入るぞ」
そういうとアッシュは一人家へはいる為玄関の鍵を開け始めた。
「一緒じゃねぇよ!!人の話最後まで聞けっ!!!」
文句を言ってやろうとアッシュに食い付いたが、
扉を開けて出てきたガイに二人の姿を見られ怒られてしまった為アッシュに文句が言えなかった…。
玄関先でガイに怒られている時
アッシュは雨のあまり悪くないなと思っておりガイの話は全く耳に入っていなかった。
「あ、あれルークと…アッシュじゃないかい?」
「んぁ?」
練習試合の帰り道、雨が強く降ってきたので部員と一緒に入ったファーストフード店。
窓側に座っていたフレンが外を見ると見覚えのある赤毛二人を見つけたので
ポテトを食べていたユーリに声をかけた。
ユーリが外を見ると確かにルークとアッシュだった。
外は暗いし雨が降っていたのではっきりとはわからなかったが、
ユーリがルークを間違えるわけがなかった…アッシュは別として。
「あぁ…あれがアビス学園の主将アッシュさんか…」
フレンの隣に居た副主将のアスベルが後から窓の外を見る。
「アスベルはまだ顔合わせてなかったんだね」
「えぇ…ルークさんとは話しましたが…しかし、二人で同じ傘に入るって仲がいいんですね。」
いくら双子でも二人で同じ傘に入ることはほぼない…
ましてや男同士ならなおさらだ、二人のその帰り姿はまわりからはよほど仲がいいとわかる。
「へぇ…あの二人が喧嘩せずに帰るなんてめずらしいな…
まぁ、今日はこのまま二人で帰らせてやるか…」
少し寂しそうな瞳でルークとアッシュの姿を見るユーリ。
いつもならルークをからかいにアッシュとの間に入るが、
さすがにあんな仲がいい二人を見て割って入る気にはならないのだろう。
「うんうん。流石ユーリ…いくらルークのことを好きでも今日くらいは…」
「なーんてな…」
ユーリは食べていたポテトを食べ終わると鞄から携帯を取り出した。
目の前にいたアスベルとフレンは嫌な予感を肌で感じる。
「この俺がそんなお優しいことすると思ってるのかよ…」
さっきまで寂しそうだった瞳が面白いおもちゃを見つけた時の瞳に変化した。
そして慣れた手つきで携帯に登録されている人物に電話をかけ始めた。
フレンがルークの方を向くと同時にルークがポケットから携帯を取り出したのが確認できる。
「ゆ、ユーリ…まさかルークに…」
「ルークに大事な用があったのを思い出してな」
そういいながらユーリは黒い笑顔をフレンに向ける。
ユーリの性格はかなり大人な性格のはずだが、
たまに子供っぽい性格になるのがまだまだ自分達は未成年だと実感できる。
ルーク達の様子をみているといきなりアッシュがルークの携帯を取りあげて
周りを見渡しこちらに顔を向けて何やら黒い笑顔で笑いかけてきた。
あの顔はこっち側に気が付いている顔だ。
そして何やらルークの携帯を触って操作しはじめた。
「え?なっ…あいつ電話切りやがった!!!電源まで落としてやがる…」
「さ、流石アッシュ…容赦ないな…」
「アッシュさんは何でこっちに気がついたんだ…?」
「そこは魔王と王子間柄だからかな?」
「おい、フレン…あいつとの間柄とか…きもいこというなっ…!!!って、あっ!!!」
ユーリがアッシュを睨みつけていると
アッシュはルークの手を掴み夜の街へと走っていった。
その走りはどこか勝ち誇ったような走りだ。
今から追いかけてもきっと間に合わないだろう…そんな速さでもあった。
「あーあー…行ってしまたね。」
「はぁ…いいさ、明日デートするから。」
「約束してたのかい?」
「いや、してない。明日会いに行ってそのまま出かける」
フレンとアスベルは苦笑いしかでなかった。
けどどこか楽しそうなユーリにフレンは少し嬉しそうにユーリを見つめる。
大人しく今日は終わるはずだったが、次の一言で嵐が再び蘇った。
「まぁ、今日は魔王の勝ちってことだな」
アスベルのその一言にユーリの顔が険しくなった
「誰が、いつ、どこで、誰に負けただって?」
「え?あ、いや…そのっ…」
「アスベル…寮に帰ったら覚悟しておけよ…」
その後寮に戻ったアスベルがどうなったかは誰もしらない。
いや、フレンは知っているようだったがその話になると一目散に逃げてしまうので迷宮入りとなった。
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